♪月♯日
マリーメイアちゃんとレディさん、序でにブロッケンも拾って置こうかと彼女達に連絡を取った自分、何故か彼女達と行動を共にしているガモンさんと大貫さんには驚いたが、あの二人が一緒なら安心だ。
あの二人は素人な自分でも一目で分かる程の強者、それこそアマルガムだろうがどこぞの秘密結社が相手だろうがどうとでも出来そうな位にあの二人はとびっきりに強い。
だからこそ気になる。そんな二人が何故一緒になって行動しているのか、どんな経緯でガモンさん達はマリーメイアちゃんと一緒にいるのか。
自分が彼等と合流出来たのはそれから数時間後だった。ブロッケンに渡した通信機、それを辿って行ったから、合流するのに然程時間は掛からなかった。
久し振りの顔合わせ、ブロッケンは当然な事だがレディさんもマリーメイアちゃんも元気な事に一安心した自分は一緒にいたガモンさんと少しばかり話をした。
自分の事、蒼のカリスマとして行動し、時には自分が原因でリモネシアが焼かれた事、何れ他の皆にも話すべき事の内容を一足早く彼に告げる事にした。
返ってきたのは───お前が気にする事ではないという自分の事を気遣っての一言だった。お前は出来る限りの事をしたまでだと、お前は自分が犯した過ちよりも遥かにリモネシアに貢献していてくれたと、ガモンさんは笑いながらそう語ってくれた。
思い詰めるなと、そう言いたいのだろう。ガモンさんは厳しい御仁だけどそれ以上に優しい人だ。きっと自分の事を汲んで、敢えて追及しない様にしているのだろう。
そんなガモンさんの優しさに自分は甘える事にした。確かに自分はリモネシアの皆に隠し事をしてきたが、それ自体は別に悪意を持っていた訳ではない。何よりこれ以上この事を引き摺っていたらそれこそ皆に対し失礼と言うものだ。
そんな訳で自分の事は一旦これで終わりとし、続いて自分はガモンさんに訊ねた。どうしてマリーメイアちゃんと一緒にいるのか?と。
これも答えは一言………というより一瞬で終わった。偶然だと。どうやら二人がマリーメイアちゃん達と出会ったのは本当に偶然らしく、その経緯はある戦場に居合わせたマリーちゃんが────本人の希望でマリーと呼ぶことにした────戦渦に巻き込まれそうになった所へ偶然鉢合わせしたのだとか。
で、その場は戦場を支配していた機動兵器達を蹴散らし、マリーちゃん達を保護した後も何やかんやあって、今日まで行動を共にしていたのだとか。
相変わらず突拍子の無い御方だ。レディさんもガモンさん達に随分と振り回されてきたのか、その表情には疲れの色が濃く出ていた。や、ホントお疲れ様です。
そしてそもそもの原因として何故ガモンさんと大貫さんが一緒になって行動しているのか、その事を訊ねると、これもまたもや世直しの旅という一言で片付けられた。
どうやら二人も新地球皇国という連中から侵略を受けている現在の世の中に思う所があるらしく、彼等の言う事に何一つ疑問に思う所は無かった。
素朴な理由だし、相変わらず自由な人達、けれどその実力は本物だ。今後も二人がマリーちゃんと一緒に行動してくれるなら彼女に強制する必要もない。
マリーちゃんもまだ地球に残って、戦渦で傷付いた人達の為に何かしてやりたいと決意を固くしているし、ガモンさん達もそれに付き合うつもりでいる。ならばこれ以上彼等に言うことは無いと思いその場を後にしようとするが、ここで自分はガモンさんに呼び止められる。
なんでもガモンさん、あれから自分がどれだけ成長したのか見てみたいらしく、今は喫茶店から離れた広場にて待たせている。
自分もあれから自身がどれくらい動けるようになったのか気になる。久し振りの全力運動、ガモンさんに今の自分を知って貰うにはちょうど良い機会だろう。
そんな訳でこれからガモンさんとの久し振りの組手をしてくる。結果は見えているが、それでも頑張って挑んで行こうと思う。
◇
────人気の無い街、サイデリアルに支配され、そしてそのサイデリアルも追い出された現在無人と化している名も無き街、その街の一角にある広場にて、二人の男性が相対していた。
仮面を外し、動きやすい胴着の様な格好で準備運動をするシュウジ、その表情は晴れやかで、これから己の護身術(自称)の師であるガモンとの組み手に、久しく抱かなかった
対するガモンは静かに、腕を組んで佇んでいる。そんな二人を遠巻きにブロッケン、並びにレディとマリーメイアはその様子を緊張しながら見守っていた。唯一大貫だけはホッホッホと笑みを浮かべている。
「ガモンさん、まさか貴方から声を掛けて戴けるとは正直意外でした」
「そうかの? まぁ、お主は何かと忙しい身だからの。そう思われても仕方ないか」
「でも、それ以上に嬉しいです。誰かに目を掛けて貰った事なんて祖母と両親以外いませんでしたから」
「そうか。なら、此度は存分にその成果を見せると良い」
「はい」
訪れる静寂、それに比例して緊張感は高まり、二人を包む空気がピリピリと張り詰めていく。遠くから離れ、ギリギリ目視できる距離まで離れたブロッケン達にまでそれが伝わる程に………。
一体どうなるのか、瞬きや呼吸すら忘れたブロッケンが生唾をゴクリと呑み込んだ────
「っ!」
シュウジが一歩踏み込んだ瞬間、彼の蹴りがガモンに向けて炸裂した。動作など見えなかった、いやそもそも、シュウジがガモンの間合いに入る瞬間が目視出来なかった。
二人の距離は確かに開けていた、少なくとも数十メートルは。なのにシュウジが攻撃するまでの過程がまるで認識出来なかった。音も、光すらも置き去りにしたシュウジの一撃、少し見なかった間に遥かに実力を上げた現在の主に、ブロッケンは鼻水が飛び出る勢いで驚愕した。
そしてそれをまるで見えていた様に軽く避けるガモン、飛び蹴りを放ち無防備になった所へガモンの拳が放たれる。
しかし、シュウジもこれを体を捻る事で回避、返す刀で拳を見舞い、ガモンもそれに合わせて拳を突き出す。ぶつかり合う拳と拳、行き場の無くなった力の衝突はそのままガモンの足場を砕き、砂塵が広場を覆い尽くした。
瞬間、煙となった砂塵に穴が空き、離れた位置にはシュウジが着地していた。一瞬にしてあの跳躍力、しかしそれに合わせてガモンがまた追撃を仕掛ける。
既にガモンの間合いに入ったシュウジ、しかし彼は避ける選択はせず、敢えて踏み込み自らガモンの懐へと潜り込んだ。刹那の交差、殴り込んだ勢いのまま膝を地に付けていたガモン。僅かばかりの静寂、立ち上がって向き直る彼の頬には少しの傷が付けられていた。
「────ほう?」
その様を見て大貫は感心の声を上げる。あのガモンに僅かながら傷を付けた。かの男の実力を知る者として、大貫の感心の声は周囲の人間が思っていた以上の意味を含めていた。
目をこれでもかと剥いて驚愕するブロッケン、それに対しレディとマリーメイアは今の状況が上手く理解できず、それぞれ可愛らしく首を傾けていた。
「成る程のう、ガモちゃんが入れ込む訳じゃ」
その後も二人の激闘は続いた。認識出来ない速度、ただ風が吹き荒れる事しか理解できない程に鋭く速いガモンの拳の連打を防ぎ避け、受け流しながら間合いを詰めるシュウジ、二人の戦いは時間が進むと同時により激しく加速していった。
時には跳び、時には飛びながら高速戦闘を繰り広げ、衝撃が廃墟となった街を襲った。楽しそうに、愉快そうに拳を繰り出すガモンを見て大貫は思う、羨ましいと。
「惜しいのう、もう少し早くシュウジ君と出会っていたら儂も色々教えてやれたんじゃが……」
本気で戯れる宿敵に大貫は少しばかり寂しさを感じた。そして二人の組み手もいよいよ佳境に入ったのか、これまで互角の打ち合いを繰り広げていたシュウジが遂にその拳をガモンの胴体に叩き込んだ。
痛み、よりも驚きに目を開かせるガモン。その隙を逃すまいと、シュウジの回し蹴りがガモンの腹部に突き刺さる。
その反動を利用し、背後の電波塔へと足を置く。一瞬の溜め、ガモンの姿が地に足をつけている状態であると認識したシュウジは限界にまで溜めた力を一気に解放、弾丸の如く放たれたシュウジ。
その拳を握り締め、渾身の一撃を繰り出した瞬間。辺りは衝撃で爆散し、再び周囲は砂塵に包まれた。一体二人はどうなったのか、徐々に収まりつつある砂煙の中を凝視するブロッケン達が次に見たのは、シュウジの渾身の一撃を片手で受け止めるガモンの姿だった。
「────中々良かったぞ」
ガモンの口から溢れるシュウジに対して心からの称賛、しかし────。
「じゃが……まだ、甘い!」
ガモンの足元から全身に至るまで全ての筋肉が駆動する。ギシリと音を立ててシュウジの拳を受け止めた掌の中心にその力の全てが集約され───。
「が、あぁぁぁぁっ!?」
そして、放たれたその衝撃は周囲の建物ごとシュウジを吹き飛ばした。
全身が引き裂かれそうな衝撃、消えそうになる意識の中でシュウジは思った。
“────嗚呼、自分はやはり恵まれている”
いつか、自分に目を掛けてくれた人達に恩返しができれば良いな、そう願いながらシュウジは意識を手放した。
◇
「それで、どうじゃった。お主の愛弟子の出来映えは」
「悪くない。いや、寧ろ以前より格段に腕を上げているな」
広場から離れ、使われなくなった宿屋のロビー、そこのソファーに寝かされたシュウジを横目に、大貫はニヤニヤと笑みを浮かべてガモンに訊ねた。
返ってきたのは心からの称賛だった。けれどそれに反してその表情は暗い。
「しかし、それでも足りんな。今のシュウジでは彼奴を仕留める迄には至らん」
「やはりそうか」
そういって二人が睨むのはかの皇帝が座する居城、直接戦った訳でも出会った訳でも無いのに二人は断言する。今のシュウジではあの皇帝には太刀打ち出来ないと。
「今のシュウジは精々“兆し”といった所か」
「この若さでそこまで至れる時点で大したものじゃが、やはり“極み”は遠いか」
「全く、一体どんな反則を使ったのかのうあの皇帝は、ここ数日で嘘のように力を増しおったぞ。それこそ………」
儂等のいるところまで。遥か遠くに座していながらここまで届いてくる皇帝の圧、分かる者にしか分からない程度の差違ではあるが、それでも二人には明確に感じ取れた。
今の皇帝は以前よりも遥かに力を増している。その事実に耳を傾けていたレディは驚愕する。唯でさえ強大なサイデリアルの皇帝が更なる力を付けているという事実に、彼女は勿論ブロッケンでさえも絶望に沈みかけた。
「勝ちますよ」
そんな中、唯一マリーメイアだけは絶望に沈む事なく、眠り続けるシュウジの額に手を置き、優しく微笑んでいた。
「おじさまは、シュウジ様は必ず勝ちます。だって……」
“お父様が認めたお方なのだから”
そう語るマリーメイアの瞳には自信で満ち溢れていた。確信すらしている。そんな強気の彼女にガモン達も笑顔が綻び、そうだなと頷いた。
「今は、どうかお休みください。そして起きたらまた頑張りましょう。貴方の出来る事を、全力で、一生懸命に」
だから、それまで────お休み。
優しく撫でるマリーメイアの手、シュウジはこの日久し振りに熟睡したのだった。
◇
『こんな、こんな……バカな事が!』
新地球皇国軍本拠地、ラース・バビロン前。
いがみ合う双子のスフィアの適合者、アムブリエルは自らが搭乗する機体、倒れ付したジェミニアのコックピットで信じ難い光景を目の当たりにする。
異常な程の熱気を立ち上らせ、倒れるジェミニアを通してアムブリエルを見下ろすのは事実上のサイデリアルの支配者、皇帝アウストラリス。その胸にスフィアの輝きを発しながら皇帝は口ずさむ。
「どうやら、俺はまだ己の限界を見誤っていたらしい。感謝するぞ、アムブリエル」
『な、あっ!?』
右腕は砕かれ、左足は切り裂かれ、見るも無惨な姿となったジェミニア。しかしそれを無様とは言わない。そんな軽口が挟める程アムブリエルは弱くはない。
「ど、どうしたんだよアウストラリスの奴、なんで急に、こんな……」
宮殿内から事の顛末を眺めていたバルビエル、憎まれ口を数多く口にしてきた彼でさえ眼前の光景に言葉を失っていた。
「分からん。だが、一つ言えることは───最早、俺達の知るアウストラリスはいない。という事だ」
バルビエル同様、その様子を眺めていた尸空。その額に大粒の汗を滲ませ、佇む皇帝を眺めている。
「“立ち上がる射手” よもや我がスフィアにこのような使い方があったとはな」
拳を握り、空を仰ぎ見る皇帝。無限に沸き上がる力の衝動に、しかし皇帝には一片の慢心はなかった。
全ては近い内に眼前に現れる敵に備える為、嘗ての同胞を打ち破った蒼の魔人に挑む為。
「さぁ、来るが良い。蒼の魔人、シュウジ=シラカワ。お前を倒し、俺はお前を糧にしよう」
いつか来るべきその日を、皇帝アウストラリスは今から待ちわびていた。
本作品はスーパーロボット大戦がメインとなっております。ご注意下さい(笑)
Q.もし今のボッチが元の世界に戻ったら?
A.ドタバタと大騒ぎ
今回の話を読んでくれた読者の皆様へ。
次に貴方は「おい、スパロボしろよ」と言う!
それでは次回もまた見てボッチノシ