主人公のほのぼの旅となります。
────ソレスタルビーイング格納庫。
アロウズの収容所に捕まっていたアレルヤ=ハプティズム、そして同じ収容所に捕まっていた沙慈=クロスロードを救出していた一行は、次の目的地であるエリア11へと向かっていた。
その最中、嘗て日本で潜伏中だった刹那=F=セイエイがソレスタルビーイングのメンバーだと沙慈が知り、世界がこのような形に歪んだのは君達の所為だと激しく罵倒。その憤りぶりに当事者である刹那や黒の騎士団の一人であるカレンは、何も言い返す事が出来ないでいた。
そして、再び沙慈が部屋から出てきて刹那達の前に立つ。やはりあの程度では彼の怒りは収まらないのかと、周囲の人間が危ぶまれた時。
意外にも沙慈は怒りを爆発させる事はなく、各ガンダムの整備メンテをイアン=ヴァスティと共に始めるのだった。
予想外の行動に面食らう一同、昨日とは打って変わって落ち着いている沙慈に元同級生であるカレンは戸惑い、その後一通り整備を終えた沙慈に話を聞いてみた。
「え、えっと……沙慈、怒ってないの?」
「正直、今も納得していない所は多いよ。言いたい事も沢山ある。僕がイアンさんに頼んで整備を手伝っているのはそんな気持ちを少しでも紛らわせたいからさ。……けど、ある人に言われたんだ。ある程度感情を爆発させたら、次にどうしてそうなったのかを考えてみなさいって」
「ある人?」
「うん。カレンや刹那、ここにいる人達がそれぞれ戦う理由を持っている。そして、その理由を持つようになったのは何故なのか、その答えに辿り着いた時、僕も一つの答えを得られるだろうって、その人は言ったんだ。僕は知りたい、どうしてルイスはあんな目に遭って、どうして姉さんは死ななくちゃならなかったのか……その答えを知りたい。───あの人はそれが世界と向き合う事なんだって、そう教えてくれた」
「……不思議な事を言うのねその人は。ねぇ沙慈、その人の名前、何だったか覚えてる?」
「ちょっと胡散臭い言葉使いだったけど、悪い人には見えなかったからね。一応聞いておいたよ、確か……シュウジ=シラカワさん、だったかな?」
「「「「シュウジ=シラカワ!?」」」」
「え? え? な、なに?」
沙慈から聞かされる人物の名にカレンだけではなく周囲の人間も反応する。ここまで反応されるとは思わなかった沙慈は目を丸くさせて驚くが、その後、カレンからその後のシュウジ=シラカワなる人物の行方について問い詰められ、沙慈は散々な目に遭うが、割愛させてもらう。
「ねぇ、そのシュウジって奴は一体なんなの?」
「あぁ、エスターさんはご存じなかったですね。シュウジ=シラカワさんは僕も実際会った事はないんですが、なんでも随分奇特な御人らしいのです」
シュウジ=シラカワなる人物について初めて耳にした次元獣バスターのエスター=エルハスは、隣に立つカトルに聞いてみた。
しかし、カトルからの説明でもイマイチ要領を得ないエスター、名前ばかりで謎に満ちたシュウジの人物像に頭を唸らせる彼女に、死神と名高いデュオ=マックスウェルが話に加わった。
「エリア11に暗黒大陸、リモネシアに日本と、色んな所に現れる奇妙な奴でさ、オマケにそいつあのくろがね五人衆から一目置かれていたらしい」
「あ、それ知ってる。とんでも化け物五人衆でしょ? クロウが言ってた」
「あの野郎、自分で首を絞める様な真似を……まぁそれは置いといて、その五人衆の目を欺ける程奴の身を隠す術は異常だったらしい。何せあのお菊とかいう婆さんの後ろを容易く取れる奴だ。生半可な修羅場ではそんな術は身につけられねぇよ」
「まるで不動司令のようだってアポロ君も言ってましたね」
「要するにだ。シュウジ=シラカワって奴は俺らの中じゃ“蒼のカリスマ”と並んで胡散臭い奴として通っている。お前も難しく考えないでその位の認識でいいと思うぜ」
「デュオ、またそんないい加減な……」
デュオのいい加減な説明に呆れるカトル、残されたエスターは何か疑問に思ったのか、少し考える素振りを見せ……。
(そういや、私に操縦技術を教えてくれた蒼のカリスマ、あいつも結構胡散臭かったっけ。……悪い奴には思えなかったし、案外そのシュウジ=シラカワって奴と同一人物だったり──)
「いやぁ、まさかねぇ~。流石のアタシもそれはないと思うわ~。胡散臭い所が共通点とか、幾ら何でも安直過ぎるでしょ」
「エスターさん? どうかしました?」
「うぅん、なんでもない」
一瞬だけ思い浮かんだ答え。だが、すぐさまそれはないと断じたエスターはすぐに思考を切り替え、次の目的地であるエリア11に付くまでの合間、カレンに頼んでシミュレーションを行うのだった。
◇
J月O日
どーも、最近髪の先が紫色っぽくなってハゲへの前兆か!? などと戦々恐々の日々を過ごしているシュウジです。
いやね、なーんか最近髪の先っちょが気になるんですよ。確か以前仮面を取った時に確認したんだけど、その時はうっすらとしか確認出来なかったし、リモネシアで大人しくしていた頃は普通に黒髪に戻っていたから気に留めていなかったのだけれど、ここ最近になってまた紫色になってきているから少し不安になっているんだよね。
アロウズの収容所に捕まっていた時は色々ストレス溜まる思いをしたからなー、アレが原因で髪の色素とか落ちたのかなぁ。
黒髪に混じった紫、ちょっとダークヒーローっぽくて格好いいかもしれないけど、イメチェンとしてそれはどうよ?
自分、服装とかそういう事はあまり詳しくないから分からないけど、多分……ないんじゃないかなぁ。
近い内にまた髪が紫色っぽくなるのか、そしてそれはハゲへの第一歩になるのか、不安でしかたありません。
まぁ髪への不安は置いといて現状報告を書くことにする。今現在自分はアザディスタンを抜け、フランスへと向かおうとしています。
予想していた事とはいえ、アザディスタンではシュウ博士に関する情報は何も得られず、治安の悪さもあってアザディスタンの首都には一日だけ泊まり、次の日にはこの国から去ることにしました。
本当はもっと根深く調べたかったのだけれど、どうやら地球連邦はこの国を吸収しようと色々策を巡らせているらしいのだ。
当然地球連邦が動くという事はその傘下にあるアロウズも動くと言う事、先日捕まったばかりの身としてはあまり関わりたくない連中なので、再び彼等が訪れる前に移動した方が安全だと判断した。
それに一つの国で虱潰しに探すよりも、世界中を巡りながら広く浅く探した方がいい時もある。どこかの地で観光に洒落込んでいたらバッタリとそこでシュウ博士に出会すかもしれない。
……流石にそれは楽観的だとは思う。が、一つの場所にずっと留まっても情報が集まるとは限らないのもまた事実。
アザディスタンにはまた後日訪れる事にして、自分は次の国に向けて英気を養う事にする。主に殴られた治療とか。
アロウズの連中、人を殴るだけ殴っておいて謝罪の一つもない。ソーマさんは申し訳なさそうにしてたけどね。
さて、次はフランス料理……もとい、シュウ博士の情報を今度こそ得られるものだと信じて、今日の所は終了したいと思う。
貨物列車って荷物ばかりが置かれたイメージあるけど、意外と乗り心地いいよね。寝床もあるし、今回は割といい旅になりそう。
J月@日
フランス料理っておしゃれなだけじゃなく味も中々だよね。今まで食べたことのない味付けだったから新鮮で美味しさと同時に楽しめた。
アロウズの連中に殴られた所も、今は腫れも引いて痛みもなくなり、天気も晴れと良好、絶好の旅日和である。
ひとまず今日の寝床も確保出来たし、後は博士の情報に付いて探し求めるのみである。このままアザディスタンの時の様に足を使って探してもいいが、単純な人探しではシュウ博士の居場所を特定出来そうにないので、今回は別の視点から情報を模索したいと思う。
まずこの世界。大時空震動によって混ざり合ったこの世界は多元世界と呼ばれ、世界と世界を繋ぐ次元境界線となるものが常に揺らいでいる状態となっており、時折次元震や規模の大きい時空震動が起きたりして、別の世界の地形が存在する事になっている。
嘗てユニオンとブリタニア帝国が一緒の地点で共存していたり、二つの月や日本が存在したりするなども時空震動が大きな原因を担っていると言われている。
そしてそれは地形丸ごとという訳ではなく、人単位で跳ばされてくるということも珍しくはない話で、この世界には数例とはいえ実例が存在している。
かく言う自分もその一人だと認識しているのだが……気が付いたらグランゾンのコックピットにいたって、一体どんな間違いが起こればそんな状況になるのだろうか? その辺りが未だ謎である。
そしてシュウ博士の事だが、もしこの時空震動が関わってくるのであれば、博士はそもそもこの世界に存在しているのかどうかすら疑問に思えてくる。
時空震動や次元震は偶発且つ突発に発生する事象だ。もし博士がそれに巻き込まれて別の世界に跳ばされたのだとすれば、シュウ博士が自分とグランゾンに対して何のアクションも起こさない事が説明され、自分の今回の旅そのものが無駄という結果に終わってしまう。
と、普通に考えれば博士を捜し出すのは絶望的に思われるが、そこは天下のシュウ博士、次元震や時空震動に巻き込まれようと独自の力で戻ってきそうだから怖い。
もし本当にシュウ博士がこの世界にいなければそれはそれで問題無しと言う事になるが……まぁ、確かに楽観的過ぎる考えではあると自分でもそう思う。
これはあくまで自分の考えに過ぎないし、極論過ぎる考え方だ。やはり情報を探すにしてももっと専門的な知識が欲しい所である。
取り敢えずこの推測は置いておくとして、自分はこれから足を使って情報を得ようと思う。有益な話が聞ければ明日以降に書くつもりでいる為、今日はこれで終わりとする。
◇
─────一体、何がどうしてこうなったのだろう? 昨日、自分はシュウ博士やそれに纏わる有益な情報を探す為にフランスの街を駆け巡っていただけの筈。
駆け巡ったと言っても、別に走り回った訳ではない。情報の集まりそうな酒場やちょっと危険な臭いがする──所謂裏家業の人と少しばかり話をしたぐらいである。
裏家業の人と関わっておいてこんな事を言うのもアレだが、ちゃんと安全な橋を渡った健全なやり方だ。……まぁ、おかげで旅の資金が少しばかり減ったが、いざとなれば日雇いのバイトで稼ぐつもりだったから別にそれはかまわない。
ただ、やはりその後がいけなかったんだろうなぁ。色々考え事をしながら歩いていたから、すれ違い様に人とぶつかってしまった。
いや、ちゃんと謝りましたよ? ぶつかった瞬間に謝る位は、……けどね、そのぶつかった人が拙かったの。
どんな人とぶつかったのかって? ヒント、“皇族”
もうね、謝った瞬間叫びたくなったよ。どうしてアンタがここにいるんだよと、聞けば外交の関係の仕事でたまたまこの国に来ていたらしく、しかも珍しく時間が空いた為にたまには外を歩こうと思って外出したらしい。
護衛は何してんだよ!? そう思った時は既にSPの皆さんに囲まれました。しかも中にはナイトオブラウンズのナンバー3と6さんが。
さて、もうお分かりの人もいるかと思います。自分がぶつかった人物、その人の名は……。
「おや? なんだか食が進まないらしいが……ここの料理は口に合わなかったかな?」
「……イエ、ソンナコトハゴザイマセン」
シュナイゼル=エル=ブリタニア様でしたー。
有名人と出会うなんてー、シュウジ感激ー♪
………誰か、助けてくれ。
グランゾン(シュウジ)が仲間になりたそうな目で此方を見てくる……どうしますか?