今回は毛色を変えてジン坊ちゃん視点!
問題児シリーズの薄くなった影を濃くするんだ!
~ジン視点~
どうすればいいのでしょうか。
昨日の夜、十六夜さんに言われたよう、僕にはリーダーとしての覚悟が足りなかったんだと思う。
いや、思うではなく実際に足りていなかった。
以前は箱庭中に響いていたこのコミュニティですら届かなかった相手から名前と旗印を取り返さなければならなかったのに、力が足りない人が足りないお金が足りないと何かのせいにして努力なんかしていなかった。
やろうと思えば膨大な経験が書き記された本が本拠に眠っていて、それで知識を蓄えてギフトゲームに参加することもできたのだろう。
だけど僕はそれをやらずにのうのうと過ごして黒ウサギに迷惑をかけただけだった。
僕の持つギフトについても光一さんは新しい使い方をいくつも考えてくれた。
僕は何年もこの力と向き合ってきたのに見つけられなかったことを。
いくら感謝してもしきれない。
だから今日のギフトゲームで少しでも役に立とう。
……そう思っていた矢先に、ギフトゲームの内容がガルドの討伐だった。
飛鳥さんや耀さんのギフトでは殺さずに討伐することは不可能だ。
光一さんやエミヤさんなら何とか出来たのかもしれないが、全ての者に命令する能力と、動物の性能を手に入れる能力では討伐を行うことはできても殺さないことが難しい。
だから僕は策を練る。
最初は
十六夜さんに――いや、コミュニティ全員にリーダーと呼ばれるだけのことをしてやろう。
光一さんは僕くらいの異能で敵を倒して行き、最後には嘘みたいな量の平行世界の救いをもたらした。
だったら僕にもできるはずだ。
今日この戦いのために、できる限りの準備はしてた。
さあ、僕の戦いの開始だ。
※※※
ゲームが始まり、森の中に飛鳥さんと耀さんと踏み入れました。
まずは、勝利条件たる武具を探し出さなければいけません。
しかしそれは僕の役目ではありません。
もうすでにある場所の予測は付いているのだから、そこの付近になったら五感の優れる耀さんに任せるということになった。
そのことはもう二人には話してあります。
だから僕は歩きながら待ちます。
それが来るまでは僕はまだ足りない頭で考え続けておこう。
「もう館は目と鼻の先まで来たけれど、何か思いついたのかしら?」
飛鳥さんが足を止めて聞いてきます。
その言葉とともに耀さんも足を止めて僕の方を見る。
「作戦というほどではありませんが、武器を手に入れるのが先だと思います。エミヤさんの言葉がどうであれ、武具を持って戦わなければ負けてしまうと思ったので」
「それは賛成なのだけれど、どうやって殺さないで討伐するのかしら? 私には一切思いつかないわ」
僕の自信を込めた言葉を疑うように飛鳥さんは聞いてきます。
確かにすべてを捨てて箱庭にやってきたのに自由にゲームができなくなる瀬戸際なのだ。
疑ってかかるのも無理はないと思います。
「すいませんが、それはまだ思いついてはいません。ですが、ある程度のことは見切りをつけています」
「つまり、明確な手段は思いついていなくても、勝利する方法はあるということね?」
有無を言わせぬ圧力を視線に宿しながら飛鳥さんは聞いてきます。
これが以前の僕なら、普段の僕なら萎縮しているところなのでしょうが、今の僕は向上心という活力に満ちていると、自分でもわかります。
だから、しっかりと飛鳥さんを見据えて答えます。
「ええ、絶対に殺さずに討伐することは可能です」
飛鳥さんは僕の答えに満足したのか、ならいいわと答え、敵の本拠地の方を見ます。
「……ならジンは、何がダメで作戦が立てられないの?」
今度は耀さんが聞いてきます。
僕は、敵の本拠地に近いのに攻撃が来ないことを確認してから全員に話しかけます。
「まず、一番最初の問題は殺さずに討伐を行うことがネックでした」
「ええ、そうね。私も思いつかないし、難しいところよね」
「はい、そこは昨日書庫に籠って十六夜さんと読んだ本の中にヒントがあったので何とかなりました」
「それで目の周りにものすごいくまができてるのね」
昨日から始めた努力は早くもここで実を結んだことに、すでに喜びを感じているのだけど、次の問題でその喜びは消えてしまった。
「ええ、僕のくまができた原因の本の中に、日本の歴史書があったんです。日本には地形や、作戦で少数で大人数を倒した例が豊富でした」
「それはどうでもいいから早く話しなさい。徹夜明けでテンションでもおかしくなっているのかしら?」
飛鳥さんの言葉の毒は割りと僕の心に刺さった。
……いたい。
「それでですね、本の中に後鳥羽上皇を
その言葉に飛鳥さんと耀さんが二人共目を見開く。
「後鳥羽上皇は……幕府に討伐されたあとは島流しになっているのよね? つまり討伐後も生きている」
「そうです。後鳥羽上皇の場合は、反逆を起こせるだけの力を失い、その後別の島に流されています。つまり力をそぎ落として反撃することさえできなくさせれば僕達の勝ちです」
「そうね、それで二つ目の問題は何かしら?」
僕は興奮しすぎないように深呼吸をしてから二人を見て答えます。
「二つ目の問題は、二人とも怪我をしてはいけないということです」
「……それなら私がやれば大丈夫。あんなでかいだけの虎には負けない」
そこには怪我を負わせられるということを遠回しに言われた耀が力強く反論する。
ここで言い負けてしまえばこのゲームには勝つことはできないというのを察して耀さんに言い返します。
「耀さんの身体能力は今のガルドにも対抗出来るだけの力がある事ま間違いありません」
「……ならどうしてだめなの?」
「ガルドには元々の虎として築き上げてきた霊格と、この森の様に吸血鬼の霊格を持っていると思います。代わりに理性とかは失っているとは思うのですが、それでも戦闘経験の少ない耀さんと戦うのでしたら勝率は五分五分だと思います」
「飛鳥もジンもいるなら大丈夫じゃないの?」
「ええ、僕達も戦うことを前提にしないと無傷で倒すことはできないと思います」
ここまで話した時に、飛鳥さんが少し慌てたように口を挟みます。
「私は春日部さんみたく早く動くことは出来ないわ。……悔しいのだけれど」
「私もこのペンダントをもらうまで出来なかったから飛鳥も頑張ればできる」
「無茶言わないで!」
この二人はもうすでに結構打ち明けてますね。
それはいいことですが、敵陣の前で覚醒しろとは少し難しいのではないでしょうか耀さん。
まあ、そのことは置いといて。
「とりあえず、ガルドなら耀さん二人分の戦力があれば無傷で倒せます」
「あまり否定は出来ないのだけど、ギフトとしての性能なら春日部さんには負けないわよ?」
「ええ、僕はお二人に負けてますが、できることはあります。つまり出来ることと出来ないことの差がこの勝負を握っているんです」
「ということは、武具ということは、実際に動くのは春日部さん。私とジンくんはサポートということかしら?」
「ええ。そのサポートなのですが、このゲームの場合、飛鳥さんのギフトはガルドには効きません」
「ええ、ルールで身を守っているのよね?」
飛鳥さんはガルドの策に少し関心しているようにいいます。
「なので、飛鳥さんの戦力は普段より少ない状態ですよね。それに僕のギフトもあまり強力な効果は今は出すことは出来ません。ここが問題なのです」
「……つまり、あまり認めたくはないのだけれど、ジンくんの作戦の中では二人とも役に立たないということね」
少し目を細めながら飛鳥さんは僕の方をにらみます。
……ものすごく逃げたいです。
こんにちは昨日までの僕。もう君とは出会いたくないから帰ってくれないかな?
僕の心の中で葛藤をしていると、飛鳥さんが僕の肩に手を置きます。
そして僕の両肩をぎりぎりと握りつぶそうとしながら言います。
「こんなに舐められたのは人生で初めてよ。体験したいことではなかったけれど。……ねぇジンくん」
僕は飛鳥さんから感じられる修羅のような圧力に昨日までの僕が出てきてしまい、まともに答えることが出来ません。
「あまり私を舐めないで頂戴! さあ、春日部さん歩いてるだけでも怪我をしない様にしてやろうじゃないの!」
「は、はい!」
僕は反射的に返事をします。
「さあ、見てなさい! 私の力を『バッチリ目に焼き付けなさい!』」
その言葉に僕は逆らうことが出来ないどころか、ギフトまで無意識に使われていたらしく指一本満足に動かせません……。
そうして、僕の二つ目の不安はばっちりと取り除かれたとだけ言っておこう。
※※※
「それじゃあ、僕が合図をしたら二人共よろしくお願いします」
「ええ。わかっているわ」
「右に同じ」
僕は乾いてしまった目に潤いを取り戻させようとしぱしぱさせながら言います。
……ここが森で、湿気がそれなりになかったらもっと酷かったんだろうなぁ。
「それじゃあ、行きます。
一
二の
三っ!」
その声とともに飛鳥さんの声が森中に響きます。
「『
その言葉とともにガルドの本拠点であった屋敷は、吸血鬼化した木々のフルスイングによって粉々になって空へと吹き飛ぶ。
……まあ、少しだけ種はあるんですが、それを抜きにしてもこれは酷い。
ガルド自身は全くの無傷でも、屋敷の中に居たがために木々の異変を察知したとしても吹き飛ばされることは避けられない。
つまり、どれだけ強化されていようと虎か吸血鬼でしかないガルドにはどうすることも出来ず空に舞うことしか出来ません。
そして更に、こちらは三人。
僕の戦力の低さを考慮しても途轍もない戦力である耀さんがいる。
そして、耀さんのギフトは動物の性能を手に入れること。
耀さんのギフトなら、グリフォンの様に空を駆けることすら出来る!
身体能力の一点だけなら負けるかもしれないとしても、多用性という点ではガルドでは遠く及ばない。
相手が強いならその土俵で戦わなければいい。昨日光一さんとエミヤさんが言っていたことだ。
だから僕は、いや飛鳥さんはガルドの土俵を粉々に吹き飛ばす策を伝えてきた。
……まだまだ作戦を建てるのが下手だなぁ。もっと精進しなきゃ。
そう思いつつも、こんなスケールで考えることが出来なかった時点で僕にはこの作戦はたてられなかったのだろう、とも思ってしまう。
しかし耀さんがいくら空を飛べるとしてもまだ飛行技術はそこまででもないのとで真直ぐにしか飛べない。
だから、瓦礫の中にある剣を拾うことは出来ない。
――だからこれは僕の役目だ。
「精霊たちお願いします!」
その言葉とともに、白銀の剣が浮かんでいく。
速度こそ遅いが、持ち上げられているところを見ると失敗とまでは行かないようだ。
「剣が来ないならもう一度!」
耀さんが剣が来ないために瓦礫を盾にしてガルドを吹き飛ばそうとする。
しかし、ガルドは瓦礫が飛んでくるのを、爪を振り上げて待ち構えている。
粉砕する気なのか!
そのガルドの反撃を、春日部さんは自身が盾にした瓦礫で見ることが出来ていない!
不味い!
これでは耀さんがやられてしまう!
今にも瓦礫が接触しそうになる時、もう一度声が響いた。
「ダメよ春日部さん! 『下がりなさい!』」
それを飛鳥さんは春日部さんに言葉で強制的に後ろに下げられる。
唐突に後ろに下げられた春日部さんは驚愕したようにこちらを見る。
春日部さんが離れても慣性でそのまま飛んでいく瓦礫はガルドによって粉々に砕かれるのをみて飛鳥さんにペコリと頭を下げたのが見えた。
もしも春日部さんがあのまま向かっていたら炸裂する瓦礫の威力に加え、高所からの落下ということで相当な重症を負っていたということがわかります。
「まったく。……間一髪ね」
「ありがとうございます、飛鳥さん」
「それよりもあなたが剣を渡せなかったのが原因でしょう! 『さっさと剣を運びなさい!』」
飛鳥さんが僕に命令をする。
その瞬間、今までも全力で運んでいたであろう森や風や大地の精霊が急激に速度を早めて春日部さんに剣をとどける。
「っよし。これなら!」
耀さんは見晴らしの良くなったガルドに向けてきらりと陽光を弾き返しながら剣を振るう。
しかしガルドも猫科特有のしなやかさで体勢を空中で整える。
その万全の状態からものすごい速度で前脚が振るわれる。
剣と腕。
普通なら圧倒的攻撃範囲の違いによって叩きのめされてしまうものだが、今の巨大な虎と化したガルドならほとんどその差を無くすことが出来る。
この空中での耀さんとガルドの差は空中での移動のみ。
しかし、耀さんの飛行能力はまだ自由自在とは行かず、空中で大まかに動けるというくらいの物です。
万全の状態で迎え撃つことが出来るガルドならそのアドバンテージはゼロ二近いのです。
つまり耀さんとガルドでは条件がほとんど同じです。
ここまで策を凝らしても僕の
このとてつもない戦力である二人を使って、最大限頭を働かせても、ゴロツキ一人満足に倒せない。
己の不甲斐無さを感じながらも耀さんとガルドが交差するのを、祈るように、願うように見守る。
そして二人が空中で交差する。
一瞬の交差の中おびただしい量の鮮血が舞う。
剣によって切り裂かれても、腕によって叩きつけられても血飛沫は舞う。
だから一瞬判断に迷いました。
「これで私たちの勝ちだわ!」
僕が判断に迷っている横で、飛鳥さんが喜びの声を上げる。
そう。
血しぶきは、同じく自由落下する肉体と共に地面に向かって落ちていく。
この戦いの敗者は――ガルドだった。
この一瞬の交差の中で明暗を分けたのはおそらく狙う場所の決定的な差異だったんでしょう。
ガルドは言うまでも無く春日部さん自身を打ち砕こうとし、春日部さんは振るわれたガルドの腕を攻撃しようとした。
だとするのならリーチの問題で、耀さんの剣はガルドの腕にいち早く届きました。
これが僕の策で唯一勝率を上げられたもの。
もし、ガルドが吸血鬼の回復力を過信して攻撃を受けてから反撃をされたら負けていた。
もし、ガルドが剣をもっとも危険なものと見なして剣のほうへ攻撃をしていたら負けていた。
もし、ガルドが今まで理性を保っていないフリをしているだけで理性があり、腕の攻撃に見せかけて体を回転させて蹴りを放ってきていたら負けていた。
もし、ガルドが外の変化に気づき、屋敷の外へ飛び出していたら負けていた。
もし、白銀の剣が、指定された武具ではなく囮なら負けていた。
それぞれに理由をつけて、ほんの少しずつ裏を取っていってこれらの選択肢を選びにくくした上でようやく手に入れた十分の一の勝率。
飛鳥さんと耀さんと
たったの十分の一しか上がらなかった勝率がこの勝負を左右したんです!
腕を聖なる剣で切られて苦痛にもだえ苦しみながらガルドは地面に落ちました。
ルールで守られていなかったら間違いなく死んでいた高さです。
ガルドはすでにもだえ苦しむことしか出来ず、耀さんが近づいても反応することも出来ません。
そして地面でもだえ苦しむガルドに耀さんは白銀の剣を突きつけて言います。
「これで――ガルド討伐完了」
耀さんの宣言の跡に、ゲームクリアを告げると共に、鬼化した木々が一斉に消滅した。
――ああ、僕たちの勝ちだ!
~ジン視点終了~
エミヤ「さて、まず初めにお知らせを一つしておこう。次回からはこのコーナーでは寄せられた質問を答えるコーナーにして行こうかと思う」
光一「まあ、作者自身のネタが切れたというのが理由だ。ということで、よろしく」
エミヤ「それにしても今回はジン君が成長しすぎじゃないかね? どう見ても一日徹夜しただけの少年じゃないだろ」
光一「いやー。十六夜と一緒に風呂に入った後、覚悟を決めたような顔で書庫に入っていくから、何かなーと思って見に行ったんだよ」
エミヤ「ほう。あのガルドと戦うということが発覚する前のことか。それでどうしたんだ?」
光一「それで、自分のギフトが弱いこととか、知識が足りないこととか、覚悟が足りないとか言ってたから、軽く能力の使い方を考えてあげて、ジーニアーを少し使えるようにしたんだ」
エミヤ「さすが元弱小能力者だな」
光一「誰が元弱小能力者だ! 俺は初めから最強だったんだよ! ……確かにイカロスブイレイブを手に入れたときがっかりしたけどな」
エミヤ「ああ、すまない今も弱小能力者か」
光一「いや違う! 俺は今や時すら操れる男だぞ! 昨日だってジンが勉強した言って言うから書庫を異界化させて時間を三倍くらい延ばしたんだぞ!」
エミヤ「……ほう。さすがに一晩徹夜しただけでものすごいくまが出来るわけないとは思ったが、その三倍もやらせていたのか」
光一「い、いや。ちゃんと体力回復とか、睡眠欲緩和とかもかけてやったし、あんだけ長い時間を頑張ったのはジンの努力の賜物だ! お、俺はわるくねぇ!」
エミヤ「別の作品のネタを使うな!」
光一「ほ、ほら、知識を蓄えたことでこんだけ戦えただろう! だからその剣をしま――」
エミヤ「貴様は限度を知れ! 勝手に魔法の領域に手を出すな! もう少し物理法測を守れ!」
光一「ぐはぁ! ……最、後のは、おま、えに言われたく、ねえ――」
※ちなみに光一君が時間を操れるのはちゃんと準備をしてから能力を使わなければいけないのでぽんぽんは使えません。ご了承ください。