『G』の日記   作:アゴン

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主人公、またやっちゃった。


その23

 

 

 

 

J月♯日

 

先日、リモネシアに現れたとされる謎のロボット集団の正体が明らかになった。世界中のメディアをジャックし、宣戦布告の形で現れた新勢力“インサラウム”

 

自ら聖王と名乗るユーサー=インサラウムは聖インサラウム王国の第一皇子。突如として現れる別次元からの来訪に世界はそれなりに驚いた。

 

それなりにというのは元々多元世界と言われるこの御時世、異世界からの来訪者というのはザラにあるからだ。尤も、現れていきなり宣戦布告される事は今までにない事態である為、何も知らない市民達はそれは驚いた事だろう。

 

事実、自分も驚きを隠せなかったが、インペリウムの時で幾分か異世界からの来訪者というのに耐性がついていた為、すぐに落ち着きを取り戻すことができた。

 

インサラウムは宣戦布告の表明を世界中に叩きつけた後、直ぐに姿を消して行方を眩ませている。

 

異世界からの来訪者だけに次元の壁を越えて出現出来る術があるようで、グランゾンの索敵でも引っかかる事はない。ガイオウも似たような力を使っていたし、これも次元力という未知のエネルギーが成せる業なのだろう。

 

けど、次元力というモノはそもそも何なのだろう。仮説として考えられるモノが一つ、それは次元というモノを“世界”或いは“星”に見立てた場合の話だ。

 

地球には既に様々なエネルギーが存在している。一般的に使われている風力、水力、地熱、化石燃料の代わりに今は太陽光エネルギーなんてものがあったり、更には光子力エネルギーやゲッター線なんてものまで存在している。

 

他にも様々なエネルギーが存在するこの星だが、対する次元力というのは確かな一つとして存在しているモノとする。それは……“星”

 

惑星そのものを一個のエネルギーとして抽出すれば、それは次元力として扱う事が可能。

 

何故星から抽出したエネルギーが次元力として扱われるのか、それを説明すると宇宙や恒星、多元世界に関する話にまで発展し、少しばかり話が長くなるので割愛させて頂く。

 

だがこの次元力。もし自分の仮説通りに星から生み出すのならかなりマズい事になる。何せ星からエネルギーという名の血液を抽出する事になるのだ。

 

星は宇宙の中で最も生命力のある生命体、しかし決して無限ではない。人間が献血し過ぎれば貧血で倒れる様に、星だってエネルギーを吸い続けられればいずれは死に至ってしまう。

 

星が死に瀕するなんて自分は見たこともないから想像できないが……碌な結末にならないという事だけは言える。

 

ガイオウの様に自ら次元力を発せられる規格外な化け物ならまだしも、インサラウムの連中も次元力を統べる技術を確立しているのだろうか?

 

仮にもし今の自分の仮説が正しいのなら、インサラウムの目的、そしてこの世界に宣戦布告という形で訪れた理由が何となく見えてくる。

 

ホント、相変わらず忙しなく回る世界だこと。果たしてインサラウムの連中に対して地球政府はどう動くのか、どうせ碌な事にはならないだろうと思いながら今日の所はこれで終了する事にする。

 

……改めて今回の日記を読み返すと、何だかやけに専門的な話になってきているな。

 

大学にいたころは論文を書くだけで精一杯だった自分が懐かしい。

 

 

 

J月Ω日

 

イギリスでの調査を一通り終えた後、次の目的地はどこにしようかなと悩んでいた時、奴らが現れた。

 

“インサラウム”先日の宣戦布告に合わせ早速連中は攻撃を仕掛けて来やがった。しかも戦略的価値のない唯の街に……。

 

今、取った宿屋のテレビで流れているニュースによると街のど真ん中に巨大なクレーターを作り上げると同時にドーム型の建造物を打ち立てているようなのだ。

 

ネットで確認しても話題はインサラウムと例のドーム型の建造物で持ちきり、中にはインサラウムの秘密兵器なのだという声も上がっている。

 

実際、あれはある意味では兵器なのだろう。ニュースで流れている断片的な映像だから詳しくは分からなかったが……アレってもしかして自分が仮説を立てた次元力を吸い出す機械って奴?

 

────やべぇ、変な所でフラグを建てちまった。なんてバカやってる場合じゃないので、これから自分はグランゾンと共に現場に向かおうと思う。幸いというべきかは分からないが、今自分のいる街は例の現場から比較的近い位置にあり、住民や宿の人達は皆避難しているから人目に付くことは殆どない。

 

宿屋には既にチェックアウトとして処理して貰い、今自分はこの宿にいない事になっている。部屋に監視カメラの類は無かったし、盗聴器も見あたらなかったが、念には念を入れて人目のない所に隠れて蒼のカリスマに変身、その後グランゾンと共に現場へと急行しようと思う。

 

……分かってたけどやっぱりアロウズは出てこないのね。ホントに軍隊なのかよと、ボヤくのは内心とこの日記の中だけにしておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『クハハハ! 無駄じゃ無駄じゃ! 幾ら貴様等が攻撃しようと“ZONE”には傷一つ付けられん!』

 

『クソッ! 何なんだよあのドーム型の奴は! さっきから目一杯打ち込んでいるのに皹一つ入らねぇぞ!』

 

謎の建造物“ZONE”ドーム状の形をしたインサラウムの何らかの兵器と思われるソレは、現ZEXISメンバーの攻撃をマトモに浴びても、破壊処か傷一つ付けられないトンでもない代物だった。

 

インサラウムの母艦から周辺一帯に響き渡る老婆の蔑んだ声、何をしても無駄という老婆の言葉にZEXIS達の士気が徐々に落ちていく。

 

そして、そんな彼らに追い打ちを仕掛けるように、操られる様に施された“特殊次元獣”と王国に仕える“アークセイバー”が攻撃を仕掛ける。

 

破壊出来ない兵器と押し寄せてくる敵の軍勢を前にZEXIS達の退路が少しずつ塞がれ始めた時。空から無数の光の槍が次元獣達に降り注がれた。

 

突然の出来事に敵味方が唖然とした時、上空から蒼の魔神“グランゾン”が姿を現した。

 

『な、なんじゃあ!?』

 

『奴は! 拙い、殿下! お下がり下さい!』

 

『ま、マルグリット、あ、アレは一体なんだ?』

 

『アレは以前殿下に申し上げた蒼き魔神“グランゾン”あの破界の王と単騎で真っ正面からやり合った化け物です!』

 

『あ、アレがシュバルの言ってた……』

 

上空から現れる魔神の姿に聖王機に乗った皇子、ユーサーは戦慄し、恐怖を覚えた。

 

なんて禍々しさと威圧感。当時、決死の覚悟でインペリウムの……いや、ガイオウの情報を流していたシュバルの報告の中にあった魔神の話を思い出したユーサーはそれが何一つ間違っていなかった事を確信し、聖王機の中で体を抑えながら身震いしていた。

 

聖王機の横に立っていた白の機体。パールネイルが王を庇う様に前に立つ。誰もが動きを止めた息苦しい空気の中、魔神がインサラウムの前に降り立った。

 

『初めまして、インサラウムの若き王よ』

 

『き、貴殿は……何者だ? 何故このような所に』

 

『私は蒼のカリスマ。故あって名を明かす事は出来ませんが……それよりも、お聞きしたい事があります。何故あなた方はこのような真似をしたのです?』

 

『え? そ、それは……』

 

『見た所、あのドーム型の建造物は星のエネルギーを抽出するモノ、確かに星から生み出される次元力は膨大でしょうが、代わりにこの星が死にます。何故こんな真似までして侵略行為を続けるのです?』

 

『あ……う……』

 

『今ならまだ間に合います。武装を解き、降伏するのです。幸いにもZEXISの皆さんは話の通じない方ではありません。事情を話せば非難はされても無碍にされる事はないでしょう』

 

『アイツ、何を勝手な!』

 

『奴の目的は皆目見当も付かないが、確かにここで互いに武装を解けば被害は最小限に抑えられる。時間は掛かるが和平の道のりも開ける事だろう』

 

ZEXIS達から上がる不満の声、いきなり現れて場を仕切り始めた蒼のカリスマに苛立ちを覚える者もいるが、ジェフリー艦長だけはこれが最後の交渉の場だと冷静に目の前の光景を眺めていた。

 

やり方自体は乱暴だが、グランゾンという強力な力を前にしてはインサラウムも無視は出来ない。蒼のカリスマの目的はやはり見当も付かないが、今は彼こそがこの戦場の支配者だ。

 

ZEXISも沈黙して蒼のカリスマの交渉を見守る中……聖王機に搭乗したユーサーが口を開きかけた。

 

『なりませぬ殿下! そのような得体の知れない輩の甘言に耳を貸してはなりませぬ!』

 

口を開いて言葉を紡ぎかけた時、横から飛び込んでくる老婆の叫びがそれを許さなかった。

 

『マルグリットよ、そのまま殿下を守れぃ! アークセイバーよ、貴様等の力で以て殿下を誑かす不届き者を討ち取るのじゃ!』

 

『『『はっ!』』』

 

『蒼の魔神よ、貴様の目的は知らないが殿下のお側に近付けさせはせん!』

 

『我らアークセイバーの剣、その身でとくと味わえ!』

 

周囲を囲み、タイミングを合わせての一斉攻撃。薙ぎ払うかのようなエネルギーの光弾、鋭い突きから繰り出される突撃攻撃、騎士と呼ばれるに相応しい攻撃の嵐の中。

 

『歪曲フィールド、展開』

 

魔神を駆るその一言によって、全てが防がれた。光弾は微塵も残らず消し飛び、槍は歪曲された空間にひしゃげて消滅、自分達の攻撃が一切届かなかった事に絶望するアークセイバー。

 

そして、次の瞬間。

 

『“グラビトロンカノン”発射』

 

誇りも覚悟も、その全てが無意味だとあざ笑う様に、パールネイルを含めた騎士達は地面へと叩きつけられた。

 

残されたのは聖王機と母艦のみ、自分の楯として、刃として頼りにしてきた騎士達が悉く地に伏した光景を前にユーサー=インサラウムは呼吸も忘れ、青ざめた表情で見つめていた。

 

『ユーサー=インサラウム殿下』

 

『っ!?』

 

『もう一度言います。投降なさい。引き返せるのは今だけですよ。もし、私の言い分が聞き入れられない時は…………』

 

 

 

 

『インペリウムと、同じ末路を辿ってもらう事になりますよ?』

 

 

 

 

もう、何も言えなかった。このままではマルグリットもアークセイバーも殺される。今殺されていないのは目の前の魔神がそうしないだけだ。

 

降伏しよう。目の前の魔神に戦意を完全に失った皇子は矜持を捨て、せめて皆を助けて貰おうと言葉を発しようとする。

 

宰相のアンプローンも何も言わない。恐らくは自分と同様この状況に絶句しているのだろう。

 

ユーサー=インサラウムはこの時、再び叩きのめされた。ZEXISにでも破界の王にでもなく、たった一機の魔神に……。

 

『………こ、こうふ』

 

その時だった。突如空の彼方から黒い物体が飛来してきて、蒼き魔神に斬りかかった。

 

『残念だが、それ以上はやらせないよ。蒼き魔神“グランゾン”よ』

 

それは目にも映らぬ速さだった。鴉の様な出で立ちでありながらその速さは疾風、黒い風と思わせるその疾さに、魔神は空間を歪ませて凶悪な剣を取り出し、向かいくる鴉と打ち合った。

 

『その声は……アサキム=ドーウィンか!』

 

魔神と鴉。二つの存在のぶつかり合いはZEXISすら手の出せる状況ではなくなった。

 

二つの巨大な存在がせめぎ合う中、重力の檻から抜け出せた騎士達と共にインサラウムは撤退。ZONEも後に止められたと知り、彼らにとってはこの上なく幸先の悪いスタートとなるのだった。

 

 

 

 




あれ? アサキムの方がヒーローっぽい?

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