英雄伝説・空の軌跡~銀の守護騎士~   作:黒やん

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『剣聖の試練』

澄んだ金属音と共に、周囲に凄まじい余波の爆風が吹き荒れる。

ケイジとカシウス。白烏と剣聖。理に至り、その理すら越えんとする者同士の激突は一撃でそこまでの余波を導いていた。

 

「今ので一人くらい……エステルくらいは落とせると思ったんだがな」

 

「ふざけんな。俺が向かっていくの予想して、カウンター出来ないように抑え込む感じに棍を合わせてきたのはどこの不良中年だよ」

 

こんな軽い会話を交わす間に、数十合は刀と棍を交わし合う。その度に澄んだ金属音とは不釣り合いな衝撃が空気を震わせるが、二人はそのやりとりをさも当たり前のように行っていた。

 

ケイジの唐竹割りの斬撃をカシウスは半歩下がることでかわし、そのままケイジの身体の中心……鳩尾を狙って突きを繰り出す。

攻撃後の技後硬直を狙い、更に突きという避けやすいが、初動が早く防御しづらい攻撃。通常ならばまず避けられるはずのないその一撃を、ケイジは刀を振るった勢いを利用して右方向へと半身になりることで回避した。それだけでなく、左手で伸びきった棒を掴み、右手に持つ白龍を逆手に持ってカシウスに斬りかかろうとしたところで……ケイジは攻撃を止め、棒を持ったまま跳躍する。

瞬間、動きを止められていたはずの棒は大きな円を描くように振るわれる。遠心力によって振り回されたケイジは、されど絶妙なタイミングで手を離してヨシュア達の近く、初めの位置とほぼ変わりない位置へと降り立った。

 

「ふぅ……一撃くらい入れさせてくれないか? これでも親としてのプライドがだな……」

 

「寝言は寝てから言え。痛いのは嫌いなんだよ」

 

「当てさせるつもりは毛頭ない、と……」

 

『………………』

 

言葉を交わすのは……交わせるのは、ケイジとカシウスのみ。その他のメンバーはあまりのハイレベルなやり取りに言葉を失ってしまっていた。

それはそうだろう。どこの世界にコンマ一秒のズレも許さずに相手の動きを読んで先回りし、そしてその動きが読まれていることすら読んで行動する者がいるだろうか。多くとも両の手で数えられるほどしかいないであろう。その内の二人が織り成す武の極致に、四人は言葉を発することが出来なかったのだ。

 

「ボーっとしてたら一瞬で持ってかれるぞ」

 

『!』

 

「いくらあの不良が強いと言っても、俺達には越えるしか道は残ってねぇんだ。やるしかねぇだろ」

 

「……そうだね。その通りだ」

 

ケイジの言葉に正気を取り戻したのか、ヨシュア達は自分の武器をそれぞれ構え直す。

それを見たカシウスは、口元に小さな笑みを浮かべた。

 

「そうだ。向かってこい。俺はここだ。俺という壁はここにあるんだ。恐れるな。呑まれるな。時代を変えてきたのはいつだって諦めの悪いバカ達だ。

……俺というリベールの『古い時代』を越えて、お前達の『新しい時代』を創ってみせろ!!」

 

カシウスの纏う闘気(オーラ)が一層強くなり、次の瞬間にはカシウスの姿が掻き消えていた。

 

「なっ!?」

 

「ボーっとすんなって言ってんだろうが!!」

 

四人が気付いた時には、エステルの目の前でケイジの刀がカシウスの棒を叩き落としていた。

『雷光撃』……カシウスの凄まじい身体能力から繰り出される神速の打撃は、辛くも同じく神速を持つケイジによって防がれた。

 

「やはり……速さではお前に劣っているか」

 

「それ以外じゃあ圧倒してやがる癖に……エステル!」

 

「わかってるわよ! はぁっ!!」

 

気合いの声と共に、エステルの渾身の一撃が降り下ろされる。当たればそれなりのダメージは……と言ったところだが、やはりというかエステルに手応えはない。エステルを嘲笑うかのようにカシウスはケイジの拘束から抜け出し、軽々とエステルの一撃をかわしていた。

 

「ハッハッハ。まだまだ甘いなエステル」

 

「ぐぅっ……他の人に言われても次はってなるけど、お父さんに言われるのはものっすごくムカつく……!!」

 

「チッ、一撃くらい当てろやポンコツ脳筋娘」

 

「あんですってぇー!?」

 

父と仲間にからかわれて怒り心頭なのか、額に青筋を立てて叫ぶエステル。なんとも哀れである。

 

「ハッハッハ。まぁ、間違っちゃいない……なっ」

 

カシウスが笑いながら棒を振り上げると、鈍い金属音が鳴り響く。その音を響かせた正体は、今まで気配を殺していたヨシュアであった。

 

「雑談の最中に不意討ちは酷くないか?」

 

「こうでもしないと父さんに一撃すら入れられそうにないからね」

 

「ケイジ、息子が冷たいんだが」

 

「良かったな。あんたの教育の賜物じゃねぇか」

 

カシウスがわざとらしく泣き真似をすると、その隙を見逃すかとばかりにケイジ、ヨシュア、リシャールの三人が同時に斬りかかり、ケビンはアースランスを発動させる。だが、やはりカシウスはそれすらも予測していたのだろう。バック宙でかわしながらメンバーを手玉に取る。

 

「やはりな。お前達なら躊躇い無く殺りにくると思ったぞ。……躊躇いが無いところに心は傷付いたがな」

 

「そのまま身体ごと消えさっちまえばいいのに」

 

「たまには優しさを見せて欲しいんだが!? 泣くぞ!? 」

 

あくまでからかうスタイルを崩さないカシウスに、流石にイラつきだしたのか、今まで以上に辛辣な言葉を吐くケイジ。言葉には出さないが、それは他のメンバーも同じだろう。

何しろ、あれだけ手段を使い尽くしたと言うのにも関わらず、未だにカシウスには傷一つ付けられていないのだ。いくらカシウスが攻めに転ぜず防御に専念しているとはいえ、これは気分の良いことではない。

 

ヨシュアとリシャールが同時に仕掛け、ケビンがアーツで援護しながら、エステルが時折強烈な一撃を叩き込む。されどカシウスは同時攻撃を軽々と捌き、アーツの発動範囲外に逃れ、嘲笑うように紙一重でエステルの棒を回避する。

 

「まだまだ甘いな」

 

「そうかい。なら、こいつはどうだ?」

 

「!」

 

だが、そこに叩き込まれたケイジの一撃はそうはいかない。同じ理の境地に至った者の一撃は流石に不安定な体勢で完全に回避しきるのは難しかったのか、手元に手繰り寄せた棒で防御する。

 

「ふぅ……危ない危ない」

 

「……ディープミスト」

 

ケイジの宣言と共に発動したのは霧を生み出す譜術。カシウスの棒から重さが無くなると共に、辺りが霧に包まれる。

 

「(……気配が読めない。というよりはケイジの譜力とやらが辺りにばらまかれているせいかところ構わずケイジの気配がすると言ったところか……)」

 

普段ならば気配を読むことで相手の位置を知ることが出来るカシウスであっても、気配の塊とも言える譜術の立ち込める空間ではそれができない。

かと言ってこの状況下で動くのは罠にかかりに行くようなものだ。罠を食い破る自信はあるが、それではカシウスが面白くない。戦意を折るのは下策なのだ。

 

その中で、唐突に自分に向かってくるより強い気配をカシウスは感知した。

恐らく、エステル辺りが待ちきれなくなってしまったのだろう。未熟な上に少し堪え性のない性格の娘だ。致し方ないとは思いながらもカシウスはきっちりとカウンターを合わせる。

そしてカシウスの手には、きっちりと手応えが返ってきた。……脆い、氷を壊したような感触の、だが。

 

「!?」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

烈昂の気合いと共に、エステルが渾身の一撃……『金剛撃』をカシウスに叩き込む。

今までかわし続けられた分、恨みもこもった一撃が良い音を響かせて、確かにカシウスの右肩に直撃する。

 

ケイジ達の仕掛けたことは簡単だ。ケイジの気配が立ち込める霧の中に氷人形(ゴーレム)を盾にしてエステルを投入する。ただそれだけだ。

普通からすれば恐らく気付くことすらなく氷人形(ゴーレム)に斬られていたであろうが、そこは《剣聖》とすら呼ばれるカシウスだ。わずかな気配の差にも気付き、適切な対処を……適切すぎる対処をとった。とってしまった。

氷人形(ゴーレム)の持つほんのわずかな譜力を読み、カシウスはそれを潰す。そうして出来たカシウスの技後硬直をエステルが狙い打ったのだ。

 

「やたっ! 」

 

「調子に乗んな。“まだ”一撃だ」

 

「そうだね……」

 

少し舞い上がりかけるエステルをケイジとヨシュアが抑え込む。

 

すると、霧の中心から竜巻が巻き起こり、速攻で霧が吹き飛ばされる。

 

「……フフ、流石にお前らを舐めすぎていたようだな」

 

声音に嬉しさを満面に込めながら、カシウスは高速で棒術具を振るいながら笑う。

 

「見の姿勢に徹していたことは謝ろう。ケイジにしか大した警戒を見せなかったこともな。……だから、この先は一切容赦をしない。文字通り……俺を、越えてみせろ」

 

先程以上の速度で棒術具を振るうと、霧は完全に払われてしまう。

 

本当の死闘は、ここから始まる。

























お父様がナイトメアモードに入られましたー

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