英雄伝説・空の軌跡~銀の守護騎士~   作:黒やん

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『時と氷』

「………」

 

ただ、階段を上り続ける

 

その目に映っていたのは、純粋な怒り

 

純粋すぎるほどの怒りが、ケイジの中を支配してい た

 

――――――

 

「………来たか」

 

階段を上がりきると、仮面野郎の時と同じような所 に出て、そこに奴がいた

 

「………」

 

「しかし…(おれ)の力を更に他の者に譲渡するとは…そ の所業は許し難いな」

 

「……………」

 

「…何か言ったらどうだ?弁明があるなら聞いてや らん事もないぞ?」

 

奴が何か言っているが、全く耳に入って来ない

 

…奴がリーシャを…仲間を傷付けた

 

その事実があれば…十分だ

 

「……オイ、貴様「うるせぇ」…!?」

 

油断しきっている奴の正面に縮地で移動して、その まま顔面を殴り飛ばす

 

まだだ…こんなもんじゃねぇ…!!

 

「ガッ…」

 

そのまま奴の飛んだ先に先回りして移動し、再びぶ っ飛ばす

 

「…グッ!…ガッ!ガァッ!!」

 

「まだだ…まだこんなもんで収まる訳ねぇだろうが ァァァァァァァ!!」

 

その行程を何度も何度も繰り返す

 

「舐め…るなぁっ!!」

 

「!!」

 

奴が手を翳すと、その翳した方向が凍り付く

 

…直前に気付かなけりゃやられてたな

 

「……ぐっ…まさか貴様が“この身体”に一切の躊躇い なく攻撃できるとはな…!」

 

「………たかがそのためだけに、リーブの身体を乗っ 取ったのか」

 

「いや、初めはこやつの聖痕を狙ってだ。身体を徐 々に侵食する所までは(おれ)の予定通りであったのだが …よもや貴様のような塵芥にその聖痕が奪われよう とは……

 

いや、今はあの小娘か」

 

そう言っておぞましい笑みを浮かべる奴

 

…違うな。よく見れば何もかもが違う

 

だとすればアイツ等は…ジェイドさんは…

 

「しかし塵芥、貴様よく(おれ)がリーブとやらでは無い と気付いたな?」

 

「…確かに、お前のリーブのフリは完璧に近かった …けどな

 

よく見てみりゃ何もかもが違った

 

あのバカは奇襲はしても絶対に苦々しい顔しかしな かった あのバカは人を殺して平気でいれるような奴じゃ無 かった あのバカが戦闘をする時に氷人形(ゴーレム)なんざ使った事は 一度としてなかった

 

そして何より…アイツは正々堂々とするのを誇りと していた」

 

「………」

 

「…自分の思い込みの強さが嫌になるぜ…あの事件 の実行犯がリーブだと思い込んでいた所為でこんな 簡単な違いにすら気付かなかったんだからな」

 

「……クハハ

 

クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ !!!!!!!!」

 

「……何がおかしい」

 

「これが笑わずにいられようか!!恩人をずっと仇 と思い込んでいた挙げ句、それが間違いだったと! !クハハハハ!!滑稽!滑稽よ!!」

 

バカみたいに爆笑する奴

 

「ああ、そうだな」

 

「クハハハハ………………

 

は?」

 

バカ笑いが止まった瞬間、奴の左腕が千切れ飛んだ

 

「なっ!?ガアアアァ!!」

 

「確かに俺はバカだった…でもな、お前がリーブじ ゃないとわかった以上、それ以上その身体で何もさ せねぇ」

 

「き、貴様ァァァァァァ!!」

 

「…とにかく、貴様の名だけは聞いておいてやるよ 」

 

「貴様に名乗る名など持ち合わせてはおらぬ!!」

 

「そうか…なら当ててやるよ

 

“アガレス”。それがお前の名だろ」

 

「!!!」

 

驚愕の表情で俺を見る奴…もといアガレス

 

「農業を司る神であり、悪魔に堕ちた貴様の能力は 風、水、土。風と水で氷、水と土で金属の錬成。さ らに氷によって貴様の上位属性である時の凍結…… って所か」

 

「………」

 

何も答えない所を見るに…図星か

 

「……よもや…塵芥の分際で(おれ)の名に辿り着くとはな …」

 

「…よく考えりゃ簡単な話だったよ。まず人に害を 為すという所で悪魔の類とわかる そしてリーブの聖痕を狙った目的は貴様の核であり 、時を司るための媒体でもある『氷属性』の強化。 そこでまず悪魔の中でも数体に絞り込める。 ……氷属性の悪魔自体がそれほど多くないしな

 

後は人を操るなんざ高位の悪魔にしかできる筈がな い。それに貴様の能力と関係して考えれば…それが 答えだ」

 

まぁ、ティアに悪魔の辞典と聖典を読まされなかっ たら気付かなかっただろうが

 

「フム、よくぞその程度のヒントで(おれ)に辿り着いた 。面白いぞ人間よ。褒めて使わす」

 

「貴様に褒めて使わされても全く嬉しくないな」

 

「だが、しかしだ…(おれ)の腕を斬り飛ばした事はそれ でも万死に値する……この際だ。(おれ)自らの手で貴様 をあの世に送ってくれよう 何、すぐに貴様の連れも同じ所に送ってやる」

 

「……フン、俺はあいつらとは同じ所に何て逝けね ぇよ 逝くつもりも無いしな

 

………悪魔相手に本当に今更だが…貴様を“外法”と認 定する」

 

「ほう…?」

 

「リーブの姿で罪を重ねた所業……その魂を以て償 ってもらおうか……!!」

 

「ふん…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰に向かってそのような口を聞いている?」

 

「……なっ!?」

 

すぐにアガレスの懐に入り込もうと足に力を入れた が、その足が全く動かない

 

素早く目線を下に移動させると……俺の足が凍りつ いていた

 

…まるで、さっき俺が発動させた『デュランダル』 のように

 

「何を驚いている。先程貴様自身が言ったではない か。(おれ)の力は『氷』……『時』をも操作する『氷』 であると」

 

「ぐっ………!!」

 

どうにか抜け出そうと足に譜を込めて動こうとする が、びくともしない

 

……クソっ!油断した!アガレスの正体を見破った 程度で勝手に奴が動揺しているものと思い込んでい た!!

 

「では……貴様の見破った能力通り、貴様には永遠 の凍結をくれてやろう」

 

ピシピシピシピシ…

 

氷が、徐々に俺を侵食していく

 

俺は…それをただ見ているだけしかできない

 

「ではな…識の神を宿せし者よ」

 

「クソ…クソォォォォォォォォォォォ!!」

 

「………A bonum tantibus(良い悪夢を)」

 

―――Carcerem glacies(氷の牢獄)

 

俺の目の前が、黒に染まった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

「…………」

 

「クローゼ?どうしたの?」

 

「うん…何か嫌な予感がして……ごめんね。気のせい だったみたい」

 

「ならいいけど…」

 

「(ケイジ…?)」

 

 

 


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