黒い瞳の同胞 〜イシュヴァール殲滅戦〜 作:リリア・フランツ
私達は他の地区や都市から集まってくる人達と合流しながら進んだ。
目指すはグンジャ。あそこなら昔からの防壁もあるし食糧も豊富だ。
そこでアメストリス軍本隊を叩く。
グンジャまであと数日のところで武僧の集団と合流した。西側の寺院に詰めていたそうだけど、急な知らせを聞いて駆けつけたそうだ。
その中の1人が私を見て叫んだ。
「おい!なんでアメストリスの女が混じっているんだ!」
やっぱり…と思いつつ私は答えた。
「私は混血です。父は生粋のイシュヴァール人でした」
「なら母親がアメストリス人か?」
思わず深い溜め息がでる。
「…違います」
「ふん。何が混じってるかわかったもんじゃないな」
ここ数日間の疲れもあった。少し苛ついていた私は。
「うるさいわね。その厳つい顔切り刻んでやろうか」
思わずカタナに手をかけた。
「………」
厳つい武僧も表情を消した。こいつ、強い…。
お互い構えたまま、ジリジリと間合いを詰める。
「やめぬか!同じ民族同士争うでない!」
武僧の師父らしい老人に止められた。ようやく冷静になった私はカタナを退いた。
殺すのはアメストリス人だけだって誓ったばかりなのに…。
厳つい武僧のおっさんも私を一瞥してから退いた。
それからの道中はお互い会話することもなく。
とりあえずは無事にグンジャまで到着した。
けど…。
グンジャは半分以上を占領されていた。
私たちは一般人をさらに奥地に逃がしてから戦線に加わることになり(ここでまた厳ついおっさんと一騒動あったけど割合する)さらに1日を浪費した。
グンジャはさらに厳しい状態に追い込まれていた…。
私たちは街の北側にいる。
戦力は私を入れても33名。人数的には圧倒的に不利。だけどイシュヴァールが得意とするゲリラ戦法ならば話は別。この少人数が逆に生きてくる。
「とりあえずは2人1組で移動するように」
師父を戦力に入れられない。32名。
それぞれ知り合いの武僧達が組んで消えていく。
そして。最後に残ったのは。
「………」
「………なんでよ」
一瞬イシュヴァラの神を斬り捨てたくなった。
お互い無言で戦場を駆ける。
2つ先の建物に人の気配。アメストリス人だ!
「ちょっと待って」
「…なんだ」
「あの大きい建物にアメストリス軍がいるわ」
訝しげに建物を睨む武僧。
「…何で解る」
「気配」
私を睨み付けた。
「シンの気配を読む術か?」
「…そう」
「テメエ、シンの人間か」
「………」
1から説明するのも面倒くさい。
「そう」
「…あそこは多民族国家だからな」
扉に目を向ける。
「前からは厳しい。2階にこいつを放り込む」
手にしているのは…炸裂弾。シン製。
「お嬢ちゃんはそこで見てろ」
そう毒づいて走り出す。
「おっさんは引退しなよ」
私も走り出した。
建物内で爆発。中の人間は堪らず外に逃げ出す。
つまりは敵自ら飛び出してきてくれる訳で。
易々と私は3人ほど斬り倒した。
1人を組み倒したおっさんが目を剥いている。
中から2人出てくる。まずは1人の喉を薙ぐ。頭を半ば失って倒れる。
その身体を盾にしながらもう1人の腹に…あれ?
予想した感触が無い。となりでアメストリス人が顔を素手で砕かれていた。
「邪魔するな!」
「…女が言う台詞か!」
そんな会話をしながら私は室内に炸裂弾を放り込む。
素早く建物から離れる。建物が轟音をたてて崩れたのはすぐ後だった。
私たちのゲリラ戦法は確実に成果を挙げていた。
アメストリス軍が警戒して街から後退しはじめている。
私はさらに最前線に進む。ついてきたおっさんが私に話しかけてきた。
「何であそこまで戦い慣れている?」
「シンで散々戦い方を叩き込まれた」
ランファンに火薬の扱いまで教えてもらった。まさか役に立つなんて思ってなかったけど。
「…世も末だ」
「何か言った?」
「嫁には行けねえっと言った」
「うるさい!」
気にしてるのに!
しばらくすると小屋があった。異様に警戒されている。何かある。
「お偉いさんがいるらしいな」
「………」
小屋を警備している兵を入れても…20名くらい。アンテナみたいなものも見えるから…。
「指令部?」
「可能性はあるな」
ならば話は簡単。
私は一気に走り出す。
正面からアメストリス軍を突っきる。
小屋の前にいた兵士を袈裟斬り。目があった兵士を蹴倒し。
小屋の中に炸裂弾を…。
あ。無い。
しまった!さっきので最後だ!
本気で焦る。これじゃ「殺して」と言ってるようなものだよ!
周りのアメストリス人の目が私に集まる。
そして。
閃光が煌めいた。
いきなり視界を奪われて狼狽しつつも気配を探る。
イシュヴァール人の気配が駆け寄ってくる。私を抱えあげ…どこ触ってるのよ!
何かを放り込む音。一気に走り出す。舌を噛んだ。
背後で小屋が爆発した。
「お前は阿呆だ」
う。何も言い返せない。
「…ごめんなさい」
「しかし。その阿呆のおかげで隙ができた。指令部を潰すことができた」
そう。本当に予想外の成果だった。
「俺も礼を言わねばならないな」
少し驚いた。てっきり怒鳴られるとばかり…。
「いい感触だった」
?
「結構あるじゃないか。着痩せするタイプか」
咄嗟に胸を隠す。
「…斬る!」
カタナを握りしめた頃には、あのおっさんは姿を消していた。
グンジャを制圧しかけていたアメストリス軍は初めて準将クラスの戦死者を出し。
動揺の中、一時的にグンジャから撤退した。
イシュヴァール人にとっては久々の勝利だった。
しかし。
私たちはまだ知らなかった。
「人間兵器」を。
国家錬金術師の存在を。