『G』の日記   作:アゴン

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今回で幕間は終わり、次回からは再世篇に突入します。



幕間その3

 

α月A日

 

地球連邦政府。三つの大国を初めとした国々を統一した事によって誕生した新政府。表向きは破界事変による災害復興と貧困に喘ぐ小国の援助を謳ってはいるが、実際は武力によって従わせる過激なやり方を強いる地上げ屋紛いの事をしているという。

 

そんな現政府に抗う為“カタロン”なる反抗組織が存在するが、そんなカタロンは世界からすればテロリスト集団と変わらず、何も知らない市民からは疎まれる存在となっている。

 

しかもそんなテロリスト達の鎮圧を名目に地球連邦は正規軍の他に“アロウズ”なる軍隊を設立、その強大な軍事力によって反抗組織は次々と壊滅させられているという。

 

しかも質が悪いことにアロウズ、もしくは現政府に都合の悪い情報は全て情報統制によって規制、或いは捏造され、市民には嘘の情報を流しているとの事。

 

まぁこれも全部不動さんの受け売りなんだけどね。相変わらず自分はリモネシアで労働の汗を流しています。

 

ラトロワさんやジャール組の活躍のお陰で復興は着実に進んでいる。お陰で老人達の負担も軽くなり、子供達は労働の他に遊ぶ時間も取れるようになった。

 

やっぱり年頃の子供達はノビノビと遊んでいる方がいいよね。最近じゃシオさんも暇がある時は子供達に勉強を教えていたりする所を見かけるし、案外教師なんて仕事も向いているのかもしれない。

 

不動さん? あの人は一人ココナッツジュース飲んでたよ。一応以前言った通り手伝う事は手伝ってくれるし、この間も立派な一軒家を一人で建ててたし……ホント何者だあのおっさん。

 

と、まぁここまでくれば変わりない報告程度で終わるのだが、実は一つ問題が発生した。

 

なんと、あのラトロワさんの挑発に遂にシオさんがプッツンしたそうなのだ。退役したとはいえ元は中佐の地位にまで就いていたラトロワさんに掴み掛かろうとした所を見たときは肝を冷やしたものだ。

 

訳を聞いて見れば、ラトロワさんのとある一言がシオさんの逆鱗に触れ、今度はお返しとばかりにシオさんも挑発仕返したのだという。

 

しかもその内容が亡くなったラトロワさんの息子さんに関する話だった様で、まさかシオさんから言い返されると思わなかったのか、ラトロワさんは動揺し、シオさんはこれまでのお返しとばかりに色々言い返したのだとか。

 

因みにラトロワさんの挑発はシオさんのリモネシアに対する一言が事の発端の原因となったそうだ。シオさんは国の為に身を粉にして頑張ってきた人だ。それは彼女の誇りでもあるし、自分もよく知っている事だ。

 

それをバカにしたとあれば自分も言いたい事はあるが、自分はあくまで相談役。そしてリモネシア復興の一員に過ぎない。どうにか二人の怒りを鎮めようと、自分はあの手この手で和解するように言い含めようとしたのだが……結果、どちらも引きはしなかった。しかも、隊長であるラトロワさんが罵倒された事により、ジャール組の皆も剣呑な雰囲気を醸し出すようになってしまった。

 

このままではリモネシア分断の危機に陥る。どうしたものかと頭を悩ませていた時、不動さんは余計な……いや、名案を一つ提示してくれた。

 

“ここまで亀裂が入れば修復は不可能。ならばいっそ粉々にしてしまえ”と。最初は何言ってんだコイツ? と疑問に思ってしまったが、砕けた捉え方をすれば簡単なものだった。

 

要するに勝負をすればいいのだ。互いに全力でぶつかる事によってお互いを認めさせるという原始的且つこの上なく分かり易い方法。

 

だが、その勝負の内容が問題だった。本当は公平に勝負の内容を出し合い、勝ち点の多い方が勝者という事にしたかったのだが……あのおっさん、不動さんが勝手に決めてしまったのだ。

 

しかも内容は戦闘技能の勝負。オマケにラトロワさん達はジャール組を引き連れての参戦となった。

 

対する此方はシオさんと自分、大統領に数名の子供達とガモンさん。ただの一般人が軍人達に勝てる訳ないだろう! そう抗議しても不動さんは聞き入れる事なく、勝負は明日の明朝と共に開始される事となった。

 

当然、銃の扱いなんぞしたことがない自分は勿論、ガモンさんは銃を使うのを嫌って素手でやると言い張り、シオさんに関しては運動音痴と自ら告白、既に敗色が濃厚となった状態で明日を迎える事になった。

 

だが、ただで負けるのは癪なので少しは噛みつこうと思う。友人をバカにされて平然としていられる程、自分は大人しくないのだ。

 

……あれ? もしかして俺、何気に初めて“友人”って言葉使った?

 

 

α月W日

 

はてさて、遂にジャール大隊との決戦日となったこの日、審判役を買って出た不動さんがルールを説明、その内容は至ってシンプルなものだった。

 

戦いの舞台はこのリモネシア全土。ただし海面に足を着けたら失格、それぞれ大将をジャール側がラトロワさん、自分側の大将をシオさんとし、大将がやられたりどちらか一方の部隊が全滅したら負けという比較的簡単なものだった。

 

なお、最も懸念していた武器の事だったのだが……獲物となる武器は短刀で、刃は潰し、先っぽは吸盤となっている安全仕様のものだった。子供達に銃なんて危険なモノは持たせられないと思っていただけに、不動さんの健全な対応に安堵したものだ。

 

だが、これで勝負は益々こちらが不利となってしまった。引き金が引けば撃ち出される銃と違い、短刀では直接ラトロワさんと接近戦をしなければならない。軍を抜けたとはいえ未だジャール大隊を引き連れていたラトロワ元中佐の実力は凄まじい、記録の上ではソレスタルビーイングが出てくるまで彼女の撃墜スコアは、あのセルゲイ=スミルノフさんを上回るというのだ。

 

色々不安要素が目白押しなこの勝負だが、こうなってしまっては仕方ない。なにせシオさん自身が負けたくないと言っているのだ。自分も彼女側に付いている以上、シオさんの為に全力を尽くそうと意気込み、遂に勝負は開幕した。

 

互いに一歩も譲らない激闘、己の誇りを懸け、復興の毎日だった癒し代わりに行われた余興は、昼前には決着。

 

結果は……なんと奇跡的に引き分け。最終的には大将同士勝負となり、胸元にそれぞれの短刀の吸盤がくっつき、勝敗の行方は痛み分けで幕を下ろした。

 

細かい詳細は省くが……まぁ、端的に言えば此方の作戦勝ち、いや、この場合は作戦分けと言った方が適切かな?

 

まずは子供達でジャール大隊を攪乱、もしくは時間稼ぎとして遊撃してもらい、その隙に自分は仕込みを済ませる。相手は子供といっても幾たびの戦場を潜り抜けてきたプロだ。此方の小細工など完全に読まれてしまう。

 

だが、それはあくまで陽動。目的は自分とシオさんの姿を彼等から僅かでも逸らせる事にある。数々の罠を仕掛け、そして看破された結果、彼等をリモネシア南部にある森に陽動し、自分はジャール大隊の心臓部近くに潜り込む事ができた。

 

向こうも此方が民間人であることで手を抜いていたのだろう。まさか自分の真後ろに自分達よりも一回りも大きい俺がいることとは思わなかっただろう。

 

知ってた? かくれんぼは離れて隠れるよりも相手側の近くに潜んでいた方が逃げ延びる可能性は高いんだよ?

 

気配もそうだけど、そこに呼吸と動作を追う側と同調させれば喩えピッタリとくっつかれてもバレる心配は殆どない。

 

そこに暗闇という状況が加わればもう怖いもんなしである。尤も、向こうも集団で行動した為、バレるのは早かったけどね。

 

しかもラトロワさんに、だ。流石はバリバリの軍隊で大隊を率いていただけはある。此方の読みはまんまと看破された。

 

けど、世の中には分かってても回避できない策がある。黒の騎士団のゼロは念入りな仕込みとパフォーマンスで状況をひっくり返してみるが、此方は相手の心理を突いて部隊を混乱させる事にある。

 

何せ自分の後ろにターゲットの一人がいたのだ。不動さんだけではなく自分まで悟られずに背後に回れるものだから、ジャール組の面々はそれは驚いた事だろう。

 

今でもナスターシャちゃんの驚愕の表情が目に浮かぶ。リモネシアの森という俺達にとって有利な場所に上手く誘導させた事といい、向こうはそれなりに面食らった事だろう。

 

見事に混乱した大隊を抜け出し、その間際にジャール組の一人、ヤーコフ君に短刀を投げつけ見事命中。メンバーの一人が自分にやられた事により部隊はより混乱の中に叩き込まれた。

 

けど、そこは流石のジャール大隊。隊長であるラトロワさんの号令に従い、混乱に陥った部隊は途端に落ち着きを取り戻し、隊列を整えて自分を追い詰め始めた。

 

今でも思い出すと身震いする。統率された部隊があぁも恐ろしいものだとは……一人である自分には分からない恐怖でしたよ全く。

 

大統領も援護に駆けつけてくれたけど、ジャール大隊の集中攻撃に敢えなく撃沈、このまま自分も袋叩きにあうのだろうかと覚悟を決めた時────奴が現れた。

 

ガモンさん。老人の中でも比較的若い方である彼は自分とジャール大隊の間に割り込んだ瞬間、信じられないモノを見せつけた。

 

一瞬分身したかと思えば、次の瞬間ラトロワさん除く全員が地に叩き伏せられた。何が起きたか分からなかったが、後に他の老人の人達から聞いた話によると、ガモンさんは昔“人越拳神”やら“ケンカ百段”の異名を持つ凄腕の空手の達人だったらしい。

 

当時、動乱の時代だった世の中を一人で駆け抜け、その際に潰した軍の基地は一つや二つでは済まなかったらしい。

 

不動さんもガモンさんの業のキレを絶賛していたし、ホント驚いているばかりである。けれど、そんなガモンさんも所謂武人の矜持というものがあるのか、それ以降は決して手を出さず、シオさんとラトロワさんとの勝負の行方は見守る事だけに徹している。

 

え? その間お前は何してたって? 言ったじゃないラトロワさん以外“全員”だって。

 

当然自分も二人の戦いには参加せず、事態を見守る事だけにしておきました。というか、達人の攻撃を受けて受け身を取り、且つ意識を持っていた自分を誰か褒めて欲しい。

 

ガモンさんも意外そうに驚いたし……ま、自分も破界事変の頃は色々学んでいるのだ。コレくらいは出来て当然だと思いたい。

 

そしてその後のラトロワさんとシオさんとの勝負の行方は先ほども言ったように引き分け、終始ラトロワさんが繰り出す体術に圧倒されてはいたが、シオさんも太陽を目くらましに使ったり、周囲のモノを使って戦って見せた。

 

もうホント、その時のシオさんに自分は見入ってたね、碌に動けない癖にそれでも元軍人に食らいつく姿勢、絶対に負けられないという意志が感じられた。

 

そんで激闘の末、互いに投げつけた短刀が互いの胸元に同時に命中、勝負の行方は引き分けに終わった。

 

攪乱にあてがった子供達もジャール組の皆に優しくあしらわれたようで、それぞれが悔しそうにしていても、怪我をしている者は一人もいなかった。

 

そしてその後、今まで仲の悪かったラトロワさんとシオさんの二人もコレを機に和解。不動さんの目論見どおり事が進んでいった。

 

後から聞いた話によると、シオさんは時折思い詰めた表情をしていたらしく、それを目にしたラトロワさんが自分一人で背負い込んでいる気になっている彼女が気に入らなく、色々辛く当たってしまった原因だったらしい。

 

シオさんもシオさんでやはりカラミティ・バースの件でまだ気にしている所もあるらしく、あの事件で巻き込んで死なせた店長の事を含め……やはり色々悩んでいたようだ。

 

まぁ、当事者の一人である彼女からしてみれば完全に吹っ切れる事は無理な話だろう。けど、だからこそラトロワさんはそんなシオさんが気に入らなかったと言った。

 

そこからは二人も色々話し合い、先程も述べた様に和解する事ができた。直接その場を見た訳じゃないから断言は出来ないが、以前と比べて二人の仲が柔らかくなった事は確かだ。

 

これを機に、ジャール組との蟠りもなくなって欲しい所である。

 

俺? 俺の方は距離を縮める所か溝が深まりましたが? あんな音もなく近付いてくるなんてキモいとか、ストーカー野郎とか、犯罪者予備軍とか色々言われましたけど何か?

 

その話はひとまず置いて……今日、遂にシオさんと以前から約束していた事を果たす時が来ました。

 

なんと、あの不動さんが今日の健闘を讃えてお酒を振る舞ってくれたのだ。タダで上物のお酒が呑めると言うことでお年寄り組も賑わい、子供達が寝静まった後、静かに酒盛りを開催した。

 

自分がこの世界に来て早くも一年が過ぎ、今後自分はどうするべきかと悩んでいると、シオさんがずっとここにいればいいと言ってくれた。

 

確かにそれも一つの可能性だ。シュウ博士の居場所も特定できず、元の世界に戻れないと知ったとき、案外自分はその事を受け入れられるかもしれない。

 

けど、もし帰る方法が見つかった時、自分はどうするのだろう。そして、その時が来たら自分はどんな選択をするのだろう。

 

今はまだ分からない。今後この世界はまた色々忙しくなるだろうし、“その時”が来るまでこんな憶測は無意味かもしれない。

 

だったら、今はこの時を楽しもう。元の世界がどうであれ、自分にとっては今この世界が自分が生きる世界なのだから……。

 

 

 

余談だが、ラトロワさんは随分酒癖が悪い人なんだな。酔っぱらって絡んできた時はホント焦ったよ。女性特有の柔らかさに悶え、その後は不機嫌になったシオさんのご機嫌取りに勤しむハメになったのだから……。

 

大人の付き合いというのは、意外と大変である。

 

 

 

 

 

 




───予告。

 破界事変から一年。地球連邦という世界統一の中、世界は仮初めの平和を満喫していた。

しかし、そんな日々は唐突に終わりを迎える事になる。


「今再び私は宣言しよう。合衆国日本を!」

復活するゼロ。

「変わっていない、何もかも。こんな世界、俺もロックオンも望んではいなかった!」

立ち上がるソレスタルビーイング。

「にゃぁぁぁっ! 次元獣バスターの私をなめるなぁー!」

若くして戦場に向かう新たな戦士。

絡み合う運命と宿命、破界の後に訪れる再世の足音を前に

鋼の戦士達は再び集う。

───そして。

「俺の知り合いに、碌なのがいねぇ」

一人のボッチが、戦場に魔神と共に降臨する。

「気を付けろジノ、アーニャ! 奴はあのガイオウと正面からやり合えた怪物だ!」

「へぇ、確かにそれは脅威だな。だがラウンズとしてはここを引く訳には、いかないよな!」

「……倒す」

「え? ちょ、三人掛かりは卑怯じゃない!?」

「私もライトニングカウントと呼ばれた者。相手が魔神といえど遅れはとらん!」

問答無用に襲い来る世界の牙。誰の助けもなく、ボッチは一人でこの激動の世界を生き抜く事ができるのか!?

「へぇ、あれがリボンズがお熱になっている魔神かぁ、妬けちゃうわね」

「貴様の時代は終わったのだ! 魔神よ、我らイノベイターの前に屈するがいい!」

「……いやぁ、横からヴェーダをぶんどった連中に偉そうに言われても」

そ徐々に追い込んでくる魔神包囲網に蒼のカリスマ(笑)はなすすべなく仮面の奥をさらけだす事になるのか!?

そして、遂にあの方が……


『ククク……随分と好き勝手にやって下さりましたね。アロウズの皆さん。良いでしょう、ここから先は私がお相手します』

「バカな、アロウズの艦隊がものの数分で……全滅だと!?」

「なんだ、このプレッシャーは!? お前は誰なんだ!?」

『私ですか? 私は……』

破界の後に訪れる戦火、その戦いの名は“再世”

鋼の戦士よ、挑むが良い。

破界と再世の狭間に魔神の本質を。

第二次スーパーロボット大戦Z~再世篇~





と、嘘予告でした。

約四割程冗談が混じっております。
あまり期待せず、のんびりお待ち下さい。

ではまた次回ノシ

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