英雄伝説・空の軌跡~銀の守護騎士~   作:黒やん

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月の扉『白烏の唄~後章~』

「…………で、結局どこに行くんですか」

 

ジェイドさんに夜明け前に無理矢理起こされた

 

……………だから俺低血圧なんだって。早起きとかマ ジで苦手なんだってば

 

「フフ………ですから秘密です」

 

「……三十過ぎのオッサンが可愛らしく言っても「 何か言いましたか」スミマセン」

 

槍はヤメテ……

 

「全く……ホラ、見えてきましたよ」

 

「!……あれは………」

 

到着したのは、最近この辺りに布陣した帝国軍の部 隊の陣地だった

 

ーーーーーーーー

 

「ジェイド・ハルファスと申します。この度は会談 の席を設けて頂いてありがとうございます」

 

「……………ケイジ・ルーンヴァルトです」

 

「ああ、これは丁寧な挨拶を………ゼクス・ヴァンダ ールと申します。皇帝より少将の位を任された者で す」

 

最近派遣された帝国軍の内、位の高いヴァンダール 少将の陣地に来たケイジとジェイド。

 

予め高位階級の軍人に許可を取れば下位の軍人は従 わざるを得ない事を知っているからの判断だった

 

「しかし…………『レミフェリア公の懐刀』と呼ばれ た貴殿が新医術の実験部隊にですか………世の中何が 起きるかわかりませぬな」

 

「フフ…………昔の話です。今はしがない一医者です よ。それより、本題に…………」

 

その後は、特に目立った事もなく(ジェイドの腹黒 さが垣間見えたくらい)、ヴァンダール少将隊と不 戦協定、医療行為の許可協定を結んでキャンプに帰 る事になった

 

ーーーーーーーーーー

 

「いや~、相手が話のわかる人でよかったですねぇ 」

 

「よくいいますよ……半分脅し入れてた癖に………」

 

ジェイドは終始『許可が出なければ、レミフェリア は帝国に以降の医療技術の公開はしない』的なニュ アンスを入れていた……これが脅しじゃなくて何な のだろうか

 

「まぁ、ああでもしないと我々のような部隊は立場 が危ういんですよ。手術中に強襲を受けて患者共々 ポックリ……なんて嫌でしょう?」

 

「まぁ、それはそうですね………………!!?」

 

和やかに会話していた二人だったが、キャンプが見 えてきた辺りで凍り付いたように立ち尽くしてしま う

 

キャンプから、黒い煙が立ち上っていた

 

「ジェイドさん!!」

 

「ええ!急ぎましょう!!」

 

二人は、全力でキャンプに向かって駆けて行った

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「これは…………」

 

キャンプに戻った俺とジェイドさんの前に飛び込ん できたのは、破壊されたテントや食糧庫、そこかし こに倒れている人………悲惨な光景だった

 

「……………」

 

ジェイドさんが倒れている人に近付いて触診する

 

「………ジェイドさん」

 

「……………」フルフル

 

力無く首を横に振る…………やっぱりか

 

「………とにかく、生き残った人達を探しましょう。 リーブがいたはずですから確実に何人かはどこかに 隠れている筈です」

 

「わかりました」

 

そして、俺達は手分けして生き残りを探し始めた

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「リーブ!!」

 

「!……んだよケイジか…驚かすなっての」

 

探し始めて約三十分、外れの森の入口の所でリーブ と数名の医療スタッフ、三人ほどのリベール軍人を 見つけた

 

「状況は?」

 

「見ての通りだよ。コイツら連れて脱出すんのが精 一杯だった…………ほらよ」

 

「………っとと」

 

投げられた白い長刀と蒼い小太刀を受け取る

 

……蒼白塗燕龍大小拵。俺が城を出る一月前にあの (ジジイ)から速達で届いた刀

 

こっちに来てからは自衛手段ということでリーブと ジェイドさんにしごかれてたから俺もそれなりには 戦える

 

「これからどうすんだ?」

 

「とにかく、レミフェリアに戻るにせよ、コイツら を安全な場所に送ってからだな…………そういやジェ イドはどこ行ったんだ?」

 

「ああ、ジェイドさんならーーー」

 

パァン………ッ

 

突然、キャンプ跡の方から銃声が聞こえた

 

………あそこにはまだジェイドさんが………

 

「ッ!!」

 

「おい!!待て!!…………クソッ、聞いちゃいねぇ 。お前ら!とにかくリベール軍人の陣地に行け!リ ベールなら確実に保護してくれるはずだ!」

 

そう考えた瞬間、俺は弾かれたように走り出してい た

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「くっ……………油断、しましたか……!」

 

ジェイドが足を引き摺りながら小屋の影に移動し、 そのまま座り込む

 

どうやら、足を撃たれてしまったようだ

 

「ジェイドさん!」

 

「!?ケイジ!?何故ここへ!?」

 

そこに、慌てた様子で駆けて来るケイジ

 

「こっちから銃声が聞こえたからまさかと思って… …」

 

「とにかく中に入りなさい!!そんな目立つ場所に 居たらいい的です!!」

 

いつになく厳しい声でケイジを影に入れようとする ジェイド。おそらく彼が動ける状態だったならば引 きずり込んでいただろう剣幕だ

 

その剣幕を感じ取ったのか、ジェイドに従って入ろ うとした…………

 

その時だった

 

パァン……ッ

 

「!!?」

 

「…ゲホッ…!」

 

バタッ

 

倒れるケイジ。そして次から次へと溢れ出す血

 

「オイ!!今の音は………!?」

 

そして少し遅れてリーブが到着し、息を呑む

 

「リーブ!!すぐに手術を!!今ならまだ出血は少 ないはずです!」

 

「……無理だ!!さっきの強襲の時に消毒済みの道 具が全部オシャカになっちまった!!」

 

「ですが黙ってケイジが死んでいくのを見るよりマ シです!私達のような大人が生き残ってこんな少年 が死に行くなど………冗談ではない!!」

 

いつもの冷静さが微塵も感じられないジェイド

 

「……………フゥーーー……」

 

そして、リーブは深く息を吐き、覚悟を決めた顔で 回復アーツをケイジにかけ続けるジェイドに向き合 う

 

「……ジェイド。そのまま回復アーツを俺にもかけ るようにして、ケイジを押さえててくれ」

 

「一体何を…………!」

 

非難の目をリーブに向けるジェイドだったが、リー ブの顔を見て何かを悟る

 

「……信じていいんですね?」

 

「ああ………必ず、ケイジは(・)救う」

 

そして、ジェイドがケイジの四肢の関節を的確に抑 え、アーツの詠唱を再開する

 

「……よし、やるか」

 

そして、リーブの掌がケイジにかざされた時に、ケ イジは意識を手放した

 

「…全く、手間かけさせやがって………」

 

「そう悪態つかなくてもいいでしょう。今はそれよ り………目の前の敵です」

 

「ハハハ!フラッフラのナリして何言ってんだお前 !」

 

「あなたこそ。私以上に倒れそうな顔してますよ? 」

 

「違ェねぇ。ま、俺達がぶっ倒れるのは………」

 

「「ここを襲ったクソ野郎共を殲滅(そうじ)した後だがな( ですがね)!!」」

 

大人達は、一人の子供の命の為に、目の前の敵に向 かって行く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………ん……」

 

太陽の光でいつものように目を覚ます

 

もう朝か………俺なんで地面で……!!

 

そこで、俺は昨日の事を思い出した

 

「たしか…………俺は腹を撃たれて………………………そう だ、ジェイドさんは………リーブは………!!」

 

体を動かそうとするが、上手く動けない。それでも 、ふらつきながらも小屋の外に出る

 

「!………これは……」

 

そこには、沢山の帝国兵の亡骸が転がっていた

 

槍、ナイフ、槍、槍、ナイフ、ナイフ、ナイフ、槍 、ナイフ…………

 

傷口から素早く死因を判断する………槍はジェイドさ ん、ナイフはリーブだろう。それも全て一撃で仕留 めていた

 

そしてしばらくは同じような光景が続く

 

そして…………

 

「………ッ!!」

 

見慣れた白衣が二つ、地面に倒れているのを見つけ る

 

すぐさま自分の体が動かないのも忘れて駆け寄ろう とするが、案の定すぐに倒れてしまう

 

「二人共起きろよ………何時かは知らないけど朝だぞ 」

 

頭をよぎる嫌な予感を振り払うように二人に話しか ける

 

「ジェイドさん………いつもの黒い冗談だったらいく ら俺でも怒りますよ」

 

返事はない。少しずつ嫌な予感が強くなっていく

 

「リーブ………いつもの冗談なんだろ?また俺をから かおうとしてんだろ?」

 

やはり返事はない。だんだんと嫌な予感が振りきれ なくなっていく

 

「もういい!!もう十分だ!!驚いたから!!今ま でで一番驚いたから!!だから…………………

 

返事、しろよ……………してくれよ……!!!」

 

漸く二人の側に着き、リーブを仰向けにする

 

リーブの顔は、とても満足そうな、何かをやりきっ た顔だった。その顔のまま…………冷たくなっていた

 

「………………………」

 

わかってた。本当はわかっていた

 

「…………うぁ……………………」

 

返事がないという意味を。二人がこんな質の悪い冗 談は言わないということを

 

………わかっていた。けど………認めたくなかった

 

二人が、『死んだ』と言う事実を

 

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァ ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!! !!」

 

俺は、その場で狂ったのではないかと思うほど叫び 続けた

 

 

………何故か、涙は出なかった

 

それから少しの間の事を俺は憶えていない

 

 


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