ガギィッ!!
剣戟の音が訓練場(という名目の中庭)に響き渡る
「………」
「………」
ギリギリギリ…ッ
同時に仕掛けたために、鍔迫り合いになるが…
「…せいっ!」
「ちっ…」
そこは経験の差か、ユリ姉に弾かれ、距離を取られ る
再び睨み合いになり、膠着状態になる。
ユリ姉はいつもの半身の構えで、俺は抜刀術の構え で隙を伺う
「………ッ!」
暫くその状態が続いたが、状況が進まないと見たの か、猛スピードで俺に接近するユリ姉
そのまま目にもとまらない速さで俺を斬った…よう に見えた
「(やったか…?)ッ!?」
ユリ姉が俺の姿を確認しようと首だけを動かして気 配を探る
…でも、もう遅い
「………なぁ!?」
「遅い。…
俺は自身の戦技…クラフトの一つである鳳仙華の初 動、斬り上げをユリ姉に当て―
「ケイジ~、ユリアさ~ん、お茶の準備が出来ま したよ~!」
ズシャァァァ!
「…毎回思うが痛くないのか?」
「クローゼェェ!何でいつも決着がつくっていう ベストタイミングでストップかけんだよ!」
「ええ!?そんな事狙ってできないよ!?」
「いーや!狙ってるとしか思えねぇよ!もう三回 目だぞ!?」
「知らないよ!それに勝ちたいならもっと早く決 着つけなよ!」
「まあ、そのお陰で私にまだ負けがないんだがな … それにこれ以上ケイジに強くなられると私の立つ 瀬がありませんよ、クローゼ」
「…むぅ…でもユリアさん!ケイジったらいつも 模 擬戦が引き分けだからっていっつも鍛錬ばかりな んですよ!?」
クローゼがユリ姉に抗議している
い~じゃねーかよ、鍛錬くらい
それにちょいちょいクローゼも参加してんじゃねー か
するとユリ姉ははあ~と深い溜め息をついて、
「ケイジ…もう少し殿下を構ってやれ」
「そういう事じゃ…まぁ、構って欲しくない訳じ ゃ …(ゴニョゴニョ)」
?最後の方聞こえなかったんだが…
しかもユリ姉はなんか生暖か~い目でクローゼ見て るし…
「…気が向いたら」
「…はぁ~…どうせそんな返事だと思ってはいた け ど…」
「はぁ…どうしてそうお前は鈍感なんだ…どこで 育 て方を間違えたかな…?」
何か知らんが二人に溜め息をつかれた。…俺自分で 人より感覚は鋭い自身あるんだけどなぁ~
「「はあ~」」
…何か腹立つな~(怒)
sideクローゼ
「…………」
「…美味しい?」
こんにちは、皆さん。クローディアです。
今日はおばあ様にケイジ共々お茶に誘われました。 なので前々から作り方を教わって練習していたアッ プルパイをケイジに食べてもらっているのですが…
「…………」
「…ケイジ?ねぇ…」
「………」
「…反応しませんね(苦笑)」
ケイジが感想を言ってくれません
黙々と食べ続けてます
…食べてくれてるって事は不味くはないと思うんだ けど…
暫くして、ケイジが食べ終わった
「…………けぷっ(凄くご満悦な表情)」
「ケイジ」
「ん?」
「あの…どうだった?」
「………」
うう…何かいざ感想を聞くと緊張する…
ユリアさんは美味しいって言ってくれたんだけど…
「クローゼ…」
「う、うん」
「めちゃくちゃ美味かった」
「ほ、ホント!?」
「お、おう…」
「………♪」
やった♪ケイジが美味しいって言った~♪
「(何でコイツこんなに嬉しそうなんだ?…ああ 、 自分のお菓子が上手く出来たからか)」
「ふふふ…(クローゼったら…立派に青春してる わ ね。あの子達も15才になった事だし…そろそろい い かしら?)」
今度はケーキを作ってみようかな?
side out
「ねぇ二人共」
「なんですか?」
「?どうかしたのですか?おばあ様」
いつも通りに鍛錬の後にクローゼとお茶してだべっ て(今日はアリシアさんに誘われたらしいが)いた ら、今まで俺とクローゼのやりとりを静観していた アリシアさんが急に改まって俺達に話しかけてきた
「貴女ももう15才になった事ですし、城に籠も っ てばかりいないで、一度社会に出るべきだと思う のです」
「それは…」
「まあ、その通りですね」
むしろ15まで外に自由に出れないなんて、どんだ け箱入り娘だよ…あ、姫さんだったか
え?俺?基本出入り自由だよ?だからちょくちょく グランセルの闘技場とか行って修行ついでに小遣い 稼いでますよ?
…ちなみに闘技場に行く時はフードで顔隠してるか ら正体はバレてない
…何か話がそれたな。つまりはアリシアさんはクロ ーゼに一般常識とか社会の感じとかを実際体験して 欲しいんだろう。
それに関しては大賛成だ。城にいれば、家庭教師が いるから教養は身に付くが、一般常識となると、少 し勝手が変わってくる城にいて身に付くのは作法、 市民に対しての振る舞い方などだ。
とてもじゃないが一般常識なんぞ学べる場所じゃな い
俺は普通に接しているが、あくまでクローゼは王家 の人間だ。当然兵士やメイド達はクローゼを“クロ ーゼ”としてではなく“姫”として接する
…そんな環境で“常識”なんてわかるはずがない
アリシアさんもそれを危惧したのだろう
…となると、やっぱ年齢的にも、常識的にも行く場 所は…
「それでですね、クローゼ。学校に行ってみる気 はありませんか?」
そう、学校だ
まあ15って言ったら中3か高1だしな
「学校…ですか?」
「ええ。とある学園に知り合いがいましてね。そ こでなら貴女の素性を隠して通えます。それに全寮 制ですから、安全面でも心配ないでしょう」
「………」
何故かクローゼが俺をチラチラ見ている
…何でこっち見てんだ?
「それとも…嫌ですか?」
「いえ、そんな事は無いのですが…」
再び俺をチラリと見るクローゼ
だから何でこっち見んだよ
「(…ああ、そういう事ですか)心配ありません よ クローゼ。勿論ケイジも一緒ですから。」
爆弾発言をのたまいなさるアリシアさん
…今なんて言ったこの人?
「本当ですかおばあ様!?」
「ちょ、アリシアさん!?何で俺まで!?」
「あら、貴方だってクローゼと同い年じゃないで すか。それに貴方はクローゼを護るんでしょう?」
「うっ…」
それを言われると俺はもう反論できない
俺は数年前、ある誓いをした。他の誰でもない、俺 自身に。
それを破るのは俺のプライドが許さない
「…はぁ…わかりましたよ」
「ふふ、それではクローゼをよろしくお願いしま すね?(未来の旦那様候補として)」
…今なんか誰かに狙われた気がしたけど…気のせい か?
「わかりました。出来る限りサポートさせて頂き ます」
…まぁ、せっかく俺まで学校に入れてくれるって言 うんだから、お言葉に甘えて学園生活を楽しむとし ますか
「(ケイジと学校…つまりはケイジと…)」
…とりあえず隣でトリップしてるバカは放置しとこ う。何か幸せそうだし。もう黒ーゼは見たくねぇし 。
「…あ、そうだ、二人共、編入試験は一週間後で す よ」
「「………はい?」」
「編入試験はかなり難しいそうですよ。頑張って 勉強しなさいね」
「(一週間…なんとかなるかな…?)」 ケ「え~… 編入試験~…面倒くせぇ…」
「ふふふ…まあ、諦めてちゃんと勉強する事です ね 」
「は~い」
まあ、しませんけどね
~試験当日~
「用意は出来ましたね?それでは…始め!」
ついにただの一度も勉強する事無く試験当日を迎え た
クローゼの方はこの一週間みっちり勉強していたみ たいなのでまず通るだろう
ま、俺も試験くらいはやる気だしますか
「(なになに…問1、半径rの円と半径2rの円が一 辺 aの正方形の内部に~略~…これを解け…)」
…これ大学レベル、しかも多分東大入試レベルじゃ ねーか。
え?何?普通の学園じゃねーの?そりゃあ全寮制っ て聞いた時からおかしいな~とは思っていたけどさ ぁ…
「(まあいいか。余裕で解けるし。)」
転生前にハーバードを現役で主席合格した俺に不可 能はないぜ!
~試験終了~
「…………」
「お~いクローゼ~、生きてるか~?」
試験が終わった瞬間、クローゼが机に倒れ込んだ
まあ、そりゃあ半日丸々休み無しで試験受けてりゃ そうなるわな
「…ケイジは何でそんなに平然としてるの?」
「いや、簡単だったし」
「嘘だッッッ!!」
「うおっ!?ちょい待てクローゼ!その発言はな んかマズい!」
「…ケイジがいけないんだよ?あ んな試験を簡単な んて言うから…」
「ちょ、待て!レイピアを出すな!」
「クすくスくすクス…」
「笑いながら突くなァァ!正気に戻れェェ!ちょ 、警備員さーん!!」
~しばらくお待ち下さい~
「「ぜー、ぜー、ぜー…」」
あの後、俺の声に何事かとやって来た警備員と共に 黒ーゼをなだめる事に成功した
「…すみません、ご迷惑お掛けしました…」
「いや、大丈夫だ…しかし何があったんだ?」
「…とりあえずコイツがここに入ったら機嫌だけ は 損ねない事をオススメします」
「ああ…そうするよ…」
「すー…すー…」
クローゼは気が済んだのか寝てしまった…ったく、 誰がこの後グランセルまでおぶると思ってんだ。も のっそい目立って恥ずかしいだろうが
「じゃあそろそろ俺達は帰ります。定期便の時間 もありますし」
「そうか…君達ここに編入するんだろ?これから よ ろしくたのむよ」
「合格したら、ですけどね。こちらこそコイツ共 々お願いします」
「ははは、そうだったね。じゃあ合格してる事を 祈っているよ」ケ「ありがとうございます。じゃあ 俺達はこれで…」
「ああ、またね」
またね、か…試験、コイツも受かってたらいいな~
そんな事を考えながら俺はクローゼをおぶって帰路 につくのだった
…勿論、クローゼをおぶって定期便に乗った俺は凄 く目立ってしまい、ものすごい恥ずかしい目にあっ たのだった
「ふむ、クローゼ・リンツ…1000点満点中678点…5 00点で合格という事を考えるとかなり優秀な成績 じゃな… さて、もう一人の方は…ケイジ・ルーンヴ ァルト…1 000点満点中…1000点!?満点じゃと! ?ほぼ卒業 試験級の試験を…
……こやつ、ここに入る意味あるのかのぅ…?」
その日、やけに沈んだ学園長ともの凄く騒がしい職 員室が、生徒達の間で疑問に思われていたらしい…