「さぁ……行こうか!!」
「! 全員気ィ張れ! 来るぞ!」
カシウスが気合いのこもった一喝の後、その姿をくらました。いや、姿を消したのではなく単に凄まじいスピードで移動し続けているのだ。現に、ケイジの紅い瞳は忙しなく動き続けている。
そして少しその状態が続いていたものの、突然カシウスと同じようにケイジも姿を消す。その一瞬後、激しい打突音と共にケイジとカシウスが先程までリシャールが立っていた場所に姿を現した。
「一人」
「ぐっ……!!」
鍔迫り合いになっている二人。そのケイジの後ろの壁際には、リシャールがぐったりと力なく壁にもたれかかっていた。
「リシャールよ、まだまだ甘いな」
「油断は……してなかった……これが、単純な……今の力の差……!!」
「リシャール大佐!」
かろうじて立ち上がっている状態のリシャールにケビンがティアラルをかける。それによってリシャールは危なげなく立ち上がれるようになるが、完全にダメージは抜けきっていないようだ。
今、起きた出来事は数多あったフェイントさえ除けば簡単なことだ。リシャールをかばおうとしたケイジのガードをこじ開けてカシウスがリシャールに刺突を叩き込んだのだ。ただ、その一連のやりとりが常人には反応できない速さの中で行われていただけで。
「ほらほらどうした? ケイジに護ってもらってばかりでは俺には勝てんぞ?」
「チッ……好き勝手言ってくれるなこの不良中年が」
「ハッハッハ、不良神父がそれを言うか? 同じ不良同士仲良くしようじゃないか」
どうやらカシウスは余裕の体を見せることにしたらしい。からかうような口調でケイジにそう返す。
「……ヨシュア、エステル。お前ら自衛は出来そうか?」
「僕は大丈夫。ようやくだけど、目が慣れたよ」
「た、多分大丈夫……だと思う」
いつになくエステルの言葉にキレがないが、まぁそれは仕方ないと割りきるケイジ。なんせ今まであまり見る機会のなかった父親の本気なのだ。それが大陸指折りの実力者のものであったなら尚更動揺は強いだろう。話で聞いていても、実際を見ればなかなか平常心ではいられないものだ。
「リシャールさん、ケビン」
「……ああ、任せたまえ」
「わかっとる」
最後にリシャールとケビンに声をかけ、ケイジは瞬動で飛び出していく。それに応えるようにあちらこちらで鋼のぶつかる音が聞こえる。だが、それも長くは続かず、弾き飛ばされたような後退り方でケイジがケビン達の元に戻ってきた。
「チッ……やっぱキツいか。力じゃ完全に差がある」
「当たり前だろう。そもそも、お前はパワーで押すタイプじゃない。だが、俺の元はパワータイプだ」
そう、タイプ別に分けるとするなら、ケイジはパワーを犠牲にしたテクニック&スピードタイプ。カシウスはパワーに重点を置いたバランスタイプだ。だが、他の部分が拮抗しているがために突出している部分の戦いとなるのだが、それではケイジはカシウスと相性が悪い。足りない力を補うためのカウンターがカシウスには通じないからだ。
正に万事休す。その言葉が脳裏にちらつき始めた時だった。
「……お前達、まさかもう手がないとか考えていないだろうな?」
『『!』』
カシウスがエステル達に向けて言葉を放つ。その声に含まれていた感情わ落胆だった。
「戦う前にはあれだけ威勢のいいことを言っていたが……少し劣勢になるとそれか? 何故だ? リベールの危機ではないからか? それとも、俺が自分の知っている者だからか? 」
「そ、そんなわけ……!」
「ならば、お前達から『俺を倒して勝つ』という気概が感じられないのは何故だ」
エステルの反論をカシウスがピシャリと閉じてしまう。
「ヨシュア。お前は始めから俺の攻撃をいなすにはどうするかしか考えていなかったな? リシャール。お前はそもそも俺には敵わないと考えているだろう。ケイジ。お前は仲間を助けることばかりに気が行き過ぎだ。ケビン神父。あなたはこの世界の真実に最も近い場所にいるはずだ。なのにあなたが弱気でどうする。
そして、エステル。俺の気に呑まれてどうする。俺がお前より強いのはわかりきっていたことだろう。そもそも、お前の敵がお前より弱いことなどあったか? そうでなければ、お前は、お前達はどうやってそれらを乗り越えてきたんだ?」
図星を突かれたのか、一人としてカシウスに言葉を返せる者はいない。皆、心の何処かで思っていたからだ。
『カシウスこそが、リベール最強なのだ』、と。
「……一つ、いいことを教えてやる。『自分を信じない者が、何かを為すなどあり得ない』」
「!」
「そしてもう一つ。『勝利を信じない者に、女神は決して微笑まない』」
『『!!』』
「自分を信じない者に何ができる? 勝利を信じない者に何が起きる? 言っておくが、奇跡は待っていて起きるものじゃない。諦めず、投げ出さず、最後まで意地を張り通した者にだけ起こせるものだ。
もし、お前達が俺に勝つことが奇跡だと言うのならば、既に勝つ気概のないお前達に何が起こせると言うのだ!! 」
カシウスの烈吼に何も返すことが出来ない。だが、エステルとケイジは武器を握る手にかなりの力がかけられていた。
それを見つけたカシウスは、全身に凄まじいほどの闘気をみなぎらせながらニヤリと笑う。
「お前達に勝つ気がまだ残っているというならば、この一撃、凌いでみせるがいい!!」
カシウスが闘気を開放する。すると、その闘気が生きているかの如く形を作り、跳躍し、回転しながら向かってくるカシウスに纏われる。
その闘気が形を作ったものはーー神鳥・鳳凰。
「ーー奥義! 鳳凰烈波ぁぁぁ!!!」
闘気の爆発が、空間を埋め尽くした。