~エミヤ視点~
今頃光一はグライアイと戦っている頃か?
まあ、あいつのことだからそれなりに苦戦はするだろうが負けることはあるまい。グライアイの撃破ならともかく、頭を使ったゲームと聞いている。
頭は良いほうとはいえないだろうが、機転は利くようだから問題なさそうだ。
それよりも問題は私のほうか。
今回私が戦うことになっているのはクラーケン。
海に住む怪物で、馬鹿でかい頭足類という伝承が残っている。
その大きさは島にも匹敵するといわれていて、船を海に引きずり込むそうだ。
ペルセウスの物語の中では、なんやかんやあって生贄に捧げられそうになった姫がクラーケンに食べられそうになっているところを、メデューサ討伐帰りのペルセウスがクラーケンを石にして倒した。
といった感じだったと思う。
正直よく覚えていないが、確かこんな感じだったと思う。
なので、今回の戦いはクラーケンの討伐。それも水上でだ。
もしかしたら姫を助けろというのも含まれるかもしれないが、そんなことではさすがに負けていられない。
さて、いつのまにか観客も増えていることだし、私ももうそろそろ戦い始めるとしよう。
「さて、君たちの領地に無断で入って来たのは悪かったが、尾行するのは趣味が悪いとは思わんかね?」
「わお。まさか気づいているとは思わなかったよ。これでも伝説の怪物のさらにコミュニティの叡知まで組み合わせたものだったんだけどね?」
「まあ、透明になっているのは面白いとは思うが、元々そっちを見ていない。それに歩くことにはなれていないのだろう? 足音を消しているにはうるさすぎだ」
「まあ、無事に僕までたどり着けたプレイヤーは今まででも、三人だけだったんだけどね? 君は相当強いようだね。こっちも相応の対応をするよ」
そういうと私の後ろから足音が聞こえて、ちょうど私の前に立つ。
そして、衣擦れの音が少ししたかと思うと、兜をはずした
青と白の髪の少年が現れた。
なかなか、優しそうな顔立ちで、常に笑顔を浮かべている。
「ボクの名前は、ご察しの通りクラーケン。まあ、まだ百年も生きていない若輩者だけれどね」
「人間なら八十年もいけばいい方だよ」
「それもそうだね。じゃあ、人間なのに人間とは思えない中身の君は誰なんだい?」
驚いたな。すぐに私が異常なことを察するとは。この少年も伝説の怪物として、一筋縄ではいかなそうだな。
「私の名前はエミヤ・シロウ。最近この世界に来たばかりの元掃除屋だよ」
「へえ、掃除屋さんが来たのははじめてだなぁ」
「そうか、それはよかった。まあ、これでも少しばかし急いでいてね、できるだけ早くゲームを初めてもらいたいのだが」
「そうだね。まあ、君もご察しの通り、僕等“ペルセウス”の用意したゲーム。『島足類との戦い』のゲームマスターです」
相違って少年は......クラーケンは掲げた右腕から一枚の紙切れを取り出した。
『ギフトゲーム名“島足類との戦い”
・プレイヤー一覧
・エミヤ・シロウ
・ゲームルール
・クラーケンから海辺の町を守る。
・クリア条件
・クラーケンが街に危害を加えられないようにする。
・敗北条件
・プレイヤーの戦闘不能。
・街が三分の一以上破壊される。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“エミヤ・シロウ”はギフトゲームに参加します。
“ペルセウス”印』
「なあ、アルクェイド。いいのかこれで?」
俺は妻ーーアルクェイドに聞く。
宝石翁につれてきてもらった異界、箱庭。
そこでは人外魔境というしかないところで、俺たちは各々の問題を解決するためにここまできたのだ。
「うん。これで一緒にいられるし、志貴ももう一度目指してみたいんでしょ?」
あのまま過ごしていれば永遠の眠りにつくしかなかったアルクェイドだが、その問題が解決し、謎のよく分からないアホみたいな人物によって俺の眼も大分楽になった。
拍子抜けするほどバカらしく、魔法使いでも無理なことをサックリとやってのけられてしまった俺たちは、すでにこの世界にとどまる意味も無くなってしまったのだ。
ついでに言うと、これからアルクェイドとずっと一緒にいるという目標も、二人以上で暮らすためのお金の稼ぎ口も、やりたいこともなかった。
そして昨日俺とアルクェイドで話し合った結果、三咲町に戻って秋葉達の手伝いをしながら生きていくことにした。
「それじゃあ、もう心残りはないよな?」
「うん。いこっか」
そういって俺はギフトと呼ばれる力を使う。
とてつもなく高価なものだが、ゲームして勝ったらもらえたものだ。
何でも、使用者がふれているものに縁のある場所に返してくれるらしい。
死亡した人間が帰還するなどと言う因果率に干渉することはできないらしいが、生きていた人間なら戻ることができるらしい。
そのギフトを起動し、アルクェイドと手を繋ぐ。右手に感じられる体温と、硬質な銀の指輪がこれからもずっと一緒にいられると言う喜びを与えてくれる。
「ーーこれからもよろしくな?」
「もちろん。離してなんてあげないんだから」
二人で同時に笑いあう。
さあ帰ろう。
俺たちの町に。
結婚指輪をはめた左手でにぎっているギフトは、時がたつごとにどんどん眩しく輝いている。
そしてひときわ大きな光を放ったあと、浮遊感が襲った。
この光が収まって、眼を開けたらそこは......
「あれ? 三咲町じゃない?」
つづく!