英雄伝説・空の軌跡~銀の守護騎士~   作:黒やん

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『下剋上』

「駄目だ!第七師団とも連絡が取れない!」

 

「こっちも同じだ!」

 

「くそっ……一体何がどうなっているんだ……!」

 

玉座へ続く廊下。その所々で騎士達の叫びが聞こえ る

 

それは一様に苛立ちだったり、戸惑いだったり…と にかく全てがこの混乱を表すものだった

 

………全く、ここまで弱体化してるとはな。これじゃ 総長の訓練がどこまで厳しくなる事やら……

 

そんな事を考えながら俺は慌てずに玉座へ歩を進め た

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「全く、騒がしい………何を騒いでおるのだ………」

 

暗闇に包まれた玉座の間。その中心にある玉座に肩 肘を付いて座っている男……聖王がそう独り言を呟 く

 

巨大な、しかしどこか神々しいほぼ透明なステンド グラスの向こうには、屈折した満月が輝いている

 

月はもうじきに沈んでしまう……その直前の最後の 輝き

 

それが静謐な玉座の空気と相まってどこか異世界の ような雰囲気をその場に醸し出していた

 

「このような月の綺麗な晩に、実に無粋なことだ

 

………そうは思わぬか?『氷華白刃』よ」

 

「………月ももうじき沈む。お前の王位も一緒に沈む んじゃねぇのか?」

 

どこからともなく、聖王の正面にケイジが現れる

 

その距離、実に五メートル。この時点でケイジはか なりのアドバンテージを得ていた

 

「…………フン。我の王位が沈む?面白い戯言を申す な。騎士団を追われた塵芥めが」

 

……正確にはケイジが帰って来た時点で既に総長派 は追放されていたため、ケイジは追われてすらいな いのだが

 

それはともかく 閑話休題、この圧倒的不利に全く聖王は動揺してい ない

 

更に、逆光で聖王の表情が見えないこともあり、ケ イジの背に冷や汗が流れる

 

……おかしい。昔の奴ならさっきの挑発に激怒した はずだ。この数ヶ月で克服できるようなモンじゃな かったんだが…

 

「……して、我に何の用だ?我に恭順の意を示しに 来たか?」

 

「…冗談抜かせ。お前だってわかってんだろ?

 

俺はあの国以外に仕える事は無い。未来永劫、例え あの国が滅ぼうともな」

 

「リベール、か……いや、正確に言うなら……かの国 の姫君か………!」

 

聖王が全てを言い切る前に、ケイジの刀が一閃する

 

それは確かに玉座を斬ったが………聖王は悠々と更に 後ろに堂々と立っていた

 

「やれやれ……血の気の盛んなことだ。そんなに自 分の物に触れられるのは気に食わないか?」

 

「………人を物扱いするんじゃねぇ。 …誰から聞いた?」

 

「フム、 例の樽豚だ。はした金をくれてやったら 頼んでもおらぬのに勝手に諸々喋りおったわ」

 

「奴か……」

 

確かに、あの欲の塊ならやりかねないか…

 

「して、この聖王に刃を向けるとは……覚悟は出来 ておろうな?」

 

「……………」

 

俺はその問いには答えず、再び抜刀術で斬りかかる ……まぁ、あっさり避けられたのだが

 

「……全く、猶予を与えれば即座に斬りかかる……機 と言うものを理解しない、とんだ狂犬……いや、狂烏(くるいがらす) よな」

 

「長ぇし語呂も悪いんだよ…………悪いが、お前みた いに気に掛ける家柄も無ければ無駄なプライドもね ぇんだよ

 

………で、どうしてお前がここにいる?お前は破門さ れたはずだが?………元守護騎士第三位、『

 

ヴァニットロード 空帝 』ジュリオ・アレクサンドル」

 

さっきの抜刀術で玉座から離れ、聖王の顔が照らし 出される

 

その顔は、少しばかり古傷のようなものができては いるが、確かにジュリオの顔であった

 

「今は『聖王』と呼ぶがいい

 

………貴様、いつから気付いていた?」

 

ジュリオが怪訝な顔で聞いてくる。どうやら見破ら れるとは考えていなかったらしい

 

「………まずはあまりにもタイミングがちょうど過ぎ る点。俺の殉職の噂が流れると同時にお前は上級司 祭にミラを流し始めた

 

……これで、相手がある程度はアルテリア法国とい う国を知っているとわかる

 

そして、聖杯騎士団への対応が早すぎる点。王に就 いた直後にアクションを起こしたことで相手が秘匿 されているはずの聖杯騎士団の事を知っているとわ かる

 

そして、俺が聞いた『聖王が総長を恨んでいた』と いう会話。総長の事を知っていて、尚且つ恨んでい るわかる

 

………この三つに当てはまり、今生きているのは…ジ ュリオ、お前だけだ」

 

「ククク……見事、とでも言っておくとしようか。

 

……では、氷華白刃。貴様を“外法”と認定しよう」

 

唐突にそんな事をポンと言ってのけるジュリオ

 

“外法”、ねぇ………

 

「ちなみに、お前の言う“外法”とは何だ?」

 

「フン…決まっておる。我に逆らい、我の言葉を真 とせぬ逆賊だ」

 

全く……どいつもこいつもまるで自分が女神になっ たような気になりやがって……

 

ウルの存在があるから一概にいないとは言い切れな いが、俺は女神を信じていない

 

……でも、価値がないとは思わない。何かにすがり たい、祈らずにはいられない……そんな人達には女 神というものが必要だろうからだ

 

しかし、稀にコイツのように自身が神に成り代わろ う、人を自分の支配下に置こうと企むバカ共が出て くる

 

……そんなバカ共を俺は認めない。認めたく無い。 そうなった後の一つの悲惨な結末を知っているから

 

もう二度と、繰り返させはしない

 

「“外法”なぁ………上等だよ。傲慢王。貴様を王から 引きずり下ろすにはちょうどいい称号だ」

 

「ほう………あくまで我に刃向かうと申すか」

 

「…………カルバードの更に東北。そこにある島国… 貴様は知っているか?」

 

「む?」

 

「そこには面白い奴が居てな……とある一領主の家 臣であったにも関わらず、実力だけでその国を統一 したんだ。何の権力にも頼らずにな」

 

「……何が言いたい?」

 

しびれを切らしたジュリオが顔を歪める

 

俺はニヤリと笑って更に続ける

 

「何……対照的だと思わないか?家柄とそれに伴う 財力を奮って王座に就いたお前。自らの力だけを信 じて、自力で王まで駆け上がったソイツ……はてさ て、実際に戦ってみたらどっちが勝つだろうなぁ? 」

 

「我は何が言いたいのかと聞いておる」

 

少しずつ冷静さが剥がれてきたジュリオ

 

「いや、ただの昔話だ。ソイツが国を得た状況に似 ていると思ってな

 

知ってるか?東方じゃ権力が上の奴を力で蹴落とす 事を『下剋上』っていうんだと」

 

そして俺は刀の切っ先をジュリオに向ける

 

「正々堂々、力ずくでテメェをその座から引きずり 下ろす…………この『下剋上』、成らさせてもらうぞ 」

 

「面白い…その力、この聖王が呑み込んで見せよう ぞ!」

 

俺の刀と、ジュリオの西洋剣ー以前と違って長剣ー がぶつかり合い、闘いが始まった


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