英雄伝説・空の軌跡~銀の守護騎士~   作:黒やん

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『アルテリアにて』

「はぁ…はぁ…」

 

「……ぐっ」

 

「げほっ…」

 

目の前に、数百人の男達が恥も外聞もなく地面に大 の字でぶっ倒れている

 

「…立てよ。まだテメェラの命は尽きてねぇだろう が」

 

唯一この場で立っている俺が全員に立つように告げ るが、未だに誰一人としてピクリとも動かない

 

「…ぐっ…貴様、何が目的だ……?」

 

「目的だ?んなもん決まってんだろうが…テメェラ の主人の粛清だ」

 

そこまで話した瞬間、俺に話しかけた男の人生は幕 を閉じた

 

――――――

 

「…終わったぞ。総長」

 

「ああ、ケイジか。おかえり」

 

「報告は後で出す。次の仕事は何だ?」

 

俺が総長にそう聞くと、総長は深いため息を吐いた

 

「……お前なぁ…この二日でもう三件も任務を終わら せているだろうが。流石にオーバーペースだ。今日 は休め」

 

…多分だが総長なりに俺の事を気にかけてくれてい るんだろう

 

…だが

 

「どこまで行くか、限界は俺が決める。そして俺は まだいける」

 

「………」

 

総長が諦めたように俺に書類を一束渡す

 

……次はレミフェリアの違法薬物シンジケートか。 マフィア、又は猟兵団を雇っている可能性大、と…

 

そして書類を読みながら俺は総長の執務室を出て行 …

 

「…ティアが心配していたぞ」

 

「………」

 

かずに足を止めた

 

「お前が自分で決めた従騎士だろう。少しくらい気 にかけてやれ。それとリーシャと言ったか?お前に 着いて来てここに滞在している娘もお前の執務室か ら頑なに動かないらしいじゃないか」

 

ティアは先にアルテリアに帰ってからずっと話して ないし、リーシャは何故か俺に引っ付いて離れない ので渋々ここまで連れて来たが、俺が一切構わない 事がわかると、俺の執務室に引きこもってしまった

 

「…関係ないな」

 

「!?…お前…このままあの子達が壊れてもいいと 言うのか!」

 

「…その時は、アイツ等がその程度の女だったとい う事だ」

 

「ッ!」

 

「じゃあ俺は行くぞ」

 

再び足を進める

 

総長が何かを言っていたが、聞こえないフリをして そのまま執務室を後にした

 

――――――

 

「くっ…!アイツは何を焦っているんだ!」

 

一方、ケイジに無視を決め込まれたセルナートは言 い知れぬ怒りを覚えていた

 

確かに今までのケイジは全ての面にかけて甘かった 。甘すぎると言っていいほどに

 

『一人でやれ』とはちょくちょく言うが、その実は 確実に危険が無い、又は危険があってもケイジが対 処可能な領域で任せるだけだった

 

今回のケイジが急に厳しくなった事はある意味良い 方向に向かうと思う…が

 

「(あまりにも急すぎる…このままではティアはま だ大丈夫だが…リーシャとやらが確実に壊れてしま う…)」

 

既にリーシャの生い立ちや行動についてティアから 報告は上がっている

 

…その生い立ちの所為でリーシャがケイジに依存と 言っていいほどの愛情を抱いている事も

 

……かつてのケビンのように

 

「それだけは何とか防がないとな…」

 

騎士だ総長だと言う前に一人の人間として、十年も 経たずに同じような人間を二人もつくりたくない

 

だが…この件はケイジが自分で間違いだと気付かな い限り決して解決はしない

 

「気付けよケイジ…お前の選択は正しいが間違いだ と言う事に…」

 

今はセルナートには、ただただ女神が自身の弟のよ うな少年を導いてくれるよう祈りを捧げる事しか出 来なかった

 

――――――

 

ガチャ

 

「…リーシャ」

 

「………」

 

ティアの呼びかけに全く反応しないリーシャ

 

その目は光を失っており、虚ろに宙を見つめている

 

その姿にかつての天真爛漫な弄られキャラの面影は 全くなく、人形としか呼べない姿だった

 

「…ほら、何か食べないと病気になるわよ?」

 

「…ケイジさんと一緒に食べます」

 

「…ケイジなら後で来るから。ね?冷めちゃうから 先に食べてましょう?」

 

「……ケイジさんと一緒に食べます」

 

…やっぱりか

 

ティアはそんな考えを抱いていた

 

ケイジはリベールから帰って来て以来、執務室に戻 る事もなく、ひたすら任務をこなしている

 

…それに着いて来たリーシャは流石に封聖省の中を 自由に歩き回れる訳もなく、半ば監禁のような形で ケイジの執務室に滞在する事になった

 

街には自由に出る事は出来るが、専用の廊下を使い 、何も無い道を延々と進まなければならない

 

そんな状態であるにも関わらず、リーシャは文句一 つ言わなかった

 

…始めこそリーシャは元気に振る舞っていたが、次 第にその元気は無くなっていき、とうとう今のよう な状態になってしまった

 

何も口にせず、外にも一切出ない。流石に水は飲ん でいるようだが、それ以外はずっとただ宙を見つめ るだけの状態に

 

「リーシャ、本当に何か食べないと…!」

 

「…ケイジさんは」

 

突然ティアの言葉を遮ってリーシャが言葉を紡ぐ

 

「ケイジさんは…お父さんみたいに居なくなったり しませんよね…?」

 

「!!」

 

忘れていた。総長に報告したのは自分なのに

 

リーシャの生い立ち…即ち、“銀”の事を

 

“銀”という仕事…その特性や技量…間違いなくリー シャの父は激務であったはずだ。それこそ体を壊し ても仕方ないほどに

 

免疫と体力が落ちた体では流行り病に罹るのも当然 だろう

 

だが当時“銀”としての修行をしていたとはいえまだ 幼い少女。リーシャに何故父が病に罹ってしまった のかはわかるはずもない

 

突然病気に罹り、突然亡くなってしまったと感じる のも無理は無いだろう

 

…それに、今回のケイジを重ねてしまったのだ

 

突然亡くなってしまった父親と、突然自分から離れ て行くケイジを

 

それがわかった瞬間、ティアはリーシャを抱き締め ていた

 

「…………あ…」

 

「大丈夫。大丈夫だから…」

 

――ケイジは、私が連れ戻すから

 

――――――

 

「…何の真似だ?」

 

俺が任務のための荷物を持って騎士団本部を歩いて いると、何故か完全武装したティアが唯一の出口の 前で仁王立ちしていた

 

「…リーシャと会ってあげて」

 

「…何故?」

 

「あの子にはまだ誰かが必要なのよ。全てをさらけ 出せる誰かが」

 

「ならお前が側にいてやればいいだろうが」

 

「…それが出来るならわざわざ貴方に言いに来ない わ。今それが出来るのは貴方だけなの」

 

「………」

 

黙った俺を了承したと捉えたのか、ゆっくりとこっ ちに歩いて来る

 

「……知らねーよ」

 

「!?」

 

だが俺はそのままティアの横を通る

 

今はリーシャに構っている暇なんて無い…一刻も早 く力が欲しい…!

 

「……ッ!?」

 

しかし後ろから何かが飛んでくる気配がして、無意 識に体を右にそらす

 

するとさっきまで左半身があった場所を投げナイフ が通過していった

 

「…何のつもりだ?」

 

「…見ての通りよ」

 

――わからないなら、一発殴ってでも連れ戻す

 

振り向いた際に見たティアの目は、そう語っていた

 

 


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