英雄伝説・空の軌跡~銀の守護騎士~   作:黒やん

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『氷華』

ガギィ

 

ギャリィ

 

ギィィィン

 

斬る。ただただ斬り続ける

 

斬らなければ斬られる……ただその一念だけを頭に 置いて

 

『右から三本!』

 

「わかってる!!」

 

ギィン

 

ウルのサポートもあって今の所一つもナイフは喰ら ってない

 

……というか今までと比べて体が軽い。まるで憑き 物が取れたみたいだ

 

……ある意味憑かれてるけど。神さんに

 

『まぁ聖痕はある意味憑き物だからね~』

 

「心を読むな。またポチに戻りたいか」

 

『心の底からごめんなさい』

 

…本当にコイツがいるとイマイチ雰囲気がなぁ…

 

正直な話状況としてはかなりマズい

 

向こうは無限にナイフを錬成して射出できるが…俺 は人間だ。当然体力には限りがある

 

…いくらウルが俺をサポートしていると言っても、 純粋に悪魔には体力面で劣るだろうな

 

全く…身体は人間、スペックは悪魔って…なんつー チートだよ

 

『…どうするの?隙を作って一撃を打ち込むしか勝 ち目は無いよ?』

 

「…わかってる。それをどうするか今考えてんだよ 」

 

…今は聖痕の力は使えない…当たれば多分一撃必殺 になるだろうが…もし外せばその後がどうなるか全 く予想できないからな

 

かと言って今は何故か譜術も使えない…多分ウルの 所為だとは思うが

 

「…ウル、縮地は使えるのか?」

 

『…譜は単純な身体強化くらいなら使えると思う。 サポートの術とかは無理だけど』

 

「上等だ」 迫りくるナイフを白龍で弾きながらどこぞの慢心王 よろしく氷で創られた椅子に座っているアガレスを 睨み付ける

 

アガレスは余裕の表情でこっちを見ており、笑みす ら浮かべている

 

「ウル……回復頼むぞ?」

 

『……どうせ止めても聞かないんでしょ?わかった よ』

 

ウルの了承も得た所で、一瞬ナイフの雨が止んだ時 にアガレスに初めにしたように縮地で奴の懐に潜り 込む

 

すると…

 

「……甘いわ塵芥が。(おれ)に同じ手が二度も通じると 思うたか」

 

「……………ぐっ…!!」

 

俺の手を読んでいたアガレスが隠し持っていたナイ フを俺の腹に深々と突き刺した

 

「ふははは……所詮塵芥は塵芥よな…同じ手以外の策 すら思い浮かばぬような矮小な頭脳で…(おれ)に勝てる と思うたか!!」

 

一瞬意識が持っていかれそうになったが…しっかり 残った

 

手も動くし力も入る…

 

「…確かに、俺達人間はちっぽけな存在だよ…」

 

「ふん、死に際に来てようやく己が身分をわきまえ たか!!」

 

アガレスが傲岸不遜に言い切るが……違うな

 

「けどな…ちっぽけな存在でも二人、三人…何人も 集まれば巨大な力になる」

 

「………!!」

 

「それは町だったり国だったり…規模も違えば目的 も違う。時には人間同士でぶつかる事もある… けどな…人間全員必死こいて今を生きてんだよ…! !」

 

「……要するに、何が言いたい…!」

 

「そうだな…簡単に言うなら…」

 

アガレスから約三歩ほど距離をとり、白龍を鞘に納 める

 

当然血が床に撒き散らされるが…

 

全部……刺された瞬間“だけ”出た血だ!!

 

『治療、完了したよ♪』

 

「人間舐めんな。クソ悪魔!!」

 

「なっ!?」

 

驚愕するアガレスに縮地で詰め寄り、連撃を叩き込 む

 

そこから抜刀し、斬り上げ、跳躍。先回りして更に 地にアガレスを叩きつけ、降りた瞬間に斬り払う

 

――鳳仙花

 

『ケイジ!!これが最初で最後のチャンスだよ!! 』

 

「んなもん……これを考えた時からわかってんだよ !!」

 

奴の慢心につけ込んだ最初で最後の奴の決定的な隙 …ここで掴まねぇと…負ける!!

 

鎖で繋がれたリーブを解放するには…ここしかない …ここしかねぇんだよ!!

 

再び縮地で吹き飛ぶアガレスの先に回り込む

 

今度は吹き飛ばすような事はしない…一度目に破ら れたことが今度は通じるなんて甘い事は考えちゃい ねぇ!!

 

打撃に所々斬撃を交えつつ、アガレスの命を狩りに かかる

 

……反撃などさせねぇ…状況を確認する暇なんて尚更 与えはしねぇ…

 

墜とせ…刻め…ここで決めなきゃ負けなんだ…

 

何より…奴に、これ以上…もうこれ以上…

 

「リーブの誇りを…魂を…

 

これ以上汚すんじゃねぇェェェェェェェェェェェェ !!!」

 

今まで散々超近距離で攻めていたアガレスを弾き飛 ばす

 

『「(あめの)………」』

 

その弾き飛ばしたアガレスが倒れる前に俺は縮地か らの抜刀術でアガレスの腹を逆袈裟に斬り抜く

 

『「羽々斬(はばきり) !!!」』

 

そして斬り裂いた傷が少しずつ背中や腕、顔などあ らゆる部分に同じ傷が現れる

 

…『一度だけ斬った』という因果をねじ曲げ、『一 度』を『何度も』と世界に認識させる

 

つまり…今、俺はアガレスに『一瞬』で『抜刀術』 を『数千回』叩き込んだことになる

 

…当然、リーブの身体…つまり人間の身体であるア ガレスに数千回の斬撃が耐えられるはずもなく、四 肢は斬り飛ばされ、首だけは皮一枚で繋がっている 状態である

 

…そして

 

『「これで……終わりだ!!」』

 

既に虫の息のアガレスにトドメとばかりに抜刀術を 喰らわせる

 

そして、白龍を鞘に納めると同時に身体の軽さは消 え、立っている事も出来ずにその場に膝を付いた

 

『お疲れ様』

 

「……終わったん…だよな?」

 

『うん…』

 

そう、ウルと話す

 

「………まだだ塵芥ァァァァァ!!」

 

『「!?」』

 

突然背後からアガレスの声が聞こえたかと思って振 り返ると、足だけを再生させたアガレスが立ち上が り、こちらを睨んでいた

 

「塵芥ごときがこの(おれ)を…魔を率いる将であるこの アガレスを討つなどあっていい訳がない!!ないの だあああぁぁぁ!!!」

 

死に体とは思えない物凄いスピードで俺に向かって くるアガレス

 

…その両足には無理やり埋め込んだのか、ナイフの 刃だけが足の先に付いていた

 

『っ!…ケイジ!!』

 

「………ぐっ」

 

避けようにも、ウルの憑依(?)が無く、しかも身 体に力が入らない今……どうしようもない…!!膝立 ちにするだけで精一杯だ…!!

 

ウルは……間に合わない、か

 

………ここまでか。まぁ、此処までアガレスも弱って る…リクの『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ) 』なら今のア ガレスくらい消し飛ばせるはずだ…

 

そして俺は、その場で膝立ちのまま、目を…閉じた …

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………?

 

いつになっても痛みが来ない…?

 

不思議に思い、ふと目を開けると、アガレスが足を 振り切る直前…俺の首の真横で、足が止まっていた

 

そして突然飛び退いたかと思うと、何故かその場に 仁王立ちする

 

『「………??」』

 

全く訳のわからない光景に、ウル共々首を傾げてい ると、アガレスの背中に、蒼銀の聖十字が出現した

 

……って聖十字!?蒼銀の聖十字…まさか!?

 

『……あ゛~…全く、人様の身体勝手に使いやがって …レンタル料取るぞコノヤロー』

 

「………」

 

『…ん?どしたケイジ。んな有り得ねぇモン見たよ うな顔しやがって』

 

…この人を食ったような話し方、駄目な大人の見本 みたいな性格…

 

「リーブ……なのか…?」

 

『おう。みんな大好きリーブさんですよ』

 

そこに立っていたのは紛れもなく本物のリーブ・サ ンクチュアルだった

 

『にしてもお前身長伸びたなぁ~…もう俺よかデカ いんじゃねぇか?』

 

「…そりゃあれから十年だからな…」

 

『あれ?何泣きそう?泣きそうなの?』

 

「うるせぇ…」

 

本当に駄目な大人だ…

 

『……さて、積もる話は沢山あるだろうが…そう悠長 にやってる時間も無い』

 

「………え?」

 

急にリーブの声が真面目なそれに変わり、リーブは 真っ直ぐに俺を見ている

 

『今のお前は守護騎士なんだろ?……なら、もうわ かってるはずだ』

 

「………」

 

確かに、わかってる

 

今俺がやらねぇといけない事くらい

 

だが…それを受け入れたくない…我が儘だろうが何 だろうが…とにかく、認めたく無かった

 

『ケイジ……

 

 

俺を……斬れ』

 

「…………っ!!」

 

しかし…当のリーブがそれを許さない

 

『俺が悪魔を抑えられるのは後少しだ………その前に 、一思いにやっちまえ』

 

「………」

 

できるかよ…

 

口には出さないが、俺にとって…アンタは誰より“親 ”“家族”って関係に近い男なんだ…

 

一度失った温もりが目の前にあるのに…それをみす みす見逃せってのか…?

 

「………」

 

『……はぁ、なら…ケイジ。お前は何の為に騎士にな った』

 

「!!」

 

『お前は騎士の儀で何て答えたんだ?お前の騎士に なる意味はなんだ?』

 

騎士の儀……星杯騎士団で騎士になるための儀式

 

騎士の誓いという一種の目標や掟を自分で決めて、 それを声に出して女神の前で誓う

 

『“汝…誰が為にその剣を振るうか?”』

 

「……“護る為、その為に俺は剣を振るう”」

 

『なら……その信念を貫いてみせろ

 

……俺の誇りを護ってくれや』

 

「!!」

 

『ケイジ…』

 

「ああ…ウル、頼む…」

 

『………うん』

 

再び、身体が軽くなって行く

 

俺は立ち上がり、白龍に手を添える

 

『……それでいい。さぁ…来い!!』

 

俺は、仁王立ちで構えるリーブを…

 

「………あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ ぁぁァァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

ザン!!

 

抜刀術で、斬った

 

そして…『天羽々斬』が発動する

 

『………じゃあな。ドラ息子』

 

「!!」

 

リーブが、本当に塵と消える、その瞬間

 

そう呟いた…そんな気がした

 

……もしかしたら、俺の願望が聞こえさせた空耳か もしれない……けど、それでも…

 

「……昔は言われる度に否定してた癖によぉ……

 

今更、息子呼ばわりしてんじゃねぇよ……………

 

――クソ親父が……!!!」

 

ウルのサポートが切れて、俺はその場に仰向けで倒 れ込む

 

『ケイジ………』

 

「本当に……人生ってのは厳しいもんだな……

 

ったく、本当に…」

 

『…そうだね』

 

霞んだ視界で見上げた空は、どこまでも蒼く、蒼く 広がっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蒼き氷華は天に昇り、昏き魔将は地に墜ちる

 

それでも…回り出した歯車は止まらない

 

物語は既に、一時の終焉に向かっているのだから…

 

 


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