『G』の日記   作:アゴン

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増えるキャルちゃんを見てたら間が空いてしまっていた。

そんな訳で投稿です。


その229

 

 

 

 ────先日起きた大群のE.L.S.による襲撃から数日、世界は特に大きく変わる事なく、世界終焉の日を前に人類は最後の日常を謳歌していた。

 

地球に住まう人々の頭上には太陽と月の他に金属の花が咲き、新たな時代の到来を予見させている。ここ、名も無き無人島にも月と花が映し出す幻想的な風景を作り出していた。

 

「フフ、まさか世界の最後を飾る前にこんな幻想的な光景を目にする事が出来るとは、人生と言うものは分からないモノだ」

 

 頭上に浮かぶ満月とそれに寄り添うように開いたE.L.S.の花を仰ぎ見て、シュナイゼル=エル=ブリタニアは微笑みを浮かべる。其処には嘗ての虚無感は無く、人としての感情の色が濃く滲み出ていた。

 

「ほら、君も来るといい。折角の墓参りなんだ。そう畏まってはお父上も寂しがってしまうよ」

 

後ろに振り返り、シュナイゼルが隣に来るように促す相手は嘗ての親友の忘れ形見、マリーメイアが緊張した面持ちで佇んでいる。

 

「で、ですが本当に私なんかがお邪魔しても……その、良いのでしょうか? お父様の………トレーズ様のお友達は貴方とシュウジのおじ様の筈、私なんかが割ってはいる訳には………」

 

遠慮しがちにそう語るマリーメイア、彼女もまた世界と戦争によって人生を振り回された人間の一人、人としての尊厳を失くし、デキム=バートンの操り人形と化した彼女。父であるトレーズの思いすら踏みにじろうとした自分が、果たしてここへ来る資格なんてあるのだろうか。隣に佇む従者であり以前の旅で支えてくれたレディ=アンは、目を伏して沈黙を保っているだけである。

 

因みにもう一人の護衛者であるブロッケンはこの場には来ていない。「そろそろ我輩も自分の道を見つけるべきなのかもしれないのである」と言ってマリーメイア達と別れ、現在日本のとある温泉宿にてバイトとして働いているとか。

 

 父の思いを無下にした自分に墓参りをする権利はない。旅をして世界の広さを知り、人としての生き方を学んだマリーメイアはそれでも尚、自分の犯した罪を許せずにいた。こんな機会はこれから先二度と訪れはしない、けれど、それでもこれ以上前に踏み込む勇気が今の彼女には無かった。

 

そんな彼女にシュナイゼルはどうしたものかと頭を悩ませる。実際には言葉巧みに操って彼女をトレーズの墓前に立たせる事も出来るが、それでは彼女の為にはならないし、何より彼に再び殴られてしまう。ここ最近生身でも人外的な力を手にした彼に殴られては、今度は錐揉み回転では済まなくなる。流石にそんな最期は遠慮したい。

 

 そんな時だ。月明かりの照らされた無人の島に一つの影がシュナイゼル達を覆う。マリーメイアとレディ=アンは何事かと驚き、シュナイゼルが漸くかと上を見上げれば、其処には蒼の魔神グランゾンが此方を見下ろしていた。

 

「悪い、待たせたか?」

 

割れた空間───ワームホールの奥へと消えていくグランゾンの中から一人の男性が降り立つ。地上から数十メートルの高さから飛び降り、骨を折る処か怪我一つ見せないその男に今更驚く人間は此処にはいない。

 

「いや、まだ時間にはなってないよ。相変わらずの五分前行動か、相変わらずだね君も」

 

「まぁな、これでも成人した社会人だ。約束の時間くらい遵守するさ」

 

 そう言って辺りを見渡し、自分以外来ていないのかと訊ねる男にシュナイゼルは男の後ろを指す。

 

「っと、そっちにいたかマリーメイアちゃん……って、なんでそんな離れてるんだ?」

 

「フフ、どうやら彼女は慣れない事に緊張しているらしい。何せ初めて父親と対面するのだからね」

 

「あ、あう」

 

「そう言うもんかね? まぁ、確かにあの二又眉毛には少し威圧感は感じるが………」

 

 シュナイゼルに自身の心の内を見破られ、萎縮してどうすればいいか分からず年相応にオドオドするマリーメイアに男───シュウジは笑みを浮かべて近付いていく。膝を曲げてマリーメイアと目線を合わせるシュウジは彼女に手を差し伸べて………。

 

「ほら、マリーメイアちゃんも深く考えないでさ、一緒に行こうぜ」

 

目の前に出された手をマリーメイアは戸惑いながらも触れた。大きく、硬い岩石の様な手だが、その奥からは血の通った暖かさが感じ取れた。

 

一歩、前に足を踏み出す。それが彼女の意思だと受け取ったシュウジは側に控えるレディ=アンに目配りして確認を取る。シュウジの意図を察したレディ=アンは承諾するように頷くと、この場を二人に任せるように静かに姿を消していく。

 

 一歩ずつマリーメイアの足は前へと進んでいく。彼女の歩幅に合わせるシュナイゼルとシュウジは、父親との対面に緊張しながらも歩みを進める彼女を優しく見守っていた。

 

五分か、或いはもう少し時間が経過した頃、マリーメイアの前髪を風が撫でた。眼前に広がるのは大海原と草原に包まれた開けた場所、月と星の明かりが照らすその場所には………。

 

 トレーズ=クシュリナーダ。嘗てのOZの総帥で人類を愛し、人類の為に散った偉大なる敗北者───そして、シュウジとシュナイゼルの親友でマリーメイアの父親の墓が其処にはあった。

 

「へぇ、思ってたより綺麗なままなんだな」

 

「まぁね。私もちょくちょくここへは来ているし、カノンに頼んで周辺の手入れを任せているからね。景観を損なわない程度には整えさせて貰っているよ」

 

「おおう、カノンさんってばマジ有能」

 

 海を一望できる位置に建てられた木で打ち立てられた簡素な墓、それがトレーズの墓だと理解したマリーメイアはゆっくりとその墓へと近付いていく。

 

「………お父、様」

 

瞬間、ふと暖かい風がマリーメイアの頬を撫でた。海風の様な冷たいモノではなく、先ほどのシュウジの様な武骨ながらも暖かい感覚。まるで誰かの手に頬を触れられた様な感覚にマリーメイアはハッと息を呑んだ。

 

 理解した。今、この墓の下には自分の父親が眠っている。顔なんて合わせた事なんてないのに、目の前の木で作られた墓からマリーメイアは父の温もりを感じ取った。

 

自然と涙が溢れる。ポツリポツリと頬を伝って流れ落ちる滴はトレーズの墓の側に咲くタンポポに落ちていく。

 

「お父様、マリーメイアです。貴方の………娘です!」

 

これ迄、胸を張って言えなかった事をこの時初めて口にできた。自分はこの人の娘だと、漸く自信を持って口にできた事にマリーメイアは涙を流しながら笑みを浮かべていた。その様子を少し離れた所で見守っていた二人は満足そうに見つめている。

 

「成る程、彼女を呼んだのはこう言う事だったか」

 

「まぁな、マリーメイアちゃんは賢い子だけどそれ以上に子供なんだ。子供なら父親に逢いたいと思うのは当然の感情だろ?」

 

「トレーズ=クシュリナーダの遺児、大抵の人間なら政治的利用することを考えるだろうに。君はあくまでトレーズの娘として扱うんだね」

 

「当たり前だろ。あの子はトレーズさんの娘で、俺達はあの人の友達だ。だったら、最期まで出来る限りの事はしてやりたいだろ?」

 

 友達だから、そんなありふれた理由で当然の事だと断じるシュウジをシュナイゼルは何処までも甘く、そして眩しく見えた。

 

(嗚呼、そうだな。そんな君が相手だから私も本心で語れる事が出来たんだ)

 

何処までも一般的な感性を持ちながら、何処までも成長し続けるシュウジ。そんな彼だからこそシュナイゼルも虚無感から脱し、トレーズもまたそこに未来と希望を見出だしていた。ブリタニアの貴族とOZの総帥、どちらも人より高い地位にいる自分達をある意味で対等に接してきたシュウジ、そんな自分達だからこそ今日まで友達という関係でいられた。

 

「さて、そろそろ此方も準備を始めるか。シュナイゼル、用意は出来てるな?」

 

「ん? あぁ、言われた通り食材関係は用意していたけど……一体何をするんだい?」

 

 以前からシュウジに言われてきた食材の数々、料理が得意だと豪語するシュウジに言われるがままに用意していたシュナイゼルだが、彼の頭脳を以てしてもこれから何を作られるのか予想出来ずにいた。

 

疑問を口にして訊ねるシュナイゼル、そんな彼に応える様にシュウジがワームホールから取り出すのは一つの大きめなちゃぶ台とガスコンロ、そして………。

 

「折角の友人とその娘との団欒、だったらやることは一つでしょ」

 

 見事な造形の………鍋だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 亡きトレーズへの墓参り、そして最後(・・)の親睦会による鍋パーティーはつつがなく行われ、シュナイゼルとマリーメイアは戸惑いつつもその独特な味わいに舌鼓を打った。その間に紡がれる話は世界を揺るがしかねない重大なものから当たり障りのない雑談まで、まるで世間話の様に語るばかりで、世界を旅して情勢を知るマリーメイアとしてはシュウジとシュナイゼルの話に目を回してばかりだった。

 

「そんじゃ、ジルクスタン王国の巫女はお前の協力者になった訳だ」

 

「表向きはね。そもそも蒼神教は彼女が起こした宗教だから、新大陸で起きた騒動も必然的に彼女の責任になる。それを少しでも軽くするためには彼女が国連に降るという形が必要だったんだ。彼女を私の下に来させたのもギアスについて色々と知っておきたいと思ったからさ」

 

「ま、これを機にあの国も戦う事以外の道を探すだろうよ。ボルボナってやり手の将軍さんもいるみたいだし、建て直すのに然程時間は掛からないだろうな」

 

「全く、君はつくづく面倒な事をしてくれるな。ボルボナ=ファグナーは軍事的にも政治的にも有能な人間だ。政界に出てきたらまず間違いなく国連での発言権を狙ってくるだろう。そうなれば必然的に彼の相手は私がする事になる」

 

「いいじゃん。お前だって暇を持て余すのにも飽きてきたんだろ? そろそろ腹黒宰相様の本領………いや、本性を発揮してもいいんじゃね?」

 

「フフフ、それもそうかな? それはそれとして話は変わるが、マネキン准将が些か憤慨していたよ? 折角のE.L.S.対策に費やした時間が台無しになったって」

 

「あの戦力は最後の戦いに備えて温存してもらったんだよ。そもそもE.L.S.には敵対する意思何てものは無かった。E.L.S.が望んだのは自分達が生きていられる環境、居場所が欲しかっただけなんだよ」

 

「金属生命体との対話、イオリア=シュヘンベルグは見事自分の望みを叶えた訳か」

 

「いやぁ、どちらかと言えばこれからじゃね? あの人の計画って全部望みを叶えるための準備段階って感じだし」

 

 次々と世界とその未来について語る二人にマリーメイアは割って入ることが出来なかった。蒼神教なる蒼のカリスマを神に据えた宗教が存在していたのは知っている。E.L.S.という金属生命体が大群で地球に迫っていたことも。けれどその二つが自分が思っていたよりも遥かに速く終息していた事に、マリーメイアは戸惑いを感じずにはいられなかった。

 

二つとも一日二日で終わる話ではない、E.L.S.に至っては地球存亡の危機に瀕していた程だ。それがまるで始めから無かったかの様に世界は平穏を取り戻し、変わった事があると言えば頭上に月の他に花が咲いた事くらい。地球の危機も蒼のカリスマことシュウジにとって取るに足らない出来事らしい。

 

「っと、ごめんなマリーメイアちゃん。ほったらかしにしちゃって、鍋、食べたかったら温め直すけど?」

 

「い、いいえ、お腹の方はもういっぱいですから」

 

「そう?」

 

 どうやら退屈を持て余していると思われたらしい。実際にその通りだが、それを素直に言い出せるほどの勇気はマリーメイアには無かった。本当なら父であるトレーズの話を聞きたかったが、本来であるならば自分はこの場には来る筈の無かった人間だ。父の墓前に来れただけで満足しよう、そう思ったとき意外にも助け船はシュナイゼルの方から出された。

 

「所でシュウジ、君はトレーズとはどういう出会い方をしたんだい? 時期的には再世戦争の頃だと私は睨んでいるが、そろそろその話を聞かせてはもらえないだろうか」

 

「ん? あぁ、そう言えばその話はしてなかったなぁ」

 

 自分が今一番気になる話題にマリーメイアは顔を上げる。視界の端にはどう話したものかと空を仰ぎ見るシュウジと此方を見て微笑むシュナイゼルがいた。どうやらシュナイゼルには此方の心境はお見通しらしい、ウインクすら飛ばしてくる微笑みの貴公子にマリーメイアは自身の顔が紅くなるのを感じた。

 

「まぁ、ぶっちゃけて言えば成り行きだったな。あの時の俺はまだグランゾンの力を引き出しきれていなかったし、結構気絶とかしてたからな。あの時も気絶していた俺をトレーズさんが介抱してくれてさ。そんでなんやかんやあって───」

 

「あ、あって?」

 

「殴り合いをした」

 

「え、えぇ!?」

 

 サラリと溢すトンでもない内容にマリーメイアは目を丸くする。少し離れた位置で控えていたレディ=アンも驚愕を露にしているし、シュナイゼルですらも目を丸くさせている。

 

「いや、俺はそんなつもりはなかったよ? でもトレーズさんってば勝手な理屈で殴ってくるんだもの、それも手加減なしに。だったら此方もやり返すしかないかなって」

 

「や、やり返すって………」

 

 幾ら理不尽を嫌うシュウジだからって当時OZの総帥であるトレーズと殴り合いをするなんて………そう思うマリーメイアだが、同時にだからこそ二人は友人になれたのだと理解した。

 

「成る程、だから私を殴り飛ばしたのも抵抗がなかった訳だ」

 

「そう言うこと、まぁ簡単に言えばヤケクソだな」

 

そう言って当時の事を思い出したのかシュウジは満面の笑みを浮かべて話を続ける。破界の王ガイオウとも悪友関係だったこと、そしてシュナイゼルの目を盗んで行動する為に女装もしたこと。特に女装の下りではあのシュナイゼルですら噴き出し、その際に出会ったトレーズの天然な対応にまた盛大に笑いだした。

 

 それからも三人の談笑は続いた。シュナイゼルと共に朱禁城に赴いてゼロとチェスした事、実は内面焦りで一杯だった事、他にも蒼のカリスマ本人から語られる当時の出来事と心境に、マリーメイアはまるで冒険譚を聞いている気持ちだった。

 

話も大分長引いてそろそろ鍋パーティーも終わりを迎えようとした頃、シュナイゼルは徐に口を開いた。

 

「なぁシュウジ、最後に一つだけ質問させてはくれないか?」

 

「うん?」

 

「君はこれ迄多くの戦いを経験した。グランゾンと共に時には逆境と呼べる状況の中、君は時代に翻弄されながらも戦い続けた。そして、もう間もなく最後の戦いが始まり、その結果次第ではこの世界は消えてなくなる」

 

「もし、君達が無事に勝てたとしよう。喜ばしいことだ。世界は救われ、すべての人類、生命は歓喜に震えることだろう。………しかし」

 

────果たしてその時、君の居場所はあるのかい?

 

 先程までの笑みは消え、真剣な表情で訊ねるシュナイゼルにシュウジは困った様に笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




Q.刹那君はボッチの友達になれるの?

A.一体いつから、ボッチに友達が出来ると錯覚していた?


今回はトレーズとシュナイゼル、そして主人公のあれこれをマリーメイアちゃんに聞かせる話でした。

尚、シュナイゼルはボッチをこの世界の人間ではなくもっと遠いところから来た異邦人だと何となく察している模様。

それでは次回もまた見てボッチノシ

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