黒い瞳の同胞 〜イシュヴァール殲滅戦〜 作:リリア・フランツ
夕方近くになったと思う。
あれから父さんと母さんを埋葬して簡単なお墓もつくった。
「ごめんね…」
いろいろ言いたかったのに、出てきた言葉はそれだけだった。
シンから帰って故郷に戻って懐かしい人達と出会って…思い描いていた帰郷はあまりにも残酷に切り裂かれた。
いろんな思いが頭の中をぐるぐる回る。なんだか急に込み上げてきた私は…。
………。
お墓の前でしばらく時間を過ごした。
落ち着くと私は街を脱出するために行動を開始した。
暗くなってきて分かった。
街は包囲網が解かれ始めている。夜営の灯が街の交通の要所にしかないのだ。
これなら川から…いや砂漠を迂回すれば…。
考えを巡らせていると自然とそこにいた。
「こんなことになっても…覚えてたわ」
完膚無きまでに破壊された自宅。例え3年間不在であったとしても体はしっかりと場所を記憶していた。
「何か無事なものは…」
どうせ来るつもりだったし。何かめぼしい物はないか、と瓦礫に足を踏み入れた。
「こんなもんかな」
探してみると多少は形が残ったものもあった。
父さんや母さんの形見になりそうな物もあった。そろそろ街を出よう…。
カツン
「…?」
何か引っ掛かった。下を見ると黒っぽい棒状のものが埋まっている。
「………」
正直そのまま行こうと思ってた。ただ少し気晴らしがしたかった私はその黒っぽいものを蹴飛ばしてから先に進もうと思った。
ガギン
金属音。
しかも普通のものじゃない。相当硬いものだ。
気になった私は黒っぽいものを手にとってみた。
ボロリと崩れた炭の先に。
光があった。
それは一振りのサーベルだった。あれだけの猛火に晒されていたのに、その輝きには全く曇りがない。見事な輝きを保っていた。
「これは…カタナ…」
これはサーベルの一種だと伝えられている。いわゆる家宝だ。
鞘は半分以上焼けてしまって使い物にならない。カタナ自体は無事だ。
「使い物になるのかな」
正直興味も無く今まで忘れていたようなものだ。
父さんや大爺様が自慢話をするために持ち出してきた、くらいしか記憶がない。
確か…斬れない物は無いとか。決して折れず、刃毀れもしないとか。
「まさかね」
この時も気晴らしの一環、という気分だった。
このサーベルを思いきり瓦礫に叩きつけて折ってやろう、と思っていた。
カタナを持って構える。
精神統一。
「…はあ!」
一瞬で気合いを放ち袈裟斬りにカタナを振り下ろす。
鈍い感触。
バキィン!という金属が砕ける音。
ではなく。
真っ二つになって崩れる瓦礫の鈍い音が響いた。
正直唖然とした。
話半分でしか聞いてなかった父さん達の自慢話がまさか本当だったなんて。
よくよく見てみれば刃毀れもしていない。
本当に見事な一振りだった。
「…偶然…なのかな」
たまたま引っ掛かったものが…なんてね。よくある英雄物語くらいでしかあり得ないと思ってた。
「………」
このカタナには意思がある。師匠でもある大爺様がよく言ってた。
物に意思が宿るなんて考え方、シンの一部くらいでしか信じられてない迷信だ。
でも今の私には…信じられる。
ズズン…
何かが破裂する音が響いた。まずい、アメストリス軍だ!
とりあえずカタナに自分の外套を巻きつけると、私はその場を駆け出した。
それから1時間後。
私が街を離れるのと同時刻。
大爺様や数人の武僧が立て込もっていた役所が陥落し。
サンドウォールはアメストリス軍に占領された。