英雄の箱庭生活   作:英雄好きの馬鹿

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すいません予定通りできませんでした!

戦闘パートが時間食いました……

書くはずじゃなかったのに……

いつもの倍の量の気がするよ。

まあ、そんなこんなでよろしくお願いします。



一部修正いたしました。遅くなってすいません!


バカと殺人鬼と正義の味方

~エミヤ視点~

 

 黒い光が辺り一面を埋め尽くす。

 

 いくら身体能力が高かろうと光をかわすことなどできない。

 

 それが音速の世界の住人だろうと。

 

 そもそも速度が違う。一秒間に約三百四十メートルと約三十万キロ。

 

 もし感知できたとしても体は動かない。

 

 黒い光が放たれて三秒も経っただろうか、しだいに収束して、消えた。

 

 志貴さんは体のどこにも怪我を負っていない、何が起きたんだ?

 

 私は解析の魔術を志貴さんにかける。

 

 そこで初めて私は状況を理解した。

 

 ……ああ、なるほどこれが本物の英雄。本物の馬鹿の力なのか。 

 

 この現象を表す言葉など一言で十分なほどだ。

 

 まさに『規格外』だ。

 

 これほどこいつに似合う言葉はないだろう。

 

 そもそも複製という異能のはずが、本来の性能を発揮することすらできない。

 

 しかもそれだけでは無く本来の性能と真逆のことすら可能にする応用性の広さ。

 

 ただし、応用性の広さという佐藤光一という異能の劣化複製の能力者の良い面のみを抜き出した結果に過ぎない。

 

 光一には挙げればきりがないほどの弱点が存在し、それをどうにか頭を使ってカバーしてぎりぎり何とかしている状態だ。

 

 鉄をも溶かす炎が人肌の温度程度に落ちるほどの劣化。

 

 広域攻撃用の雷の異能を針一本とそれに触れた者のみにしか攻撃できない所まで落ちる劣化。

 

 あまり理解していない異能の場合などはそもそもの能力すら間違った形で発現されることもあり、コントロールすることにもバカみたいな集中力を使用してようやくだ。

 

 身体能力を上げる能力で体重のみが上がってしまい、身体能力自体は上昇させることが出来なかった事からも利便性の悪さが理解できるだろう。

 

 しかし、今目の前に起きている現象は本当に劣化しているのかも分らないような代物。

 

 光一が馬鹿な行動の後に行った能力。

 

 指をはじいた――それだけの事でどんな魔法使いでも苦労するような。いや、不可能だと言う方が多いほどのことを簡単に行ったのだ。

 

 こんな力があるのならこのギフト――異能が支配している箱庭という世界において敗北することなどおおよそ考えもつかない。

 

「――な」

 

 その驚きの声は志貴さんで、黒い光というよくわからない物を当てられた事に対する疑問で満ちている。

 

 もはや続きの言葉すらいえないほどの驚愕。

 

 何かの劣化どころか劣化の反転だとしても人間に出来る領分を大きく逸脱した行為。

 

 超能力の一種であり、死を見る瞳という遠野志貴という存在の根源に関わっている異能である直死の魔眼。

 

 それをたった一工程。

 

 たった一度指を弾いただけで光一は直死の魔眼を消失させた(・・・・・・・・・・・)

 

 ……馬鹿げているとしか言えないな。

 

「さてと。お前が嫌っていた力は無くなったぜ? さあ、これでも殺す方法以外で人が救えないというのか?」

 

「……こ、こんなに簡単に俺の眼が封じられ――いや消されたのか!?」

 

 もはや志貴さんは驚愕して攻撃するということを忘れている。

 

「ああ、綺麗サッパリお前の嫌いな能力は奪ってやったぜ? 仮にも世界を滅ぼすだけの奇跡のコピーで、さらに世界を救いまくった能力なんだ。個人の能力くらい消せる。不死身だろうと、なんだろうとな。――だからてめえも、もうちょっと周りを見てみろよ! 無理だ? 知るか! 守りたいもんがあるんだったらそっちに力を使えよ! 自分の能力を嫌うことなんかにエネルギー使ってんじゃねえ!」

 

 光一は志貴さんに向かって吠えるように言う。

 

「――――地面が……黒くない」

 

「あ?」

 

 志貴さんがぽつりとつぶやく。

 

「どんなに目を凝らしても線なんて見えない。人だって脆くなんてとても見えない。――ああ、こんな世界は久しぶりに見た。もう見れないと思っていたのに」

 

「……志貴さん。もしや、魔眼殺しでも押さえられていないのか?」

 

 私は驚愕しながら志貴さんに聞く。

 

「ああ、少し前からね。まだ、そこまで負担じゃないから魔眼で押さえてたけど、もう少ししたら別のものを探さなくちゃいけないところだったよ」

 

 その答えはある意味予想通りで、理に反することなど一切ないような当然の事。

 

 見て、線をなぞるだけで殺せる目を持っているのに、代償がないなんてバカなことはない。

 

 だがまさか、ライダーのキュベレイすらも抑え込んでいたものですら押さえられないとは。

 

 まあ、ライダーの場合はそれなりに制御した結果なのだろうが、それでも規格外の目だ。

 

 私と志貴さんがさまざまな驚愕に包まれている中、光一が戦闘態勢を解いてなんでもないように言った。

 

「さて、俺もやりたい事はやったな。と、いうことで俺はリタイアする。勝者は遠野志貴だ」

 

「「は?」」

 

 光一がそういった瞬間にゲームが終了したことを示すように契約書類(ギアスロール)が消える。

 

「は? じゃなくてだな。俺はリタイアしただけだぞ。こいつの悩みっぽいものは解決したし、俺は信念を曲げない。遠野志貴とやらも信念は曲げないだろ? だから無駄になるだろうと思ってリタイアしただけだ」

 

「……理屈は通っているな。だが、信念をかけた戦いだったはずだろう? 負けを認めるということは信念を曲げたということだろう」

 

 私は光一に向かって問いただす。

 

「なんで戦いでしか証明できないみたいに思ってるんだ? それだったらお前らで戦えよ」

 

 そう言われて少し黙ることしかできない。だが、正直言って直死の魔眼を無くした志貴さんは私の敵ではない。

 

 仮にも英霊の本体。仮にも人間。

 

 その差は歴然だ。

 

「いくら志貴さんとはいえ流石に戦いにならないだろう。だから無理だな」

 

 この言葉には志貴さんも反論できないらしく、黙っているが少しいらついているのがわかる。

 

 それに対して光一は悪戯をする子供のような笑みを浮かべて言う。

 

「まあ、そこら辺は俺が解決してやるから。あ、エミヤ。一番お気に入りの剣を出せ」

 

「ふむ。干将と獏耶でいいか?」

 

「問題ないな。――直させろ俺の『切り裂きジャック』(カマイタチ)

 

 光一は能力を私の干将と獏耶に向かってかける。

 

「よし。その状態の剣をコピーできるか?」

 

「ん? ああ、そういうことか」

 

 私は剣の情報を読み取ったことですべてを理解した。

 

 なので速やかに剣を消したあと、先ほどコピーした干将と獏耶を取り出す。

 

「さて、遠野。お前もナイフを出せ」

 

「あ、ああ。何をするんだ?」

 

「見てればわかる」

 

 そう言って私のときと同じことをやる。

 

 ちなみに私が一度剣を消したのは光一では能力をすべての剣にかける事は不可能だと判断したからだ。

 

 光一は志貴さんの武器であるナイフ、七つ夜にも能力をかけると自分の腕にあてがう。

 

「二人とも見てろよ?」

 

 そう言って光一は自分の指の第一関節のあたりを切り落とす。

 

 もちろん光一の指は大出血する。

 

「いきなり何を……えっ?」

 

 志貴さんはその光景を見て目をまん丸にする。

 

 一瞬で発動した光一の能力が信じられないのだろう。

 

「怪我がなおったのか!? 血だって出てたのに!」

 

 志貴さんはまた驚く。

 

 光一と会ってから驚いてばかりだな。私も志貴さんも。

 

 まあ、それは置いておくとしても先ほど剣に付加された能力は切断したものをすべて治す能力。

 

 もともとの能力は予想もできないが、この剣ならば互いに死ぬことはないだろう。

 

 この剣で切ったものはすべて治るというよくわからないが、戦うのには最適だろう。

 

「取りあえず、これなら二人とも死にはしないし、存分に戦えるだろう? それに二人ともほぼ純粋な肉弾戦になるだろうから戦力的にはトントンだろう。あ、エミヤは新しく剣作ったらだめだからな?」

 

 そういって光一は一歩下がる。

 

 まあ、光一にいわれずとも私はもう魔力切れだがな。

 

「ということらしいがどうするのかね?」

 

「……全く。規格外としか言いようがないね世界を救った英雄様は」

 

「私もこころの底から思うよ。ふむ、先ほどの答えは聞くまでも無いな」

 

「ああ、せっかくここまでお膳立てしてくれたんだ。やるしかないだろう?」

 

「同感だ。――来い!」

 

「――いくぞ!」

 

 そう言って二十七祖にすら肉体だけで立ち向かってきた男が突っ込んでくる。

 

 低位置から繰り出される鋭い斬撃を一歩下がることによってかわす。

 

 そして続けざまに繰り出される一太刀をナイフよりも間合いの長い獏耶で牽制し、相手に間合いを取らせることによって防ぐ。

 

 しかし志貴さんは斬撃に合わせて私の横に回り込むことによって攻撃と回避を同時に行おうとする。

 

 横側に回り込まれた私は干将でナイフを防ぎながら獏耶に勢いをつけて志貴さんに攻撃を加える。

 

 しかし干将に攻撃を防がれたことを知るや否や私の死角に潜り込んでいた志貴さんは獏耶による攻撃すらも回避する。

 

 死角に潜り込まれた私には現在志貴さんの正確な位置を捉えることはできない。

 

 だが、位置を絞り込むことはできる。

 

 視覚でとらえられる前面にはいない。

 

 一歩を踏み出すような音もない。

 

 つまりいるのは頭上に限られる。

 

 この時点でとる対処法は二つ。

 

 防ぐか回避するか。

 

 ただ防ぐのは愚策だが回避するのも攻撃の位置がわからない状態では愚策になる。

 

 ――だから私は二つ同時に行おう。

 

 頭上に向けて干将と獏耶を振り上げて攻撃の来る箇所を制限する。

 

 前面からは来ないことはわかっている。

 

 両横は干将と獏耶で防いだ。

 

 残る死角は背面。

 

 背面に制限した攻撃を斜めに踏み出すことによって回避。

 

 そしてわずかに生まれた横向きの力を回転力に変換し、背後に落ちてくるであろう志貴さんに向かって干将と獏耶を振るう。

 

 回転した結果志貴さんは地面に着地した瞬間の隙が出来ている状態だった。

 

 しかし着地した瞬間のエネルギーを全て私に向かって駆け出す力に変換、そのままナイフをふるう。

 

 既に攻撃の態勢をとっていた両者の結果はもう見えている。

 

 互いに全力で行った攻撃によって吹き飛ばされる。

 

 

 

 七夜という対魔も一族の技を受け継ぎ、常人には理解できないほどの戦力差の中で戦ってきたという戦闘経験を手にいれた殺人貴。

 

 私が話している最中から構えていた志貴さんは視線の動きや筋肉の動きで動きの予測を難しくさせている。

 

 そして私が一瞬でもその動きにつられれば死角に回り込まれる。

 

 私とは違い、完成された武術によってもたらされた技能。

 

 それに対して私は戦闘の中から手に入れた隙を操るという技能で相手の攻撃を制限する。

 

 驚くほど俊敏に振るわれるナイフを私は両手に持った干将と獏耶でさばいて行く。

 

 私も相手に隙が出来た瞬間に攻撃を仕掛けようとするが、志貴さんはヒットアンドアウェイで私に攻撃を許さない。

 

 だが、私とて英霊の端くれ。

 

 志貴さんは極限まで低くした体制からナイフを振るわれる。その軌道に合わせて干将振るい後方に受け流す。

 

 受け流した勢いを殺さないように、前のめりになった志貴さんの方に向けて獏耶を振るう。

 

 しかし殺人貴の異名を持つ男はこの程度では倒すことはできない。

 

 私が振るう獏耶を、志貴さんは前のめりになった体制から更に沈みこむようにしてかわす。

 

 常人にはありえない回避。

 

 唯でさえ低い頭の位置がさらに一段階低くなり、地面にかすれそうなほどになる。

 

 こんなものありえない。

 

 普通なら手をついてしまい、速度を殺した揚句に転ぶ。

 

 そうでなかったとしたら体操選手のようにハンドスプリングでもして距離をとる。

 

 この殺人貴はそのどちらでもない。

 

 体制を低くすることによってさらに速く加速して私の死角に潜るのだ。

 

 普段から低い体勢に慣れ親しんだ者でないと出来ないような挙動。

 

 確かに態勢を低くして走ることは速力の増加につながるが、ある一点を過ぎると逆に速度は落ちる。

 

 そもそも足を使って走るのに、膝よりも低い位置に頭が来るなど馬鹿げている。

 

 しかし、その馬鹿げている方法は私の構えとは正反対の利点を持っている。

 

 私の構えは我流ではあるが無の構え。

 

 体の関節を柔らかく保ち、どの方向から攻撃が来ても対処できるようにした構え。

 

 これは唯関節を柔らかくするだけでは意味がない。

 

 頭の防御が出来ずに死ぬだけだ。

 

 なのでほんの少し、剣が動き出さない程度でありながら他の方向にもいけるような、絶妙な力加減で保つ。

 

 これを全関節で行う。

 

 そうすることによって隙を自由自在に操り、そこを狙わせることが出来るようになるという寸法だ。

 

 達人ともなれば私がどこに力を入れているかなどすぐにわかる。

 

 経験則から来る隙とわなを見破る能力。

 

 これをわざと騙して格上の人間に対しての防御を成立させている。

 

 私は他にも色々な小手先の技を使って相手の攻撃に対する防御を成立させている。

 

 しかし志貴さんは違う。

 

 頭を極限まで下げて、足を大きく広げている。

 

 これは真っ直ぐ走る気などないような構えだ。

 

 それに防御もする気がないようにも思える。

 

 こんな体勢から防御をするなら上半身を起こさなければならない。

 

 だから攻撃を防ぐことなど度外視。真っ直ぐ進むことも拒否。

 

 この構えに残された移動は斜めに進むか、ジグザグに進むか、飛ぶか。

 

 真っ直ぐ進む事を捨てるメリットは何か。

 

 それは攻撃をさせ難くすること。

 

 と言ってもほとんど意味ないような些細な障害に過ぎない。

 

 サッカーボールでだって、走っている相手に対して今相手がいるところにパスをすることなどしない。

 

 斜めに来たのならその先に攻撃をするだけだ。

 

 ではデメリットは何か。

 

 ――実は殆どない。

 

 相手が真っ直ぐ走ってきたらどうするか。

 

 簡単だ。前に向かって万全の態勢で攻撃をする。

 

 正面に向かって攻撃をすることによって自分の武器や攻撃の距離感を誤魔化すと言う技術は存在する。

 

 剣道の構えなどまさにそれだ。

 

 相手の目線に合わせて構える事により何処までが攻撃範囲なのか分かりにくくする。

 

 しかしこの男の場合意味がない。

 

 理由はナイフを使って戦うという点からだ。

 

 そん小さなものの長さを誤魔化したって意味なんかない。

 

 せいぜい持っていることを悟らせないというくらいだ。

 

 他にも助走がつけやすくて威力が高くなるなどの利点もあるがナイフに威力を求めるのは間違っている。

 

 ナイフを持って戦うという限り真っ直ぐ進む理由は殆どないのだ。

 

 さらに殺人鬼の構えの優れていることは左右の移動の効率化。

 

 大抵の人は反復横とびをするときに足を大きく広げるだろう。

 

 足を閉じている状態で横移動は案外難しい。

 

 そして重心を極限まで低くすることによりさらなる効率化を図っている。

 

 これでジグザグに、不規則に動けば攻撃する場所を決めることは難しい。

 

 そして一番恐ろしいのは飛ぶということだ。

 

 地面を這うように移動する志貴さんを捉えるために地面に視線を向けて集中する。

 

 すると自然と体制も下方に対する構えに代わる。

 

 そこを逆手にとって視線が一瞬でも切れた瞬間に飛ぶのだ。

 

 常に曲げられていて、解放されることを今か今かと待ち望んでいる状態の膝を、一瞬で真っ直ぐにする。

 

 それにプラスして背筋の動きも追加して振り子のように重心を動かし、体の力を上方向に修正する。

 

 これにより常人には不可能なほどの跳躍力を引きだしているのだろう。

 

 ……まあ、元から身体能力はおかしいとは思うがな。

 

 それは置いておいても、馬鹿げているほど低くなった体勢からの人間の頭上を容易に攻撃できる高さまでの跳躍。

 

 人間の構造上、上下の視点移動は困難を極める。

 

 左右に対してはそれなりの速度で反応できても上下に対しては反応できないなどざらだ。

 

 それなのに人間に出来る最大限低い体勢から人間の頭上を越える跳躍。

 

 それも視線を読み取って、見る場所のの位置が変わるほんの一瞬の空白にその行動を行うのだ。

 

 まさしく人の裏をかくことに徹底している動き。

 

 普段生活する分にはほとんど要らない個所をひたすら鍛えたような肉体を持っている志貴さんでないとこの動きは出来ないだろう。

 

 全ての攻撃に対応できるようにした私の無の構え。

 

 相手の行動を自分の動きによって制限し、そこに生まれた一点の隙を尽くだけの特化型の構え。

 

 まさしく対極だ。

 

 そんな思考を続けながら志貴さんの攻撃を防いでいく。

 

 頭部に疑似的な死角を作り、攻撃を誘導する。

 

 狙い通りに私の頭上から振り落とされる攻撃を体を捻る事によってかわし、その勢いで志貴さんの足元に向けて獏耶を振るう。

 

 捻りながら振るったは良い物の、既にそこに志貴さんはいない。

 

 私が剣を振るったことにより出来た隙をついて私の死角にもぐったのだろう。

 

 しかし、これもまだ予想通り。

 

 あの体勢から繰り出せるのは跳躍による頭上狙いの攻撃か、私が体を捻るのに合わせて私の背後に回り込むことのみ。

 

 だとするのならば、片方の選択肢をつぶしてやれば次の行動の予測は簡単だ。

 

 先ほど振るった獏耶は足元を狙っていた。

 

 つまり、低姿勢で動いている志貴さんにとっては体ごと切られる可能性を帯びた一撃。

 

 それ故に志貴さんのとれる行動は跳躍のみ。私が振るう剣よりも早く動けるのなら別なのだがな。

 

 防がれた感触もなし、つまりは私の頭上めがけて攻撃を行おうとしているはずだ。

 

 私は頭上にから繰り出される攻撃を、目線を動かすことはしないで一歩下がり、ぼんやりと視界全体の動きに注目する。

 

 そして視界の隅でちらちらと映る動きに対して干将で防ぎ志貴さんを空中に打ち上げる。

 

 空中に弾き飛ばされた志貴さんは天井もないこの場所では身動きなど取れない。

 

 それに対して私は獏耶を志貴さんに向かって投げつける。

 

 かわすことが出来ない中でナイフで何とか干将を防ぐ志貴さんに対して、見よう見まねで模倣している出来そこないの鉄鋼作用を効かせたので態勢を大きく崩す。

 

 空中の志貴さんは上半身を空の方向に打ち上げられもはや防御もできない。

 

 そんな隙を逃す私ではない。

 

 私は残った獏耶で落ちてくる志貴さんを切りつける。

 

 ――これで私の勝ちだ。

 

 

 

 しかし、予想外のことが起きる。

 

 志貴さんは上半身を獏耶を受け止めた流れに身を任せて一回転。

 

 足に頭がつきそうな態勢で私を睨む。

 

 その手に握られたナイフは私に向かって既に振るわれている。

 

 しかし私の振るった獏耶も動きを止めることはできない。

 

 私が振るう獏耶の方が先か。

 

 遠野志貴の振るう七つ夜が先か。

 

 より早く。

 

 より鋭く。

 

 より重く獲物をふるったほうが勝ち。

 

「「おおおおお!」」

 

 刃物がぶつかり合う音と、移動する音。

 

 それ以外は一切の無音で繰り広げられていた戦いに、私と志貴さんの声が響く。

 

 一瞬の交差。

 

 一瞬の静寂。

 

 トスッ。

 

 そして片腕が地面に落ちた。

 

「腕を貰った。これで勝ちだな――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                  ――エミヤ!」

 

 

 

 そう腕を落とされたのは私だった。

 

「ああ、手痛いな。と言っても片方は無くなったが。だが、私の負けではない」

 

「何?」

 

 腕を落とされたまま、武器をすべて失いながら私は不敵に笑う。

 

 腕を落とされた時、私は獏耶を握っていた。

 

 そしてその獏耶は今志貴さんが立っているところに突き刺さっている。

 

 そして、夫婦剣のうちの一本――干将は空中に投げられている。

 

 そう。

 

 ――つまり干将と獏耶の性質が発動する!

 

 状況をつかめないまま志貴さんは後ろを見る。

 

 トスッ。キンッ!

 

 しかしそんな行動など後の祭り、既に三十センチも離れていなかった干将は避けそこなった志貴さんの右腕を落とす。

 

 腕を切り落とす軽い音と、金属が衝突する甲高い音が響き、戦いの終わりを告げる。

 

「――これで相子だと思うがどうかね?」

 

「……はあ、もう少しだったんだけどな」

 

 そうつぶやいた時には腕はもう元通りになっている。

 

 私達のなんの被害もない再戦はまたも引き分けに終わった。

 

 

 ~エミヤ視点終了~




エミヤ「……もうそろそろ寝るか」

光一「……そうだな。さりげなく二連戦だったし、エミヤなんかいまだに魔力からっからで、回復したそばから使ってるもんな」

エミヤ「まったく。今日は疲れたな」

光一「……残念ながらまだ一日は終わらないようだぞ?」

エミヤ「まだ寝れないのか……。というか問題児シリーズのssの中で一番早く始めたはずなのに一番進行遅くないか?」

光一「それはタブーだ」

エミヤ「しかし、このま

光一「それはタブーだ」

エミヤ「……私は疲れているみたいだな。光一出ないように感じるな」

光一「ああ、疲れているんだ俺達。寝よう」

エミヤ「なら、ここで仮眠だな。お休みだ」

光一「ああ、お休み」



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