~ジン視点~
「予定通り配置は完了した。これで戦いが始まったらすぐにでもお目当てのものは探せるだろう」
「ありがとうございます。運び込まれた全てのステンドグラスのほとんどはダミーですが、一枚だけ壊してはいけないものがあることを徹底して注意しておいてください」
「分かっている」
ゲーム開始の時間まで後僅か。
全員に作戦は伝えてある。
サラマンドラに頼んでいたギフトも一つはもう既に届いている。
それは既に最も使いこなせるであろう人に渡してある。
用意は全て整った。
「御チビ様。あんまり緊張してたんじゃあ、いざって時に失敗するぜ? もっと力抜いとけ」
ポン、と頭に優しく手を置きながら十六夜さんが話しかけてくる。
僕の顔は、緊張で相当酷い事にたのだろう。
「……分かってはいるんですけれどね。魔王と戦うのも、誰かの指揮を執るのも初めてですから」
他の人には聞こえないよう弱音を漏らす。
本当なら行っていい言葉でもないのだけれど、十六夜さんに言いたくなったのだ。
十六夜さんは乱暴に頭をなでた後、手を離して肩をすくめた。
「どうせもう昨日の時点であーでもないこーでもないって考え続けてたんだろう? だったら後は行動あるのみだ」
「……はい。もうやることも決まってますからね」
「そうだそうだ。今回は俺が頭ひねって偽りの伝承を探してた時点でオマエはゲームを解いていたんだ。誇っていい」
「正直僕も、十六夜さんと話し合わなければ核心は得られませんでしたから、あまり誇れることではないんですがね」
ゲーム休止から一日後。
そのとき集まれた、飛鳥さんと光一さんの二人以外のノーネームのメンバーで話し合いをしたときにゲームは解けたのだが、十六夜さんの話がなければ恐らく僕も解けなかったのだ。
「でもま、気楽にやれ。最悪ステンドグラスは敵を全員無力化してからでいい」
「……そうですね。恐らくステンドグラスの本物とダミー二つの近くに相手も現れますから、結局は戦いが終わってからになると思いますから」
「そんで俺たちは負けると思うか?」
「それは無いですね。前回の襲撃のときに見た戦力でしたら、各個撃破が出来る時点で僕たちの敵ではないでしょう」
十六夜さんはそれを聞いて満足そうに口元を緩め、その後に真剣な表情をする。
「そうだな。だが、向こうは恐らく切り札を隠してる」
「唯五日間の猶予を与えただけで満足するようならこの町に攻め込んでくることも無かったでしょうからね」
それは僕も予想はしていたことだ。
「五日間俺たちも準備したが向こうもそれなりに準備してるはずだからな」
「ええ。気をつけましょう」
十六夜さんは時計を見たあと屈伸をする。
「さて、開始の時間だ。しっかりしがみついとけよ?」
「十六夜さんも姿勢の制御を気をつけてください。――もうそろそろ行くよ、みんな」
僕も微精霊たちに声をかけて用意をする。
『開始時刻になりました。唯今の時間を持ちまして、ゲームの再開を宣言します! 初めてください!』
黒ウサギは今回プレイヤーの為、恐らくサラマンドラのメンバーの誰かが戦いを宣言する。
それと同時に僕は十六夜さんの背中に乗せてもらう。
「行くぞ、御チビ! 初めての空を満喫させてやる!」
「はい! 楽しませてください!」
ダンッ!
僕が返事をすると十六夜さんがギフトを使用して空中に躍り出る。
一瞬で二百メートルほど移動し、慣性で飛んでいる間に僕が風の美精霊の力と五行相乗の力を借りて風の力でさらに加速させる。
元々結構高い建物の上にいた僕たちは目的地まで一直線に飛んで行く。
「見いいいいいいいいいつけたああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「!?」
そして目低地に待ち構えていたヴェーザーに十六夜さんが拳で一撃加える、
予想外の攻撃にヴェーザーは何とかといった様子で防ごうとして吹き飛ばされる。
「ひっでえな坊主。空から飛んできて殴りかかるたぁ、悪魔かオマエは」
「ヤハハ! 悪魔はオマエだろうヴェーザー川の化身にして、本物のハーメルン」
「……はぁ。やっぱりゲームはもう解けてんのか。だがまぁ俺もこの前の俺と同じだと思うなよ?」
そういいながらヴェーザーが踏み込んでくる。
っ! はやい!
目で追うこともやっとの速度で、ヴェーザーが迫る。
地面に放り出された僕は、後方を振り返ると壁に叩きつけられながらヴェーザーの笛を受け止めている十六夜さんの姿が見えた。
恐らく十六夜さんが僕を放り出してくれなければ僕は戦闘続行は不可能だっただろう。
「いけ、御チビ! 本物のステンドグラスはこいつの周辺にあるはずだ!」
「やりにきいなぁ坊主。だがそんな簡単にやらせると思うか?」
その言葉とともにヴェーザーが僕のほうに向かってくる。
「俺がそんな簡単に逃がすと思うか? 木っ端悪魔が」
十六夜さんがヴェーザーに攻撃を加えて止める。
その間に僕は微精霊たちの力を借りて姿をくらまし、手の空いている微精霊たちに頼んでステンドグラスの捜索を頼む。
「というわけでオマエの相手は俺だ。せいぜい楽しませてくれよ?」
「言ってくれるな。だがまあ、こっちもよそ見して戦えるわけじゃなさそうだしな。問答無用で行かせてもらう」
言葉が発されたとともに爆音が聞こえる。
もはや目で追うのもやっとの戦いだが、そもそも見ていられるだけの時間も無い以上先に進む。
幸いもう微精霊が目当てのステンドグラスを探し出してくれている。
僕は急いでその場所に向かう。
『耀と飛鳥がラッテンとシュトロム二体と戦闘開始。エミヤと黒ウサギとサンドラがペストと戦闘開始した。そちらはどうだ?』
僕があらかじめつけておいた風の微精霊達が、レティシアさんからの通信を伝えてくれる。
「こちらも十六夜さんとヴェーザーが戦闘開始しました。レティシアさんはそのままステンドグラス収集部隊の護衛をしてください!』
『了解した』
僕も急ごう。
本物の回収さえ出来てしまえば後はステンドグラスを壊すだけだ。
僕は水の微精霊によって血流を上げ、風の微精霊によって音を消しながら酸素を効率よく摂取し、普通の人より少しだけ早い速度で走る。
僕に出来ることはこれしかないけれどできる限りのことをやろう。
そう思いながら捜索を続けた。
~ジン視点終了~
エミヤ「クリスマスの結果、何故かレティシアにものすごく怒られたのだが」
光一「レティシアは正直かき忘れてたが、渡したものがまずかったか」
エミヤ「ああ、三流のギフトしかないとぼやいていたからといって槍を渡すべきではなかったな」
光一「冷静になって考えればロマンチックな行事で自分だけ思いっきり戦う武具を貰ったら嫌だろうからなあ」
エミヤ「来年はかわいい服でも縫ってみるか」
光一「レティシアって身長変わるだろう?」
エミヤ「万策尽きたか」
光一「早い上にまだ一つだったんだが?」
エミヤ「そういうオマエは何か無いのか?」
光一「……吸血鬼だし、血とか?」
エミヤ「確かに栄養源として吸血しているシーンを見たこと無いからな」
光一「よし。来年は――」
レティシア「女心を理解してくれとはいわないから私の部屋を事件現場のようにするような計画を立てないでくれ!」
光一・エミヤ「すいません」