黒い瞳の同胞 〜イシュヴァール殲滅戦〜   作:リリア・フランツ

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第十四話 生死の涯て 前

日が昇り始めた頃。

私達は作戦を開始するため移動した。

…これが後に言うところのダリハ攻防戦。

イシュヴァール殲滅戦の最後の戦いだ。

 

ダリハに残されたイシュヴァール人は全部で1215名。

そのうち主力となる武僧が12名。

一般人の志願兵が286名。

あとは非戦闘員。女性や子供がほとんど。

今回の作戦はどれだけの非戦闘員を逃がせるか、だ。

つまり、戦闘員は全員生き残ることを想定してないのだ。

私も…生き残るつもりはなかった。

 

私はおばさんやイリージャには何も言わずに部隊に加わった。

当然武僧からは反対もされたけど…。

いまさら命を惜しむつもりもなかった。

 

主力である武僧の部隊といる私は意外な人物と再会した。

「生きていたんだな」

「…おっさん」

そう、あの嫌味なおっさん武僧だ。

「なんでここにいる」

「関係ないでしょ」

駄目だ。やっぱ相性最悪。

「死ぬ気か?」

「あんたも?」

…。

「…世も末だな」

軽くため息をはいた。

「…末なんてレベルじゃないわ」

「そうだな。女が戦場に出るなんて…末なんてレベルじゃない」

「またその話!?」

また深いため息。

「あのな。誰だって目の前で女が殺されるとこなんか見たくないんだよ」

…結局。

私は何も言い返せなかった。

 

9時くらいの日の高さになった。

作戦開始の合図がされた。

作戦内容はこうだ。武僧と私を含む少数精鋭の隊がアメストリス陣営でゲリラ戦を展開して混乱をさそう。

残りの部隊が砂漠に近い防衛線に攻撃。

そして手薄な砂漠方面へ非戦闘員が一気に脱出を図る…という感じ。

一体何人生き残れるだろう。でも、やるしかない。

私はアメストリス軍へ乗り込んだ。

 

強大なアメストリス軍と対等に戦える数少ない精鋭は必死に戦った。

もう弾もない。手投げ弾も尽きた。武器なんていっても先の折れた剣や刃の欠けたナイフばかり。

それでも私達はアメストリス軍にそれなりの混乱を起こした。

 

アメストリス人をまた1人斬り捨てた。

間髪入れず銃剣で突撃してくる兵士の喉を掻っ斬る。

私はいま返り血でひどい状態だった。

敵の何割かは私を見ただけで逃げていく。今はありがたいけど…何か複雑。

敵もかなり倒したけど、こちらも半数くらいの被害が出ている。

周りの味方と頷きあってから、一度戦線を離脱した。

 

とりあえず私が斥候として砂漠方面を探ってくることになった。

…まともに動けるのが私くらいだったのだ。

まず私は砂漠近くで戦っている部隊を見に行った。

辺りを探りながら民家の屋根の間を飛び越える。

敵に見つかることもなくたどり着き。

「……!!」

あまりの惨状に言葉を失った。

全滅なんて生易しいものじゃない。

生き残りなんて皆無だった。

まさに、殲滅。

「そんな…」

それでは非戦闘員も…。

「…!」

私は必死に駆け出した。

 

妙な風景。

そんな気分だ。

先程は凄まじい状態だったのに。

こちらは真逆だった。

何人か倒れているイシュヴァール人はいる。だけど圧倒的にアメストリス人の方が倒れていた。

「…?」

地面に降り立ってみる。

すると幾つもの爆破の跡が確認できた。しかも巧妙に偽装してある。私じゃなきゃわからなかったかもしれない。

そう、これはシンの戦法だ。

「フー爺様…ランファン…」

私は泣かずにはいられなかった。

ハンさんはここまで盟約を守ってくれたのだ。

シンの情の深さに感謝した。

 

フー爺様達が味方してくれた…けど、あてにはできない。

そう、盟約は盟約。

盟約以上のことは期待してはいけないのだ。

しかし。

 

前線に戻った私は精鋭部隊が潜んでいた建物が燃え上がっているのを見た。

…見つかったんだ!

何も考えずに飛び出そうとする私。

が、腕を掴まれて止められる。

そこには仲間の武僧たち。

…え?

思わず怪訝な顔をした私の背後で。

燃え上がっていた建物が吹き飛ぶ。周りにいたアメストリス軍も巻き込んで。

そう、罠だったのだ。

でも。

「嘘。火薬なんてほとんど残ってなかったのに…」

武僧のおっさんがニヤリとして指差す。

その先には黒い影が2つ。

妙な仮面を被っている。

「あ…!」

1人は仮面をとって笑い返した。フー爺様!

もう1人は…何もしない。ランファンね!

私は必死に手を振る。

フー爺様は私に頷いてから。

ランファンは控えめに手を振り返してから。

消えた。

 

(ありがとう、本当に…!皆をお願いします…)

私は心で叫び続けた。


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