〜エミヤシロウ視点〜
あの小僧に答えを貰ったという記憶がこの英霊の座にまで届いた。
このただ真っ白なだけの空間で変わるものなど、掃除をしに行ったときの記憶と、サーヴァントとして呼び出されたときの記憶くらいしかない。
コレは後者の記憶でしかも生前の知り合いの遠坂に使えていたらしい。
しかし今まではこの英霊の座から消えることだけを考えていたというのに皮肉なことだ。
召喚されて記憶を得てきたエミヤシロウは、この英霊の座から消えることが出来なかったという結末を悔やむだろうと思っていたらしいが思ったよりも後悔や自責の念はない。
全くないといえば嘘になるが気にするほどでもない。
しかしそんなことの数十倍は切羽詰っている状況が飛び込んでくる。
「あれ!? なんだここ!?」
なぜだか知らんが人工的に脱色されている髪、カラーコンタクトによる赤と青のオッドアイ、なぜか右手だけの手袋、黒いロングコートを装備し、シルバーアクセサリを両手につけている。
……………………この私にどうしろというのだ?
誰も出ることも入ることも不可能なはずであろう英霊の座に来ていて、人工的に仕上がった中二病の鏡のような格好をしている男に私はなんと声をかけたらいいのかも分らん。
「え〜と。ここどこか分るかあんた?」
…………なんでさ?
おっと。昔の口癖が出てしまった。
いやいやいや、そんなことはどうでもいい。
気づいたらここにいたという事か?
ここは英霊の座で根源に近い場所だぞ?
そう簡単にこれるものか。
「どうやってここに来たのだ?」
「あ、ああ。それは元悪魔で天使見習いの奴がいて送ってもらった。こっちは質問に答えたんだからそっちも答えろよ」
「ここは英霊の座だ。英雄が死後に世界を守る抑止力として使うために世界に拘束される場所だ。普通なら入れる場所ではない」
普通なら入れるはずなどないのだがな。それになんだ? 奴は武器を持っているわけでもなさそうだし魔力もない。あるのはポケットに入った手紙くらいか。
「ああ、そうだ俺はその似非天使から一人救ってきて欲しいとか言われたんだ。多分あんただよな」
「しるか! 私が知っているはずがないだろう!」
なんで私はこんなことを聞かれているのだ?
「いやでも、俺だって分けがわからないんだ……。あの似非天使に雰囲気でながされたけどさ」
「しるかっ!」
久しぶりに全力で叫ぶ。ここまで心の底から叫んだのはいつ振りだ? おそらく覚えていない昔のことだろう。
まあいい。とりあえず話を前に進めたい。
「もうこの話は置いておこう…………。とりあえずその手紙はなんなのだ? お前は気づいている様子ではないようなのだが」
「手紙? 何だそれは?」
「そのポケットに入っている奴だ」
このときやっとポケットを探り始める。皮肉で言ったのだが本気で気づいていなかったようだ。
「えーっと。…………開けたら片方をあなたの目の前の赤い人に渡してください。片方は光一さんのです? アルカナが入れたのか」
「早くその片方をくれないか? この不思議なことがありすぎる状態から抜け出したいんだ」
そういうと手紙を一つ渡してくる。その中に書いてあったのは目の前のこの男の過去と、ここから去る意思はあるかの確認だった。
向こうの手紙も大体は同じようで読み終わった後大体納得したような顔つきになっていた。
「で、あんたはどうしたいんだ? この英霊の座とやらから出たいのか?」
そんなもの答えは決まっている。
イエスだ。
しかしこの手紙に書いてあることが本当であるならばこいつは五十六億の世界を救ったらしい。
正義の味方を目指している身としては理想をかなえたこいつが恨めしいらしい。
ただで救われるのは尺だ。少し苦労してもらおう。
「ああ、ついていくのは了承するが、一つ条件がある」
「? なんだ? 俺にかなえられる範囲ならやってやらんこともないが…………。あっ! まさか貴様ホモか!」
「違うわたわけ!」
見過ごせるはずのない誤解は確実に解いておかなければ。
「そんなことは頼まん。ただ実力を見せてもらいたいだけだ。全力でな」
「は? なんで?」
この佐藤光一――とかいったか。目をまん丸にしていかにも想定外ですみたいな顔をしている。
「その中には私の過去が書いてあったのだろう? だったら私が正義の味方を目指しているのは知っているだろう。だからどれくらい強ければ正義の味方になれるか試してみたくてな」
〜エミヤシロウ視点終了〜