『G』の日記   作:アゴン

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トレーズ編は今回で終了


その59 後編

 

────光が、弾ける。閃光が、駆け抜ける。ホワイトファングとZEXIS、両者の戦いは宇宙戦艦リーブラを破壊した後、更なる激しさを増していった。

 

コロニー側のガンダムを作り上げた五人の博士、彼等が後の事をZEXISに託すと、彼等はリーブラを自爆させ、自らの意志で宇宙戦艦ごと宇宙に散った。

 

それに合わせてリリーナを救出したヒイロも戦線に参戦、ホワイトファングとZEXISの第二ラウンドは事実上最後の戦いとなった。

 

Mr.ブシドーの駆るスサノオは刹那が、ガンダムエピオンを操るミリアルドはヒイロが相手をし、激戦を繰り広げる中……遂に、戦いは終局へと傾いた。

 

刹那のダブルオーライザーがスサノオを倒し、ヒイロのウイングガンダムゼロの一撃がガンダムエピオンを撃ち抜いた。戦力の要だった内の二つが撃墜され、ホワイトファングの戦意はへし折られる。

 

特に、ホワイトファングのリーダーだったミリアルドが敗れた事実に、彼等の戦意は無くなったも同然だった。

 

ホワイトファングの戦力も様々な機体を有し、様々な危機を乗り越えてきたZEXISには敵わない。地に落ちたホワイトファングの兵士達には……もはや戦い続ける意思などなかった。

 

だが、そんな中でも戦い続ける男がいた。それは戦線に出てきておきながら未だ一度の被弾も許していない脅威の機体、トールギスⅡとそれを十全以上に操るトレーズ=クシュリナーダだった。

 

バルディオスの亜空間からの攻撃も、ゴッドシグマの剣撃も、ダブルダンクーガ達による挟撃も、アクエリオンの無限パンチすらも、トレーズの駆るトールギスⅡには掠りもしない。

 

スーパーロボット達の攻撃が当たらないのなら、今度はモビルスーツ隊の面々がそのトールギスⅡを追い詰めようとするが、違いすぎる機体の速さに追い付ける者は限られていた。

 

デスティニーとジャスティスのライフル、フリーダムのドラグーンによる波状攻撃も当たらず、エックスのサテライトキャノンやターンAの月光蝶による攻撃も、味方の中で乱戦状態の今では撃つ事は出来ない。

 

ZEXIS対トールギスⅡ。多対一という圧倒的に不利な状況の中、そんな中でも冷静に戦場を駆け抜けるトレーズに誰もが戦慄した。

 

だが、そんなトレーズに唯一対抗しうる者達がいた。機体性能の差に翻弄されながらも、卓越した操縦技術で食らいつく金色の機体────百式を扱うクワトロ=バジーナと、搭載されたサイコフレームをフルに扱いながらトールギスⅡの行動範囲を徐々に狭めていくνガンダムのパイロット、アムロ=レイ。

 

そして、トレーズの最大の理解者であると言われている五飛の駆るアルトロンガンダム。三機の機体と三人の攻撃により、トールギスⅡの行動軌道が微かだが歪み始めていた。

 

バルキリーの速度でもスーパーロボットのパワーでもない。彼等の戦いは乗っているパイロットの技量そのものを競うかのようだった。

 

凄惨な戦場の筈なのにどこか美しさが感じられる。突出するトールギスⅡを追っていく彼等の戦闘がZEXISの面々には終わり無き演舞(ワルツ)に見えた。

 

『トレーズ、お前程の男がこんな手を使う事になるとはな!』

 

『それは買い被りというものだよアムロ。私は君が思っているような人間ではないよ。偽善で傲慢、私の本質は旧暦の悪しき独裁者達と何ら変わりない』

 

『そこまで分かっていながら、何故!』

 

νガンダムのライフルがトールギスⅡに目掛けて放たれる。三つに分かれる紫色の槍は寸分違わず標的に向けて突き進むが、トールギスⅡは左手に持ったビームサーベルで悉くそれらを切り払う。

 

『だが、そんな私にもやらねばならないこと位は熟知しているさ』

 

『それでこの戦いを引き起こしたというのか! だとするならば、私は……!』

 

後ろに下がるνガンダムに合わせ、今度は百式がビームサーベルを持ってトールギスⅡに肉薄する。νガンダムの援護射撃を受けながらの見事なコンビネーションを前に、トレーズは予め知っていたかの様にこれを対応した。

 

ビームサーベルで挑んでくるクワトロに対し、トレーズもビームサーベルで応戦する。ぶつかり合う光の剣が火花を散らせ、二機の間を激しく照らし出す。

 

『クワトロ=バジーナ。……いや、シャア=アズナブルよ。貴方にも分かる筈だ。情報に踊らされ、目を瞑ってきた世界が目を覚ますには、現実を直視させるしかないと』

 

『だが、それでは……』

 

『トレーズゥゥゥッ!!』

 

トレーズの言葉にクワトロは動揺し、口ごもる。彼の言い分も正しいと理解しているクワトロとしては、面と向かって否定する事は難しい。自身の出自から見てトレーズとクワトロの両者は、それぞれ似た部分があるのかも知れない。

 

だが、そんな時に第三者がクワトロの迷いを断ち切る様に現れる。三つ叉の武器を手に突進してくるのは、双頭の龍を従えたアルトロンを駆る五飛だった。

 

相変わらず単騎で戦いを挑んでくる五飛に対し、トレーズも嬉々として迎え撃つ。百式を蹴りで突き飛ばし、アルトロンのビームトライデントをビームサーベルで受け止め、二機の間に再び激しい火花が散り始める。

 

『トレーズ、幾らお前が言葉で事実を飾ろうとも真実は変わらない! 世界に現実を直視させるだと? 何様のつもりだ! 世界の王にでもなったつもりか!』

 

ぶつかり合う刃と刃、交差しながらも尚打ち合い、五飛は更なる想いを言葉としてトレーズにぶつける。

 

『世界は貴様一人の所有物ではない! 今を生きる人間が今の世界を歪めたのならば、それを正すのも人間の役割だ! 貴様のしていることは人間の尊厳を奪うという事だと理解しているのか!?』

 

『────ふ、フフフ』

 

『っ、何がおかしい!』

 

『いや、済まないね。つい先ほども私の友人から似たような事を言われてね。それを思い出してしまった故に……つい、噴き出してしまった』

 

済まない。と、トレーズがそう言い切る前に五飛がアルトロンを動かし、トールギスⅡに切りかかる。戦いの最中に笑うトレーズに怒りが沸き上がるが、トールギスⅡはそんな突然の攻撃も横に逸れるだけという簡単な動作のみで回避する。

 

やはり、感情任せに戦っても勝てる相手ではない。ZEXISを相手に一人で戦い、彼等を相手取り、更には翻弄してみせるトレーズの技量は……既に、幾多の戦場をくぐり抜けてきた自分よりも遙か高みに位置している。

 

このままでは何度刃を交えた所で勝てる見込みはない。故に今は感情を押し殺し、神経を集中させて五飛はトレーズとトールギスⅡを見据え────。

 

『……トレーズ、一つ聞きたい。お前は今回の戦いでどれだけ多くの人間が死んでいったか───理解出来ているのか?』

 

『無論、昨日までの時点で99万9875人だ』

 

『………っ』

 

自身の質問に即答で応えるトレーズに、五飛は息を呑んだ。自らが犯した罪を正しく認識し、それでも己の道を突き進もうとする覚悟。今更ながら感じる目の前の人間の大きさに、五飛は操縦桿を握り締めて怒りを露わにする。

 

『───アムロ=レイ、クワトロ=バジーナ。もう一度、奴と戦うチャンスをくれ』

 

『構わないが……やれるのか?』

 

『何度も言った筈だ。奴は……俺が倒す!』

 

『……了解した』

 

それだけ聡明でいながら、それだけ広い視野と正しい見方を持っていながら、誰よりも愚かな道を選ぶトレーズを五飛は許せなかった。

 

だが、既に対話の時は終わっている。もう言葉を交える必要も無くなったのだと、五飛は無言で武器を携える。そして、対するトレーズもこれが五飛との最後の戦いなのだと理解し、ビームサーベルを構える。

 

ホワイトファングの兵士達やZEXISの面々も固唾を呑んで見守る中……遂に、両者が動いた。

 

バーニアを噴かせて突進してくるトールギスⅡ。その殺人的な加速に振り回される事なく、性能以上の力を引き出すトレーズの力量は流石の一言。

 

そしてトレーズ自身も自分に攻撃は当たらないという確信があった。それは決して驕りや慢心ではなく、二人の友が手掛けてくれた機体への絶対的な信頼からくるものだった。

 

瞬く間に両者の距離が詰まっていく。牽制と援護を兼ね備えたアムロとクワトロの射撃を回避しながら、トレーズは頭の中で己の勝利の方程式を構築する。

 

迫り来る光の槍をギリギリまで引き付けながら回避し、すれ違い様にアルトロンを切り裂く。単純でシンプルな図式だがそれ故に効果的、これで決着だと思われたその時、トレーズの座るコックピットに僅かな衝撃が伝わってきた。

 

『っ!?』

 

その事実にトレーズは初めて目を見開いて驚愕を露わにする。これまで彼がZEXISの攻撃を避けてきたのは自身の力を彼等に見せつける為だけではない。トールギスⅡの機体設計の事情で、一度でも当たることは許されない事だったからだ。

 

トールギスⅡの機動性と加速はMSの中でも異常な程に突出している。その秘密は装甲の薄さにあった。

 

凄まじい加速を誇り、驚愕するほどの回避性能を有していても、彼の乗るトールギスⅡの機体装甲は薄い。軽量化による機動性能と加速度を上げる為の処置だったが、それがここへ来て裏目に出てしまっていた。

 

激戦に次ぐ激戦、ZEXISという地球最後の部隊を相手に大立ち回りをし、その結果……トールギスⅡの機体の耐久力は限界に達していた。

 

度重なる加速と無茶な機動、自身の操縦に遂にトールギスⅡが耐えきれなくなったのだ。だが、これは手を加えたシュウジの責任ではない。全ては退く事を忘れ、戦い続けた己に非があるのだ。友人の手によって生み出されたこの機体がどれだけ凄いモノなのか、それを教えてやりたくて年甲斐もなくハシャいだ己の所為だ。

 

(私の友は凄いのだと、そう見せびらかすように戦っていた。……何とも、滑稽な話じゃないか)

 

 

そしてそんな自分の隙を突き、機体に一撃を入れてきたアムロ=レイは、まさにエースの技と言えるモノだった。何度も自分と刃を交えていく内に此方の動きを把握したのだろう。クワトロ=バジーナとの息を合わせた連係攻撃も見事の一言に尽きた。

 

(あぁ、済まないな友よ。私の不手際でこの機体を壊す事になってしまった……)

 

掠めた箇所はトールギスⅡの生命線とも言えるブースターだった。反応が鈍くなった今の機体では迫り来る光の槍を捌く事は出来ない。

 

申し訳なさそうに俯くシュウジの姿が目に浮かぶ。そんな彼にトレーズは再び笑みを零し、迫り来るビームトライデントを────受け入れた。

 

『トレーズ!』

 

『見事だ五飛、そしてZEXIS。君達と戦えた事を私は誇りに思うよ』

 

コックピット付近を貫かれトールギスⅡの機体が爆発する。

 

───暗闇の宇宙で一つの光が弾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───う、ん」

 

「お、漸く目が覚めたか。この寝坊助め」

 

前髪を撫でる心地良い風、地獄にしては生温いなと一瞬笑ってしまうトレーズだが、次の瞬間聞こえてきた声にまさかと思い、その瞼をゆっくりと開く。

開かれた視界に映し出されたのは……とある浜辺。辺りは夜の帳が降りている所為で暗闇に包まれている中、満天の星空が明かりとなっている為、横にいる友人に気が付く事が出来た。

 

────何故? その言葉を発する前に、友は疲れた様に溜息を吐きながら言葉を紡いだ。

 

「全く、骨が折れたんだぜ? ZEXISに気付かれないようにアソコから抜け出すの。お陰でアンタに付けられた傷が開いちゃったよ」

 

どうしてくれる? 責めるような口振りでジト目の視線を投げ掛けてくる(シュウジ)に、トレーズは苦笑いで済まないとだけ答えた。

 

既に体を蝕む痛みは感じない。既にそんな境界を越えている(・・・・・・・・・・・・・)今となっては……もう、そんなものを感じる必要はないのだから。

 

体の至る所からは血が流れ、五感の感覚も既にない。今こうして目を開けて意識を保っていられるのも奇跡としか言いようがない。

 

「ったく、アンタもシュナイゼルもどうして頭の良い奴は皆ややこしいことを進んで実行するかなぁ。付き合うこっちの身にもなってくれよ」

 

「フフ、そういいながらキチンと応えてくれる辺り、君は結構義理堅いのだな」

 

「うっせ」

 

故に、トレーズは気付く。機体の爆発に巻き込まれた自身の体は既に手遅れであり、自分は……もう長くはないということに。

 

そんな事を感じさせないよう、隣の友人は明るい声を崩さないよう努めていた。一人で死なせないと、一人のまま逝かせはしないと、悪態を吐きながらも側から離れようとしない友人に、トレーズはこの時、言葉にならないモノを感じ取った。

 

「大体さぁ、アンタ等頭が良いけどさぁ、結構向こう見ずな所あるよね。頑固っつーか意志が強いっつーか、そういうの今時流行らないからね。今時の若者はそういうの苦手だから、今度からはそこら辺も考慮して行動を移しなさい。いいですねトレーズ君」

 

「く、ハハハ……そうだな。次からはそうする事にしよう。世話を掛けて済まないな、シラカワ先生」

 

先生ぶったフザケた態度に思わず笑みが零れる。こんな時でも人は笑えるものなのだなと、トレーズは空を見上げた。

 

───もう、起き上がる力もない。寝たきりの状態で時折意識がぶつ切りになるのを自覚しながらも、トレーズは友人との語らいを楽しんだ。

 

「……なぁ、シュウジ。聞かせてはくれないだろうか」

 

「ん? 何を?」

 

「君の世界……君が、もといた世界の事、平和な日々を過ごしたという君の国の事を……聞かせてはもらえないだろうか」

 

「……あぁ、勿論だとも」

 

死を待つ自分の為に彼は語る。嘗て自身がいたとされる世界と、そこで過ごした日々の事を……。

 

ありふれた日常。怠惰に思える日々を送りながらもささやかな刺激のある毎日。学校帰りにカラオケに寄り、友達と一緒に笑い、家族の待つ家へと帰る。

 

父と語らい、母と笑う。当然楽しい事ばかりじゃないが……それでも、人並みの幸せに溢れた日々だった。

 

ついこの間まで自分がいた世界。今でも鮮明に思い出せるが……シュウジにはどこか、遠い世界での出来事の様に思えた。

 

そんな中、トレーズは口にする。いつか、そんな世界を見てみたい。徐々に力を失っていた彼には……もう、唇を動かす力も残されてはいなかった。

 

聞こえてはいないその言葉を、シュウジは笑顔で応える。

 

「───当たり前だろ。いつかシュナイゼルの奴と一緒に連れてってやるよ」

 

────嗚呼、それは楽しみだ。そんな日が来ることを待ち焦がれた。学校帰りに同じ道を歩き、友人達と一緒にありふれた日々を過ごす。そんな情景を幻視しながら……トレーズは静かに瞼を閉じた。

 

自分は多くの人の命を奪った。多くの人の人生を歪ませた。────後悔はない。元より自分には後悔する資格すらありはしないのだから。

 

けれど、最後まで自分を友だと受け入れ、こうして看取ってくれるシュウジに───

 

「ありが……とう」

 

トレーズは心の底からの感謝の言葉を呟き───二度と覚めぬ眠りについた。

 

 

 

 

 

 

『世界中の皆さん、ご覧になられたでしょうか。これが戦争です。私達がこれまで目を背けてきた戦争です。どうか、今回の事を忘れないで下さい。戦争の愚かしさを忘れないで下さい。そして、世界を変えられるのはこの世界に生きる私達自身だという事も……どうか忘れないで下さい』

 

近くの海岸で留めておいたグランゾンの通信からレディ=アンの世界中に向けられたメッセージが広がっていく。そんな中、無人島にいる一人の青年はこの日、大切な友人を一人……失った。

 

彼の啜り泣く声は止むことはない。やがて日は昇り朝日が水平線の向こうから顔を出し、青年を照らし出す。

 

ホワイトファングとの戦いが終わり、大切な友人を失っても、今日もまた世界は回る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




トレーズさんは最後まで生き残るかどうかで悩みましたが、結局はこんな形になりました。

生き残りを期待して下さった方は申し訳ありません。
細かい所は次回簡単にですが説明したいと思います。

次に感想ですが……最近リアルが忙しくマトモに返信出来そうにありません。

本当に申し訳ありません。


そして、次回からいよいよif58ルート編に突入。

題して“報復完了編”

君は、年増の涙をみる。

それでは、次回もまた見てボッチ!ノシ

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