黒い瞳の同胞 〜イシュヴァール殲滅戦〜   作:リリア・フランツ

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第十二話 黒い瞳対鷹の眼

Fugitive side

 

空気を裂く音に反応して物陰に隠れる。

「嘘でしょ…?」

私が最大限気配を感じとれる場には何も感じなかった。

どれだけ遠い距離から狙撃してるの!?

少し辺りを見回す…危ない!

少し頭を出しただけで撃ってくる。反応といい正確性といい…恐ろしい。

「ていうか私圧倒的に不利じゃない」

狙われている以上この場所から移動できない。つまり間合いを詰めるなんて夢のまた夢というわけ。

…どうしよう。

とりあえず思いつく手は…夜まで待つ。それしかない。

いまは昼頃だから…長い1日になるわ…。

 

Sniper side

 

一発目。

はずれた。

運の良い子ね…。

二発目。

少し頭を出した瞬間を狙う。

…避けられた。

恐ろしく勘のいい子。

…時間がかかりそう。

 

Fugitive side

 

正午。

暑い。

じっとしてるしかないうえに日陰もなし。

最悪。

…あれからかなり時間たったけど。もういないかな。

近くにあった木切れを放り投げてみたら。

見事に粉砕。

「なんて根気があるやつなの」

内心呆れつつも認めざるを得ない。相手は一流の狙撃手だ。

「…」

弾を使わせて弾切れを狙うのもありか。

よし!

先ほどの要領で石やら木切れやら構わず投げまくる。

しかし。

一発も撃たない。

「…なんて奴」

あのタイミングで飛んでくる物を見分けている…ということになる。

ということは。間違いない。

「…鷹の眼が相手か」

噂で聞いている。アメストリス軍には鷹の眼と呼ばれる凄腕のスナイパーがいる、と。

ならば油断はできない。

夜になるまでの根比べね。

さすがに鷹の眼でも夜は狙撃できないでしょ。

 

Sniper side

 

しばらくの小康状態。

ふいに何か飛び出す。反射的に撃ち抜く。

三発目。

木切れか。

それからもフェイントが続く。もう同じ手は食わない。

………。

手強いわ。

ここからでは無理ね。

 

Fugitive side

 

それから小一時間。

小康状態になってはいたけど、油断はできない。

とりあえず辺りの気配を探っていた。

動く者はいない。

額から流れた汗を拭う。

その時。

左側から視線を感じた私は壁の反対側へ跳んだ。

私のいた場所に着弾音。

あいつ…いつの間に私の左側に!!

続く着弾音。ヤバい!

必死に走り抜けて崩れかけの家屋に逃げこむ。

当然入り口は狙われている。私は弾を避けるように回り込んだ。

「痛っ!」

脇腹をかすった。

とりあえず奥に逃げ込んで周りを伺う。

…誰もいない。

安全を確認してから傷を確認した。

良かった。皮一枚ですんだ。

とりあえず止血だけする。

「…さて」

今の状況を整理する。

四方は壁がある。窓や入り口にさえ気を付ければある程度は自由がきく。

しかし、周りが見えないというデメリットもある。

鷹の眼はいまのままでは私を撃てないとわかっているはず。

ならば。

アメストリス軍を動かして私を追い出す。それが一番可能性がある。

多分、無線か何かで味方を呼び寄せるだろう。

私にとっては最悪のシナリオだ。

でも。

チャンスでもある。

 

Sniper side

 

気付かれないように移動し照準を合わせる。

捉えた!

四発目。

…嘘でしょう…。

しかしチャンスは続く。

五発目。

駄目。

六発目。

これはダミ-。

七発目。

必殺のはず。

…手応えはあった。でもかすった程度。

家屋に逃げ込まれた。

汗が伝う。

…あれを避けられるなんて。

こうなっては手出しができない。夜になる前に仕留めなくては。

…仕方ない。

無線を取り出してスイッチをいれた。

 

Fugitive side

 

そして夕方。

案の定、数人のアメストリス人が近寄ってきた。

アメストリス人が近寄ってくる角度からいま鷹の眼がいるであろう方角を予想する。

アメストリス人が入り口付近にきた。

いまだ!

入ってくるより先にアメストリス人を突き殺す。

そして鷹の眼がいる方角に死体を向ける!

着弾!

やった!これで鷹の眼がいる場所を特定できた。北の見張り塔!

 

Sniper side

 

仲間が倒れるのが見えた。

出てくるタイミングを予測。

八発目。

仲間を盾にして防ぐ。最悪な手を…!

しまった。位置を悟られた。

 

Fugitive side

 

素早く2人目を斬り殺す。

そして3人目の首筋にカタナを当てて鷹の眼を睨んだ。

…やっぱり。撃ってこない。

汚いやり方だけど…人質が一番効果的だわ。

そのままジリジリと家屋から離れていく。

 

Sniper side

 

人質をとられた。

私が狙撃できないように仲間の陰に隠れながら移動している。

…くぅ…不味い…。

 

Fugitive side

 

その時、人質のアメストリス人が喚きだした。

「イシュヴァール人の娘か、貴様」

無視。

「最近黒と赤の眼をもった小娘が暴れまわっているらしいが…」

無視。

「貴様にどれだけの仲間を殺されたか…」

…無視。

「イシュヴァール人など殲滅されて当たり前だ!滅びろ!」

少しカタナを動かす。

「ぎゃあああ!」

耳を片方削ぎ落としてやった。

「黙れ、屑が」

私が呟いたと同時に一発地面に着弾したのはたぶん警告だろう。

でも私は無視してこの場所から離れた。

 

Sniper side

 

仲間の耳が削ぎ落とされる。

カッとなり思わず引き鉄をひく。

九発目。

当然はずれる。

…威嚇にもならない。

 

Fugitive side

 

辺りから光が消える。

すっかり夜だ。

もう狙撃もできないだろう。

私は人質のアメストリス人を峰打ちで昏倒させて放り出す。

長い1日だった。

私はアメストリス人から奪い取った食料や弾を背負って戦場へ向かった。

 

Sniper side

 

…銃をおろす。

周りはもう暗い。月明かりもない新月ではなす術もない。

「…なんて奴なの」

生きているかはわからないけど仲間を助けないと。

荷物を背負い、塔から離れた。


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