英雄伝説・空の軌跡~銀の守護騎士~   作:黒やん

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お久し振りです

でもまだ課題あるんだよね……(泣


『栄光を掴む者』

「見事だ」

 

そう一言だけ残し、どこか驚いたような、だけれどもどこか嬉しそうな様子で、カシウスは光と消えていく。

それを見て、ケイジ達はようやくかの英雄を倒したことを実感した。

 

「フ……まさか、俺がお前達相手に地に伏せる日がこんなに早く来るとはな。俺も老いた、ということか」

 

「冗談はその馬鹿面だけにしとけよ不良中年」

 

「お前たまには俺に敬意払っても罰は当たらないんじゃないか? 年上で上官だぞ、俺は」

 

「知らねーよ、んなもん。……まだ戻る準備が終わってないんだよ。今オッサンに抜けられると困る」

 

「!!」

 

ケイジの言葉に、カシウスはハッとした表情を見せる。が、その一瞬後にはキリッとした顔へと戻っていた。

ケイジの真意を見極めんと、カシウスはケイジへ視線を向ける。ケイジもそれに応えるように、カシウスの目をまっすぐ見据えた。

 

「そうか……。ようやく、ようやくか」

 

「前例が見つかったんだ。後は無理を通すだけ……いつものやつだよ」

 

「そうか……」

 

感慨深げに何度も頷くカシウス。だが、当人達以外にはそれがどんな会話であるかわからない。それでもカシウスの今までに見たことがない程に破顔している様を見れば、かなりの慶事であることはわかるのだが。

 

「ここから消えて、覚えているかはわからんが……心待ちにしているぞ」

 

「ああ」

 

「ちょ、ちょっと!」

 

そこまで会話し、終わったとばかりに目を閉じるカシウス。だが、その様子には流石にエステルが待ったをかけた。

 

「なんだ、エステル」

 

「なんだじゃないわよ! いきなり現れていきなり消えてくとか、ちょーっと薄情すぎるんじゃないの!?」

 

じとっ、とカシウスを見据えるエステルだが、どうしようもない喜色が見てとれる。その姿はまるで尻尾を振って『褒めて!』とねだる子犬のようだ。

カシウスはそれを見て苦笑するが、やがてその表情を改める。

 

「お前はここで満足しているのか?」

 

「え?」

 

予想とは全く異なる返事に面食らった様子のエステル。だが、カシウスは言葉を止めない。真っ直ぐにエステルの目を見ながら粛々と語り続ける。

 

「確かに、お前達は俺に届いた。それでも届いただけだ。ケイジやケビン神父、リシャールの力を借りてな。

……あくまでお前達はまだ、届いただけだ。追い付いただけなんだ。俺という一つの壁に。なのに、そこで満足しているのか? 足を止めてしまうのか? 違うだろう。まだお前達は仲間の力を借りてようやく届いたまで。ならば次はお前達自身の手で追い付き、追い越してみせろ。それまでは俺も越えるべき壁としてあり続けてやる。

……できるな? エステル、そしてヨシュア」

 

「モチのロンよ! 絶対に参りましたって言わせてやるんだから!」

「はは……うん。いつか必ず追い越してみせるよ、父さん」

 

エステル達の返事を聞くと、間髪入れずにカシウスはケビンとリシャールへと目を向けた。

 

「神父、リシャール。すまないが……」

 

「わかってます。元々俺のせいっぽいですし、責任もって全員送り返させてもらいますわ」

「ええ。それにここにはレオンハルト殿やケイジもいます。どうかご安心を」

 

「すまない。よろしく頼む」

 

そこまでをいい終えると、カシウスは今度こそ目を閉じる。やがて光が強くなり、カシウスの姿を包むと、光が消えた頃にはカシウスは露と消えていた。

 

「……行ったか」

 

ポツリとケイジが呟くと、全員が武器を納める。一息吐いて、行き止まりのその場に背を向けた時、唐突に拍手の音が聞こえてきた。

 

ーーーーーーーー

 

「(? ……なんだ……?)」

 

それとは別に、ケイジの耳に旋律が流れてくる。だが、目の前に禍々しい魔法陣が現れると、そちらに意識を向けざるを得なくなってしまう。

 

『フフ……剣聖をも退けるか。どうやら見込み以上に成長したようだな』

 

「……何のようや。影の王」

 

冷たい声で、ケビンは目の前の相手を威嚇する。ふざけた道化のような格好をした人物、影の王。それが今、ケビン達の目の前にいたのだ。

 

ーーーズェーーーートゥエーー

 

「(また……!)」

 

ケイジの頭の中に響く旋律が大きくなる。

 

『フフフ、残念ながらケビン神父。此度は貴方に会いに来たのではないのだよ』

 

「何やと……?」

 

『今回、私は案内役として来たに過ぎないのでね。他言は伏せさせてもらうよ』

 

そう影の王が言い終えた時だった。ケビン達の足下に巨大な陣が現れる。ケビン達は咄嗟にその場から飛び退き、離れようとするが……

 

ーートゥエーーーーリュオーーズェーー

 

「ぐっ!?」

 

『ケイジ!?』

 

頭の中に響く旋律が、ケイジの三半規管を狂わせる。その結果、体勢を崩してしまったケイジはその場に崩れ落ちてしまう。

急いでヨシュアが救出しようと足を切り返す。

 

「ケイジーー!!」

 

「ぐっ……!」

 

雷光の如く走るヨシュア。しかし、伸ばされた手が掴まれることは、無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

落ちていく。ただ、堕ちていく。

堕ちていく毎に、頭の中で響き渡る旋律は大きく、力強く聞こえてくる。

 

ーートゥエ レィ ズェ クロア リュオ トゥエ ズェ

 

それは、譜歌。

 

ーークロア リュオ ズェ トゥエ リュオ レィ ネゥ リュオ ズェ

 

俺の記憶の中に、それを歌える人間は二人しかいない。

 

ーーヴァ レィ ズェ トゥエ ネゥ トゥエ リュオ トゥエ クロア

 

一人は、腹心であり、片腕であり、親友とも呼べる女性。彼女が歌えることは、騎士団の多くの者ですら知っている。

 

ーーリュオ レィ クロア リュオ ズェ レィ ヴァ ズェ レィ

 

だが、知る者こそ少ないが、もう一人。もう一人だけ、譜歌を歌える人物がいたのだ。

 

ーーヴァ ネゥ ヴァ レィ ヴァ ネゥ ヴァ ズェ レィ

 

このことを知っている者は、もはや教会でも一握り。守護騎士の一部しか知り得ない、教会の闇に葬られた事件の首謀者で、教会の闇の被害者。

 

ーークロア リュオ クロア ネゥ トゥエ レィ クロア リュオ ズェ レィ ヴァ

 

彼女の兄で、彼女と俺を結びつけるきっかけとなった人物にして、俺の兄貴分でもあった人物。

そして……俺が騎士団に居続けた理由の一つ。

 

ーーレィ ヴァ ネゥ クロア トゥエ レィ レィ

 

その名は……

 

 

 

「……来たか」

 

栗色の毛を後ろで結い上げ、顎には豊かな髭をたたえた男がゆっくりと閉じていた目を開ける。

 

「ああ……久し振りだな」

 

「うむ。本当にな。……約束を果たしてくれていたようで嬉しいぞ」

 

「ヴァン」

 

「だが、どうやら俺には拒む権利はないらしい」

 

ヴァンと呼ばれた男は、側に刺していた巨大な剣を抜き取ると、それを自然体で構える。隙はなく、単純故に最も動きやすい構えだ。

それを見たケイジは、一瞬目を伏せるとすぐさま刀を抜く。

 

「聖天堂の件以来か。こうして剣を交えるのは」

 

「そうだな」

 

「では……正騎士、ヴァンデスデルカ・アークス、参る!」

 

そうして、戦いが始まった。




次回からまた月の扉です

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