~エミヤ視点~
私達が世界の果てから黒ウサギのコミュニティに戻ると悲嘆にくれている少年と高校生くらいの少女が二人待っていた。
そのうち一人の膝の上には三毛猫が座っており、少女とさも話しているかのようにニャーニャー言っている。
「あら黒ウサギ。思ったよりお仲間がいるのね? ジン君に崩壊寸前のコミュニティだと効いたんだけど?」
「すいません黒ウサギ。隠してた事を気づかれてはかされました…………」
どうやら十六夜と一緒にこの箱庭に来た二人のようだ。
おそらくジン君というのはうなだれていた少年だろう。少年はまだ十歳くらいの子供に見える。
「そうですか……実は黒ウサギも隠し通す事が出来なかったんですよ。ですが協力してくれる事になりました」
「それは良かった。こちらも飛鳥さんと耀さんの二人とも協力してくれるそうです。それでそちらの二人はどなたですか?」
少年が私と光一をさして言う。光一がかっこつけるためか服装を気にしだすが、すでに嘔吐した形跡が口周りに見えるのでかっこよくはならないだろう。
「私の名前はエミヤシロウだ。ついさっきこの箱庭にやってきたばっかだが黒ウサギに誘われたのでこのコミュニティに入る事にした。これからよろしく頼む」
「俺の名前は佐藤光一だ。俺の事は光一って呼んでくれ!」
私と光一が挨拶をする。光一はサムズアップしながら言っていて少女二人が少し引いていた。
「…………
「私は
「ぼ、僕はジン=ラッセルです。一応コミュニティのリーダーです。齢十一になったばかりですがよろしくお願いします」
一通りの自己紹介がすむ。
春日部嬢はおとなしそうな服装をしている。行動自体もおとなしいようだ。
ジン君のほうは身長は小さいが十一歳にしてはなかなか賢そうだ。
そして久遠嬢は長髪だがもさもさせず、さっぱりしている。だいぶ勝気なようで口調からそれを伺える。
だがなんだろう。
そこはかとなく服装が赤いという点といい、勝気な性格といい、赤い悪魔を思い出す。うっかり癖がない事を期待したいと切に願うところだ。
十六夜は静かにしていると思ったら何かを考え込んでいる。
「俺がどうかしたか? 何か質問があるならいいが?」
「オマエ日本人だよな?」
「そうだが? それがどうかしたのか?」
「じゃあやっぱりカラーコンタクトと脱色か。その格好ってなんか特別な意味でもあるのかと思ったんだがどうなんだ?」
なんだかんだで気になっているらしい。
足元まで届く黒いコート。髪は銀髪に脱色していて、手には片方だけの手袋、カラーコンタクトで作り上げたオッドアイという奇抜な格好。
目を引かないはずがない。
ここにいる全員もそう思ったようで光一に注目している。
それに光一はなんでもないように答える。
「これは俺の正装だが? 特に意味はないがかっこいいだろう?」
「かっこ悪りぃわけじゃないんだが、オタクっぽい」
「というかオタク」
十六夜と春日部嬢が答える。
ジン君と久遠嬢は何のことかわからないようで首をかしげている。おそらくオタクという意味が分らないのだろう。
黒ウサギは何かを思い出すようにははは……と乾いた笑いをしていた。
何か思い出しているのであろう。
「まあ、確かにそういわれてもおかしくない格好なんだが……」
光一はうなだれ始める。
「それで、この後どうするつもりなんだ黒ウサギ? さっき聞いた様子だとこのコミュニティは崖っぷちらしいじゃねぇか。速めに何とかしようぜ?」
「本当は十六夜さんがたの協力を経て水源を確保しようとしたんですが、それは先ほど十六夜さんが蛇神様を倒してくれたおかげで手に入った『水樹の苗』のギフトで水源が確保できるので何とかなったんです」
「ですので皆さんには居住区の案内をこれからしましょう。お疲れでしょうしギフトゲームの参加は明日からにしましょう」
黒ウサギとジン君が言う。私も疲れているし久しぶりに布団で寝るのもいいな。……布団で寝るのなんて体感時間的に数万年ぶりくらいではないか?
「それでいいわ。私は異論はないわ。春日部さんは?」
「うん。私もそれでいい」
「俺もそれでいい。だけど案内が終わったら明日どのゲームに参加するかだけ決めようぜ。そこの二人もそれでいいよな?」
今日召喚されたらしい久遠嬢と春日部嬢と十六夜の三人も同じ意見のようだ。
「私も今日はこれ以上動きたくはないな。ところで晩飯の材料はあるかね? もし良かったら私が作るが」
「YES! 助かります! では黒ウサギと他の料理担当の子供達の手伝いをして下さい」
「俺も疲れた。最近あんま動いてなかったから疲れて疲れて。速く休みたいぐらいだ。こんな動いたのなんて何十年ぶりだか……」
光一が愚痴のように言う。確かに私との戦いから、私に抱えられての箱庭観光。疲れるのも当たり前だろう。
「しかし、何十年は大げさすぎるだろう? せいぜい二十年も生きてないだろう」
その言葉でみんなの緊張がほぐれてこれから居住区に向かおうとする。
しかし思いがけない一言が私達を襲う。誰一人として予想していなかった方向で。
「いや、俺って精神年齢だけで数えたら千五百万年と少し生きてるぞ?」
「「「「「は?」」」」」
私以外の声が重なる。みんな光一のほうを向いて口をあけている。
私は光一が運んできた手紙の内容を思い出して納得する。
「ああそうだ。言ってなかったっけ。俺は世界を救ったときに時間がかかっちまって千五百万年くらいかかっちまったんだよ。その間年は取らなかったけどな」
「千五百万年!? 光一さんは神霊の類なんですか!? それによくよく見てみたら光一さん霊格の高さが異常ですし」
黒ウサギの言葉につられて私も解析の魔術を光一にかける。
………………これはすごい。
もともと英霊であった私でさえ遥かに凌ぐほどの霊格。かの英雄王にすら勝るとも劣らないほどの霊格の高さだった。
「神霊だかへんなものになった覚えは…………な……い?」
途中までは自信ありげに言っていたのに最後のほうになってくると怪しくなっていく。
私も驚いて光一を問い詰めようとする。
「心当たりがあるのか? 世界を救ったといってもこの霊格の高さは異常だぞ!」
「……なあ一度悪魔と天使に同時になった事があるんだが、それがきっかけでその霊格だかが高くなったりすることってある……か?」
「少しの間でしたら問題はないと思いますが…………どれくらいの時間ですか?」
「…………約千五百万年」
「…………アウトです。おそらく光一さんの魂も天使と悪魔になっているときに自身の霊格も高まったのでしょう。まさか今日であった方がこんなに異常な方だったなんて……」
「しょうがないだろう! 五十六億も世界を救うにはそれしかなかったんだから!」
「「「「「は?」」」」」
今まで話についていけないと踏んでこの話を傍観していた四人もこれは驚いている。
黒ウサギは言わずもがなだ。
かく言う私は英雄の座に居る時に光一に預けられていた手紙の中に書いてあったので驚きはしないが、初めて知ったときには驚きを隠すのが大変だった。
「…………ちょっと待て。なんで五十六億も世界を救った奴があんくらいの速度で走る事も出来ないんだよ!」
「俺は頭脳派なんだ! そこまで体使うタイプじゃないんだよ!」
十六夜の言葉に光一がへこみ始める。しかし十六夜の言うこともわかる。
十六夜が言っている『あんくらいの速度』とは世界の果てに向かったときの事だろう。
光一の移動方法は基本私がドナドナしてたからな。
そこでふと横を見てみると黒ウサギはもう言葉にも出来ないくらい驚いているようだった。
「もうその話はコミュニティに帰ってから聞きます……。皆さん僕についてきてください……」
ジン君がみんなを促す。
なぜだろう。十一歳とか言っていたはずなのにその姿はまさに中間管理職のお父さんのような悲しさを帯びた背中だった。
…………衛宮邸での私のようだ。手が空いているときに私も彼を手伝おうと決めた瞬間だった。
~エミヤ視点終了~