『G』の日記   作:アゴン

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茨木童子「くくく、やはり凌辱は心地よい!」

オウノハナシヲシヨー
エヌマエリシュー
カイタイスルヨ!

イバラッキー「モウヤダー! 吾お山に帰るー!!」


みんな殺意高過ぎィッ!



その154

 

 

 

 

「ふむ、取り敢えずはこんなものかな」

 

とある船団────の隅にある小さな格納庫。大海賊ラケージの提案に乗り一先ずこの船団に留まる事にしたシュウジは、彼女の頼みであるユンボロの修復作業を終わらせていた。

 

従来のユンボロとは違い大きく、そしてその巨体に見合った出力を有する機体。技術系統や使われた資材、それぞれがこれ迄とは違うユンボロを前に、しかしてシュウジは一日足らずで修理をやり遂げていた。

 

「流石ですわね。私のユンボロをこうも簡単に直してしまうとは………」

 

「単純な機体構成をしていたからね。使われていた部品も俺が知っているもので代用出来たし、比較的楽な作業だったよ」

 

自分の機体の修理を楽と言ってのけるシュウジに対し、赤髪の女海賊ラケージは尊敬の眼差しでかの魔人を見やる。

 

蒼のカリスマ。最初は自分の部下達を蹂躙し、此方に手酷い損害を与えた憎い敵でしかなかったが、その存在を知るにつれて彼女はその印象を大きく変えていった。

 

テロリストとして世界中から敵視されながらも自分の在り方は決して曲げず、孤独でありながらその世界と真っ向から戦う蒼のカリスマ。その姿に海賊というならず者であるラケージが憧れにも似た感情を抱くのに、然程時間を有する事はなかった。

 

世界という大きな敵に対し一歩も引かず、媚びず、顧みない。己こそが絶対とするその在り方はラケージにとってこの上なく共感できるものだった。

 

ラケージにとって蒼のカリスマは憧れであり、自分の遥か先を行く先達の人。こうして何気なく言葉を交わしているが、その内心は驚喜と緊張で溢れていた。

 

「けど、流石に使い古しているだけあって何ヵ所かガタが来ていたからね。そこを重点的に補強させてもらったよ。これでこの機体も大分安定して使える筈だ」

 

「ほぇ~。頭のユンボロをここまで綺麗にしちまうなんて、やっぱ只者じゃないんだなアンタ」

 

ラケージの手下の一人である海賊、スキンヘッドで如何にもな顔立ちをした男から送られる素直な称賛。しかし自分よりも馴れ馴れしく話し掛けるその姿が首魁であるラケージの琴線に触れたのか、彼女の眼がギロリと光る。

 

短い悲鳴を上げ、オズオズと下がっていく手下。そんなに怒らなくても良いのにと思うが、あくまで自分達は利用し、利用される関係。必要以上の接触は控えた方が良いのだろうと変に納得してしまったシュウジは、ラケージに何かを言うことはしなかった。

 

そんな訳でラケージの願いを聞き入れたシュウジは今度は此方の番だと仮面を被り、蒼のカリスマとなってラケージに向き直る。これまでつなぎ服だった姿から一転、白いコートを羽織り雰囲気ごとガラッと変わった蒼のカリスマに、周囲のならず者達はその迫力に息を呑んだ。

 

これがもう一つの地球でその存在を知らしめた最強のテロリストの姿か。憧れであり熱心なファンでもあるラケージは更に緊張に胸を高鳴らせる。

 

「さて、そちらの願いは聞き入れた。次は君達の番だ」

 

「え、えぇ。勿論ですわ。このラケージ、結んだ契約は必ず守りますとも」

 

「本当なら座標さえ教えてくれたら自分で向かうのだが…………やはり、そう言った端末は持ち合わせていないのか?」

 

「はい。残念ながら今の私達はそう言った機械の所持を許されてはおりませんの。なんでもこの船団の統括者の意向らしくて、通信端末の類いの機械はもっと上の人間のみが持つことを許されているらしいのです」

 

「トップが選んだ一部上位者の優遇…………これにより統括は円滑に進み支配した住民に選民思想を植え付ける、か。どうやらここのトップは人間というものを色んな意味で熟知しているらしい」

 

「その事については同感しますわ。そして…………その悪辣さにも」

 

この船団に来てからずっと思っていた事。どうやら陰湿極まるこの船団の統括者は、船の安全よりも船団の支配を重点的に置いているらしい。効率を求める事自体は悪ではないが、それを重点的にしている所為で人間らしさを全く感じられない。

 

そして、その事を当然の事のように受け入れている船団の人達もまた異常だ。ラケージから聞いた話だと、この船団は何ヵ月かに一度不要とされる人々を海に投げ捨てているらしい。────まるで、それが尊い行為であるかのように。

 

手足が不自由な者、生まれながら体が病弱な者、お年寄り、そう言った人達を船団の負担であると見なし、供物と称して海に投げ捨てる。

 

────おぞましい話だ。最初は冗談かと思っていたラケージの話も彼女の怒りに満ちた表情を目の当たりにしたら、信じざるを得なかった。

 

ラケージがこの船団から早く抜け出したいと言うのも理解出来る。こんな船団に長く留まると、気持ちが滅入ってしまいそうだ。彼女がこの船団を悪辣と呼ぶのも頷ける。

 

「…………ラケージさん、貴方に一つ渡しておきたいモノがある」

 

「え? な、なんですの」

 

蒼のカリスマが懐から取り出すのは一個の小型発信器、衣服に取り付けられ、通信機能も有している優れもの。掌に置かれたその機械を手にしたラケージはこれは何だと問い掛ける。

 

「それは通信機能内蔵型の小型発信器。即席で作った代物だから強度も低く、余り良いものではない代物だけど…………これを持って君達は直ぐにここから出ていって欲しい」

 

「…………何故ですか?」

 

それは唐突な申し出だった。自分達の持つ情報を必要とせず、あまつさえ先に逃げろと言い出す蒼のカリスマに、ラケージは自分が信用できない人間だと遠回しに言われた気がした。

 

が、それは直ぐにそれは過ちだと気付く。蒼のカリスマは世界中から恐れられたテロリストだ。どういう訳かこの星(翠の地球)では英雄扱いされているが、それは違う。

 

彼は他の誰よりも自分に正直に生きてきたのだろう。善でも悪でも無く、自分の思う通りに、自分の心のままに行動し、世界と向き合っていた。この船団に行き着く前、ガルガンティアに戦いを挑む以前から蒼のカリスマについて調べていたラケージは、目の前の男の本質に気付く。

 

自由。そう、この男は何よりも自由を尊重している。人の意思を、尊厳を、可能性を、己自身同様に大切にしている。

 

だから許せないのだろう。人の尊厳を踏み躙る輩が、だから怒れるのだろう。人の可能性を摘み取る存在に。

 

(あぁ、やはり貴方は私の思った通りの…………)

 

蒼のカリスマ…………シュウジの考えにいち早く気付いたラケージは自分もそれに参加したいと考える。しかし、自分と彼とでは持ちうる力の大きさが違いすぎる。下手をすれば自分が彼の邪魔に成りかねない。

 

それはラケージにとって最も許せない事、大海賊と名乗る自分が誰かの足手まといになるなどあってはならない。それこそ憧れに思っている人物のお荷物になるなど死んでも御免だ。

 

「────それは」

 

「いえ、やはり何でもありません。それでは蒼のカリスマ、ごきげんよう。用が済み次第ご連絡をお待ちしておりますわ」

 

「え? あ、うん。…………宜しく」

 

では、と礼儀正しく頭を下げてお礼を述べるラケージはユンボロを動かし、手下達を連れて大海原へと出ていく。無事に外へ出れた彼女達を見送り…………。

 

「さて、ここのトップとやらの顔を見に行くか」

 

蒼のカリスマは格納庫を後にし、船団の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

船団の奥、大きく開かれた空間の中でソレは鎮座していた。人よりも巨大で、鋼よりも強靭な体を持つソレは、言うなれば鋼鉄の巨人。船団の人々に神として崇められているモノ、従来のユンボロから大きく逸脱した力を持つその存在は、人々から雷の巨神と恐れられ、畏怖の象徴としていた。

 

その巨神の前に一人の青年が佇んでいる。緑髪と赤みかかった瞳、人並外れた美貌を持つ青年は何を語る事もなく、静かに巨人を見上げている。

 

『─────了解した。貴君らの目的は当機の目的に対し齟齬は無く、また当機の最終目的にも該当する

。反論は無い』

 

巨神の瞳が瞬くと同時に聞こえる女性の声、その声色は機械が奏でる人工音声らしく無機質で人の暖かみを感じさせない冷たいもの、巨人と相対している青年も感情を感じさせない無機質なモノとなっている。

 

機械的な青年と機械的な巨神、両者の間には不必要な会話は無く、青年の瞳から発せられる電気信号のみが巨神との会話を紡いでいく。

 

軈て全ての情報を与えられ、今この宇宙に何が起きようとしているのか、ソレを理解した巨神は思案する。自分の目的、人類銀河同盟の崇高な使命を果たす事、それを可能とするために、自分は今後どうすれば良いのか。

 

答えは即座に導き出された。現在の自分はパイロットであるクーゲル中佐を失い、誰の支配も受けていない状態。ならば人類支援啓蒙レギュレーションシステムである自分こそが、人類の思考判断の責務を負うべきなのではないだろうか。いや、そうするべきなのだ。

 

本来ならパイロットがいることで間接的に判断する筈だった支援システムは、ブレーキの効かない暴走列車と化していた。

 

自分こそが人類を導く存在なのだと、搭乗者がいないことで自身の判断を指摘する者がいないシステムは、より自身が人類の統括者であることを自負していく。己こそが絶対なのだと、自身を頂点にし、人類を自身に奉仕する様に促せば、人々は真に豊かになると本気で信じて疑わない。

 

そして、皮肉にもその考えが人間じみた、俗物的な考えであることも巨人は気付かない。眼前の青年からもたらされた情報に大きく膨れ上がっていく巨人の野望、それが実現しそうになっているという事に巨人が無自覚に昂っていた時に─────。

 

「ほぅ? これは驚きました。まさかこの船団にブレラさんがいるとは…………妹さんの方は放っておいても宜しいので?」

 

唐突に感知する熱源反応、声のする方へ視線を向けると何処に潜んでいたのか、客人用のもてなす筈だった椅子に見知らぬ仮面の男が座っていた。

 

「貴様は!?」

 

「うん? ───あぁ、成る程理解しました。どうやら生きていた(・・・・・)様ですね。まさか再世戦争の時の因縁に出会すとは運が良いのか悪いのか、いや、この場合良く甦ったと称賛するべきなのでしょうかね? 尤も、欠片も嬉しくはありませんが」

 

仮面の男は青年が初めて見せる動揺に何を察したのか一人納得しながら席を立ち、此方に向かって歩み寄ってくる。仮面の男が近付くに連れてブレラと呼ばれた青年は後退り、まるで今までの無表情が嘘のように焦りと動揺に染まりきっている。

 

「ここの船団の統括者に出会うつもりが、まさかこんなモノを吊り上げるとはね。…………さて、ブレラさんを乗っ取って今度は何を企んでいるんだ? なぁ、ギャラクシー船団の皆々様よぉ」

 

男の雰囲気が変わる。知的で冷静な姿勢から獰猛な野生の獣の様に。

 

そんな彼の者に割って入る様に巨人が問う。何者かと。

 

「初めまして、名も知らない巨人さん。私は蒼のカリスマ、恐らくは────貴方の敵です」

 

ならば最早問答は無用、敵であるならば排除する迄だと巨人はその目を光らせ仮面の男に襲い掛かる。

 

────瞬間、船団の一部が破壊され、船の人々は自らが信仰する雷の巨人が吹き飛ばされる様を見て、その目を大きく剥くのだった。

 

 

 

 




今回は海老で鯛を釣る的な話でした。

それでは次回もまた見てボッチノシ

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