英雄の箱庭生活   作:英雄好きの馬鹿

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剣の丘と馬鹿

~光一視点~

 

「コレがお前のギフト……。お前の魔術か!」

 

 赤く染まった、生命の気配など無い剣の丘。

 

 こんなものがこいつの心なのか。

 

 前にエミヤは俺達に自らの魔術について説明してくれたことがある。

 

 固有結界(リアリティ・マーブル)と呼ばれる、自らの心を形にして世界を塗りつぶし、世界を自らの色で塗りつぶす魔術。

 

 実際に見るのは初めてだが、一目見ただけで分かる。

 

 ――こいつは馬鹿だ。

 

「見栄えのいいものではないが、今回のゲームには適している。世界を内包した盾であろうとも、塗りつぶしてしまえば頑丈なだけの盾だ。彼女に壊せないはずなど無い」

 

 エミヤは平然と言う。

 

 俺にはそれが我慢ならない。

 

「ベディヴィエール、ルイオス。少し無茶をする。手を貸してくれ」

 

「何か策でもあるのか? 正直、こんなものを見せられて勝ちを拾えるとは思えないぞ?」

 

「無い」

 

 ルイオスは即答する俺に、少しだけ驚きながらも不適な笑みをした。

 

「じゃあ、頑張るしかないか。ほら、ベディヴィエール卿だっけ? 呆けてないで剣を構えろよ」

 

「え、えっと。アーサー王一人に手も足も出なかった私達だけで倒すというのですか?」

 

「くっくっく。何を言っているんだ。君はこの程度のことも乗り越えられないで、幽霊になった王と会いたいと言うのかい? そんなへたれが願いを叶えるなんて、何べん人生をやり直しても無理さ、諦めたほうが良い」

 

 そういってルイオスは兜を被りなおして、姿を消す。

 

『ああ、君達には言っていなかったがアルゴールはもう使えないから、僕は前よりも戦力が落ちている。それでも勝てると言うのなら覆して見せろ、円卓の騎士、佐藤光一!』

 

 もはやどこから声が聞こえてくるかも分からないほど完璧に消えたルイオスが言う。

 

 前に比べて随分と逞しくなったもんだ。

 

 何があったのかは分からないが、前よりも手ごわくなったのは間違いなさそうだ。

 

「ベディヴィエール。アーサー王を完全に封じ込めてくれ。俺じゃあ話にならないからな。頼んだぞ」

 

「待ってください! 固有結界は魔術師の最奥の一つ! それに最強の聖剣使いまでいるのですよ! どうして会って一日も経っていない人の為に仲間割れまでして戦うんですか! それにルイオスさんなんてゲームをあきらめれば良いだけじゃないですか!」

 

「ルイオスがああなった原因なんて欠片も知らん。だが、俺の理由は唯一つ! 俺が約束を守る男だからだ!」

 

 それだけ言って、俺はエミヤの元へ走る。

 

「やはりお前が来たか。確かに戦力差的には間違っていない」

 

 エミヤは不敵な笑みを浮かべながら片手を上げる。

 

「――だが、相手が悪い」

 

 その瞬間に、剣の丘のいたる所から剣が持ち上がり、俺を囲む。

 

 ああ、相手が悪いのは分かってる。

 

 俺じゃエミヤと真っ向勝負して勝てる可能性など無いだろう。

 

 純粋に技量も出力も負けているのだから。

 

 だからと言ってアーサー王相手に、俺たちの中の一人だけを向かわせるのも論外だ。

 

 これまでの戦いで分かる。

 

 

 アーサー王はぼろぼろの剣を振るい続けていたが故に全力を出せず、それ故に拮抗できていたことなんて分かっているからだ。

 

 元々相手が一人だとしても三人でかからねば勝ちなど拾えないような戦力差をどうやって覆せばいいのかなんてわからない。

 

 それでも俺は走る。

 

 ガキンッ! ガキンッ!

 

 後ろでは既にルイオスがアーサー王と打ち合っている。

 

「では少しの間寝ていてもらおう!」

 

 エミヤが上げていた手を振り下ろす。

 

 その瞬間に数えるのも億劫になるほどの剣が俺に降り注ぐ。

 

 パチン!

 

「お菓子を寄越せ! 『魔女(ハロウィン)』」

 

 その瞬間に俺の左腕が爆散する。

 

 しかし、効果は絶大だ。

 

 異常なまでに強化された身体能力で降り注ぐ剣を全て回避しきる。

 

「お前の能力に代償は要らないはずではなかったのか!」

 

「何事にも例外があるんだよ! もともと、天使もどきの奴がくれたのは、『蝋の翼の救世主(ボーンヘッドブレイバー)』の代償用のものだから、余りにもでかい代償が来ると、一時的に追いつかなくなるんだよ!」

 

 エミヤの剣を避けきりながら、左腕の止血を終わらせる。

 

 実際、代償が大きすぎて追いつかなくなるのは、もともと代償が大きい能力を、更に超えるほどに性能を伸ばしたときだけだ。

 

 箱庭に来てからどこまで大丈夫かを探っていたから間違いない。

 

 その中でも『魔女(ハロウィン)』だけは格別だ。

 

 俺の能力で性能を伸ばそうとするのなら代償はとてつもなく大きくなる。

 

 分相応を超えるものを使うに足りる代償なんて、俺は自分の体しか持っていないんだから。

 

「更にもう一つ! 『怪物(ジャガーノート)』!」

 

 パチンッ!

 

 自らを不滅の怪物に変えるギフトの、今回伸ばしたのは力。

 

 何度滅ぼされようとも回復する力は無く、触椀を増やすことも出来ないが、唯単純な力を伸ばした。

 

 これが今の俺に出来る最大出力の肉体強化だ!

 

「ふキとべェェェぇ!」

 

 瞬時に距離をつめて、残っている右手を振りかぶる。

 

「戯けが。全て終わった後に起こしてやる」

 

 エミヤがそういった後、馬鹿でかい岩のような剣を振るった姿だけ目に捉えて、俺は意識を失った。

 

~光一視点終了~




 ルイオスは十六夜に負けて光一に助けられた後、真面目に修行して強くなり、部下のまとめ方を学ぶなど、今ではコミュニティの同士からわりと慕われていたりとかします。

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