黒い瞳の同胞 〜イシュヴァール殲滅戦〜 作:リリア・フランツ
最近、アメストリス国内で妙な事件が多発している。
そんな情報を追っていた私の前には必ず軍の影があった。
軍が動いているということは必ずアイツが絡んでいる…!
ブラッドレイが…!
私はいま、北にきている。
軍の情報を追っているときにある男の釈放を耳にした。
その男は私の復讐対象の一人でもあった為、釈放は好都合だった。
男を追って北上し…アメストリスの北限へ。
私は強国ドラクマとの国境に近い雪国、ノースシティにいた。
砂漠で育った私にとっては雪は未知のものだった。
触ると熱いのではなく。触るとサラサラするわけでもなく。
冷たく私の手に乗り、消えていく。
なんて…儚い。
そして…寒い。
あー、感傷にひたってる場合じゃない。
マジで凍え死ぬ…!
夜の砂漠って意外と寒いものなんだけど。
この寒さはすごい。
はっきり言って甘くみてた。ちょっと軽装すぎたわ。
は、早く宿探して…暖まりたい…!
どこかに…ホテルないかしら…。
ガタガタと歯を鳴らしながら歩いていた私は小走りに走ってくる軍人を見つけた。
く…!あんまり話したくはないけど…背に腹は変えられない!
「あ、すいません!」
声をかけた軍人は足を止めてくれた。
「…どうかしたのかね」
と言いながら私を一瞥して。
「…要は雪国を舐めてかかって凍えているのだな。ホテルを紹介しようか」
とっても優秀な軍人さんで助かったけど…なんか複雑だった。
「はー…」
軍人さんに紹介してもらったホテルで熱いコーヒーで一息。生き返った〜。
「明日は晴れるようだ。早めに防寒具を揃えなさい」
そう言われてから私は初めて気がついた。
黒い肌…白い髪…。
そして、あえてサングラスによって隠されている瞳…。
まさか…この人…。
「…何か?」
私は思わず。
「…同胞?」
と呟いてしまった。
やや驚いた感じもしたけど、それでも冷静に。
「同胞…などと言う呼び方をするということは…君も…」
そしてため息をついて。
「そうか…生きていたのか」
…!
まずい!
思わず軍刀に手をかける。
その反応よりやや遅く銃に手をのばす。
そのまま止まる。
………。
この状態なら私の方が速い。
けど今は騒ぎを起こしたくない。
なら…賭けてみよう。
「私は生きています。そしてまだ生きていたい」
「………」
「あなた方ブリッグズに迷惑をかけることは絶対しないから」
しばらくの間が過ぎ。
「口ではなんとでも言えるものだ」
と返される。
「なら私の…イシュヴァールの血にかけても…誓います」
これならどうだ。
………。
そして。
軍人さんが吹き出して氷の時間は終結した。
「いや、すまない。まさか君自らイシュヴァール人だと名乗るとは思わなかった」
カッと頬が紅潮したのが自分でもわかった。
なんて間抜けなことしてんのよ私…!
「生憎私は久々の休暇なのでね。あまり面倒事には関わりたくないんだよ」
半分顔が笑っている。本当に休暇なんだか…。
「見逃してくれることは感謝します」
「気にするな。これ以上同胞が血を流すのは耐えられない」
その言葉のときだけ笑顔が消えたのが印象的だった。
ホテルの玄関で軍人さんを見送るとき。
「すいません、お名前は…」
と聞きかけて。
「あ、私はルージュと言います…今は」
と言葉を繋げた。
すると軍人さんはまた苦笑しつつ。
「…マイルズだ」
と言って去っていった。
翌日。
しっかりと防寒具を購入し私は追跡を再開した。
そう。
イシュヴァール人を最も多く殺害した錬金術師キンブリー。
最近の奇妙な事件に関わり続ける錬金術師エルリック兄弟。
私が追っているのはこの三人だ。