英雄伝説・空の軌跡~銀の守護騎士~   作:黒やん

49 / 161
『空の支配者』

「………」

 

「…よかったの?」

 

「…何がだ?」

 

「リーシャの事」

 

「………」

 

鉄道に揺られながら窓の外を見ていると、ふいにリ ースがそう聞いてきた

 

「大丈夫だ。ティアなら…聖痕の無い相手くらい余 裕で出来る…出来るはずだ」

 

「…ケイジは変わった」

 

「?」

 

変わった?俺が?

 

「以前なら真っ先にリーシャを助けに行ったはず。 他にどんなに重要な任務があったとしても」

 

「…以前の話だろ。今とは違う」

 

今はただ、強くなる…強くならないといけない

 

「そう。今の貴方はシャルが懐いて、ティアに慕わ れた貴方じゃない」

 

「………」

 

「一つだけ言っておく。今回の任務…別に私だけで も簡単にケリがつく」

 

「………」

 

俺、は…

 

――――――

 

「ここね…」

 

現在ティアはアルテリアの国境付近にあるやたらと 大きな屋敷の前にいた

 

屋敷はいかにも伝統のある佇まいであったが、端か らみてやたらと装飾過多で、その荘厳な雰囲気を台 無しにしてしまっていた

 

「全く…どうしてどいつもこいつも無駄に自分の力 をアピールしたがるのかしら…」

 

何だかんだでケイジの件をまだ怒っているティアだ った

 

そして屋敷の敷地内に足を踏み入れると…

 

『ようこそ、我が庭へ。歓迎するぞ我が伴侶よ』

 

「!?」

 

突然どこからともなく声が聞こえ…いや、頭に直接 伝わってきた

 

得体の知れない感覚ではあったが、それは確かに元 守護騎士第三位のジュリオの声であった

 

『む?何を驚いているのだ?貴様とて元二位の副官 だった女であろう?我が力はよく知っているはずだ 』

 

もう自分が第二位の座に座ったつもりで話を進める ジュリオ。

 

『して、そこからでよい。元第二位の無様な亡骸を みせよ』

 

「…ある訳無いでしょう。私がケイジを殺すなんて それこそ貴方が第二位に復帰するくらいありえない わ」

 

『ぬ…約束が違うではないか。我は小娘を解放する 。貴様等は元第二位の亡骸とその座を我に献上する 。そういう取引であったはずだが?』

 

「調子に乗らないで。聖痕も無い貴方がどうして守 護騎士に戻れるの?まして今でもルフィナさんに遠 く及ばない貴方が」

 

『ふん、あんな木っ端と我を同列にしないでもらお うか。我が妻となるならば言動に気をつける事だな 』

 

「…さっきから伴侶だの妻だの好き勝手言ってるけ ど…私は貴方の妻でも婚約者でも無いのだけれど」

 

『愚問だな。我が貴様を妻にしたいのだ。貴様は大 人しく運命に従えばよい。喜べ、貴様には正妻の座 をくれてやろう』

 

ちなみに話しながらも段々と屋敷の本館に近づいて いる

 

「寒気がするわ」

 

『ふっ…嫌よ嫌よも好きの内と言う事か。とんだツ ンデレ娘だ』

 

「違う!!」

 

『フフン、ならば力ずくで我が物にするまでだ。さ ぁ、目の前の扉をくぐるがいい!そして我に跪け! 』

 

「貴方に跪くくらいなら死を選ぶ…それに私は…負 けるつもりはない!!」

 

ティアは目の前の門を開いた

 

――――――

 

「………ここは…?」

 

「ようやく目覚めたか」

 

「!!」

 

ティアが目覚めると、よく絵本で見るような玉座の 間のような場所にいて、その玉座にジュリオが座っ ていた

 

「ジュリオ!?……!?」

 

とっさに譜術を展開しようとするティアだが、どう いう訳か“譜の力が感じられない”

 

そして恐らく何らかの術で眠らされていた間にナイ フを取られていたのだろう。ティアの手元にナイフ が一本も無かった

 

「無駄だ。この場は既に我の支配下にある。この場 には我が許可しない限り貴様等の言う“譜の力”も貴 様が持っていたであろうナイフも存在しない」

 

ジュリオの力…即ち彼の聖痕は『空属性』

 

聖痕を持つ彼の付近の空間そのものを彼自身が望む ように操作できる

 

が、しかし

 

「…どういうこと?貴方の聖痕は強調剥離されたは ずよ。まして三位だった頃ですら自分の意志で使え 無かった聖痕を自由に使えるの…?」

 

そう、ジュリオの聖痕は剥奪されたはずなのだ。そ れなのに聖痕の力を使っている…不思議どころか不 気味で仕方なかった

 

「ふん、それがどうした?現に我は力を使っている 。聖痕の剥奪などが本当に出来ると思っているのか ?」

 

「何ですって…!」

 

思わず身構えてしまうティア。譜術も使えない、ナ イフも無いと言うだけでも相当な劣勢なのに、ジュ リオの聖痕がまだ存在しているとなると元々勝ち目 が無いのに加えて逃げる確率すら限りなく0に近く なるからだ

 

…勿論リーシャが人質となっているために逃げるの は元から選択肢に無かったが

 

「…まぁ、今の我は機嫌がいい。特別に教えてやろ う。 確かに我は聖痕を封聖省の老害共に聖痕を奪われた 」

 

「なら…!」

 

「人の話は最後まで聞くものだぞ…そして実に腹立 たしい話だがその時に我は自分の内に在ったモノに 気付いたのだ。そしてその欠片が我の中に残ってい たのもな」

 

つまりは聖痕を剥奪する行程の途中でジュリオは自 分の聖痕に気づき、その欠片をコントロールするこ とが出来るようになったのだ

 

「まぁ、聖痕そのものでは無い為に我は『聖痕の欠 片』(スティグマピース)と呼んでおるがな

 

…まぁ、お喋りはここまでにしよう」

 

そしてジュリオが指を鳴らすと、ジュリオのすぐ横 に寝台に乗ったまま眠らされているリーシャが現れ る

 

「リーシャ!!」

 

「おっと、そこを動くなよ?動けば…この小娘の首 が無くなるぞ?」

 

そしてジュリオがもう一度指を鳴らすとリーシャの 寝ている寝台が一瞬にして断頭台に変わる

 

「くっ…!」

 

明らかにジュリオにアドバンテージがあるため、大 人しくその場に立ち尽くすティア

 

そんなティアを見てジュリオは満足げに頷くと

 

「うむ…さぁ貴様に許された選択肢はただ二つ。大 人しく我に忠誠を誓い、この小娘と引き換えに我の モノとなること。 もう一つは我に刃向かい、この娘の命と引き換えに 逃亡のチャンスを得ること」

 

「………」ギリッ…

 

「さぁ、どちらを選ぶ?まぁ後者を選んだとて逃げ 切れる道理は皆無だがな!ふはははははは!!」

 

勝ち誇るように高笑いをするジュリオ

 

…ティアは心を折られかけていた

 

自分がジュリオに服従すれば、自分の全てと引き換 えにリーシャの命は助かる

 

だが、ジュリオに服従するのはティアの何かが許し はしない

 

……いっそこの場で命を絶ってしまえば楽になるの ではないか?

 

そんな不穏な考えがティアの頭をよぎった

 

…だが、目の前のリーシャの存在がティアのその行 動を止めさせていた

 

付き合いはシャルよりかなり短いものの、ティアの 中でリーシャはすでに大切な妹のような存在となっ ていた

 

「さぁ、選べ。我に跪くか、小娘の命と引き換えに 一時の抵抗を選ぶか」

 

ジュリオとていつまでも待つ気は毛頭ない。いつの 間にかその手に握られた荒縄はリーシャの上で鈍く 輝くギロチンに繋がっている

 

…文字通り、リーシャの命はジュリオに握られてい た

 

「………」

 

「早く答えぬか。我とてそう気の長いほうではない 」

 

「……私は―――」

 

ティアは、苦々しい表情のままその重い口を開く

 

…ジュリオの口元が、醜く歪んだ

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。