英雄伝説・空の軌跡~銀の守護騎士~   作:黒やん

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『束の間の平和』

「…なるほどね。中でそんな事が…」

 

「酷くないですか!?ケイジさん絶対神父様じゃな いです!あの人絶対悪魔の使いです!」

 

「…よしよし」

 

ヒートアップするリーシャをリースが落ち着かせる

 

「…落ち着いた?」

 

「…はい。納得はしてませんけど」

 

「後…ゴメンね?私達…

 

リーシャが囮になるの知ってたんだ」

 

「ふにゃーー!!」

 

~しばらくお待ち下さい~

 

「…落ち着いた?」

 

「…はい」

 

「ケイジの手紙でさ~。私達に『手紙を届けた女の 子囮に使うから。フォローよろしく!』って書いて あったのよ。ゴメンね?」

 

申し訳なさそうに笑いながら謝るティア

 

「…もういいです。全部の元凶はケイジさんだって わかりましたから」

 

「まぁ、その分は後で仕返しすればいい」

 

「返り討ちにされる気しかしないんですけど…?」

 

「まぁあのバカに勝てるのは…総長かシャル、後殿 下くらいだものね」

 

「シャル?殿下?」

 

総長は上司だろうと何となくわかったリーシャだっ たが、聞き覚えのない名前を聞いて首を傾げる

 

殿下にしても、アルテリア法国のトップの呼び方は 、『教皇閣下』か『法王聖下』である

 

「ああ、シャルは私と同じシスターよ。ケイジを兄 みたいに慕ってるわね。殿下の方は…リベールのク ローディア姫殿下よ」

 

「お、お姫様!?」

 

「ええ。確か幼なじみだったかしら?」

 

「ケイジさん…凄い人だったんですね」

 

ほぇ~、と感心するリーシャと苦笑いのティア。リ ースはさっきから一心不乱に買って来ていたパンを 食べている(費用はケイジの指示でケビン持ち)

 

「(思えば彼の人脈ってチートよね…)」

 

「そういえば…ケイジさんを助けに行かなくて大丈 夫なんですか?」

 

「ああ、いいのいいの。リーシャの話を聞く限りケ イジキレてるから」

 

「?」

 

「ケイジがキレてる時に無理やり乱入しようものな ら…最悪殺されるわよ?」

 

―――精神も、肉体も、ね

 

――――――

 

パチン!

 

ケイジが指を鳴らした瞬間、周りの景色が元に戻る

 

「ジャスト一分だ」

 

「あ……あああ……ああ……」

 

「いい悪夢(ユメ)は見れたか…って聞くまでもないか」

 

クライフは茫然自失として震えている

 

当たり前だ。およそ一年に渡って剣を全身に突き刺 され、それが終わったと思えばまた一年間鬼火に灼 かれ続けたのだ

 

…その永い苦痛が、たった一分で行われたというの だから…

 

「さて…とりあえず魔道具は回収させてもらう」

 

「あは………あははは………ははは……」

 

「…聞こえちゃいねぇな」

 

流石にここまでくると哀れだな

 

どうしようもないクズ野郎だったが…いや、俺の方 がクズか

 

こんな人を“壊す”ようなことに慣れている俺の方が …

 

「…感傷に浸ってる暇はねぇな」

 

いや、正確にはそんな権利はない、か

 

…ダメだな。このまま行くとどこまでも自分を卑下 してしまう

 

「『我が身に宿りし蒼き羽…』」

 

背中に翼のような聖痕が広がる

 

「『その咎を持って氷河の礎と為し、淡き華となり て永久(とわ)の闇に落ちるがいい…』」

 

クライフの体が次第に氷に覆われる

 

そして一秒もかからないうちにクライフの全身が凍 りついた

 

「散れ…」

 

パチン

 

指を鳴らす音と共に、クライフの一生は幕を閉じた

 

…けど

 

「いつまでそこで見てる気だ?」

 

「…気付かれていましたか」

 

部屋の隅に目を向けると、空間が歪んで重厚な鉄の 鎧を着た金髪の女性が現れた

 

「…誰だ?」

 

「おや、さっき名を名乗る時は自分からと言われて いませんでしたか?」

 

「それを知ってるって事は聞いてたんだろ?それに 俺がアンタに今まで気付いていなかったとでも?」

 

この部屋に入った時点でコイツがいるのはわかって いた

 

…気配の消し方からコイツが“蛇”関係だという事も

 

「いえ、冗談ですよ」

 

薄く微笑む女性

 

「アンタが冗談言うとはな…見た目真面目一徹みた いなのに」

 

「人を見た目で判断しない事ですね」

 

「…で?何の用だ?」

 

そう、これが問題だ

 

NO,0みたいな見届け役ならどうでもいい。どうせ 尻尾切りの対象だろうから

 

だが、魔道具を狙って来たのなら…

 

「そう慌てないで下さい。敵対するつもりはありま せん」

 

「…じゃあ何しに来たんだ?」

 

「いえ…レオンハルトに貴方の事を聞きまして…少 し興味が湧いたので会いにきたまでです。ああ、私 のことはアリアンロードと呼んで下さい」

 

レオンハルト…レオンハルト……

 

「ああ、レーヴェか」

 

「はい」

 

…雰囲気だけなら敵対心は無い、か

 

「後一つだけいいか?」

 

「はい?」

 

「お前…“使徒”か?“執行者”か?」 「“使徒”です」

 

「…お前の所の第六柱に伝えてくれ」

 

「……何と?」

 

「『お前は俺が殺す』」

 

「わかりました…」

 

「…じゃあ俺は行く」

 

「それでは私も行くとしましょうか…」

 

「…せいぜい戦場で会わない事を願ってるよ」

 

「!ふふ…私もそう願っておきましょう…」

 

そう言ってアリアンロードは空間の歪みに消えて言 った

 

…アイツ……多分今は総長くらいしか勝てねぇな…

 

――――――

 

「彼の本当の力が目覚める時…私や他の“使徒”では 太刀打ちできなくなるかも知れませんね…」

 

アリアンロードは、ケイジが去った後、クライフの 部屋から何かを持ち出しながら呟いた

 

――――――

 

「ケイジさん!」

 

俺がレストラン(教団のアジト)から出ると、リー シャが突撃してきた

 

「とと…子供かお前は……ゴメン、子供だったか」

 

「良かった…無事で…」

 

あれ?予想ならここで『子供じゃない!』って言い 返してくるはずなのに…

 

「随分懐かれたみたいね」

 

「本当になんでだろうなぁ?」

 

「昔から子供に懐かれやすいものね」

 

ん~…俺はそんな子供に懐かれるような人間じゃな いんだがな…

 

そんなことを考えていたら、ティアに軽く頭をはた かれた

 

「…何すんだよ」

 

 

 

「また変なこと考えてたでしょ?」

 

「………」

 

俺が視線を逸らすとティアは大きくため息をつく

 

「全く…またシャルが泣きながら叩いてくるわよ? 」

 

「そいつは勘弁だな。アイツの機嫌とるの大変なん だぞ?」

 

「知ってる」

 

そう言ってティアと顔を見合わせて笑う

 

…少しだけ、ほんの少しだけだが気が楽になった気 がした

 

「ちょっと!私の話聞いてるんですか!?」

 

「悪い悪い、で、どうしたんだ?」

 

「まったく…」

 

ただ、今は。今だけは

 

この束の間の平和を抱きしめよう

 

そう、素直に思えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

P.S. リーシャに酒を呑ませてはいけません。ダメ、ゼッタイ


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