『G』の日記   作:アゴン

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今回はオリジナル要素アリ


その76

 

 

Π月=日

 

異星人達の襲撃を退けて早数日、現在自分は第3新東京市で情報収集を行っている最中である。この第3新東京市は新世時空振動で新たに融合した第三の世界から来訪してきたモノで、この街にいる殆どの人達は皆そこの世界の出身である為、新世時空振動が起こった直後はそれなりに混乱は起きたらしい。

 

けれど、当時の地球連邦政府の対応のお陰で、この街の暮らしは早々に安定した事で人々の不安は払拭され、この世界に早い段階で馴れていった。この時の政府の対応は見事だったと当時の評論家がそんな事を言っていた気がする。

 

で、そこで自分はここ最近の世界情勢について調査していたのだが、その途中でまたもや騒ぎに巻き込まれてしまう事になった。

 

 人らしい形をした巨大なナニカ。“使徒”と呼ばれるソレは突然とこの街に現れた。避難警報の報せが鳴り響き、人々が慌てて逃げていく最中、地下から巨大な紫色のロボが現れ、使徒と戦闘を始めたのだ。

 

しかし、紫色のロボのパイロットは新人なのかその挙動は落ち着きがなく、あっと言う間に窮地に追い込まれてしまうのだから個人的に見ていられなくなり、グランゾンを呼び出して助太刀しようとも考えたのだが、後から現れる元ZEXISの面々が現れて紫色のロボとの協力の下、使徒の撃破に成功した。

 

その様子を街から離れた位置で見ていた自分は安堵し、安心したのだが、ここへ来て更なる疑問点が増えた。

 

何でもあの紫のロボは“EVA”と呼ばれる代物であり、第3新東京市の地下深くにある“NERV”と呼ばれる組織によって管理されているのだとか、正直こちらもかなり胡散臭い組織である。や、不法侵入して情報を一部分だけとはいえ抜き取った自分に言える事はないんだけどね。

 

紫のロボット……EVA初号機、アレも元ZEXISのメンツに参加するみたいだし、取り敢えずはアマルガムの様な組織ではなさそうだ。どうやら例の使徒を倒すにはEVAの力が必要になるみたいだし、今後は彼等との連携は必要不可欠になる事だろう。

 

……連携かぁ。良いよね、背中を預けられる相棒がいるってのは。最近また一人でいる事が多くなっている自分としては羨ましい限りである。

 

 

 

Π月#日

 

今日、自分はとある喫茶店である人物と顔を合わせる事になった。なんでもその人はシュナイゼルの遣いとして各地を転々とし、自分と同じく情報収集に勤しんでいたのだとか。

 

その人の名はカノンさん。元ブリタニアの文官として知られ、シュナイゼルの右腕だった人だ。今はナナリーちゃんの後見人兼サポート役であるシュナイゼルの手足となって、裏で暗躍している組織の情報を集める諜報活動を行っているのだとか。

 

そんな人が街中で偶然自分に出逢うのはちょっと不自然に思った。何せ今の自分は陣代高校の時とは違い特定の場所に留まっておらず、宇宙規模で各所を転々と渡り歩いていたからそう簡単に居場所を突き止められる筈がないのだ。少し気になった為その事を訊ねてみると、自分ならそろそろ動き出す頃だろうと事前に行き先を把握し、そこを絞り込んでカノンさんに行かせていたのだという。

 

なんというか、相変わらずの腹黒さに安心するが、その先から聞かされるカノンさんからの話に自分は真剣にならざるを得なかった。

 

“インダストリアル7”以前宇宙に上がった時に立ち寄った民間の工業コロニーに、ネオ・ジオンが強襲を仕掛けたのだという。しかも強襲してきた部隊の中には赤を強調する機体が確認されており、今宇宙では緊迫した空気に包まれているのだという。

 

赤い機体と聞いて真っ先に思い浮かべるのが、赤い彗星ことネオ・ジオンの総帥たるシャア総帥だ。モニター越しとは言え聡明そうな彼がそんな事をしでかすとは到底思えない。早速飛び出してくる特ダネの情報に頭を抱えそうになるが、カノンさんから告げられる話はこれだけでは終わらなかった。

 

“X-18999コロニー”そこで行われる地球連邦の演習の最中、マリーメイア軍と呼ばれる私設武装組織が一同に決起したのだという。

 

それまでの話の中に演習に参加していたパイロット達が突然暴徒化したとか、元ZEXISの面々がそれを止めたとか色々聞かされたが、カノンさんが語るマリーメイアという少女の事に俺は頭が一杯になっていた。

 

マリーメイア=クシュリナーダ。俺の友人であるトレーズさんと同じ姓を名乗る彼女に俺はまさかとカノンさんに訊ねると、カノンさんは静かに頷いた。

 

トレーズさんに娘がいた。その事実だけでも大きすぎるのに、その娘がマリーメイア軍の象徴として担がれている。これまでの案件とは違う意味で大き過ぎる問題に、俺は頭を抱えたくなった。

 

戦いを止めようと自ら悪として世界に牙をむけたトレーズさん。そのトレーズさんの娘さんが再び戦争を起こそうと軍を立ち上げて、世界に宣戦布告をしている。

 

────この時、既に俺の中でやる事は決まっていた。しかし行動を移すにしても今の自分では移動手段が余りにも少なすぎる。グランゾンで転移するにしても、そう何度も使っていたらいずれ他の組織に感づかれてしまう。

 

どうしたものかと頭を悩ませていると、カノンさんはフッと笑みを浮かべて、自分に地図を渡してきた。

 

『明日、この場所へ来てほしい』そう地図に書かれているポイントには、嘗て自分がお世話になったトレーズさんの屋敷の座標が書かれていた。

 

これで自分から伝えられる事は全て伝えたと、カノンさんは喫茶店を後にする。その際に自分が注文した紅茶まで支払ってくれる事に感謝しながら、自分はその地図を握りしめるのだった。

 

一体、シュナイゼルの奴は何を考えているのだろうか? そんな事を考えながら今日の日記は終了する事にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、久し振りだねシュウジ。相変わらず元気そうでなによりだよ」

 

「そっちも、相変わらず腹黒い事を考えてそうな顔してんな」

 

翌日、カノンさんから渡された地図を手に、俺は指定場所であるトレーズさんの屋敷へ訪れた。玄関先で待ち構えていたシュナイゼルに軽い挨拶を済ませた後、俺はここを指定してきたシュナイゼルの真意を訊ねた。

 

「ふふ、そう焦らないでくれ。今案内するから」

 

「案内するからって、いいのかよ? この屋敷って確か再世戦争の重要物件として連邦に差し押さえになってるんだろ?」

 

「なに、こんな私でも連邦の末端に名を連ねる者だ。先の戦争の後にそれなりの功績を出してみたらある程度の融通は利いてね。今この屋敷は私が管理するという名目の下、好きに扱わせて貰っているのさ」

 

サラリとなんてこと無いようにいう奴だが、きっとその背景では様々な政治的やりとりがあったのだろう。シュナイゼルの事だし、きっとえげつない方法で半ば強奪したのだろうと何となく察したが、この件に付いて口出しするのは止めておこう。

 

「けれど、その状態維持もここの所難しくなってきている。君も地球至上主義を掲げる者達の事は……」

 

「噂程度にはな」

 

地球至上主義。その名の通り、地球こそが人類にとって至上のゆりかごだと語る連中はコロニーやプラント、ネオ・ジオンといった宇宙移民の人々をこれでもかと敵視している。連中のトップであるサイガス准将とやらも目的の為には手段を選ばないあくどい奴だと聞いている。

 

シュナイゼルがこの事を口にするという事は、恐らくここの管理について連中がしつこく介入してくるのだろう。トレーズさんはZEXISの、人類の敵になるべくホワイトファングに付いた人間だ。なにも知らない連中……それこそ地球至上主義の奴らから見れば、トレーズさんのした事は地球人類の裏切りに見えた事なのだろう。

 

「ふっ、やはり友というのは良いものだな。何も語らず、ただこうして並び歩いているだけで相手の考える事が手に取る様に分かる」

 

「いきなり何言ってんのお前」

 

「脳量子波やらニュータイプでなくとも他人というのは分かり合えるという事だよ」

 

いや、俺にはお前の考えている事良く分かってねぇけどな。なんて事は口にしないで俺はシュナイゼルの後を追う。

 

そして突き当たった通路の壁に差し掛かると、扉が開かれ地下へと通じるエレベーターが姿を現す。一体何を見せようと言うのだろう。シュナイゼルの行動に今一つ理解出来ていない自分に再びシュナイゼルが口を開く。

 

「カノンから聞いていると思うが、マリーメイア軍。君は彼等の……いや、彼女の事をどう思う?」

 

「……どうって?」

 

「彼女は今や現地球政府の敵対者だ。近い内になんらかの行動に移るだろうし、それに伴い政府もこれに対処する際に大部隊を投入する事だろう。君も既に目の当たりにしているだろう? 嘗てのZEXISの面々が再び集まりつつあることを」

 

「………」

 

シュナイゼルの言うとおり、マリーメイアはその意志の有無に関わらず地球連邦の敵となる。それに伴い、地球最強の部隊であるZEXISの皆も彼女を叩くべく動く事だろう。そうなれば激戦は必至、友人の娘であるマリーメイアもその命が危ぶまれるだろう。

 

だったら、自分のやるべき事……いや、やりたい事は決まっている。

 

「取り敢えず、マリーメイアに会ってみるよ。トレーズさんの娘がどんな子なのか気になるし、なによりあの二股眉毛が受け継がれているのか激しく気になる」

 

「……ふっ、天の邪鬼め」

 

なにやらぼそりとシュナイゼルが呟いているが、気にしない事にした。

 

「だが、そんな君にならコレを贈るのは丁度良いのかもしれないな」

 

そう言っている内に地下の格納庫へと辿り着き、エレベーターの扉が開かれる。光が射し込んできた先に待ち構えていたのは……。

 

「君の愛機であるグランゾン、確かにその力は凄まじいが強力過ぎるが故に目立ってしまう。情報収集の段階である今の君には手頃な移動手段が必要だろう?」

 

「まさか、回収されていたなんて……」

 

目の前に鎮座する機体。それを目の当たりにした俺は、きっと酷く驚いているに違いない。隣ではしてやったりな顔のシュナイゼルが視界の隅に入り込んできているのだから。

 

だが、それは無理もない事だと思う。───何故なら。

 

“トールギスⅡ”嘗てのトレーズさんの愛機が俺の前に佇んでいたのだから。

 

 

 

 

 




主人公、浮気するの巻


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