英雄伝説・空の軌跡~銀の守護騎士~   作:黒やん

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『ロレントにて』

「後はエリーズ街道だけだったっけ?」

 

「そうね。ついでに家の様子も見に行くんでしょう ?」

 

現在、エステル、シェラザード、クローゼ、シャル ロットの四人で街道の調査をしている

 

霧の発生範囲を調べているのだが、今の所唐突に霧 の濃さが変わる以外の異常は見られていない

 

「エステルさんの家ですか…少し楽しみですね」

 

「散らかってるイメージしか無いけどね~」

 

「シャ~ル~?どういう意味よ!」

 

「だってエステルおおざっぱだもん。料理とか修理 とか」

 

「確かにエステルは大体勘で片付けようとする所が あるものね」

 

「シェラ姉まで…」

 

「ほら…僕の勝ち♪」

 

「勝ち負けの問題なのかしら…って」

 

ロレントの街を出てすぐ、霧が急激に引いた

 

「ここで霧は切れてるみたいですね」

 

「そうみたいね…エリーズ街道、ロレントから南に 約60セルジュと…」

 

「これで全部の街道を見て回ったわね…じゃあ悪い けど、家の様子を見て来てもいいかな?」

 

「いいよ~!僕達も行くけどね…!」

 

突然シャルのアホ毛が直立し、シャル自身、何故か 警戒し始めた

 

「シャル?」 「シャルちゃん?」

 

シャルの雰囲気が完全に変わる。今は淡々と獲物を 狙う鷹のような目をしている

 

「…何か…来るよ」

 

「…そうみたいね」

 

シャルロットは双銃を、シェラザードは鞭を構えて 何かに備える

 

「な、何なの?」

 

「エステルさん、私達も!」

 

「え?で、でも…」

 

「シャルちゃんの勘は外れた事が無いんです!少な くとも私が見てる限りは!」

 

「何その天然チート!?」

 

「二人共!後ろ!」

 

シャルロットの声とほぼ同時にエステルとクローゼ の後ろに氷の彫刻のような魔獣が現れる

 

「何こいつ!?」

 

「彫刻…!?」

 

「何のん気な事言ってるの!迎撃するわよ!」

 

「「「応!!」」」

 

魔獣の初撃を避け、早速とばかりにエステルが一撃 入れる

 

…が

 

ガキィ

 

「弾かれた!?」

 

「くっ…」

 

シャルロットがすかさず双銃を連射するが、やはり 弾かれる

 

「…これ、氷かと思ったけど…水晶と金剛石の混ざ ったやつだね」

 

「水晶?」

 

「鉱石の一種ですね。水晶はそれ程硬い訳ではない ですが…金剛石は鉱石でも屈指の硬さを誇ります」

 

「私達の武器じゃ通らないわね…」

 

恐らくアーツでもそうダメージを与えられないであ ろう装甲の硬さ。しかしここを撤退しては、街が目 と鼻の先となるため撤退もできない…

 

「…我求めるは集いし清水。集い来たりて敵を討て ! ――スプラッシュ・ブレイド!!」

 

魔獣の頭上で高圧で圧縮された水が剣の形を取って そのまま魔獣を真っ二つに切り裂く

 

そしてそのまま魔獣は消滅していった

 

「な、何あのアーツ!!」

 

「あれはアーツじゃありません…ケイジが使う技で 『譜術』と言うらしいです」

 

見た事のない魔法にエステルが仰天するが、事情を 知っているクローゼが説明する

 

「技…?って事はクローゼも使えるの?」

 

「そうね。私達も使えるのなら使ってみたいし」

 

「お二人が使えるかはわかりませんが…私は使えま せん。ケイジ曰わく『譜に対する適性と属性に対す る適性が無いと使えない』だそうで…」

 

「じゃあシャルは適性があったの?」

 

「僕は中級までならあるみたい」

 

いつの間にか戻って来ていたシャルロットが会話に 加わる

 

「あるみたいって?」

 

「譜の適性は今のところケイジ以外にはわからない んだよ…僕は中級までなら全属性使えるけど、治癒 系と上位は使えないんだ」

 

「「(あれで中級なのか…)」」

 

明らかに上位のアーツ並みの力があった譜術。上位 ってどうなるんだ…というのがエステルとシェラザ ードの内心だった

 

…もっともシェラザードは一回見ているのだが

 

「それより…まだお客さんがいるみたいだよ?」

 

シャルロットが銃をある一点…すぐ側の木の中心を 撃つ

 

すると、一瞬で氷が盾のように広がり、弾丸を弾い てしまった

 

「「「!?」」」

 

「やれやれ…せっかちな嬢ちゃんだな…」

 

「影からコソコソ覗き見するような変態さんにはち ょうどいい罰じゃない?」

 

無邪気な笑顔で毒を吐くシャルロット

 

…何となく隠れていた奴がどんな表情をしているか 予想がつく

 

「…可愛い娘にそんな事言われたら割とマジで傷つ くんだけど」

 

「…ドンマイ」 「(ケイジ…シャルちゃんに何教えたのかしら…) 」

 

何故か敵なはずなのに同情される。何とも哀れな光 景である

 

「…ありがとう嬢ちゃんその二。けどその気遣い逆 に傷つくからな?」

 

そして男が姿を現した

 

「「………」」

 

「ん?どうしたんだ?」

 

男の姿を見たクローゼとシャルロットが固まる

 

無理もない。男の姿は二人が探し続けているケイジ によく似ていた。いや、似すぎていた

 

これではまるで…

 

「あの…名前を教えてもらえますか?」

 

「あん?そういや名乗ってなかったか

 

“身喰らう蛇”が執行者、NOⅩⅣ“涙氷”リーヴ…そう だな、ただのリーヴだ」

 

「「「ッ!!」」」

 

何かを言いかけたような歯切れの悪い返事だったが 、身分を明かしたリーヴ

 

そしてそれに反応したエステル達は身構える

 

が、シャルロットだけは全く違う反応を示していた

 

「…リーヴ…?」

 

リーヴの名前を聞いた時から、何か考え込んでいた

 

「シャル!構えて!」

 

「…シャルちゃん?」

 

「っ!…ごめんなさい。(そうだよね…あの人はも う死んでるらしいもん…)」

 

しかしエステル達の呼びかけですぐに気を取り直し 、双銃を構える

 

「…なるほどな、あんたらが剣聖の娘に姫殿下。そ れと…白い()の愛弟子ってとこか」

 

「「「ッ!!!」」」

 

「…私達の事をよく調べているご様子で」

 

「いやいや、本職の人間に調べてもらっただけだか らな…“銀閃”殿」

 

当然のごとくシェラザードの事も当ててみせるリー ヴ

 

その事にさらに身構える四人であったが…

 

「…ああ、そんな身構えんでもいいぞ?俺今戦う気 ねぇし」

 

「「「「…は?」」」」

 

「いや~、ぶっちゃけ呼ばれたはいいけどやること ないんだわ。今回はカンパネルラの阿呆に見届け役 の代わり頼まれただけだしな …まぁ、ある奴が入って来た時だけは手ェ出すけど 」

 

かなりやる気なさげに言うリーヴ。雰囲気的にも殺 気的にも全く戦う気配がない

 

「なら何で…」

 

「いや、あんな氷人形(ゴーレム)ごときにやられたんじゃとて もルシオラには勝てねぇからな。そん時はちと稽古 つけてやろうかな~と「ルシオラですって!?」

 

「シェラ姉!?」

 

「…人の話は最後まで聞こうぜ姉ちゃん」

 

「いいから早く教えなさい!ルシオラ姉さんがここ にいるの!?どうしてあなたが知っているのよ!」

 

「ちょっとシェラ姉!落ち着いて!」

 

「そうだよ!いつものシェー姉っぽくないよ!」

 

必死にエステルとシャルロットが止めるが、尚もリ ーヴに食ってかかるシェラザード

 

「…ああ~!お前が…なるほどな」

 

「いいから答えなさい!」

 

「いや~悪いな。アイツに口止めされてんだわ。悪 いが教えることはできない

 

…ただ、これだけは言える」

 

「………」

 

「この事件を追っていれば自然とルシオラに辿り着 くだろうさ」

 

「…!」

 

「じゃあそろそろ俺は行くわ。なんだかんだでうる さいからな…あんま干渉しすぎると」

 

そう言ってケイジの認識阻害のように周りの景色に 溶け込んでいくリーヴ

 

「ああ、それと姫さんに金髪毒舌少女」

 

「…何ですか?」 「なに?」

 

「アイツを頼むわ …ほっといたらどんどん負のループに突っ込んでい きそうだからな」

 

「「…!!」」

 

そう言った瞬間に完全にリーヴの気配が消える

 

「「………」」

 

「アイツ…誰の事だろ…?」

 

「…さぁ、誰ですかね?」

 

「…誰だろうね(やっぱりあの人…)」

 

色々波乱を残したまま、エステル達はロレントでの 執行者とのファーストコンタクトを終えた


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