~光一視点~
「全く。あいつはどこに行ったんだかなあ」
「すみません。面倒なことを頼んでしまって」
エミヤを探し始めたはいいものの、見つからずに既に二時間。
携帯電話の便利さを改めて実感していた。
「サラマンドラからも出てったって言われたし、黒ウサギたちに聞いてみても知らならしいしなあ」
「ですが、気になることが一つありましたね。金髪の聖剣を持った少女とはどなただったのでしょうか?」
「レティシアも金髪だけど、聖剣なんて持ったら自滅しちまうしなあ」
「魔に属する方が身内におられるのですか?」
「ああ。それも元魔王で、今はメイドやってくれてる」
「元魔王を家令にしておられるのですか!?」
ベディヴィエールは素直に驚いている。
確かによくよく考えたらおかしな状況だよなぁ。
「ああ、吸血鬼なんだが、子供たちの面倒をよく見てくれている」
「……あなたたちはいったい何者なのでしょうか?」
「フッ! 俺は五十六億の世界と少女を救ったクールでダークにして、天使と悪魔の力を操った大英雄だ!」
「いえ、貴方だけでなく……って、五十六億の世界ってどういうことですか!?」
「フッ、並行世界を飛び回って、世界を滅ぼす奇跡の修復と、その奇跡の引き金のために生まれた少女を、指ぱっちん一つで解決してきたのさ!」
「それは凄い! 大英雄に恥じない活躍ですね!」
「そうだろう。そうだろう」
なぜだろう。
すごい、子分ができたような感覚だ。
いつもなら貶されるような状況で素直に称賛してくれるのは嬉しい。嬉しいのだが。
何かが物足りない。
そこまで考えて理解した。
「突込みって大事だなあ」
そうしみじみと思っていると、ふと見覚えのある人影を見つける。
不機嫌そうな顔で部下に指示を出して素材を取りにいかせたり、資材の買い出しと整理を頼んでいるのを見ると、以前までとは大分変っているのが分かる。
「おーい。久しぶりだな」
「なんだこの忙しい時に……ってお前はノーネームの!」
「おお、久しぶり。随分とリーダーっぽくなっているじゃないか」
「僕は元からペルセウスのリーダーだ!」
そう言ってさらに不機嫌そうになるルイオス。
しかし、今の格好を見ると、以前までとは打って変わって真面目に働いているようだ。
自分のコミュニティの解散の危機に瀕しているということも分からずにちゃらちゃらしていた奴にはとても見えない。
そう。例えるのならば。
「高校までやんちゃしていたヤンキーが、社会に出てガテン系の仕事についているみたいだな」
「喧嘩を売っているんだよな? 安く買ってやるからかかってこい!」
さらにキレていた。
「いやあ、喧嘩なんて売らねえよ。ただ、つなぎを着ている姿がどうにもそう見えてなあ」
「それで本当に喧嘩を売っていないというのかお前は!?」
あまりにもキレすぎてハルペーを取り出した時点で、側近の部下に止められてようやく止まる。
「で、何の用できた? 僕はこれでも忙しいんだけど?」
「ああ、うちのガングロ白髪見なかったか?」
「ああ、ゲームに参加していた彼か……なるほど」
ルイオスは数秒考えたのちに今までと打って変わって満面の笑みになる。
「条件次第ではうちの人員を割いて探してやってもいい」
「条件? なんだそれは」
「僕たちは今、へパイストスのゲームに参加していてね。そのゲームのクリアに協力してもらいたい」
「えーっと。へパイストスというと、ギリシャ神話の鍛冶神だっけか。俺は剣は打てないぞ。それこそエミヤに頼んだほうがいいだろう」
「いや、何かを作るだけのゲームではないんだ。これは暴走して壊せなくなった盾を壊すゲームだ。だからそれに力を貸してもらうだけでいい」
「嫌だ。自分達で探す」
「そうかそうかじゃあ、この剣にギフトを……って断るのか!」
「おお、綺麗なノリ突込み」
「うるさい! 君のあのわけの分からないギフトなら簡単だろう!?」
「六十年前ならともかく今はそんな強い攻撃できないんだよ!」
「六十年!? お前は人間じゃないのかよ!」
「今はクールでダークな人間さ」
「お前のどこがクールだ!」
いい反応を返してくるな。
「じゃあ、そこの銀髪のお前はどうだ? 相当強い霊格のギフトを持っているじゃないか」
「俺か?」
「黙れ若白髪。そこの義手つけてるやつだよ」
「これは白髪じゃ「私ですか?」
俺のの言葉をナチュラルに遮ってベディヴィエールが言う
「ああ、そうだよ。その聖剣なら壊せるかもしれないからな」
「確かにこの剣ならば断てぬ物など無いでしょうが……」
ベディヴィエールは目を伏せて黙り込む。
確かにエクスカリバーだからなあ。
大概のものは切り裂けるだろうが、何か嫌なことでもあるのか?
そこでふと思い至る。
「なあ、ペルセウスって箱庭の外の世界で千三百年間彷徨っている幽霊を見つけることはできるか?」
「はあ? 不可能に決まっているだろう。この世界から出入りするだけでも大変なのに、そこからさらにそんな居るかも分からないような幽霊を探すなんて雲を掴むような物だろう」
「居ます。我が王が消えているなど有り得ない」
ベディヴィエールが睨みつけるように言う。
ルイオスはそれに一瞬のまれて身動きが出来なくなる。
流石は名高き円卓の騎士といったところだな。
「はぁ。二人とも戦闘態勢を解け。ベディヴィエールもルイオスもそれ以上やるなら別の場所に移せ」
俺がそういうと二人とも戦闘態勢を解く。
「……すみません。熱くなってしまいました」
「ちゃんと手綱を握っておいてくれ。ひやひやしたじゃないか」
ベディヴィエールが誤り、ルイオスが不満げな声尾を漏らす。
「……一つ忠告をしておくと、さっきの願いをかなえたいのならばクイーン・ハロウィンにでも会いに行くんだな。ああ、今、白夜叉のところにその縁者が居るはずだ」
ベディヴィエールが目を見開く。
「ありがとうございます。ですが何故、貴方を殺しかけた私にそれを教えていただけたのでしょうか?」
「そこの馬鹿白髪に借りがあったからな。それを返してやっただけだ」
「誰が馬鹿白髪だ! せめて馬鹿シルバーと言え!」
「髪の色の前に馬鹿を訂正しろ! ……全く。僕も焼きが回ったもんだ」
ボリボリと頭を掻きながらルイオスは、無駄な時間を過ごしたと呟いている。
「お前の昔の伝手でサウザンドアイズに話をつけられないか?」
「ハッ! お断りだね。リスクとリターンが見合わない。大赤字だ。それこそ、そいつの聖剣でも貰わなきゃ割に合わない」
「なら、俺がギフトをやろう。ゲームもクリアしてやる。それでどうだ?」
「ふうん。なんのギフトだ?」
「条件次第では役に立つというものしか作れないが、対・風、対・炎、対・太陽なんかのギフトを一つでどうだ?」
「対・太陽だと?」
「ああ、さっき白夜叉に試したが結構効いてはいたぞ? まあ、それだけで倒せるほどじゃなかったんだが……」
「それで手を打とう」
ルイオスが即答する。
「そんな簡単に決めていいのかよ?」
「当たり前だ。主神の殆どが太陽神のこの世界で、太陽に対抗するギフトだと? それさえあれば取引としては悪くない。こっちもクイーンハロウィン相手に支払う対価を渡してもおつりがくるくらいだ」
「そんなもんなのか。だが、これで商談成立だ」
俺がそういうと、ベディヴィエールが口を開く。
「そんな強力なものを渡してもいいのですか?」
「ああ、効果が限定的で、俺たちの仲間に太陽に関する者はいないし、白夜叉なら一時的に弱体化する程度だ。それに、太陽神が暴れた時に止められる奴もいたほうがいいだろう?」
「それはそうですが……。私がそれに見合うだけのものを返せない」
「そんなもん知るか。俺が助けるといったら助けるんだ。――俺は約束を守る男だからな」
「話は纏まったみたいだね。それじゃあ、ゲームを始めよう。ついてきてくれ」
俺とベディヴィエールはルイオスの後についていった。
~光一視点終了~
エミヤ「エイプリルフールで更新が不定期になると言った影響で読者がいなくなるかもと思って連続投降した馬鹿がいるぞ」
光一「そのために書き溜めるとか本当に馬鹿だよな」
エミヤ「まあ、それはそうとしてだ。しばらくはこのコーナーは休みだな。佐藤光一」
光一「ああ、互いに譲れないのだから遠慮する必要はないだろう?」
エミヤ「府抜けたた結末にならんようにせいぜい頑張るといい」
光一「おまえこそ瞬殺されないようにな」
エミヤ「それでは戦う時を楽しみにしておこう」