『G』の日記   作:アゴン

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て、展開が進まない……。


その210

 

 

 

「やぁぁぁぁっ!!」

 

手を握り、拳の形へ変形させたバスターマシン7号──ノノの一撃が、地上から遥か離れた雲の上で振り抜かれる。縮退炉を搭載し、圧倒的性能を誇るガンバスターとは系統として姉妹になる、火の文明の人類が生み出した兵器の結晶。その圧倒的力をもって打ち出される拳は、其処らの兵器を一撃で粉砕する威力を秘めている。

 

「あらあらまぁまぁ、元気一杯ですわね」

 

そんな彼女の拳を、ソレは笑顔を浮かべて回避する。ノラリクラリと、まるで遊んでいる様な態度のサクリファイにノノは苛立つが、それ以上に焦りを募らせていた。

 

ノノことバスターマシン7号は、その名の通りガンバスターに連なるモノ、人類という種を守護するべく生まれた火の文明の最高傑作、その一つである。並外れた膂力。洗練された火力。宇宙怪獣という人類種の天敵との戦いに用いられる決戦兵器。

 

その彼女の攻撃が悉くいなされ、捌かれ、受け流されていく。ノノに油断や慢心の気持ちは無かった。目の前にいる女は宇宙怪獣以上の人類の───生命の天敵だというのはノノも充分理解している。人の形をしているからって手を抜ける相手では無いのは重々承知している。

 

だが、それでもこれ程の差があるとは思わなかった。自分の攻撃を悉く、何の苦もなく対処し、アッサリと攻略してしまうサクリファイ。ノノは焦った。今この女の相手が出来るのは自分しかいない、地上では奇妙な力を得たアスクレプス達がZ-BLUEを襲っている。

 

Z-BLUEが連中を相手に勝利を収めるまで、何としても此処で抑えとかなくてはならない。ノノは一度下───地上に向けて降下する。

 

「あら? もうお仕舞いですの?」

 

降りていくノノに些かの失意を覚え、落胆するサクリファイだが、彼女から発せられる紅い光がより激しさを増した事を目にした瞬間、それは間違いだと気付く。ノノは逃げるために降りたのではない。地上にダメージを与えない為に下がったのだ。

 

「バスタァァァァァ───ビィィィィィムッ!!」

 

ノノの両手から放たれる一条の光。それはサクリファイに直撃する事で二つに裂け、宇宙に向けて飛翔していく。軈て地球の重力により歪曲した光は弧を描き消失していく。

 

月の様な衛星程度なら容易く貫く光線。周囲の雲は蒸発し、開かれた視界の中でノノが目にしたのは、焦げ目こそついたものの、全く無傷の状態で佇むサクリファイが其処にいた。

 

「ウフフ、健気ですね。皆を守る為に孤軍奮闘。一人で私に挑む貴女は正しく地球の守護者。矮小で、滑稽で、とても素敵な貴女。嗚呼、何て愛しいのでしょう」

 

恍惚に微笑むサクリファイにノノは怖気を覚えた。こんな存在がいるのかと、感情を持っているのに、宇宙怪獣とは異なる存在の筈なのに、ノノは目の前の存在とまるで分かり合える気がしなかった。あの女は根本的な部分で捻じ曲がっている。人の心を持つバスターマシン、ノノは改めて目の前の存在が何としても倒さなければならない化け物なのだと思い知る。

 

「さて、折角の二人きりなんですものね。私も少し場の空気を盛り上げると致しましょう」

 

そう口にするサクリファイは指先をノノに向け、エネルギーを集束させていく。先程のノノが放ったバスタービームと同等以上のエネルギー量。直撃すればただでは済まない。ノノは何とか回避しようとするが……。

 

「あら? 避けて宜しいのですか?」

 

出来ない。何故ならば彼女の後ろには地上が、自分と同じく戦っているZ-BLUEの仲間達がいるのだ。回避など、出来るはずもない。

 

避ける事は無理、防御も厳しい。だったら残された手段は徹底的に抗うのみである。ノノは今一度両手を掲げ、ありったけのエネルギーを集束し始める。

 

「バスタァァァァァ───」

 

「ビーム♪」

 

迸る二つの閃光。激突した瞬間周囲は白に染まり、ユーラシア大陸に漂う雲は全て消滅する。押し潰されまいと必死に抗うノノ。それを見下ろすサクリファイは、やはり愉悦に満ちた笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『くっそ、コイツら!』

 

『手強い。一体がそれぞれあの黒いアンゲロイ以上だ!』

 

サクリファイがけしかけて来た量産型アスクレプス、嘗てはアドヴェントが使用していた機体の模倣体。強制的な真化を受けて、これ迄とは比べ物にならない程に強化された彼等に、Z-BLUEは徐々に圧され始めてきた。単純な力押しだけでも脅威。ガンダムや機動力を活かした機体は勿論、ゲッターやダンクーガの様なパワータイプの機体ですら、奴等の力に圧倒されようとしている。

 

『舐めるなよ、俺達だってあの時よりも強くなったんだ! こっちだって────ッ!』

 

そう、これ迄Z-BLUEは何度も窮地を乗り越えてきた。幾度も死地を越え、修羅場を潜り抜けてきた。負ける気は無い、喩え相手がどれだけ強くなろうとも、それを乗り越える力を持っている。

 

だが、兜甲児のその強気の台詞は最後まで紡がれる事はなかった。アスクレプスの額に縫い付けられた様に浮かび上がっている人の顔。それを目にした兜は、目の前のアスクレプスの異様な外見と強さを無意識に理解してしまった。

 

『コイツら、コイツらはまさか……』

 

他の面々も気付いたのか、戸惑い、焦り、力負けしていく。そしてそんな彼等にトドメを刺す様に……。

 

『マキ……さん?』

 

ヒビキの口から聞こえてくるその名前に、Z-BLUEは否応なく理解する。彼等は、サクリファイの手により己の機体と一体化されている。より上位の存在に至るため、人としての権利や命としての在り方、それら全てを棄却されて、機械と強制的に融合されてしまっている。

 

言葉を失った。人としての在り方をこれ以上無いほどに歪まされた、マキを初めとした嘗て人間だったもの。トライア博士に確認を取るまでもない。しかし、彼等は元々はアドヴェントに洗脳された一市民でしかない者達だ。そんな彼等を果たしてZ-BLUEは倒すことが出来るのか?

 

『まだだ! まだ諦めるには早いぞ!』

 

『クロウ!?』

 

『要するにコイツらはアレだ! あの時のエスターと同じなんだ! 次元力で存在を歪められたのなら、もう一度次元力で元に戻せばいい!』

 

ブラスタの機動力でアスクレプスの攻撃をどうにか避け続けながら、クロウは動揺する面々に呼び掛ける。そう、彼等は次元力の力でその存在を歪められている。それこそ再世戦争で一度は次元獣となったエスター=エルハスの様に。

 

確かにまだ希望は潰えていない、歪められたのが次元力なら、元に戻すのもまた次元力で可能となるはず。違いがあるとすれば、歪めたのが一国の技術者が手掛けたモノと宇宙すら歪める獣という、出力の違いにあるのだが……。

 

『アサキム、お前にも手伝って貰うからな!』

 

『そうしたいのは山々だけど……ねっ!』

 

迫るアスクレプスの凶刃をシュロウガ・シンも刃で切り払う。複数のスフィアを所持した事で、出力も桁違いのモノとなったシュロウガ。そんな彼等でさえ、一体を相手にするのがやっと。戦況は芳しくない。ゼロことルルーシュや、各艦長達が必死にその頭脳を巡らせて策を練ろうとしているが、一向に打開策は思い浮かばない。

 

シュウジが命を賭してサイデリアルから勝ち取った未来、ここで摘み取らせはしないと足掻くが……状況はより悪い方向へ流れつつある。

 

『ぐぁぁぁっ!!』

 

『兜ぉっ!』

 

アスクレプスの圧倒的な火力に、遂に鉄の城(マジンガー)が根負けする。これ迄の戦いで幾度となく最前線でZ-BLUEの盾として戦ってきたマジンガーZ。しかしここへ来て限界が来たのか、打ちのめされ、大地に叩きつけられたマジンガーの装甲には、幾つもの亀裂が入っていた。

 

追撃してくるアスクレプスから守る為に真ゲッターが前に出る。

 

『す、済まねぇ竜馬さん。足、引っ張っちまった……』

 

『いいからテメェは其処で少し休んでろ!』

 

これ迄前に出て守ってきた筈の仲間に庇われる。自分達は同じ部隊の仲間、故にそれ自体を恥とは思わない。何より悔しいのは、鉄の城、神にも悪魔にもなれるという謳い文句を欲しいままにしてきた自分達が、情けなくも敗北した事に他ならない。

 

歯を食い縛る。仲間が戦っているのに自分がお荷物になってしまっている。その事実が悔しくて、堪らなくて、どうしようもなくなっていく。

 

(チクショウ、畜生! もっと、もっと俺に……)

 

『力が欲しいか?』

 

『っ!?』

 

ふと、甲児の頭に声が響いてくる。通信による声ではない。誰だと思い辺りを見渡しても、周囲には人影なんてある筈もなく───。

 

『お、お前は!?』

 

否、一人いた。倒れたマジンガーの足下に、崩壊しかけたサイデリアルの皇帝が、それでも強い眼差しでマジンガーを、兜甲児を見つめていた。

 

『お前、生きてたのか!? ていうか何で其処にいるんだよ!?』

 

『済まないが、その質問に答える暇はない。単刀直入に聞くぞ兜甲児。力が欲しいか?』

 

『な、なん、だって?』

 

『今のマジンガーでは奴等には勝てん。勝てたとしてもその時の代償は計り知れんモノがある。シュウジ=シラカワが万全な戦いを期待出来ない以上、奴等との戦いでカギを握るのは貴様と……ゲッターしかいない』

 

『俺と、竜馬さんが?』

 

『お前には今二つの選択肢が委ねられている。このまま皆と共に戦うか、それとも一縷の望みに賭けて新たな力を得るか。取り込まれるかもしれない、自我を失い廃人となるかもしれない。あまりにも無責任且つ分の悪い賭けだ』

 

『しかし、それでも私はお前に問わねばならん。兜甲児、光の神ゼウスの写し身を駆るモノよ。仲間達の為に、深淵を覗く覚悟はあるか?』

 

その問いはあまりにも抽象的で、要領の得ない話だった。ただ一つ分かっているのは、この死にかけの男は自分に、Z-BLUEに、残された自身の全ての力で彼らの道を切り開こうとしている。

 

覚悟を訊ねてくる皇帝、次元将ヴィルダーク。彼の問い掛けに僅かな思考を巡らせ………。

 

『あぁ、やってくれ。それで皆を守り奴等に勝てるのなら、俺は力を得る方を選ぶ』

 

『分かった。その答え、確かに聞き届けた。しかし一つ訂正しておこう。力を得られるか否かは俺の匙加減ではない、お前自身の意思の強さにある』

 

『───あぁ、分かったよ』

 

『お前が挑むのは最終にして原初の魔神。負けるなよ兜甲児、奴に言葉を届かせられるのは、今この場においてお前しかいない』

 

その言葉を最後に、兜甲児の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───其処は墓場だった。広大な宇宙空間の中で漂う亡骸は、嘗ては最強のスーパーロボットとして語られてきた魔神、鉄の城ことマジンガー。

 

そこにあるモノの中には、甲児も知らないマジンガーの姿があった。偉大なる勇者の様相をしたモノ、魔神の皇帝を謳うモノ、様々な形をした嘗ての鉄の城達は、皆凄惨な格好で漂っていた。

 

どれも屈強な力を持っていた筈だ。それこそ今の自分よりもずっと強いマジンガーもこの中にはいた筈だ。それなのにまるで壊れた玩具の如く扱われたであろうその光景に、兜は息を呑んだ。

 

“───何用ダ”

 

『!?!?』

 

思わず、砕け散りそうになった。遥か頭上から聞こえてきた声。ただ自身に問い掛けてきた言葉の圧に、兜は一瞬魂ごと砕け散る錯覚を覚えた。吹き出てくる汗を拭いもせず、意識と意思を強く以て兜は見る。

 

そして───心臓が一瞬止まった。

 

其処にいるのは“魔”だ。其処にいるだけで他者を圧倒し、粉砕せしめる原初の魔神が兜甲児を見下ろしている。

 

『お前……は、マジンガー……なの、か?』

 

思わず、そんな言葉が出た。こんな事、初めてだ。………否、一つ覚えがあった。あの時は奴の余りの力の大きさに正しく認識出来なかったが、今目にしている魔神はあの時、第三東京跡地で見たグランゾンと同じモノだ。

 

“フン、確カニ今ノ奴ノ力ハ我等(・・)ト比肩スルガ、今ハマダ目覚メタバカリノ雛ニ過ギン。同列ニ語ラレルノハ少々心外ダナ”

 

『────』

 

息が出来ない。意識が保てない。自身の存在すら認識できなくなる迄に疲弊した兜。原初の魔神はそんな彼に容赦なく高らかに宣言する。

 

“貴様ノ問イニ答エヨウ。我ガ名ハマジンガーZERO。原初ノ魔神ニシテ、全テノマジンガーの頂点ニ位置スル者ナリ”

 

マジンガーZERO。日輪の如く輝かせるその背の背後には、無数のマジンガーの残骸が漂っていた。

 

 

 

 

 




今回で平成最後の更新になるかもです。

次回は新たな年号、令和でお会いしましょう。



オマケ

地球「生き残った! 俺は生き残ったぞ! やったぜ畜生めが! この俺、人類の方舟である地球様を舐めるなよ!」


次回、進化の竜。


それでは次回もまた見てボッチノシ


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