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『急げ! 既に戦闘は各地で行われているのだぞ!』
ラース・バビロンから遥か離れた荒野、天地を埋め尽くし目的地へ急がんと走る皇国の軍隊。地球各地で始まっている残存勢力による反抗戦、彼等は地球に残された最後の抵抗を掻い潜り、皇国の要であり心臓部になる防衛拠点であるセントラルベースへ進路を進めていた。
今、地球には奴等の最大戦力であるZ-BLUEがセントラルベースで副将達を相手に粘っている。情報は錯綜し、各地で混乱が起きているが、それでも皇国の指揮官は奴等の目論見がなんであるか読みきっていた。
今セントラルベースへ向かいZ-BLUEを叩けば地球での反抗勢力の士気は一気に失墜し、そうなれば地球は完全に皇国───もとい、我々サイデリアルの支配となる。
Z-BLUEを叩けばこの戦いは終わる。次元力の力が大きく作用するこの星を支配すれば、銀河中心部分で争っていた勢力は一気にサイデリアルへと傾くだろう。
この戦い、我々の勝利だ。まだ何も終わっていないのに指揮官の男はありもしない自身の未来予想図に妄想を広げていると。
『ぜ、前方に生体反応あり! この反応は───ろ、老人?』
『はぁ?』
部下である者から告げられる困惑に満ちた報告、それを聞いた指揮官も呆けた顔を晒すが、一応の確認という事で巨大モニターにその光景を映し出す。
超遠望の光学カメラで捉えた光景、風で舞い上がる砂塵の中で佇むのは報告通りにあった二人の老人の姿があった。
片方は赤黒く、血の様な色をした胴着を着用して体慣らしの軽い運動をしており、もう片方は単なる作業着を着て何やら奇っ怪な得物を担いでいる。
………一体、何のつもりだろうか? 二人の老人が自分達の進路を阻む様に立っていて、それを見た指揮官の男は思わず真顔で首を傾げてしまう。
まさか………戦うつもりか? たった二人の老人が? 生身で? 千を超える機動兵器を前に? そんな事を考えて男はバカなと一笑する。
一体何を考えているのか、馬鹿馬鹿しいにも程がある。恐らくは迷いこんだ老人をとっとと片付けろと男は部下に命じる。
軍団から突出して先行してくるのは一機の機体、全長は十数メートルもある、人が触れれば忽ち砕けてしまうであろう無人の機動兵器。
命令に従ったまま、容赦なくその剛腕を奮う。道端に落ちているゴミを片付けるつもりで、路上に落ちていた小石を蹴飛ばすつもりで、その機動兵器は二人の老人に鉄槌を下し───。
機動兵器は宙を舞った。人の十倍以上の機体が、重さに換算すれば
言葉を失う。なんて処の話ではない。物理的にあり得ない光景を見せ付けられた指揮官の男は眼球が飛び出る程に目を見開き、顎は外れる程に大きく開かれている。
爆散し塵へと還る無人機、爆風を背に老人は漸く来たかと機体を殴り飛ばした手を軽く叩きながら首を鳴らす。
「しっかし、あのシュ何とかっていうお偉いさんの言う通り、本当にここにきおったのう。彼、もしかして未来が視えとるんじゃないのか?」
「視えているというより、読んでいるんじゃろ。最近の若い者は凄いのう。儂等の頃はそんな芸当出来んかったぞ」
「まぁ、儂らはそんな難しい事を考えるのは昔から不得意じゃったしな、目の前の的をただ殴る斬るしか出来んし」
前方から見える大きな砂塵、空は戦艦で、地上は無人機、兵器で埋め尽くされる天と地を前に二人の老人はにべもなく談笑に興じる。
セントラルベースへ続く進路、ここを許せばZ-BLUEは挟み撃ちとなり、彼等はより窮地へ追い込まれる事になる。その事態を当たり前の如く読んでいたシュナイゼルは、己の戦力を分散させ伏兵を配置させる事はしなかった。
それだけの余裕が無かったから? Z-BLUEならばきっと乗り越えられるから? 否、単にその心配がいらない、ただソレだけの話である。
嘗て、ある世界に二人の男がいた。己の肉体のみで世界を渡り歩き、未だ戦乱のただ中だったその世界を己の肉体のみで蹂躙した怪物たち。
二人が出会った事で引き起こされた惨劇は国家の軍隊を以てしても抑えられず、その光景を目の当たりにした人々は彼等を戦神と讃え、畏れた。
触れてはならぬ者、接触禁止の禁忌の化け物。
我聞京四郎と大貫善治、戦神と畏れられた者達、シュナイゼルはそんな二人に盛大に暴れられる遊び場を提供しただけである。
「さて、儂ら老い耄れの最後の大一番。盛大に盛り上げるとするかのう」
「可可可……選り取りみどり、血が滾るわい」
拳を鳴らし、得物を鳴らし、かの物の怪どもは狂い笑う。
「お前さんらには悪いが、ちぃっとばかし付き合ってもらうぞ」
「なぁに、大した事はない。事が終わるまでの間、お前さんらには儂らの相手をしてもらう。それだけの事じゃ」
聞こえはしない。距離的に、物理的に、彼等に二人の言葉は届かない。だが、どんな言葉よりも指揮官の男は二人が何を言おうとしているのか、理解していた。
「「こっから先は通行止めじゃ」」
戦場にて嗤う二匹の鬼、彼等の今宵の犠牲者は幸運にも、地球にとって侵略者と呼ばれる者達だった。
◇
撃ち抜かれた天蓋からパラパラと瓦礫破片が降り注がれる。着地した床は陥没し、衝撃の強さを物語っている。
立ち上がり、玉座に君臨する皇帝を睨む。蒼を基にした戦闘衣装、身に纏う白い外套を靡かせて男───シュウジは陥没した床から歩み出る。
「ほう、まさか仮面を被らずにここへ来るとはな。ここに至って漸く腹を括ったか? シュウジ=シラカワ」
「別に、そんな大層なモノじゃねぇよ。シオさんを、リモネシアの人達を助けるのに仮面を被るのが何となく嫌だった。それだけの話だ」
ギリギリまで悩んだけどな。と、最後に呟き、シュウジはシオに視線を向ける。白く輝く美しい髪は肩を越すほど長く伸び、彼女が身に纏う水色のドレスと噛み合って映えて見える。同時にそれが自分と彼女の間に起きた時間の差なのだとイヤほど思い知る。
しかし、それも今日までだ。明日には皆をリモネシアへ……あの暖かな日々へと送り届ける。傲慢かもしれない、勝手な話だろう、しかし既にそうさせるという決意がシュウジにはあった。
「……どうやら、安全を配慮しているというのは本当の様だな」
「フン、当然だ。リモネシアの民はお前を呼び寄せる為の餌だが、それ以上にサイデリアルの───俺の所有物でもある」
「………所有物、ねぇ」
シオを、リモネシアの人々を堂々と自分のモノだと宣言する皇帝アウストラリス、耳にしたシュウジは眉間に皺を作り戦意を高めていく。
自分にとって大切な人達を物として扱う皇帝に今更敵対意識が拭われる事はない。が、それと同じくらいシュウジは感謝していた。アドヴェントの呪いに蝕まれ、死から甦り万全の状態に戻るまでアウストラリスは今日までリモネシアの皆を守り続けていた。
自分を呼び寄せる為の人質というのに間違いはないだろう。けれど、アドヴェントや奴の手先であるクロノから守ってきたのもまた事実。怒りを覚えるのも良い、敵対するのも仕方がない事、けれど彼はシュウジには出来ない事をしてくれた。礼を言うのは筋違いかもしれないが、シュウジは筋を通す意味も込めてそれを伝えなければならない。
「一応、礼を言っておくよ。今まで皆を守ってくれて……ありがとな」
「不要だ。元よりこれは俺の望み、貴様が礼を口にする事ではない」
「そうかよ」
シュウジの礼をにべもなく皇帝は不要と断じる。別にそこに思うところはない。だが、その不器用な在り方に何だかシュウジは何処と無く既視感を覚えた。
「我等の間に最早言葉こそ不要、語る言葉も尽きた。ならば後は闘争のみ───だが」
ふと、アウストラリスは隣を見る。
「どうやら、この者だけは貴様に言いたい事があるようだぞ?」
「………シオさん?」
アウストラリスに促されてシオは一歩前に出る。一体彼女が自分に何の用があるのだろうか、訝しげに思うシュウジ。今まで自分が蒼のカリスマであることを黙っていた事? グランゾンという機体で今まで世界を相手に戦っていた事?
心当たりがありまくるシュウジは罪悪感から冷や汗を流し、彼女の次の言葉を待ったが、それはシュウジの予想とはどれも当てはまらないモノだった。
「どうして………戻ってきたの?」
「────へ?」
「どうして、貴方は戻ってきたの? 私は貴方に助けてなんて言ってない。それを求めようとも、縋ろうとも思わなかったのに……どうして、貴方はここに来てしまったの?」
シオの言葉は懺悔の様にも聞こえた。助けを求めていないと、元いた世界にいるべきだと、声を震わせ、体を震わせて、怯えながらも問い掛ける彼女にシュウジは言葉を詰まらせる。
「だって、貴方には何の関係もないじゃない。ただ気が付いたらこの世界に来てしまっただけの貴方が、どうしてそこまでして戦うの? 訳、分かんないよ……」
「シオさん、もしかして……」
「ごめんなさい。私、貴方の日記を読んだの」
掠れるような声の告白、日記を読んでシュウジという人間を真に理解している彼女はそうまでして戦うシュウジがどうしても不思議に思えた。
対してシュウジはそう言う事かと変に納得し、そして確信した。あぁ、やはりこの
「そんなの、簡単だよ」
「────え?」
「俺はシオさんが、ラトロワさんが、ジャール大隊の皆が、リモネシアという国がどうしようもなく好きだからさ」
「─────」
「店長と一緒に店の手伝いをしたり、シオさんの愚痴を聞いたり、店先での人々の暮らしを眺めたり、そんな当たり前の日々が大好きなんだ」
「そんな、それだけの理由で?」
「勿論、それだけが理由じゃないさ。向こうで交わした約束もある。でもさ、シオさんだって本当は分かってるんだろ? 人間ってのはそんな“それだけの理由”でどんな困難にも立ち向かえる生き物なんだって」
「っ!」
今度はシオが言葉に詰まる番だった。分からない筈がない、理解できない訳がない、シュウジの言葉は誰よりもシオが────シオニー=レジスが理解出来る言葉なのだから。
シオニーは世界に対して戦い続けた。大国に吸収されない為に決して多くはない国の財産を使ってリモネシアという国を存続し続けた。全ては故郷であるリモネシアという国が好きだから、ただそれだけの理由の為に戦ってきた彼女が、シュウジの言葉を理解出来ない筈が無かった。
「だから、申し訳ないんだけどさ。諦めて俺の手を取ってくれ」
傷だらけで痛々しく、それでも大きくて熱が籠った手。微笑みながら手を伸ばす姿にシオの瞳から涙が溢れた。
「───シュウジ」
「ん?」
「私ね、叶えたい夢があるの。皆と一緒にリモネシアに帰って、街を治して、人を集めて、もう一度やり直したいの。あの日のリモネシアを、貴方と初めて会ったあの日を」
「出来るさ、シオさんなら絶対」
「そしたらさ、また一緒にご飯食べて、お酒を呑んで、一緒に話すの。これからの事、これまでの事、そんな事もあったねって、笑いながら話したいの」
「シオさんの誘いなら一晩中でも構わないさ」
「うん……うん。だから、だからね、シュウジ」
嗚呼、やっぱり、私は私が嫌いだ。あれほど悩んでいた癖に、目の前の彼に色々言いたい事があったのに、その全てが無駄になった。
でも、でも、罪深い私が、それでも許されるのならば。
「お願いシュウジ───助けて」
どうか、これから戦う貴方の為に……手前勝手な祈りを捧げさせて欲しい。
「あぁ、助けるよ」
そして、そんなシオの願いをシュウジは快く承諾する。絶対に助ける。そう意思を固めて拳を握り締めるシュウジの前に皇帝が立ち塞がる。
「話は終わったか?」
「あぁ、待たせて悪かったな」
玉座のある上段、階段から降り立ちシュウジの前に立つ皇帝アウストラリス。その大きな図体に見合った覇気は徐々に昂り、ラース・バビロンの全体を震わせていく。
「意外だな。こう言う場面なら大抵の奴は茶番だと一蹴するものだと思ってたんだがな」
「俺は今でこそ皇帝という立場だが、本来は一人の将でしかない。お前の言う言葉の意味は理解しかねるが、誰かの夢を嗤うほど俺は落ちぶれてはいない」
「そうかい、変な偏見を持って悪かったな。これからは改めるよ」
「だが、それでも一つ言わせてもらうのならば、お前達の語る夢は何とも甘いものだな」
「甘いのは嫌いだったか?」
「いや、久しく忘れていたものでな。新鮮だっただけだ。それに、語るだけならば誰にでも出来る」
瞬間、皇帝が纏う覇気が溢れだした。ソレは荒れ狂う暴風となって玉座のあらゆる箇所を蹂躙していく。しかし、そんな暴風の中でもシオだけは被害が及ばないようになっている。
器用な奴だ。皇帝の気遣いに感心しながら、シュウジもまた自身の闘気を高めていく。
「何故なら、貴様達の夢は叶うことはない。ここで俺がお前を打ち倒し、俺の強さの糧にするからだ」
「は、やれるもんならやってみろよ。何せこっちは既に何度も王族貴族を殴ったり斬られたりしてんだ。今更皇帝なんぞにビビるかよ!」
「待ちわびた。嗚呼待ちわびたぞ。この日を、我が盟友ヴァイシュラバを討ち取った貴様を、我が手で屠るこの日を!」
歓喜に打ち震える皇帝の内側から更に覇気が膨れ上がっていく。それは留まる事を知らず、ラース・バビロンだけに収まらず、Z-BLUE達が戦っているセントラルベースを越え、ユーラシア大陸全土に広がっていく。
一つの大陸を覆って尚高まり続ける皇帝アウストラリス、そんな規格外の怪物を前にシュウジは微塵も臆してはいなかった。
「改めて名乗ろう。シュウジ=シラカワ、蒼の魔人よ。我が名は次元将“ヴィルダーク”、貴様の知るガイオウと同じ、次元を司る将である」
驚きはしない。メガラニカでガイオウの事について訊ねられたあの時から、アウストラリスが何者か予想は出来ていた。
つまり、シュウジはこれからあのガイオウと同格の怪物を相手に生身だけで挑まなければならない。
「行くぞ、蒼の魔人よ。俺に倒され、俺の強さの一部となれ!!」
「やなこった!!」
しかし、やはりシュウジは畏れない。恐れず、退かず、皇帝アウストラリスの覇気を一身に受けて尚、その闘気に微塵も揺るぎは見られない。
地を踏み込み、駆け出す二人。音を置き去り、光に迫る二人の拳は遂に激突し。
玉座に音と衝撃が蹂躙した。
Q.これシオさん大丈夫なの?
A.二人とも紳士ですので、シオに危害は及びません。
が、衝撃でコロコロと転がるかもです。
例えるなら、アニメにおけるナメック編でのブルマみたいな感じです。
それでは次回もまた見てボッチノシ