そして志貴さんの口調むずいっす……
~光一視点~
『ギフトゲーム名 “理想の証明”
・プレイヤー一覧
・佐藤 光一
・遠野 志貴
・ゲームルール
・相手に敗北を認めさせれば勝利となる。
宣誓 上記のルールに則り“遠野 志貴”と“佐藤 光一”の両名はギフトゲームを行います。』
「俺は君を殺せる。だから手加減なんかしないほうがいい」
遠野は眼鏡をはずした両目で俺を睨むように見て言う。
右手には短いナイフ。
そのナイフにはエミヤの剣のような肌をちりちりと焼くような恐ろしさはない。
なのにどんなものでも殺せるような自信を持った眼をしている。
「俺はお前を殺さない。殺すことだけが誰かを守る方法じゃないと証明してやる」
俺は遠野にそう返す。
どいつもこいつも守る手段と言ったら最終的には敵を殺すと言い始める。
それに少しばかり頭に来なくもないが、エミヤから聞いた話だと俺の世界よりも厳しい世界で生きていたらしい。
その世界では俺のような理想は貫けなかったのかもしれない。
俺がいても何も出来ないような所だったのかもしれない。
それでも俺は自信を持って理想を語る。
約束を守るという理想を。
世界を救うという理想を。
少女を救うという理想を。
俺と遠野は無言で構えをとる。
俺は体を少しずらして右手を前に出す構え。
遠野はあえて言うなら相撲の構えだろうか。
ただし相撲よりももっと頭の位置が低く、正直いってまともに動けるのかもわからない構えだ。
戦いの始まりは無音だった。
俺が下がろうと足に力を入れた瞬間を見計らったのか遠野は真正面から突っ込んでくる。
パチン!
俺が指をはじく音に警戒してか遠野は少しだけ右にずれる。
ただし、速度は変わることなく俺に向かって進んでくる。
そして俺が使用した能力は範囲を伸ばした劣化『紫煙地獄《ヘビースモーカー》』。
これで視界をふさげば、明らかに近接型の遠野では戦いにくくなるはずだ。
そもそもが距離を保って戦う俺と、距離を詰めて戦う遠野の戦いは鬼ごっこのようなものだ。
俺は近づかれたら間違いなく負けるだろうし、遠野は距離があると攻撃できない。
だからまず視界をふさぐのは間違った判断ではないはず。
そう思って使用した能力は辺り一面を黄色く染める。
しかし予想外のことが起きる。
「なっ!」
遠野は発生中の煙に向かってナイフを一閃させると、能力が一切の力を失って消える。
だが、一番おかしいのはそんなことではない。
遠野が驚くような声を上げた後、目を押さえながら後ろに下がったからだ。
「な、何が起きたんだ?」
あのまま突っ込んでくれば間違いなく俺は遠野に倒されていた。
俺は今までコピーした強化系の能力は全て動体視力と右手首より先に使用している。
これは俺が初めに『紫煙地獄《ヘビースモーカー》』を発動した時に煙の中で気づかれない時に使用していた異能。
このいくつかの異能が五十六億の並行世界を巡る中で手に入れた力の一つであり、エミヤの攻撃を当たり前のように目視で来た理由だ。
俺はというより、普通の人間は音速を優に超す攻撃を人間の目では認識できない。
それに聞いた話だとエミヤと戦ったときに放たれた矢はマッハ十を越していたらしい。
そんなものは軌道上にあったっ物が壊されたということしかわからない世界。
この速度に対して戦おうというのならそれなりの速度は必要になってくるが、俺には強化する能力の効果を高めるか範囲を広げるかしか出来ない。
なら必要な部分にだけ効果を高めて強化する。そこまでやってエミヤの速度と戦うに最低限の速さだ。
もともとチャリンコ程度の速さの人間が戦闘機と戦おうとするにはせめて新幹線くらいの速さにはしないと何もせずにやられる。
遠野はそんなエミヤと相打ちになったということはそれだけの身体能力を持っていることは確実だ。
そんな奴が無防備だった俺に攻撃することもなく唯後ろに下がって目を押さえていた。
唯の臭くて黄色いだけの俺の『紫煙地獄《ヘビースモーカー》』そんな効果はない。
それに俺の発動した『紫煙地獄《ヘビースモーカー》』はおそらく遠野自身の異能によって破壊された。
そして一番考えられる可能性は遠野の異能の暴走。
それもおそらく目だ。
ナイフに触れた異能を無効化する魔法とかならおそらくナイフにはそれなりの恐ろしさを感じることになる。
だけどそんなものは一切感じないし、遠野は目を押さえて飛んで逃げた。
そんな遠野に右手を向けたままで見ていると遠野がこっちを見ながら言ってくる。
「……君の能力……いくらなんでも死に安すぎじゃないか? 頭が痛くなってくるほどだよ」
ぼやきながらこっちを見るその眼はいつの間にか蒼い色になっていた。
ちなみに青ではなく蒼というのは間違えるなよ?
「うるさい! しょうががないだろう! 俺の能力は劣化コピーなんだから」
「いいのか? そんなに簡単に能力をばらして」
「別に問題はないだろ? あらゆるものを無効化、または破壊することが出来るようになる魔眼の能力者?」
俺は今までの会話の中で見破ったピースをくみ上げて遠野の奴につき付ける。
「へえ、案外早く見破られたな。ただ、一つ間違ってる。俺の目は無効化でも破壊でもなく死を見る事が出来るだけだよ」
「死を――だと?」
「ああ、俺はどんなものだって殺すことが出来る。それこそなんだって。物事だろうが、人だろうが吸血鬼だろうがなんだって」
遠野は自嘲するように言うが俺の関心はそんなところにはない。
「使うたびに死ぬような思いをする上に殺すことしかできないようなものだ。早く無くしたいくらいだな」
その言葉を聞いて俺は一つ聞きたいことが出来た。
本人が軽口で行ったのかは分らないが、俺が見逃せない琴線の一つ。
譲るわけにはいかない絶対のボーダーライン。
「…………か?」
「ん? もう一度言ってくれ」
遠野が聞き返してくる。
「お前……その能力が要らないのか?」
それに対して遠野をしっかりと見つめて言う。
「あ、ああ。もしもアルクェイドと一緒に居れるのならこんな目は無い方がいい」
その言葉を聞いて俺は指をはじく。
遠野は指をはじいた音に警戒するがそんなものはしなくても大丈夫だ。
俺はそのあともいくつかの能力を発動する。
「光一、お前は何がしたいんだ……」
エミヤが深い溜息を吐きながらつぶやく。
エミヤは解析の魔術も使えたから解析してみたのだろう。
だがそんなものは必要すらない。
「お前は人間じゃないのか?」
遠野が俺の姿を見て言う。
それもそうだろう。
今俺は背中にろうそくの翼を生やし、地面から微妙に浮いて、後光がさすように調整して光を出して、髪の毛の色を常闇よりも暗い黒に染めているまさに堕天使のような格好をしていたからだ!
「遠野。俺の姿がカッコイイか?」
「は?」
「俺の姿がカッコイイかと聞いている!」
突然の質問に口をポカンと開けて絶句している。
そりゃそうだろう。
それでも遠野はうろたえながらも口を開く。
「ま、まあ。かっこいいんじゃないか? マンガとかに出てきそうな感じだけど」
「ああ、これは俺が五十六億の並行世界をめぐるなかで自分の異能だけで神々しさを出せないものかと考えた末に出来たものだ。効果は一切無い!」
「そ、そうなのか。ならなんで今使ったんだ?」
もはや遠野は理解できないものを見るように俺を見るが、構わずに俺は続ける。
「かっこいいからだ。この姿にたどりつくために使用した時間は七百万年。この劣化コピーというスタイリッシュでクールな異能を欲しがっていた挙句に手に入れた弱小能力で作り上げるのにそれだけの時間がかかったのだ。といっても他にやることがあったからそっち優先ではあったがな」
「お前はそんなバカなことをしていたのか……」
エミヤのいるほうから声が聞こえたがスル―しておく。
そんなものは自分の世界に戻った時にほぼ全員から言われたことだ!
「取りあえず君が相当な馬鹿だということが分かった。それで何が言いたいんだ?」
遠野はもはや完全に馬鹿を見る目で俺を見てくる。
「その眼格好良すぎるだろう! それがあればあの世界じゃだれにも負けない自信があるぞ! 羨ましすぎる! ……まあ、アルルを救えたから結果的にこの能力のほうが良かったがな」
遠野は俺の言ったことに対して眉をしかめる。
「この眼が羨ましい? この眼のことを知らないから言えるんだ。……物事の『死』が視えるという事は、この世界すべてがあやふやで脆いと言う事実に投げ込まれることだ。地面なんて無いに等しいし、空なんて今にも落ちてきそう。……一秒先にも世界すべてが滅んでしまいそうな錯覚を、おまえは知らない。――それが、死を視るという事なんだ。この目はさ、おまえみたいに得意げに語れる力なんかじゃない。命と死は背中合わせでいるだけで、永遠に、顔を合わせることはないものだろ。それも知らないで勝手なことを言うな」
そう言った遠野の眼は本当に疲れたような眼をしていた。
こいつも異能の被害者か。
「確かに悪かった。もしお前が今本当にその眼が要らなくなったのなら助けてやる。なんならエミヤの力で作った剣でも持っておけばそれなりの自衛手段にはなるだろ?」
「……残念ながらこの眼を無くすことは不可能だ。魔法使いの“先生”でも駄目だったんだ」
「ああ、お前は本当にその眼を無くしたいのかと聞いている。それに、アルクェイドとやらを救いたいのだろう? 困っておるのなら助けてやるから話せ」
俺が空中に浮かんだまま遠野のほうを見て言うが遠野は諦めたように首を振る。
その諦めきった仕草が無性に腹が立つ。
ああ、もういい。
普通の手段で外せないようなものなんだ。最悪俺があとで何とかできる。
もう俺はこいつに対して許可を取ることなんてしない。
俺は黙って右手を上に向けて指をはじく体制をとる。
「? 何をするんだ?」
遠野が俺の方を見ていぶかしげに言ってくる。
それを無視して俺は呟くように何度も発した言葉を言った。
「――『 』」
パチン。
そして俺の視界は黒く染まった。
~光一視点終了~
エミヤ「……暗くて何も見えないな」
光一「俺の能力はここにも影響するのかよ!」
エミヤ「まあ、この場所の描写は一切なかったから今のうちにしておくことにしよう」
光一「ここは俺達がコミュニティで使っている部屋の隣の部屋で、エミヤの作品でなおかつあまりにもおしゃれ勝つ、丈夫に、軽く、魔術まで少しかけた軽い黒歴史のイスと机がしまってある部屋だ」
エミヤ「ちなみに私が消さなかった理由はせっかく作ったのに消したらもったいないからと黒ウサギに押し切られたからだ。英霊の本体というサーヴァントの時よりも多いい魔力のほとんどを使って作りだしたものを私も消すには惜しかったし、普段からこれを使っておけば敵襲があったときに軽い罠になるしな」
光一「まあ、黒ウサギたちが今まで使っていたイスと机はすでに子供たちによって売りに出されているところで、本格的に作り始めるらしい」
エミヤ「……私はこれから毎日のように自分の失態を思い出しながら過ごすのか」
光一「……ぷっ」
エミヤ「(にやり)」
光一「お、おい! 笑ったのは悪かったから剣をしまえ!」
エミヤ「問答無用!」