英雄伝説・空の軌跡~銀の守護騎士~   作:黒やん

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月の扉『白烏の唄~終章~』

「……………ここは……」

 

 

目が覚めると、何故か俺はベッドで寝ていた

 

 

「…俺は確か………ッ!!」

 

 

頭が動き出すと、すぐに全てを思い出す

 

 

誰一人立っていない戦場、治療したはずなのにそのまま倒れている怪我人達、手術着のままで体の一部が吹き飛ばされている仲間達、そしてーー

 

 

 

 

 

ーー血塗れで倒れているジェイドさんとリーヴを

 

 

 

「~~~!!」

 

 

それを思い出した瞬間に猛烈な吐き気に襲われる

 

 

……今まで、多くの人の治療に関わり、その分人の死と言うものも経験したが、心のどこかではここではないどこか遠い所で起きたことのような感じだった。例えるなら、TVの救急医療番組の特番を見ているような感覚だったのだ。自分の周りや自分自身は大丈夫だと何の根拠も無いのに勝手にタカを括っていたんだ

 

 

それが、現実に起きた。起きてしまった。数時間前まで一緒に笑っていた人達が、たった一日で全員が帰らぬ人となってしまった

 

 

その事実を認めようとする気持ちと、拒絶する気持ちが頭の中でぐちゃぐちゃになって異常に気持ち悪い。それに何故か尋常じゃない寒気も感じる

 

 

そんな感覚に必死に耐えていると、静かに扉が開いて優しげな雰囲気を纏った女の人が入ってきた

 

 

「あら、目が覚めましたか。気分は……あまり良くなさそうですね」

 

 

「………………」

 

 

何か答えようとしたのだが、口を開いたら出てはいけないものまで出てしまいそうな気がして話せなかった

 

 

「フフフ、無理はしなくていいですよ。今はゆっくりお休みなさい」

 

 

女の人の言葉に甘えて、今は休もう

 

 

そう思って気を少し緩めた瞬間に、俺は意識を失った

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

俺がここ…マーシア孤児院に保護されてから早一週間が経った

 

 

俺を見つけた張本人でここに連れてきた、先日の女の人……テレサさんの夫のジョセフさんによると、俺はどうやら無意識にマノリアにたどり着いたあげくに風車小屋の前でぶっ倒れていたらしい。それでマノリアの人達に助けられてどうしようかと悩んだ結果、こう言うときには子供とはぐれた親が真っ先に訪ねる孤児院に預けようと言う事になり、ジョセフさんに任せたそうだ

 

 

そして、ようやくそれなりに動けるようになった頃、ジョセフさんがまた新しい子供を見つけて保護してきた

 

 

……すみませんジョセフさん。そいつ、俺にとっての地雷なんです……

 

 

「……ケイジ?」

 

 

「………………」(汗)

 

 

そこにいたのは、最後までアリシアさんと一緒に俺を説得しようとしていた我が幼馴染みだった

 

 

「……ケイジだよね?」

 

 

「落ち着けクローゼ。流石に死ぬから!息が……っ!!」

 

 

俺の姿を確認するや否や、仮にも鍛えていた俺が一切反応できないようなスピードで俺の胸ぐらを掴みあげるクローゼ。……お前絶対人じゃねぇよ……

 

 

「何でここにいるの!?何でお城から出て行っちゃったの!?おばあさまもみんなも怒ってたんだよ!?」

 

 

「ちょ……ゆら……すな……って!……!!」

 

 

息ができない+脳シェイク=三途の川への片道切符

 

 

「あ………ご、ゴメン」

 

 

「……………」

 

 

死ぬかと思った。マジで

 

 

……というかそこの夫婦。ニコニコしてないで止めろよ。「仲よしだね~」じゃねぇんだよ。三途の川渡りかけたんだぞ!?逆側の岸でジェイドさんがインディグネイションの詠唱してるの見て命懸けで帰って来たけどな!!

 

 

「そ、それでケイジはここにいるの?」

 

 

「それはこっちの台詞だ。クローゼこそ何でここに?ユリ姉はどうした?」

 

 

確かクローゼには護衛としてユリ姉が張り付いていたはずだ。こんな状況なんだから特に。

 

 

戦争中に王族から護衛を外すなんてまずありえないからな

 

 

……そんな事を考えて、さっきから一言も発しないクローゼを見ると、服をきつく握って涙目になっていた。何でさ

 

 

「グランセルに帝国の人が攻めてきて、それから逃げてる途中にユリアさんとはぐれちゃって……それで、どうしたらいいかわからなくなって……」

 

 

ぐすぐすと鼻を鳴らして泣き始めてしまうクローゼ

 

 

……ったく

 

 

「泣くなよ…」

 

 

「だって…」

 

 

「大丈夫だ。俺がお前を守ってやる。お前を泣かせる奴は全員俺が叩っ斬ってやるよ」

 

 

「え…」

 

 

「だから泣くんじゃねぇよ…結局ユリ姉に怒られんの俺なんだぞ?」

 

 

少しふざけるように肩を竦めながら俺はクローゼにそう言う

 

 

すると、クローゼは俺の芝居がかった仕草がおかしかったのか、泣き止んだ

 

 

 

「ふふ…わかった。でも…」

 

 

「…あ?」

 

 

「ちゃんと私の事、守ってね?」

 

 

 

そう、笑った

 

 

……そうか

 

 

リーヴ。ようやくわかったよ。お前が口癖みたいに言ってたことの意味が

 

 

「……ああ、約束だ」

 

 

 

『この人だけは何があっても護る……そんな人に出会えよ、ケイジ。人の意志ってのはバカにできないぞ?護りたいものが側にいるだけで、俺達人間はどこまでも強くなれる。忘れるなよ?護りたいものは俺達の枷じゃない。俺達の可能性なんだ。特に俺やお前みたいなバカにとっちゃな』

 

 

お前の言う通りだよ……護るものが、護りたい人がここにいる。それだけで……信じられないくらいに、力が湧いてくる

 

 

「俺が、お前を護ってやる。絶対に」

 

 

「うん……///」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、ボースの西にある山脈の麓に滞在していた、帝国軍のレイストン要塞急襲部隊が突如失踪。連絡がつかない事を怪しんだゼクス・ヴァンダール少将が直々に安否確認に言った所、山脈は氷で閉ざされており、侵入が不可能。遠目で確認した部隊のキャンプは氷に閉じ込められるようにして破壊されていたという

 

 

後にその山脈は、“霧降り峡谷”と名を改める事となる

 

 

 

 

そして、“白烏”の名が広まるのも、ちょうどその事件の後からだった


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