「みんな……」
フェイトは目の前に立つ三人を見る。後ろを振り返ると何かを詠唱しているリクもいた
「『
「そう、なんだ……」
「さて……こっからは俺らの仕事だ。お前はリクと一緒に下がってろ」
そう言うと、ケイジは一歩前に出る
「ま、待って!!私も一緒にーー」
「駄目だ。今回ばっかりは分が悪ぃ……お前の母さん、まさかとは思ってたが……悪魔に憑かれてやがった」
「………え?」
ポカンとなるフェイト。ケイジはその頭に軽く手を置く
「だから……お前は待ってろ」
そして、ケイジはケビン達を追いかけるように走り出した
ーーーーーーーー
「……ケビン」
「ああ……奴さん、えろぅ厄介な
一方、先行したケビンとリースはプレシアに憑いた悪魔と戦っていた
ケビンがアーツや時の魔槍で悪魔を穿ち、リースが法剣で悪魔の四肢を切り裂いていくが、その度に即座に再生してしまう
今はケイジの
「……空の女神の名に於いて、選別されし七耀此処に在り。識の銀耀、その輝きを以て彼の者の真の姿を我に示したまえ……!!」
そこに聖句を唱えながらケイジが入ってくる。ケイジは既に写輪眼、更には
「……チッ、厄介な…」
「どうや?わかったんか?」
「面倒なんてレベルじゃねーぞ……まさか『
「ベルフェゴールやと!?悪魔の中でもとびっきり強い奴やないか!!」
「『七罪』の一つ……『怠惰』を司る最上級の悪魔……!!」
ケイジが言った悪魔の正体に戦慄するケビンとリース
「……でも何でフェイトちゃんのオカンがそんな奴に?」
「憑かれた理由は知らねぇが……ベルフェゴールが憑いたってんならああなってんのも納得がいくだろ」
ケイジはフリーズランサー、ケビンはデスパニッシャーでベルフェゴールを串刺しにする
勿論、ケイジが『認識』を操作しているのでプレシアにはノーダメージである
「『人間嫌い』、それと『女性に不道徳な心を持たせる』……だよね?」
「ああ。本来なら上に『性的に』って付くが……そこはどうにか抑えたみたいだな」
リースがインフィニティスパローでベルフェゴールを撹乱し、その隙にケイジが鳳仙華、閃華、そして切り返しの瞬桜と次々に攻撃を叩き込む
しかし、破壊力が足りないのか、すぐにベルフェゴールは再生してしまう
そのままベルフェゴールは再生した腕をケイジ達に向かって振り下ろすが、『怠惰』の特性故か、攻撃はそれほど速くないので何とか避け続けた
「……面倒だな。あの再生能力」
「硬くはないんやけどなぁ……下手するとこっちの余力が先に無くなってまうで」
「……聖痕は?」
「「もう試した」」
ケイジの『天羽々斬』による多連同時斬撃も、ケビンの『魔槍ロア』による広域殲滅も、当たった側から回復されては本来の力を発揮出来ない
リーシャの『デュランダル』ならばあるいは何とかなったかも知れないが……無い物ねだりしていても仕方がないだろう
「……仕方ないか。あんまりやりたくないが……ケビン、リース。ちょっとだけ時間稼いでくれ」
「……何や考えがあるみたいやな」
ケイジがちらりと後ろを見ると、バルディッシュを構えているフェイトと、背後で多数の雷気を帯びた剣を造り出しているリクが頷いた
「ああ。これで決める」
ーーーーーーーー
「……………」
フェイトがバルディッシュに魔力を集める。その度にフェイトの周りにスフィアが作り出され、フェイトの周りを旋回する
……ケイジは『待ってろ』とは言ったが、『何もするな』とは言っていない。なら、今私に出来る事は……準備をする事だけ
ケイジがこっちに目配せをする。それに私と、私の隣で剣を造り続けているリクが頷く
「……今回、俺とアイツらはお前のサポートだ。良かったじゃねーか。あんな豪華なサポート陣聞いたことねーぞ?」
「うん……本当に感謝してる」
「感謝ならあのバカにしとけ。多分アイツなら多少無理すれば簡単にあの悪魔を滅せられるはずだろうしな」
「うん」
……実を言うなら、ケイジには『天照』や『神威』、『インディグネイション』以外に超速再生する敵を倒す手段が無い。なので今の枷付きのケイジには倒せないのだが……それは割愛
「……ま、結局これはお前の問題なんだ。お前が決着付けて、お前が納得する終わりでないと何の意味もねー」
……そう。この戦いはフェイトが全てを終わらせなければ何の意味も無い
フェイトはリクの言葉に頷くと、再びスフィアを作る事に集中した
ーーーーーーーー
「うあっ……!」
「リース!!」
その頃、ケビン達は苦戦を強いられていた
ケイジが一旦離脱した事でプレシアにダメージ……致命傷が入るかも知れない大威力の攻撃が出せなくなり、それがわかったのかベルフェゴールが攻勢に出てきたのだ
回復力は並み以下にまで下がったのだが、それをものともしない程のパワーとスピードに、ケビン達は防戦一方だった
そして今、防御の上からでも吹き飛ばされたリースにベルフェゴールが追撃を掛ける
それにとっさに反応したケビンが間に割って入るが、当然の如く弾き飛ばされ、壁に叩きつけられる
ケビンは頭を打ったのか、そのまま動けない
そしてベルフェゴールは今度こそリースに止めを刺そうと……
「ーー
突然ベルフェゴールの身体に閃光が突き刺さる
「……リク…!」
「リース!ケビンの所まで退け!!」
リクに言われるがまま、リースはケビンの所へ移動する
それを確認したリクは……
「ーーSo,I was pray……『
最後の詠唱を終えた
その瞬間、無機質な壁に囲まれた部屋から、歯車が天を覆う果てなき荒野へと景色が変わる。その中にいるのはケイジ、リク、フェイト。そしてプレシアとベルフェゴールのみ
「我が深淵に宿りし白銀の刻印よ……其は女神が至宝なり」
景色が変わるのとほぼ同時にケイジが聖句を唱える
世界が塗り替えられた事で枷による制限も無くなったのだろう、その眼は万華鏡写輪眼に変化していた
「汝は我が手の上に在り。汝は我が深淵に在り。されば汝は我なり。我は求める、汝が輝きを以てその本懐を為せーー!!」
ケイジの聖句が終わると共に、ベルフェゴールが光に包まれる
その光が晴れると、ベルフェゴールのすぐ側にプレシアが倒れていた
……幻を司る至宝、《
その力を使ってケイジはプレシアをベルフェゴールから完全に切り離したのだ
ケイジはプレシアを縮地で回収し、プレシアという核を取り戻そうとするベルフェゴールをリクが抑える
「リク!!」
「応!I am the bone of my shord ……『
突然現れた鎖が意思を持っているかのようにベルフェゴールを拘束する
「ベルフェゴールは元は神話の神……神性を縛られるのはさぞかし辛いだろうな?」
そして、動きを完全に拘束されたベルフェゴールの正面には……フェイトがいた
その周りには、《
……これが、
空間を把握し、掌握する事でどれだけ速いスピードでもコントロール出来る。どれだけ多くのスフィアだろうと完璧にコントロール出来る
その力によって、フェイトは自身の限界を越えた。以前は67基が限界だったスフィアの統制……今、彼女が展開しているスフィアの数は、なんと108基
そのスフィアの全てが、まるで一つの天体のように、フェイトを護る守護星のように旋回している
「アルカスクルタスエイギアス……疾風なりし雷神、今導きの下撃ちかかれ……其れは天を彩る星々の輝き。天を形成する明星の光。星よ……我が力となりて天を呑め。我が汝の天となろう。我が汝の光となろう」
長い詠唱と共に、スフィアが次々とベルフェゴールを取り囲む。もはやベルフェゴールの姿は見えない。そこにはただ、スフィアの塊があるだけだった
そして、スフィアが眩く光出す。その時を今か今かと待つように
「全天108星……今魔星となりて敵を討て!!」
《PhotonLancer Extreme Sift 》
瞬間、光が爆発した。否、爆発したかのように見えた
108基ものスフィアが密閉された中に向かって一斉に閃光を放ったのだ
およそ15秒にして、その発射総数は……11340発
それでもまだ、スフィアは消滅しない。逃がさないとでも言うように、姿すら見えないベルフェゴールを拘束し続ける
それを見るフェイトの手には……溢れる魔力を抑えるように帯電しているバルディッシュが握られていた
「もう、終わりにしよう……悲しい記憶も、苦しい記憶も。私の心の隅にいつまでも残っている醜い感情も。私は前に進むから。前に進みたいから……だから……」
《Plasma Saver 》
バルディッシュから伸びた雷の剣が、スフィアに突き刺さる
剣は徐々に大きくなっていき……スフィアの塊をも完全に呑み込んだ
「今、ここで……誰かの代わりだった私とは、生きる事に意味を求めた私とは……サヨナラだ!!」
剣の光が一層強くなっていく。それに比例するようにスフィアの輝きも強くなっていく
「ライトニングクルセイド……ブラストーーーーエンド!!!」
そして、全てが光に包まれた
ーーーーーーーーー
「……………」
「……母さん」
フェイトに背を向けて立ち尽くしているプレシア。その近くではケイジが片膝を立てて座っていた
ケビン達は空気を読んだのか部屋から出ていっている。ケイジはどうやら動けないようで置いていかれたようだ
「…………」
「母さん」
「…………今更」
プレシアがようやくその重い口を開く
「今更、どんな顔をして貴女を見ればいいのか分からないわよ……。私に貴女の母を名乗る資格なんて無いわ」
拒絶。しかし、それは今までとは全く毛色の違う優しい拒絶だった
「私は……それだけの事をしたのだから……」
プレシアの足下にポツリと雫が落ちる。プレシアは、フェイトに背を向けたまま動かない
プレシアには、ベルフェゴールに憑かれていた時の記憶が残っている。フェイトにした事も、記憶に焼き付いているのだ
取り憑かれていたのだから仕方ない……そう言ってしまえばそれだけだろう。だが、プレシアにはそれが出来なかった。それだけは出来なかった
悪魔に取り憑かれたのも結局は自分の責任なのだ。それを全て無かった事にして何食わぬ顔でフェイトに接するなど……プレシアには出来なかった
そして、そんなプレシアを……フェイトは背中から、優しく抱き締めた
「………あ…」
「私は今、ここで生きてる。だからここにいる。人が生きる意味なんて……きっと、それだけでいいんです」
それはアリシアに言われた言葉。フェイトに生きる意味の無意味さを教えてくれた言葉。最初で最後の……姉からのメッセージ
「それと同じですよ。貴女が私を生み出してくれた。だから私は貴女を母と呼ぶ……だから、貴女は私の母さんで、私は貴女の娘です。ただ、それだけの事なんです」
「………こんな私でも……まだ、母と呼んでくれるの……?」
震える声で、プレシアはフェイトに言う
「……同じ事を言わせないで下さいよ。私は誰が何と言おうと貴女の娘です。それと同時に……貴女は誰が何と言おうと私の母さんなんですよ」
「っ……!!」
プレシアの嗚咽が徐々に大きくなる
「あり………がとう…………!!」
その時のプレシアの涙は、とても綺麗で……清らかなものだった
ーーーーーーーー
ポゥ………
「!」
「……時間のようね」
突然、プレシアの体が蒼く光出す
「母さん……」
「そんな顔をしないで、フェイト。元々私は……もう現世には居なかったのよ」
少し暗くなるフェイトをプレシアが宥める。決して見れる事はないと思っていた母娘の絵が、そこにはあった
「少しの間だけど……貴女とちゃんと話ができて楽しかったわ」
「うん……私も」
「ケイジ君……だったかしら?貴女も好い人を見つけたみたいね……もっと早く彼に出逢っていれば私の運命も変わっていたのかしら」
「どうだろうね……ケイジは気分屋でバカだからね」
ケイジが少し遠くにいる事を良いことに言いたい放題のフェイト
プレシアの光が強くなっていく
「そうだ……一つ伝え忘れていたわね。貴女の名前の由来を」
「………え?」
「貴女は自分の名前をプロジェクトF.A.T.Eの名前からとったと思っているようだけど……それは違うのよ
貴女の誕生は正直予想外だった……確かにアリシアの遺伝子から貴女は生まれたけど、それは半分偶然のようなものだった。だからこそ……私は貴女にフェイトと名付けたの。神の悪戯で生まれた貴女が、クローンという逆境に負けずに、自分の意思で。自分の力で。誰かの代わりじゃない、自分だけの運命を切り開けるように……そう思って貴女を『
「!!」
今度はプレシアがフェイトを抱き締める
「貴女は誰かの代わりとして生まれたんじゃない……それは貴女が生まれた瞬間にいた私が保証するわ。だから、貴女は貴女の信じた道を進みなさい。私の娘なら出来るわね?フェイト」
「うん……!」
「フフ……出来る事なら貴女の花嫁姿も見たかったのだけれど……流石にそれは欲張りすぎかしらね
フェイト……頑張って幸せを掴みなさい?貴女も私の自慢の娘なのだから、ね?」
「うん……ありがとう……母さん……!!」
そして、プレシアは光となって消えていった
「……………」
フェイトはしばらくその場に立ち尽くしていたが、突然力が抜けたかのようにその場にへたりこむ
「うぁ……………」
今まで、自分の名前が嫌いだった。名前を呼ばれる度に自分はクローンだと、アリシアの『
「うぇぇ…………」
けれど、違った。他でもない母さんが、そう教えてくれた
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
だから、今なら。自分の名前を。自分自身を
『フェイト』を、少しだけ好きになれる。そんな気がした
「何だ今の感じ……何か一気に疲れが増した気が………
いや、まっさかなぁ……いやいやナイナイナイナイ。………あ、やべ、落ち……」
ライトニングクルセイド
Sクラフト
単体・気絶100%・三段階攻撃(ヨシュアの双連撃の三回ver.のSクラフト版と思って下さい)
フォトンランサー×11340、プラズマセイバー、大爆発の三段階攻撃。多分黒の作中最強(最凶)の技。彼の防御に定評のある白い魔王様でも、防御に極振りしたジンさんでも、鋼の聖女でも一撃で確実に落ちる
え?リリカル世界?星が2~3個一編に消えるんじゃないかな?