やっぱり女の子の口調ムズいっす……
~飛鳥視点~
「自分のギフトを早く使いこなせるようになりたい?」
ペルセウス戦の後、私は十六夜君と光一の戦いを見て自分の実力不足を知った。
「ええ。一緒に呼ばれたのに、落ちこぼれるなんて私のプライドが許さないわ」
「……俺からしたら久遠のギフトは十分強いんだけどな」
光一は頭をかきながらそうは言ったけど、私じゃ十六夜君やエミヤさんは倒せない。
正直自信を無くしてしまったものだわ。
「霊格が自分より低い相手を封殺できて、ギフトを言葉で操作する異能だろ? 俺の劣化コピーをいくら渡しても効果が薄い気がするんだよなぁ」
「なら、私と戦いましょう?」
「へ?」
私が名案とばかりに言うと、予想外だったのか間抜けな声をあげる。
「簡単じゃない。光一はギフトを使いこなしているから戦えるのでしょう? 戦えば何かつかめるかもしれないわ」
「まあそうだが」
「なら、いくわよ!」
「ちょ、はや!」
「問答無用!」
私はギフトカードから白銀の剣を出して振るう。
それを光一は右手の親指と人差し指だけで止める。
止められたことは不思議ではなかったから剣を離す。
「『押し流しなさい!』」
私は指パッチンができないようにーーギフトが使えないように剣で手を塞ぐ。
そして水樹の苗の力を使って防ぎにくい水の攻撃をする。
「甘い! 『
光一は押し流されることなくその場に立っている。
おそらく体重増加のギフトだと思うけれど、聞いてた話だと十倍程度にしかならないはずじゃなかったの?
でもここまではほとんど予想通り。
耐えることまでは予想していた以上、次の手は考えてある。
「頼んだわよ! 『
現れたのは光一にもらった二つのギフト。
ランスロットは自分しか守れないが防御力の性能を上げてもらい、ガウェインは他人しか守れない性能を反転して他人しか攻撃できない性能にしてもらってる。
これで準備は整った!
「『私を守りなさいランスロット! そして薙ぎ払いなさいガウェイン!』」
「「ぷおー!!」」
私の前に立ちはだかる純白のお子さま騎士に、弾丸のような速度で飛びかかる漆黒のお子さま騎士。
これで勝てるはず!
「しょうがない。『直死の魔眼』『千里眼』『ヘルメスの靴』『
パチン! パチン! パチン! パチン!
光一は四つのギフトを連続して使う。
そして、反応できない速度でガウェインに飛びかかる。
「これで俺の勝ちだ!」
ひゅん!
さくっ!
……。
あれ?
攻撃が来ないことに驚きながら目を開けると、光一はガウェインの剣に刺されていた。
……。
あれ?
「弁明させてくれ」
「いいわ。ほとんど分かったから」
「まさか、軽く撫でるだけで倒せると踏んでたのに、返り討ちにされるとは思わなかったんだ」
「だと思ったわ」
そう。
続けざまに二人の騎士をなぎ払われるかと思ったのだけれど、光一が一撃でやられてた。
「成長したな」
「あなたが退化したんじゃないの?」
「うぐっ! 何も言いかえせねぇ……」
本当に十六夜君を倒したのかしら。
「確かにお前は怠けすぎだ。全く」
私があの戦いが夢だったんじゃないかと疑っていると、後ろからエミヤさんが現れる。
「お前、いつからそこに!?」
光一がエミヤさんの登場に驚く。
「最初からだ。なにやら神妙な顔で久遠嬢が歩いていたのでな。何かあるかと思ってたら戦い出したんだよ」
「覗き見なんて趣味が悪いわね」
「まぁ。言い趣味とは言えないがね。ただ、春日部嬢にも似たような事を相談されたからな。何か手助けできるかと思ったんだ」
「春日部さんも?」
「ああ。春日部嬢は君とは違って近接型だろう? だから私のところに来たんだ」
春日部さんも強くなろうとしているのね。
私も負けてられないわ。
「ところで君は一つ勘違いをしている。光一も気づいただろう?」
「勘違い?」
「ああ。君はギフトの性能をそもそも勘違いしているんだ」
黒ウサギにはまだ原石のギフトと呼ばれたこの『威光』だけれど、効果は支配じゃないのかしら。
「ああ。俺の劣化コピーを反転させようとしても、あそこまで完成度は高くならないはずだ」
「あなたがくれたギフトでしょう?」
「そうなんだが、俺の渡した劣化コピーのランスロットは防御範囲が広くなると防御力が落ちるのが弱点だし、ガウェインは少し殴れば倒せるくらいの強度のはずだ」
確かにもらったときにそう聞いた気がするけど、それが何か関係あるのかしら。
「だけど、どっちの騎士にも死の線が見えにくいくらいになってた」
「私の見立てだと、君の力は神格の擬似的な付与及びに、与えられる神格以下の霊格のものへの命令権ではないか?」
つまり私は言葉によって神の神託の如く操り、力を貸す力なのかしら。
それを知ると同時に頭のなかでいくつもの案が浮かぶ。
「ちょっと急用が出来たわ!」
私は二人を置いて走り出す。
春日部さんと十六夜君より強くなってやりましょう!
場面が切り替わる。
「飛鳥は箱庭に来て楽しい?」
黒ウサギたちから逃げているときに春日部さんがそう話を切り出してきた。
「あら。とっても楽しいわよ。毎日お祭り騒ぎみたいじゃない」
「飛鳥は不自由無い暮らしができたんでしょう?」
「あんな上っ面と礼儀作法だけで会話して、近所のお祭りにもいけない生活に興味はないわ」
本当にうんざりするほどだったわ。
「金持ち特有の感覚だな」
「あら、そんなつもりはなかったのだけれど」
「ヤハハ。だがまぁ息苦しそうなのは同感だ。だが、向こうでやりたいことはなかったのか?」
「あったわよ? お祭りには行ってみたかったし、外国人にも会ってみたかったわ」
「飛鳥は世界大戦の後くらいに生まれたんだっけ」
「そうよ。あなたたちよりも結構前の時代ね」
「そしたらその時代にはハロウィンもクリスマスもなかったのか?」
「名前だけは知っているけれど、どんなものかは知らないわ」
「孤児院の奴らにクリスマスプレゼント上げるのは楽しかったな。誰にも見つからないように忍び込んで枕元にプレゼントを置くんだ。スリリングで楽しめた」
「へえ。うちも今度やりたいわね。ハロウィンのほうは?」
「みんなお化けの格好してお菓子くれなきゃいたずらするぞ! って言って回るんだ。みんな特殊なギフト持ってたからな。いたずらですむのかが心配だったぜ」
十六夜君が、いつもは見せないような穏やかな笑みで話す。
そんな楽しそうな行事が未来にはあるのね。
「良いこと思い付いたわ! 時期になったら、こっそり準備して黒ウサギ達を驚かせましょう」
「お! いいな。俺は乗った」
「私も賛成」
「三人で驚かせてあげましょう」
「ああ、もうそろそろハロウィンの時期だし、ちょうどいいからこの祭りが終わったらやろう」
「張り切りましょう」
「ああ。俺たちでハロウィンをやるんだ」
場面が切り替わる。
家のなかで暑さにうんざりしながら準備をしている。
お父様とお母様と双子の妹と一緒に近所でハロウィンの準備をしている最中だった。
どんな仮装をするかをみんなで話し合っている。
こんなに楽しいのだったらーーに行かなかったのに。
準備が終わってハロウィンの日。
そこで大食いの少女と、目付きの悪い少年。
苦労性の女性と大人びた金髪の少女。
楽しそうに屋台をやっている白髪の男性二人。
全員と楽しそうに話している。
こんな日が続けばいいのに。
ジジ。
本当に?
ジジ。
『ああ。俺たちでハロウィンをやるんだ』
……ああ。まだハロウィンもクリスマスもやってないものね。
「……随分と、楽しい夢だったわ」
目を覚ますと、そこはレンガで作られた町のなかで、目の前にはラッテンがいる。
まさしく悪魔的な演奏だったのだけれど、少し卑怯だわ。
「楽しんでいただけて何よりね」
「また、別の機会に演奏してもらおうかしら?」
「それは光栄だけど無理ね。もう霊格が保てないわ」
よくみるとラッテンの体は少し透けている。
「人を堕落に陥れる悪魔が、一人も堕とせなければ霊格が保てないもの」
「残念ね……。でも、悪魔なのだからまた、呼び出せるでしょう? そのときはまたお願いね」
「随分と、魅力的なお誘いね。……じゃあこれをあげるわ♪」
そういってラッテンはてに持っていた笛を手渡してくれる。
「貴女がいつか呼び出せたら、今の私の主と一緒に呼んでね♪」
そういって悪魔は消えていった。
「……さあ、行きましょう。夢を夢で終わらせないために」
私は夢を叶えるために、魔王の元へ向かおう。
~飛鳥視点終了~
飛鳥が走り去った後の会話
「行ったか。これで魔王が来ても戦えるだろう、エミヤ」
「まだまだ不安ではあるのだがな。……まったく。彼女もこういう気持ちだったのかね」
「ん? 彼女って誰だ?」
「気にしないでくれ。ところで手を抜いてまで勝たせる必要は無かったのではないか?」
「えっ?」
「うん?」