英雄の箱庭生活   作:英雄好きの馬鹿

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馬鹿対魔王

~光一視点~

 

 ズガガガガガガガガ!

 

 エミヤの相手していた陶器のでかい人形が一瞬で粉砕される。

 

 もはやそこには大量の剣が突き刺さって砕かれた破片しか残っていない。

 

 そして周囲をくるりと見合わせたエミヤと目が合う。

 

 ――ニヤリ。

 

「くそっ! あいつ見捨てやがった!?」

 

 エミヤはそのまま控室のほうに走っていった。

 

 おそらく春日部を助けに行ったのだろうが、直接的な戦闘能力の低い味方がここにいるというのに。

 

 今度あいつに全力でいたずらしてやろう。

 

「仲間にも見捨てられたところだし、もうそろそろ死んでもいいのよ?」

 

「断る! というかなんで俺の相手が魔王なんだよ! こういうのはエミヤの担当だろう!」

 

 うちのコミュニティで一番戦闘力の奴がなんで戦ってないんだよ。

 

「確かにさっきの男もなかなか霊格が高かったけど、貴方と変わらずにあそんであげていたわ」

 

「遊んでくれてありがとうって言えばいいのか!? それだったらちゃんとみんなが楽しめるようなゲームにしろよ!」

 

「それは無理ね。私は魔王だもの」

 

 やっぱり会話だけじゃ止まってくれないみたいだな。

 

「ならここで足止めはもうやめて倒してやる! ――こい! 俺の『矛盾騎士(ランスロット)』!」

 

 パチン!

 

「ぷおー!」

 

 いつも通りの姿のお子様騎士が現れる。

 

 しかし今度のお子様騎士は一味違う。

 

「いけ! あいつをぶっ飛ばしてやれ!」

 

「ぷお!」

 

 了解とばかりに走り出す。

 

 その速度は薫が使っていた時と遜色がない。

 

 今回俺が伸ばした性能は運動能力。

 

 剣は相変わらずおもちゃだし、盾も樹脂製の安っぽい。

 

 ただし、その激しく二頭身の体には考えられないほどの運動能力が込められている。

 

 お子様騎士は全力で走って魔王のもとへたどり着く。

 

 そこで気付いた。

 

「……何がしたいの?」

 

 お子様騎士は魔王のすぐ下に行ってピョンピョン跳ねている。

 

 運動能力は高く、三メーターくらいは余裕で飛んでいるのだが、相手が悪い。

 

 魔王が飛んでいるのを全く考慮してなかった結果。

 

 お子様騎士の攻撃は届きようがなかった。

 

「ぷおっ!?」

 

 そして、何度目かのジャンプで着地に失敗してしまい、声を上げて消えていった。

 

「……何この茶番。死にたいのかしら?」

 

「えーっと。ほら。……可愛かっただろう?」

 

「可愛すぎて死にましたみたいなことでも狙ってたの? 馬鹿じゃないの?」

 

「すまん。なにもいいわけできん」

 

 無性に恥ずかしくなってきた。

 

 それを隠すために手で顔を覆う。

 

「まあいいわ。私だけ遊んでられないしね。――潰してあげる」

 

「それは遠慮しておこう。まだもう少し位やることがあるんでな」

 

 さて、どうしようか。

 

 触れれば黒死病にかかるらしい風を操る魔王。

 

 最悪の事態を考えると、相手のギフトを攻撃に使うことは出来ないだろう。

 

 もし、俺があの風を操ることが出来るようになったとしても、限界までイメージを強く持たない限り制御能力で負ける。

 

 なら、初めから『黒死病を与える』ギフトを反転させた『黒死病を奪う』ギフトとして使った方がいい。

 

 恐らく効果範囲はほとんど触れなきゃいけない範囲だろうが、ないよりましだ。

 

 とりあえずは、黒死病は即死する病気じゃない。

 

 このギフトさえあれば恐れるに足りない。

 

 今は他の観客に被害が行かないようにするしかないか。

 

 魔王が俺に狙いをつけるために少し降りてきたところを狙って、『飛燕(トニー)』で魔王の上に行き、『至福千年(フォトン)』の劣化コピーをつかい、荷電粒子砲で地面に叩きつける。

 

 少しくらいダメージが入ってくれてたらいいんだが……。

 

 魔王は土煙の中から何事もなかったかのように立ち上がって服を払う。

 

「風で防御してなかったら服くらい破けたかもね?」

 

「直撃でも無傷化かよ……」

 

「魔王を倒したいなら星を砕く一撃でも用意してきなさい。今のじゃ力不足ね」

 

 全く。

 

 魔王は本当に理不尽だな!

 

 まあ、とりあえずの目的は果たした。

 

 もともと飛んでいた魔王を地面に下ろすことだけが目的だ。

 

 ダメージはついでに過ぎない。 

 

 イメージを込めて指を弾く。

 

 パチン!

 

「――ようこそ。俺の箱庭へ」

 

「っ! 隔離型のギフト?」

 

「そんな上等なもんじゃないけどな」

 

 俺の切り札の一枚。

 

 『無能箱庭(アルカトラズ)』。

 

 今回の能力はシンプルだ。

 

 ギフトを封じることは出来ないが、その分、許可がないと出ることが出来ないという性能だけ伸ばした。

 

 魔王との距離は五メートル。

 

 今までの攻撃を見る限り、三秒以内に俺を殺せる距離だ。

 

「呆れた。まさか、近づいただけで勝てると思ったの?」

 

 魔王は手の上で黒い風を遊ばせながら言う。

 

「いやいや、まさか」

 

「あんまりもったいぶるなら、あなたを殺してあなたの仲間全員殺すわ」

 

 その両手の風の量が爆発的に増大する。

 

 恐らくあれの制御をやめるだけで俺は死ねる。

 

 だが、俺は一つの確信をもって言う。

 

「それじゃあお前の目的は叶わないんじゃないか?」

 

 魔王の表情が動く。

 

 当たり、か。

 

「お前の目的は無差別な殺人ではなく、何かしらの目的があって行動を起こしている」

 

「続けなさい。聞いてあげる」

 

「上から目線過ぎるだろう!?」

 

 俺があまりの傍若無人な態度に突っ込むが、帰ってきたのは黒い風が収束していく両手と、冷たい目と、一言。

 

「死にたいの?」

 

「まあまて。話す。話すからその両手のを納めろ」

 

 突っ込みの一つで死にかけた気がするがとりあえず目の前の驚異を取り除いて貰おう。

 

「嫌よ。下らない話だった時に直ぐに殺せないじゃない。まあ、少し遅いか早いかだけどね」

 

「殺す前提かよ!」

 

 無理だった。

 

 内心結構びびってることを隠しながら続ける。

 

 話が進まない。

 

「それはおいとくとしてだ。何でお前は観客全員に初めから黒死病を与えなかったのか。これがその疑問の切っ掛けだ」

 

「別に、気まぐれよ」

 

「そんなはずはない。さっき、白夜叉がこのゲームにとらえられているらしい声が聞こえた。つまり実力者を排除した上で何かをする。答えが見えてこないか?」

 

「……さあね」

 

「それはほとんど当たりみたいなものだろう。だから俺も今生きて話していられる」

 

 魔王は両手の風を書き消して肩をすくめた。

 

 そして溜め息を一つ吐いた後言う。

 

「一つだけ答えてあげる。私たちの目的は怠惰な太陽に復讐することよ。あなた、名前は?」

 

 俺はニヤリと笑い、ポーズを決めて言う。

 

「『全ての式を模する者』佐藤 光一」

 

 言った瞬間に風が吹き荒れる。

 

 気に入らなかったみたいだ。

 

 俺はとっさに魔王のギフトの劣化コピーでなんとかそらす。

 

 ただ風を解放しただけのようで、制御してなかったらしくそらせたようだ。

 

「次は殺すわ。あなたは白夜叉の仲間みたいだから躊躇う必要もない」 

 

「白夜叉の味方のプレイヤーですら奪う方法が有るとしてもか?」

 

「……悔しいけれど完璧ね。貴方、私の同士にならない?」

 

 魔王はパチパチと手を叩きながら言う。

 

「遠慮する。お前が誰かを殺すのを止めて神魔の遊戯を楽しむだけならまだしもな」

 

「残念ね。それで? その方法を教える代わりに何を要求するのかしら?」

 

「時間だ。ギフトゲームの猶予期間を五日間」

 

「却下。そんなものは取引にすらならないわ」

 

「観客の何人かには既に黒死病を感染させているから時間を掛ければ掛けるほど有利になるから、だろう?」

 

「ならわかるでしょう?」

 

「『箱庭の貴族』、『箱庭の騎士』、元『守護者』。お前の目的に欲しくないのか?」

 

「私がこのまま戦わなければ上位のプレイヤーに対してその交渉を吹っ掛けられることに気づいてる?」

 

「もちろん。ただし、その交渉の場合は裏切るかもしれない駒でしかない。ギフトゲームでのルールなら自由に出来るぜ?」

 

「なるほどね。じゃあ日数はそれでいいわ。ただしこっちからも条件を二つ」

 

「なんだ?」

 

「ゲームの参加者以外の参戦があった場合。この会場の全てのコミュニティの服従」

 

 つまり、サウザンドアイズですら手中に納めようとしている。

 

「審判である黒ウサギにいっておく。もう一つはなんだ?」

 

「貴方が人質になること」

 

「わかった。その代わりに黒ウサギには伝えといてくれ」

 

「もちろん」

 

 風が吹く。

 

 数秒と持たずに俺は倒れる。

 

 俺は一度だけ指を弾いて意識を失った。

 

~光一視点終了~




エミヤ「お前は馬鹿か?」

光一「えーっと。ほら。原作のタイトルから来た宿命といいますか。うん。しょうがない」

エミヤ「魔王と戦っているときくらいシリアスになれ」

光一「いや、どちらにしても多分傷つけられるギフトがいくつあるか……」

エミヤ「星を砕くとか私でも無理だ」

光一「よし! 諦めよう!」

エミヤ「星を砕けないのなら砕ける人を連れてくるか、覚醒でもしろ」

光一「覚……醒だと!」

エミヤ「お前はそういうの得意だろう?」

光一「そうか。俺の付け焼刃の第三段階についに目覚めるのか! 今度は伸ばせる性能が二つになったりするのかなあ?」

エミヤ「再現度はもうあきらめているんだな……」

光一「ああ。なんかもう、な。うん」

エミヤ「なんかすまん」

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