英雄の箱庭生活   作:英雄好きの馬鹿

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心はいつか

~エミヤ視点~

 

 契約書類(ギアスロール)を読んだ瞬間、私の体はいつの間にか海辺の町に移動していた。

 

 これは私の固有結界に似た物のようだ。

 

 白家叉のように別の世界に連れていくと言うよりは、自分を表す世界を作り出すような物。

 

 だが、おそらくこの世界は自分だけでは展開する事など出来ていないだろう。

 

 まず、これは私の固有結界と違い、実在し滅ぼされた者と、それを残した者からの、滅ぼした頭足類への畏怖……つまり信仰を具現化した物。

 

 しかし、英雄ペルセウスよる討伐の逸話、現在普及してしまった高機能な船への信頼等から信仰は薄れていき、現在では何かから力を借りなければ全力になれないほどに弱体化してしまった伝承(もの)

 

 ペルセウスと言う己を滅ぼした物に頼らなければならないとは皮肉なものだ。

 

 しかし、この世界においては怪物・クラーケンが猛威を振るっていた時代、信仰がもっとも厚かった時のようだ。

 

 それ故に少年の姿だったクラーケンが島ほどもある怪物になれているのだろう。

 

 もしも私がまとも(・・・)に戦おうとするのならば、それなりに苦戦を強いられただろうな。

 

「別に、一瞬でも危害が加えられなければ私の勝ちなのだろう? ならば君のゲームにとって私は天敵のようなものだ」

 

 すでにクラーケンは町に向けて移動を開始している。

 

 武力で対抗するのならば、既に始めていなければ遅い。

 

 ただ、私には武力で戦わなくてもいい手段がある。

 

 ならばそれを使えばいい。

 

 消費が激しいから、戦術として可笑しいから、使用しなくても勝てるから。

 

 そんな自分への甘えのような理由で出し惜しみをして、誰かを傷つけるのはやめだ。

 

 二度目の人生くらいバカになってみようではないか。

 

「まあ、少々見苦しいかも知れんが許せ」

 

 そういってオレは自己に埋没する呪文を唱える。

 

 

 

 

 

 

 ――体は剣で出来ている(I am the bone of my sword.)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで私の勝ちでいいな?」

 

 既に少年サイズに戻ったクラーケンに問いかける。

 

「あんなの反則だよ! ズルイ!」

 

「しかし、君のゲームは解除されてしまっているということは、私の勝ちで間違いないと思うが?」

 

 クラーケンは駄々をこねるように言う。やはり、クラーケンにとっては、百歳など子供のようなものなのだろう。

 

「……まあ、確かに僕の負けだけれど。ゲーム版の町を守る戦いで、ゲーム版の世界を塗りつぶすっておかしいでしょ!」

 

「まあ、普通にやってクリアできないことも無かったのだが、急いでいてな。奥の手をさっさと使わせてもらった」

 

「ゲーム版から別のゲーム版に移ったら反則なんて書いてないのがいけなかったのかな……」

 

「それだと私や君の場合また勝てるゲームになってしまうな。もし転移を封じたいなら、『街に危害を加えられないようにする。』というルールではなく、『クラーケンの撃破』というルールにして、『このゲームによる死は、死ぬ代わりにゲームからの除外』というようなルールにすれば全て丸く収まらないか?」

 

 こうすれば死人は出ないし、挑みやすいゲームとしてお金も稼げる。なかなかいい案だと思う。

 

「次来たときはそっちのルールでやるからもう一回ちゃんと戦おうね」

 

「ああ、心得た。では、商品を渡してもらえるかな?」

 

 私はクラーケンに目当てのものを催促する。

 

「ああ、これがペルセウスのギフトゲームの挑戦権の片割れだよ」

 

 そういってクラーケンは蒼い宝玉を渡してくれる。

 

 それをギフトカードの中にしまう。手で持っていたらかさばりすぎる。

 

「それでは急いでいるのでな、これで失礼する。次のゲームの時には楽しませてもらうとしよう」

 

 そう言って後ろを振り返り、走り出そうとする。

 

「――あの世界が君の世界なら、君は仲間に頼ることを覚えたほうが良いよ」

 

 去り際に、クラーケンの少年の言葉が聞こえてくる。

 

 私は振り返ることもせずに答えた。

 

「――私は既に仲間を頼れるさ。性根までは直には変わらないだけだよ」

 

 それに対する返答は聞こえず、私も既に走り出している為聞こえることは無いのだろうが、少しだけ誰かが笑った気がした。

 

 

~エミヤ視点終了~

 

 




 俺達は頭えを抱えることになった。

 情報を整理するとだ。

 美咲町という町はこの世界に存在しない。

 魔術も超能力も空想の産物。

 人外と呼ばれるようなものも居ない。

 そして最後に、唯一の世界の異常な点。

「あの黒い光って間違いなく光一君の異能だよなあ」

 そう。

 俺とアルクェイドがやってきたこの町は、毎月十三日に黒い光が降り注ぐ世界の、――雨鶴木市という町だった。

 つまりここは完全無欠に異世界。

 それも、元に戻れるかも分からないような場所。

 そして、この世界に飛ばされた原因であるギフトは、エネルギー切れなのかうんともすんとも言わない。

「これも、俺が指輪をつけたままギフトを使ったからか……。自分の服ででもくるんどけば良かった」

 あの時、触れていた物に縁がある世界に転移すると言うギフトは、俺と指輪に触れていた。

 つまりだ。

 あのギフトは、俺を物と判断せず、指輪を物と判断した。

 つまり誰かが触れているだけでは駄目だったのだ。

 そして衛宮作の指輪は、何かを元にしたわけではなく、自作のもの。つまりその指輪自体が作られた縁は箱庭に当たるということだろう。

 しかし、その指輪の中にこめられた力は、コピー能力者である光一君の世界でコピーしたものなのだ。

 つまり、世界を横断するギフトが選べたのはこの世界だけだったのだ。

「まあ、くよくよしてもしょうがない! 行きましょう志貴。光一が能力をコピーした元の人物が居るはずだから」

「そうだな。よし! 光一君について知っていそうな人を片っ端から当たっていこう」

 そういって歩き出そうとした時、唐突に声をかけられる。

「君たちはコーイチ君の知り合いか?」

 振り返ってみると、赤い髪の女性が、鋭いまなざしでこっちを見ていた。

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