英雄の箱庭生活   作:英雄好きの馬鹿

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一日間に合わなかった……。


交渉

~ジン視点~

 

 五日。

 

 魔王から僕たちへの猶予であり、それと同時に敗北と同時に箱庭の秩序がまるごと揺らいでしまうほどの条件をもって手に入れた時間だ。

 

 魔王の要求は纏めると二つ。

 

・ゲーム開催期間を五日後の正午から六日後の正午までに限定すること。

 

・このゲームをクリアできなかった場合、魔王襲来時にゲームの範囲内にいたコミュニティの強制隷属。

 

 これの不味いところは白夜叉様にある。

 

 魔王襲来の時、白夜叉様はルールに書かれていないルールでもって完全に封じられているにも関わらず参加者となっている。

 

 それを黒ウサギが『審判権限(ジャッジマスター)』を用いて反則にしようとし――失敗した。

 

 これが話し合いに至るまでの切欠であり、問題点だ。

 

 白夜叉様の戦力もさることながら、所属コミュニティのサウザンドアイズは通貨の流通すら行える大規模コミュニティだ。

 

 つまり、箱庭全てに魔王のてが届いてしまう。

 

 この条件を本来なら受けたくはなかったが、受けざるを得ない理由が二つ。

 

 黒ウサギの『審判権限(ジャッジマスター)』で違反が無かったのにゲームを停止させたペナルティで、魔王がゲームの開催日を決めれるようになってしまった事。

 

 そして非戦闘員の中に黒死病にかかった人がいるということが一つ目。

 

 もしも五日の猶予がなければ、例え魔王に勝ったとしても被害が出てしまう。

 

 この五日は僕達参加者側にとっては喉から手が出るほど欲しい時間だった。

 

 本来、『魔王』が交渉の場につくことなど無いのだろうが、この黒死病の魔王――ペストは太陽に復讐するための戦力を集めるために交渉の場に着いた。

 

 この、魔王に有利過ぎる盤面をもって、交渉に望んだのだ。

 

 選択肢等既に無い。

 

 五日以内にゲームを解き明かして魔王を打倒しなければ死人が出る。

 

 その中には人質としてとられている光一さんも含まれている。

 

 さて。

 

 選択肢が無いのなら迷う必要がない。

 

 その後何をどうするかだ。

 

 僕は会わなければならない人が出来たので行くことにしよう。

 

 

 

 

 

     ※※※

 

 

 

 

 

「昔あなたたちが助けてくれなかったコミュニティのリーダーですが、貴方たちを助けに来ました。なので貴方方も協力してください」

 

「……お前は喧嘩を売りに来たのか?」

 

 僕は北の『階層支配者(フロアマスター)』の在籍するコミュニティ“サラマンドラ”の参謀に位置する火龍・マンドラさんに会いに来ていた。

 

 マンドラさんは最初に僕を追い返そうと部下を使わせてきたので、少し交渉しやすいようにしてみた。

 

 案の定マンドラさんは出てきてくれて交渉の場に着いてくれている。

 

「お前は何をしに来た。この非才の身なれど、お前の首を跳ねることなど容易いのだぞ?」

 

 マンドラさんは腰に提げている剣に手をかけながら睨む。

 

「そうですね。こんな簡単なゲームに手をこまねいている振りをしているほど余裕のあるんですから、協力関係を結びに来た使者の首を跳ねるのも簡単ですよね?」

 

 それでも僕は挑発を止めない。

 

「貴様ッ! それ以上下らない口を聞くようなら――」

 

「『真相』をサンドラに伝えますよ?」

 

 そう。

 

 だって、真相の九割以上はもう解けているのだから。

 

 “サラマンドラ”に対して負い目はなく、貸しは既にある。

 

 更にこのゲームの参加者となっている以上さらに貸しを作ることになる。

 

 そもそも。

 

 このコミュニティは北側の魔王に対応する義務があるのに、何の対処もしていない時点で理解した。

 

 僕達ですら魔王襲来の情報を貰っていたのに、北の『階層支配者(フロアマスター)』にその情報が回っていないはずがない。

 

「つまり貴方達は、いえ。“サウザンドアイズ”はなにか目的があって魔王を見逃している。そして、最近党首に成ったのはまだ若いサンドラ。まだ若いのに魔王を押さえられるのかと言う不安が下層のコミュニティから出ているはずですよね?」

 

 サンドラとは、僕は幼い頃から面識がある。

 

 三年前に会ったきりだが、余程の事がない限り魔王を見逃して死者が出るような策を立てるはずがない。

 

「つまり何が言いたい。お前が俺に切れている理由は分かった。俺がこれからするお前の要求を断れないのも分かった。まあ、俺達だけでは勝てない戦力であるのは元から分かっていたがな」

 

 マンドラさんは観念したように刀から手を離し、椅子に座る。

 

 その様子を見て、僕はこの策の立案者が誰かを完全に理解した。

 

「自分達では勝てないことを知って、最近調子を取り戻したかつてのコミュニティに力を借りれるよう手配して、東側の『階層支配者(フロアマスター)』の白夜叉様まで呼んだと」

 

「そうだ。お前の読んだ通り、俺の(・・)目的はサンドラの成長と、実績。今回の魔王は生まれたてのルーキーだからちょうどよかった」

 

「その結果うちの同士が黒死病にかかって動けずに敵に捕らわれているんです。その対価――覚悟してください」

 

 僕は全力で睨み付けながら言う。

 

「分かっている。この一連の事が終われば俺は自ら首を切ろう」

 

「そんな価値の無いものは要らないです」

 

 その言葉にマンドラさんが目を見開いて言葉を吐こうとし、口をつぐむ。

 

 当然だ。

 

 マンドラさんは、コミュニティのために命を賭けることに躊躇いはない。

 

 だが、この戦いがコミュニティにとってマイナスになることならばこの場で僕の首を跳ねなければいけない。

 

 そんな考えがあるのだろう。

 

 マンドラさんの手が微妙に剣に近づいて止まる。

 

 あの位置から抜刀まで一瞬で行うことが出来るのだろう。

 

 でも駄目だ。

 

「――勘違いしないで下さい。この場で命を握っているのは貴方じゃない。この僕だ」

 

 僕はマンドラさんの首に、エミヤさんからいただいて、光一さんに能力を付与してもらったナイフを突きつける。

 

 そして薄皮一枚傷つけたところでマンドラさんがようやく気づく。

 

「っく! ……遠隔操作のギフトか?」

 

「答えを敵に求めてどうするんですか。」

 

 未だに僕の存在を視認できていないマンドラさんの勘違いは放置しておこう。

 

「残念ながら、僕は貴方とは対等な協力関係は築けない」

 

「つまり、北側のコミュニティ全てを見捨てて逃げるのか?」

 

「そんな後味悪いことはしないですよ」

 

 心外だなあ。

 

 僕はため息を一つ吐く。

 

 そして、マンドラさんの反論を許さずに言う。

 

「――唯、サラマンドラが主力となって戦うでしょうから、サンドラ以外の戦力が十分の一位になったらゲームクリアするくらいですかね」

 

「貴方の魔王を招き入れると言う打算によって僕らのコミュニティの同士が人質に取られているんですから」

 

「――貴方が選んだことだ(・・・・・・・・・)

 

「まあ、ほら。僕の同士が黒死病にかかってまで稼いだ五日間で、サラマンドラが魔王を倒せるかも知れないじゃないですか」

 

「だからそんな絶望した表情をしないで下さいよ」

 

「まあ、クリア条件がわからないゲームで、ゲーム開催時の範囲の参加者の中には魔王を倒せる人間は少ないですけれどね?」

 

「頼みの綱の白夜叉様も相手のルールによって封じられていますし?」

 

「他にはウィル・オ・ウィスプのリーダーとかはとても強いらしいですけどいないそうですが、カボチャのお化けのジャックさんとかは手伝ってくれそうですかね?」

 

「まあ、僕の計算だと、ジャックさんは子供を守護するウィル・オ・ウィスプのコミュニティの主力です。誰か子供が死にそうになった位に助けに来てくれると思います」

 

「だから――」

 

「貴方達サラマンドラの主力で魔王と戦って生き残れるのは十分の一位ですかね。そして恐らくですが、サンドラにはその状況に耐えることができずに誰かをかばって倒れることとなるでしょう」

 

「冷静に状況をみることができ、なおかつ生き残ることが出来そうなのはマンドラさんしかいません。つまり、貴方は僕たちにとっての黒ウサギとなればいい」

 

「コミュニティが壊滅状態になっても、名と旗、財産は残るんですからましでしょうね」

 

「ただ、辛いのは生活とかそんなものじゃない。共に支え会おうと誓った仲間が現状に絶望してコミュニティを抜けていくんですよ」

 

「一人」

 

「また一人」

 

「今度は二人」

 

「その次は五人」

 

「そこからはもう止まらない」

 

「――残されたのは、百を超す子供と黒ウサギだけ」

 

「貴方はそれでも死ぬことは赦されない」

 

「自分の責任で喪われていく栄光を見ながら、自分の責任で飢える子供達を見ながら、自分の責任で滅びゆくコミュニティを見ながら――貴方は最後までその場に立ち続けなければならない」

 

「それが貴方の三年前にした選択の結果であり、始めは協力関係を結びにこの場に来ていた僕を侮った事の結果だ」

 

 僕はその言葉と共に扉を開ける。

 

 サラマンドラは恐らく二年以内に消滅するだろう。

 

 僕が既に解き明かしたゲームに勝利できる可能性は無くはないが、ゲームクリアを阻むことが容易すぎるのだ。

 

 そもそも敵の主力三人を押さえられるだけの戦力はない。

 

 恐らく魔王だけなら全員でかかれば押さえることはできるだろう。

 

 しかし残りの二人のうち、ラッテンと名乗る悪魔は軍勢との相性は最悪だ。

 

 笛の音色で集団を操る悪魔。

 

 ゲームの鍵である悪魔のうちの一人である彼女は、一定以下の霊格のものを封殺するだろう。

 

 そこに加わるのがヴェーザーと名乗る悪魔と、黒死病を操る魔王であるペストだ。

 

 それに、今はないがシュトロムと呼ばれた陶器人形もいた。

 

 三人の構成としては恐らく、ラッテンが軍勢を潰し、ペストが主力陣の殲滅、ヴェーザーが近寄るものを阻み、シュトロムという捨て石の人形で場を荒らす。

 

 シンプルかつ強力だ。

 

 そのときは知らなかっただろうが、十六夜さんの采配で敵を分散させたことはまさしく幸運だったのだろう。

 

 でなければ僕達ですら全滅していた。

 

 これは確定事項だ。

 

 僕の微精霊だけしか使っていない穏業すら見破れないものがコミュニティのNo.2という時点で二人目以降の敵を押さえることが出来ない。

 

 つまり、サラマンドラの未来はないのだ。

 

 僕はこれから滅びることがほぼ確定であろうサラマンドラに、サンドラという幼馴染みを残しておくのは心残りだが、それはゲーム中に少しだけ手助けをすることで何とかしよう。

 

「貴方は残念ながら『不合格』だ」

 

 

 

 

 

     ※※※

 

 

 

 

 

 

 違和感があった。

 

 マンドラさんに言葉をぶつけると共に、扉を開けて外に出た筈なのだ。

 

 しかし扉を出た先にあったのはマンドラさんと会話していた執務室。

 

 

 ――嵌められた。

 

 

 僕がそう認識してから、初めてマンドラさんは口角を上げて言った。

 

「――取引だ。ここは俺の許可が無い限り永遠に閉ざされ続ける空間だ。なに、時間は二日は有るんだ。ゆっくりと話を聞いてくれたまえ」

 

 余裕たっぷりの表情でマンドラさんは僕を見ている。

 

 それを見て察した。

 

「……始めから自分の命をチップにしてたんですね?」

 

「私はお前の言う通り、自分のコミュニティが一番大事だ。なら掛け金は決まっているだろう?」

 

 ――我が身全てをコミュニティの礎に。

 

 この人は、そのたった一つの行動理念だけを胸に動いている。

 

「さあ、お前の要求を言え。それがコミュニティの利益となるのなら、相応の何かを差し出そう」

 

 僕を一度追い返したのはこの部屋の準備のため。

 

 挑発し続けたのはこの仕掛けを相手に感知されない状態で使用するため。

 

 僕が言いたい放題になっていたのは相手の人となりを判断するため。

 

 マンドラさんは僕を侮らなかった訳ではない。

 

 ただ、侮った訳でもない。

 

 いつも通りの、話し合いに来ていた人間への対応のように振る舞っただけ。

 

 僕で無くても相手が未知数だったならこの対応なのだろう。

 

「どうした? 私と取引をしに来たのではなかったのか?」

 

 そう言いながらマンドラさんは、これでも『不合格』かと言わんばかりに僕を見る。

 

「……そうですね。『不合格』は取り消しましょう」

 

「それは良かった。俺がした選択に後悔は無いが、お前に言われた事は耳が痛くてな。勿論先の一方的な同盟破棄は今後償うことを約束しよう」

 

「わかりました。僕達を見捨てて生き残ったコミュニティですからね。生き残ったなりの保証をしていただきましょう」

 

「我が旗と名に誓おう」

 

 マンドラさんは、先程の仕返しとばかりに嫌味を言う。

 

 その言葉を聞き届け、僕は本題に話を戻す。

 

「僕からの要求は三つ」

 

「一つは互いの目的の直線上にあるだろう? この不出来な私でも理解している」

 

「そうですね。貴方のにらんでいる通り、魔王のゲームクリアの手伝いです。僕はもうこのゲームは解けています。ですが、クリア方法が二つあるんですよ」

 

「ふむ。つまり、二つの内の一つは魔王の撃破だろう? それは理解している。二つ目は?」

 

「教えません。それは取引が終わってからだ」

 

 牽制のように僕の引き出しを覗こうとしているのが分かる。

 

 下手を踏めば今度は僕達のコミュニティが滅ぼされるだろう。

 

「なら、後で教えてもらうとしよう。二つ目は?」

 

「ある、ギフトの捜索と入手をお願いします」

 

「どんなものだ? 余りに希少な恩恵は不可能だぞ」

 

「どうかは分からないですが、欲しいものは五つ。二つはまた今度欲しい物を見つけて言います。残りの三つは純粋な強化系のギフト。防御系のギフト。最後に、人を星の眷属にするギフト」

 

「強化のギフトと防御のギフトは確実に入手しよう。だが、最後の一つは期待はするな。少しばかり手に余る」

 

 予想はしていたが少し残念だ。

 

「分かりました。期待しないで待ちましょう」

 

「三つ目はなんだ?」

 

「これは純粋な支援要求です。東側にある、僕のコミュニティのボディーガードお願いします」

 

「大きな戦力は割けないが良いのか?」

 

「はい。あそこは要塞と化しているので大きな戦力は要らないですが、心もとない部分かあるので」

 

 ノーネームと嘗めてかかる敵がやけくそになった時が一番恐ろしい。

 

 最悪人質を取られて詰んでしまう。

 

「では、こちらからの要求を二つばかり。一つ目は今回の魔王討伐の手伝いだ」

 

「わかっています。もう一つは?」

 

「これも恐らく気づいている事だろうが、今回の魔王は私達が『階層支配者(フロアマスター)』としてふさわしいことを証明する儀式だった。その事はサンドラ以外のコミュニティ主力は全員知っている」

 

「なるほど。このまちに異様に配置されたサラマンドラの人達は魔王を監視するための物で、北側のコミュニティを魔王から捨て身ででも守るための配置だったんですか」 

 

「ああ。招き入れた以上責任は持つ。だが、一つ問題がある」

 

「自分達だけでは倒すことが出来ない、でしょう?」

 

「耳が痛い話だがな」

 

 北側の秩序を守るためなのなら最善手だろう。

 

 『階層支配者(フロアマスター)』の交代には魔王襲来の危険がある。

 

 それを利用して幼いサンドラに箔をつけさせるのは良い手だと思うし、今後の事を考えるなら必要な事だ。

 

 しかし、サンドラ一人で魔王を相手取るのは恐らく無理だ。

 

 三年前に見た姿や、聞こえてくる評価を考えるとその結論に至る。

 

 そんな時に、サウザンドアイズの予知が来て対策まで教えてくれたのだ。

 

 “ノーネーム”を利用すれば勝てる、と。

 

 だから白夜叉様から僕達への依頼が来る手筈になっていたのだ。

 

 つまりここまでの流れはおおよそサラマンドラの掌の上だった。

 

「正直に言おう。一方的な同盟破棄をした上に助けて欲しいなどとは、恥知らずにも程があると思ってはいる」

 

 苦虫を噛み潰したような顔でマンドラさんは呟く。

 

「そうでしょうね。だからこそ、僕の要求は難しいものにしておきましたから」

 

「心配しなくても、生半可なものなど用意せん。サラマンドラの名にかけてな」

 

「それで、恥にまみれにまみれている貴方が要求したいのは何ですか」

 

 皮肉はさらりと流される。

 

 コミュニティ第一でしか考えない男に皮肉が聞かないことは理解してはいたけれど。

 

 そしてマンドラさんは要求を口にすした。

 

「俺の要求の二つ目は、サンドラが魔王を倒すこと、だ」

 

「サンドラは星を砕ける位の攻撃力があるとでも?」

 

「残念ながら、現状存在しない」

 

「それでしたら不可能です。うちのコミュニティには不殺を決めている人がいるんですよ。なので僕達が手を貸す最低条件がゲームの完全クリアだ」

 

「勿論知っているとも。召喚されて一月にも関わらず有名だからな」

 

「でしたら分かるでしょう?」

 

 無茶苦茶だ。

 

 といってもゲームのクリア条件は二つある。

 

 必ずしも魔王を倒さなくても良いのだ。

 

 しかし、サンドラが魔王に対抗できることを証明するならば魔王は倒さなければならない。

 

 しかしエミヤさんは殺害を好まない。

 

 この矛盾を解消するには一つだけ。

 

 ゲームクリア条件を全て達成するしかないのだ。

 

 ならば一番の安牌は時間を稼いでいる間にゲームをクリアする事。

 

 今回はこの作戦でいこうとしていたのだが、サンドラに魔王を倒させなければならないとまた話が変わる。

 

 サラマンドラは自分達の力で魔王を倒したい。

 

 ノーネームはサラマンドラの人海戦術によってもう一つのクリア条件を見たしたい。

 

 条件は一致するものの、一つ目が不可能な時点で破綻している。

 

「出来ない条件でこの交渉を無かったことにでもしようとしているんですか?」

 

「いや、完全クリアの目はまだある。サンドラの攻撃が星を砕けるまでに強化すれば良い。それが“ノーネーム”に頼みたいことだ」

 

 確信めいた口調で言う。

 

 つまり飛鳥さんの、ギフトを支配するギフトに育てようとしている、言霊による命令及び命令動作履行中の強化。

 

 ノーネームでもまだ謎が多く、他のコミュニティには漏らさないようにしている機密だ。

 

 それすらつかんでいると言うことか。

 

 なら隠さなくても良いか。

 

「飛鳥さんのギフトによる強化ですか?」

 

「それだけでは不安が残る」

 

 しかし、予想は外れる。

 

「失礼ですが、他に星を砕けるまでに強化出来る同士はいません」

 

同士(・・)はな」

 

 同士でなければ、つまり、人脈か?

 

 サウザンドアイズの伝を頼ろうとしているのか?

 

「……残念ながら僕達のコミュニティに人脈はないですよ」

 

「違う。彼の、人間による魔王最多討伐数を誇ったコミュニティの蔵書の知識を十全に活用して、微精霊だけで戦闘を成し遂げたものがいるらしいのでな」

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………?

 

 僕?

 

「随……分と、高く買っていただけていたんですね。驚きました」

 

「ここ一月でそこまで強くなったのだ。耳にはいるさ。お荷物党首が化けた、とな」

 

 ふむ。

 

 確かに、行けるかな?

 

 サンドラに魔王を倒させる策が一つ出てきた。

 

「分かりました。貴方の要求をの飲みましょう」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

「但し、魔王討伐まで僕の言うことは絶対です」

 

「分かっている。最高指揮官はジン=ラッセルに委任する」

 

「慎んで受けましょう」

 

 交渉成立。

 

 ほっと一息つく。

 

 そこで思いつく。

 

「あと、今寝込んでいる僕の同士が目覚めたらその同士の願いを叶えられる範囲で叶えてください。これは僕のお願い(・・・)です」

 

「慰謝料分くらいなら支払おう」

 

 こうして“ノーネーム”と“サラマンドラ”の交渉は終了したのだった。

 

~ジン視点終了~




光一「俺がサンタだ!」

エミヤ「私がトナカイだ!」

光一「いや、ちょま! 早い早い! スピード落とせええええぇ!」







エミヤ「ふむ。仕切り直しとしよう。私がトナカイだ」

光一「おい! 流すな! サンタ雪車から亜音速位で落ちたからな? 普通大惨事だぞ?」

エミヤ「普通、か。お前は普通ではないと思うがね」

光一「……まあ生きてるけどよ」

エミヤ「勿論信じていた」

光一「まあ、それはともかくとしてだ。今日はクリスマス! 町は賑やか、お祭り騒ぎ!」

エミヤ「七面鳥なら既に下ごしらえは十分だ!」

光一「全員で食べきれるサイズのケーキも用意済だぜ!」

エミヤ「後は分かるな?」

光一「おうとも!」

エミヤ・光一「プレゼント!」

光一「既に全員分のプレゼントを作り出す用意は出来ている!」

エミヤ「子供達には配り終えているし、残りの五人も準備万端だ」

光一「とりあえず一人目に行こう」

エミヤ「ふむ。春日部嬢の部屋からにしよう」

光一「一番離れてる部屋からだな」



エミヤ「もうぐっすりと寝ているようだな」

光一「ああ。それじゃあ幸福夢幻!」

エミヤ「夢の中なら欲しいものはごまかせないからしっかり分かるからな」

光一「よし、分かった! 春日部の欲しいものは……」

エミヤ「なんたったんだ?」

光一「……友達、か」

エミヤ「凄い微笑ましくて良いのだが、プレゼントを渡す側とすると、な」

光一「ふむ。なら春日部には、元の世界の友達と会える夢を見てもらおう」

エミヤ「夢だけなのか?」

光一「一瞬でも春日部の世界に行ければ全員共通の夢に出来るんだかなぁ」

エミヤ「ちなみに光一はサンタクロースとのゲームでクリスマスに関わるものにだけギフトが超強化されるギフトを使っている。つまりオリジナルの能力レベルで使えるようになっている」

光一「あ、そういえばあれも使えるのな。カノン! あ、出来た」

エミヤ「聖夜に天使になるとは……。クリスマスのために生まれたような男だな」

光一「うるさい! だがまあ行ってくる」

エミヤ「こんなにサックりと転移するとは思わなかったな」

光一「ただいま。全員で共通の夢で遊んでるぜ」

エミヤ「了解した。では次に行こう」










十六夜「随分と面白そうなことをしてるじゃないか」

光一「やっぱり気づかれたか」

十六夜「当たり前だろう。というかお前らがサンタクロースのゲームに参加してたのを見た時点で気づいてたぞ」

エミヤ「そこまで見られていたのか」

十六夜「たまたまだけどな」

光一「それじゃあ単刀直入に聴くが、欲しいものはあるか?」

十六夜「箱庭が俺にとってはまさに理想だったから特に無い、といいたいところなんだが」

エミヤ「何でも言って良いぞ」

十六夜「ならこのヘッドフォンとプレーヤー直せるか?」

エミヤ「ああ、簡単だ」

光一「それくらいならいつでも出来たと思うんだが、何でだ?」

十六夜「別に急ぎじゃあ無かったからな」

エミヤ「よし、治ったぞ。後、ついでに防水と耐久の強化もつけといた」

十六夜「おっサンキュー」

光一「それは助かったと思ったら助かって無いときの言葉だぞ?」

十六夜「それは意識してなかったんだがな。まあ、ありがとうな」

エミヤ「どういたしまして。並の宝具くらいなら耐えられるようになっているからな」

光一「それは凄いな。それじゃあ次いくか」











光一「子供は早く寝なさい!」

ジン「あ、もうさっき寝ましたよ。三時間位」

エミヤ「この時間の歪んだ図書館を凄い使いこなしているな」

ジン「それで、何のようですか?」

光一「今サンタやってるんだ。何でも欲しいものがあれば言ってくれ!」

ジン「ふむふむ。そういうことですか。では、この図書館の強化をお願いします」

光一「ああ、二十倍くらいにしておくか」

ジン「お願いします」

エミヤ「ついでに図書館で使えるベッドと布団も作ったからギフトカードにでも入れておいてくれ」

ジン「ありがとうございます」

光一「よし、こっちも強化終了だ。二十四倍まで強化しといたから」

ジン「一時間で一日ですか。ありがとうございます」

光一「おう。俺も眠いときに使うからな!」

エミヤ「確かに便利だな。私も利用しよう」

光一「なんかサクサク行ける気がするな」

エミヤ「本人に直接聞いているからな」

光一「それじゃあ、最後に黒ウサギのところにいこう」











エミヤ「……なんか魘されているな」 

光一「そうだな。ちょっと覗いてくる幸福夢幻!」

エミヤ「便利な能力だなそれ」

光一「……なんか俺達が、問題起こしては後始末をしていたんだが」

エミヤ「よし。黒ウサギへの贈り物も決まった」

光一「ああ、俺は楽しい夢を見させるからエミヤは身体の疲れを取ってやってくれ」

エミヤ「了解した。身体の凝っているところを、解析してと。それをほぐせば……」

光一「…たった五分で黒ウサギの睡眠の質がかなり変わったな」

エミヤ「こう言うのは得意なんだ」














光一「飛鳥の部屋か。随分とかたづいているな」

エミヤ「春日部嬢の部屋が汚いようではないか」

光一「そういうわけではないけどな。なんかこう、物が少ない感じだな」

エミヤ「そうか? ベッドに本棚にタンスに鏡に机に椅子。ティーセットまである。沢山ある気がするのだが」

光一「お前はどうだったんだ?」

エミヤ「私がこれくらいの年齢の時は、机と座布団と本棚があったな」

光一「すくなっ! 授業中の坊さんかよ」

エミヤ「くっ! なぜか敗北感がする気がするのだが
!」

光一「まあ、それはおいといて、飛鳥の欲しいものはなんだろうなっと」

エミヤ「久遠嬢の欲しいものか。あまり想像出来ないな」

光一「…………これは無理だろ」

エミヤ「なんだったんだ?」

光一「これは俺達男が関わると間違いなく不幸になるやつだ」

エミヤ「……まさか、あれか?」

光一「流石エロゲの主人公。思い至ったか」

エミヤ「お前こそハーレムを築いただけある」

光一「……牛乳でも置いとくか?」

エミヤ「それはなんか違うだろう? 朝目覚めて牛乳が置いてあったら私なら片付けろと言ってしまうと思う」

光一「確かにな。というか飛鳥もこの年齢にしてはある方なんだがな」

エミヤ「恐らく黒ウサギの事を見て意識してしまったんだろう」

光一「確かに今の俺なら出来ないことも無いんだ。だけどなぁ」

エミヤ「何かあったのか?」

光一「一度薫っていう訳あって身体の成長が小学生で止まっちまった女の子がいてな。ギガって言う能力とかもろもろ使って頑張って大きくしたことがあるんだよ」

エミヤ「一度に大きくなったらパットを疑われるのではないか?」

光一「そこは成長速度を10倍にすることで解決したんだが……」

エミヤ「何かあったのか?」

光一「一月くらいたってから、変化が出てきて喜んでた薫が、仕事をしてたときに俺がもう大丈夫だろうと思って、ギガを解除したら元に戻っちまって」

エミヤ「……同僚にでもそれを見られたのか?」

光一「お客さんとかがいる前でブラを落としたらしい……」

エミヤ「……戻ったのか」

光一「ああ。補佐で使ってた能力が原因だと思うんだが薫にはものすごく怒られた」

エミヤ「やめておこう」

光一「ああ。んじゃあ何を送ろうか?」

エミヤ「他には何か無かったのか?」

光一「もう一度見てみるか幸福夢幻!」

エミヤ「次は用意できるものだったら良いな」

光一「お、これはなかなか良いな。化粧品だ」

エミヤ「十分かわいいのだがなぁ」

光一「それを維持するためだろう?」

エミヤ「それもそうか。投影開始!」

光一「テレビで見るような高級化粧品がこんなに沢山」

エミヤ「執事をやっていたときに買ってきた事があるやつを投影した物だ。私も強化されているから浸かってもきえないし、破壊されても残るようになっているぞ?」

光一「まあ、一見落着か」

エミヤ「ふう。少し遅くなってしまったが、これでクリスマスも終わりだな」

光一「ああ、俺達も寝るとしよう。では、よいお年を!」

エミヤ「もう更新できなさそうだからな。ということで、よいお年を」

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