英雄伝説・空の軌跡~銀の守護騎士~   作:黒やん

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『氷華白刃』

「そこの兄ちゃん!野菜買って行かないかい!?今 日入ったばかりだから新鮮だよ!」

 

「兄ちゃん!いい霜降りが入ってるよ!男ならガッ ツリどうだい!」

 

流石は天下の東方人街。物の流通がハンパじゃない

 

さっきから少し通りを歩いているだけなのだが、す でに数十回は客引きされている

 

…これだけ人通りも多いから誘拐もやりにくいのか と思ったら、夜はむしろ人が通ることが珍しいらし い

 

そして東方人街とそのはずれならば…明らかに東方 人街の方が人口が多い

 

「…さて、鬼がでるか蛇がでるか…」

 

できれば簡単に終わる理由がいいな~、と思いなが ら準備中であろう酒場に入る俺だった

 

――――――

 

「…今までにもあった?」

 

「ああ。ここ十年の間に二回ほど誘拐事件が多発し た時期があってね…ウチの息子はなんとか助かった んだけどな」

 

リースは少し前からここの協会に出向いていたこと もあり、少しではあるが地元の人達との繋がりもも っていた

 

そのため、地元の人達から聞き出していたのだが…

 

「詳しくは何年前?」

 

「う~ん…忘れちまったよ。俺も年かねぇ」

 

「じゃあ…今回の事件と何か違いは?」

 

「そうさねぇ…そう言えば今回のやつは東方人街に は被害がないみたいだな」

 

「…それだけ?」

 

「ん~…あ!今回は女の子しかさらわれてない!」

 

「男の子は全員無事なの?」

 

「俺が聞いた限りじゃ無事だな。いや~、こう言っ たら不謹慎だけど…ウチの孫が無事で良かったよ… 。一回目の時なんて酷かったからなぁ。なんせ子供 なら誰彼構わずかっさらって行かれたんだから」

 

「?おじいちゃんだったの?」

 

「まだそんな年じゃないんだけどな。というか気に する所はそこかよ…息子が早婚でな」

 

「そう」

 

「反応薄いなぁ…というか嬢ちゃん、何でそんなこ と調べてんだ?」

 

「気にしない気にしない」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

「そうだな!」

 

…恐るべしリースの天然オーラ

 

――――――

 

「…まだ準備中だよ」

 

「知ってる。けど酒場って酒を呑むだけの場所じゃ ないだろ?」

 

裏通りの酒場に入ると、いかにもベテランのオーラ を纏ったオッサンがグラスを磨いていた

 

「…ガキがこんなオンボロバーに何の用だ?」

 

「あはは、ただのガキがこんな場所に来るかよ……… マスターは?」

 

「俺がマスターだが?」

 

「?」

 

…あのジジイ…とうとうポックリ逝きやがったか?

 

だったらどうすっかなぁ…

 

「…なるほど。お前、親父の知り合いか」

 

「…アンタの親父の名前は?」

 

「ウェーバー」

 

ああ、間違いない。このオッサンはジジイの息子だ

 

「アンタは?」

 

「ウィルだ。そう言うお前は…ケイジ・ルーンヴァ ルトだな?」

 

そう言ってニヤリと笑うオッサン、もといウィル

 

「これはまた…親が親なら息子も息子か」

 

「使い方が違うと思うが…つーかリベールの王国軍 の大佐が共和国で何をしているんだ?」

 

「元だよ。今はただのしがない巡回神父さ」

 

「神父が酒場に来るのも大概だと思うんだが」

 

「気にすんな。俺は気にしない」

 

「…はぁ」

 

その『コイツ何言ってもダメだ』みたいなため息は 止めて欲しい

 

「で?その元軍人の神父サマが何の御用で?」

 

「言わなくてもわかってんだろ……」

 

俺が神父って言った時点で身分わかったクセに…ジ ジイ経由で

 

そして俺はミラをカウンターの上に置く

 

「…今起こっている誘拐事件の詳細。それと噂でも 構わないから裏事情も全部」

 

「毎度」

 

――――――

 

「まず詳細の方だが…ハッキリ言うなら奇妙の一言 に尽きるな」

 

「どういうことだ?」

 

「誘拐された奴らの条件…と言うか特徴が一致し過 ぎているんだよ」

 

「…女。十代半ば」

 

「加えて全員東方人だ。それなのに東方人街そのも のには一切手をつけない」

 

「へぇ…」

 

確かに奇妙だな。東方人しか襲わないのに東方人街 自体は襲わない

 

…何かあるのか?

 

「後、あの悪魔崇拝の教団と、四年前のアーティフ ァクトの教団は一切関係していない」

 

「…何割?」

 

「十割だ。両方ともお前も関わっていたんだろう? なら、滅んでいて当たり前だ。あれで生き残りがい たら相当の悪運の持ち主だろうよ」

 

「………」

 

「…ん?すまん。不謹慎だったな」

 

「…いや、気にすんな」

 

いい加減慣れねぇとな…でないと、体より先に心が 参っちまう

 

「次に噂の方だが…東方人街に被害がないのは“銀” の仕業だってのがあるな」

 

「“銀”?ここ数年姿を眩ませているんじゃなかった か?」

 

“銀”。東方人街の伝説の凶手。金を積めばどんな相 手でも殺すと言われ、また、気まぐれで行動を起こ すために神出鬼没であるらしい

 

一説でははるか昔から存在していて、不老不死では ないかとも言われている

 

「いや、去年かその辺りにまた活動し始めたらしい 。その“銀”が東方人街に入ってくる誘拐犯達を暗殺 してるんじゃないかと噂されてる」

 

「“銀”…なぁ」

 

「どうした?何か引っかかったのか?」

 

「ああ…本当に“銀”が暗躍してんなら依頼人は誰だ ってな」

 

「ああ、なるほどな。残念ながら噂だからそこまで 詳しくわかっちゃいない」

 

そりゃそうか。噂は所詮噂だからな

 

「…ごっそさん。多分カルバードに来たときにまた 来るわ」

 

「二度と来るんじゃね―ぞクソガキ」

 

「クソガキじゃねぇ。神父サマと呼べオッサン」

 

「オッサンじゃねぇ。マスターと呼べクソ神父。 …もし“銀”に会っても喧嘩売るのだけは止めろよ? アイツと殺り合って生きて帰ってきた奴はいねーっ て話だ」

 

「心配は要らねぇ。それに生きて帰って来た奴なら いるぞ?」

 

「は?」

 

「目の前にいるじゃねぇか」

 

多分この時の俺は相当腹立つ顔だったんだろうな~ と思った

 

――――――

 

「“銀”と戦って生き残った…なぁ。流石は白烏…い や、

 

“氷華白刃”(ひょうかはくじん)と言った所か」


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