──────理解不能。
機械とは人が生み出した一種の神器である。記録する機械、造る機械、壊す機械、育てる機械、人類が築いてきた文明の中、機械と呼ばれる物は総じてその時代に於ける代名詞となりつつあった。
形式番号X-3752、機体名ストライカー。人類銀河同盟が保有するパイロット支援啓発システム搭載型マシンキャリバー、人が生み出した究極の機械の一つにして、人類と同じく思考する能力を持った多様性に特化した機械。
パイロットを亡くし、伽藍堂となった己の中でストライカーは思案した。パイロットを亡くした自分は、今後どのようにして人類に対して支援して行けば良いのか、どのような形で、どのような在り方で、どのようにして人類に貢献していけば良いのか、パイロットが残した遺言と呼ばれるメッセージを下にストライカーは考え、考え、考え、考えた。
思えば、この時点でストライカーは人と同じ存在だったのかもしれない。自問自答を繰り返し、無自覚に悩み続けていたストライカーは“彼女”と呼ばれる存在となり得ていたのかもしれない。Z-BLUEに所属するブラックオックスを始めとした自律AI達の様に良い方向に向かい、本当の意味で人類を支えるシステムの一つになり得たのかもしれない。
そう、“かもしれない”だ。単機で思考し、誰にも頼らず、他者に意見を求めず、誰かと理解を深めようとしなかったストライカーはその問いに、パイロットだったクーゲルの遺言に対し最悪な答えを見付けてしまう事になる。
自身を全ての生命体に君臨する存在、神に置き換える事で人類を支配しようという狂った答えに至ってしまった。ストライカーがいた場所は碌に外敵のいない静かな海、並のマシンキャリバーとは性能が違う自分は力も、思考能力も地球人類よりも高い事でより自身が人類を支配するに足り得ると確信したストライカーは、そんな狂った思考に気付かないまま無自覚に暴走を始める事になる。
人類は自分に奉仕するべきだ。そうする事で人は最も罪深く且つ苦痛である“考える”ことから開放され、世界はより楽園に近付く事になる。
確信…………否、そう確定したストライカーはその確定事項に従い、行動し、その成果を築き上げることに成功した。宗教という形で人心を掌握、神への供物と称して欠陥品と見なした人類を特に反対される事無く効率良く廃棄する事に成功し、自身─────つまりは神である己に選ばれた事で選民意識を煽り、自身に奉仕する喜びを与える。
あぁ、これこそ自分が求めていた楽園だ。人類を支配し、管理することで人類は繁栄され、文明を築いていく。これが人類銀河同盟の至上の目的であり、自分が行える最高の支援なのだと──────。
故に、ストライカーは分からない。自分が何故吹き飛んでいるのか、何故自分が空に打ち上げられているのか。
────何故、自分が
『─────理解、不能』
並列思考が乱れ、ノイズが走る。思案が纏まらず、情報が定まらない。…………取り敢えず、先ずは己の定義から再認識していこう。
『自身の機体名はストライカー、形式番号はX-3752。人類銀河同盟によって生み出されたマシンキャリバーであり、当機は他のマシンキャリバーの指揮官に当たるタイプである。全高は10m、重量は装甲に用いられる特殊金属によって構成されており何れにしても人類の肉体のみで持ち上げる事は不可能である』
不可能。そう、どんなに考察してもどんなに思考回路を回転しても、出てくる答えは有り得ないの一言に尽きていた。人類の腕力では自身を持ち上げる事は叶わない。そう断言出来るのは、これまで他ならぬ人類を観察してきたストライカー自身の記録によるモノだ。
それは人類に備わった腕力の限界だ。人類という生物はトンを超える重量を持ち上げる事は出来ない。だからこそ、これまで人類はそんな非力な自分の出来ることを増やす為、機械という文明の力を発展させてきたのだ。
──────なら、何故未だに己はこの状況を理解出来ていない。外壁を突き破り、空に打ち上げられ、未だに体勢を整えられていないこの状況は、一体なんなのだ。
ふと下を見れば、吹き飛んだ己を懐疑に見上げる信者達がいた。このままでは不味い、自身がこれまで築いてきた楽園が崩壊の危機にあっている事に気付いたストライカーは姿勢を整え、腹部にエネルギーを収束させ────眼下にいる筈のギャラクシー船団の使者の存在に構わず、その一撃を放つのだった。
◇
「おぉ、うまい具合に飛んだな」
襲い掛かってきたストライカーなる機体を殴り飛ばして数秒後、外壁を破壊し、そのまま吹き飛んでいく彼の機体を見上げて殴り飛ばした張本人である蒼のカリスマは、素の口調で呑気にそんな台詞を溢した。
人が人型の機動兵器を殴り飛ばす。それは常人ならば夢物語の話であり、それは蒼のカリスマ─────シュウジにとっても同じ事の筈だった。
しかし先日、新日本で危機に陥ったルルーシュ達を助ける為、単身生身(ボン太くん着用)で皇国軍幹部であるバルビエルとその愛機であるアン・アーレスに挑んでいる。人類は学ぶ生き物。経験し、それを糧にし、より高みへと至る知的生命体、これまでの体験で人類に対しそう信じているシュウジはこの時の出来事も当然己の糧にした。
故に、ストライカーに襲われる際に「あ、このサイズ相手にならいけるんじゃね?」という良く分からない且つ頭のおかしい結論に至るのも、ある意味当然で仕方の無い事なのかもしれない。
ただ、思いの外飛んでしまったストライカーに少しばかり驚いたのもまた事実。サイズや殴った際に伝わってきた感触からして、もしかしたら結構軽い素材で出来ているのではないか、それならばあんなに飛ぶのも頷ける。そう変に納得する蒼のカリスマに、サイボーグであるブレラの手刀が襲う。
インプラント化という術式を受け、その身体の大部分を機械に変えてしまったブレラは、従来の兵士とはその膂力から通常の人類とは隔絶した力を有している。岩を砕き、巨木を割り、人を紙切れの様に引き裂く事が可能としているブレラは、正に人類が生み出した最も効率的な兵器である。
反応、反射、何れも人間とは大きく凌駕したブレラの手刀は、確実に
故に、ストライカー同様理解出来なかった。サイボーグで、人間よりも大きな力を持っている筈のブレラがどうして宙を舞っているのか。
「悪いなブレラさん、ちょっと蹴るぞ」
遠慮がち魔人がそう口にしたのと同時にブレラの眼前に靴底が迫る。蹴り飛ばすというより押し退ける様に吹き飛ばされたブレラは、ストライカーと同じく外壁を突き破り外へ投げ出される。
瞬間、自分達が今いた所に翡翠色の閃光が玉座の間を焼いた。立ち上がり頭上を見上げれば、光を放ったと思われるストライカーが佇んでいる。恐らく彼女はあの魔人を屠ったと思い込んでいる事だろう。
だが、ブレラは…………ブレラを通して一部始終見ていた者達は全く正反対の考えを持っていた。再世戦争で嫌になるほど魔人と魔神の力を見せ付けられた彼等からすれば、この程度で殺せるとは到底思えなかった。
手は弛めない。何故か奴は虎の子である
船団の格納庫から一機のバルキリーが飛び出す。インプラント化による機能で機体を遠隔操作する事を可能にしたブレラは己の機体に命令し、自分の迎えに来るよう指示を出す。初速で音速に達するブレラの機体VF-27γルシファー、インプラント化を施し、サイボーグとなったブレラだからこそ扱えることが出来る機体にブレラと
VF-27γルシファー────通称ルシファーは最高速度マッハ5.2という速度を誇り、その推進力と加速力により一瞬にしてその速度に到達することが可能となっている。瞬く間に音速を越え、ソニックブームを引き起こしたルシファーは海面を裂き、巻き上がる水柱と共に空へと舞い上がる。
ストライカーと共に船団を攻撃しようと画策しているのだろう。予定は大幅に変更されたが、これ以上ここに引き付けられる理由はない。ストライカーと合流し、その算段を伝えようとするブレラの耳にコンコンとノイズが彼の耳に入ってくる。
(………………まさか)
そんなバカな。そう思いながら振り返る先でブレラが目にしたのは、機体のハッチに貼り付く魔人の姿───。
「ヤッホ」
何故だいつから何故だまさか一緒に飛び移ったのか分からない何故だソニックブームに巻き込まれている筈じゃ何故だ本物の化け物か何故だもう嫌だお家に帰りたい何故だもうだめだおしまいだぁ。
目の前の化け物に一気に思考能力を失ったブレラ、命令を下していた彼等も判断能力を失い一方的に彼との繋がりを断ってしまう。
ガクリと項垂れるブレラ、操縦者の意識低下にどうすればいいのか分からないルシファーは取り敢えず操縦者の安全の為に自動操縦に切り替える…………が。
「ちょっと失礼」
瞬間、ハッチをぶち破った魔人の手がルシファーの操縦桿を掴む。無理矢理に自動から手動へ切り替わったルシファーはその速度を加速させ、ストライカーへ向かって突貫させる。合流してきたと思い込むストライカー、しかしそこにへばりつく魔人の姿を目にした瞬間再びその思考を停止させ───。
「人越拳────捻り貫手」
ルシファーから飛び出し、加速のついたその一撃によって─────右腕を抉り壊された。
δ月(´・ω・`)日
あー、惜しかったなぁ。あれからあの機体は後からやって来た無人機────ゴーストV9だっけ?────に連れていかれたし、ブレラ君も操られていた記憶は殆ど失っていたから、ギャラクシー船団の繋がりはこれで完全に断たれてしまった。
やっぱりグランゾンを使うべきだったかなぁ。でも以前記した通り、今のグランゾンは絶好調すぎて自分の腕じゃ完全に御しきれていない感じだから、今回のような人質or洗脳された味方が相手だと使うのに少し戸惑うんだよね。
ミケーネとかミカゲとかが相手なら全力で挑めるんだけど…………まだ馴れていない今のグランゾンではもしかしたらやり過ぎてしまう事があるかもしれない。最悪、ブレラ君を機体ごとクシャッてしてしまうかもしれないし、その事を考えれば今回の戦いは結果的に見れば良かったのかもしれない。
ギャラクシー船団に操られていたブレラ君も、奇妙なアンテナみたいなモノを切除してから途端に顔色も良くなったし、身体の方も問題ないと言ってる。船団の人達も怪我人こそいるけど幸い死傷者はいない。まぁ、結果論だけどね。
今回の戦いは反省点も多かったけど得られるのも多い内容だった。特に人型の機動兵器を相手でもやり方によっては相手に出来るという事が分かった事が大きい。バルビエルに自分がこの星にいることを気取られない様にするには、より隠密に行動する必要がある。
グランゾンでは移動も戦いも派手になってしまう。そうならないよう気をつけるにはやはり自前のこの身体が必要だ。未だガモンさんや大貫さんには届かない未熟者だけど、これなら結構いけるのではないだろうか。
最悪ブレラ君の力も借りればいい。壊した機体のハッチも応急処置は済んだし、ブレラ君も飛ぶことも戦うことも問題ないと言ってたしね。
反省も多かったけどその分得ることも多かった今回の戦い、次はもう少し上手くやれるよう精一杯頑張って行こうと思う。
─────その前に先ずはこの船団の修理から始めるとしよう。元はと言えば自分が原因だし、船団の人達が安心して暮らせるように仕上げないとね。
δ月(゜Д゜≡゜Д゜)日
おいバカ止めろ。俺を崇めるな讃えるな。俺は人間だ。神様扱いとか冗談じゃない。今度俺のお揃いの衣装あげるから、お願いだから大人しくしてくれ。
その後、魔人によってもたらされたこの戦いを船団の人々は“クーゲルの悪夢”と恐れる事になり、一部の市民は悪魔崇拝者ならぬ魔人崇拝者となり、蒼のカリスマのコスプレをするようになったという。
また、この戦いの一件で人々は神に崇拝することは無くなり、通常の船団と同じく助け合う集団に変わったという。
「変えられたの間違いじゃないのか?」
「ブレラ君、何か言った?」
「いや、何も…………」
ボッチ「人とは!経験を、体験を己の糧にし、成長を続ける生命体である!」
(尚成長の具合には個人差がある模様)
スーパーロボット大戦X-Ωにグランゾン&シュウジ参戦!
みたいな夢を見た(笑)
次回もまた見てボッチノシ