『G』の日記   作:アゴン

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リアルが忙しくて中々更新できない……。

速くGWにならないか。


その123

翠の星────翠の地球と呼ばれる蒼の地球と対を成すもう一つの地球、大気圏外から僅かに離れた衛星軌道上のとある座標、そこではサイデリアルの大部隊が翠の地球に入る者を迎撃する為に、また脱出する者を阻む為に展開されていた。

 

「では貴方はハイアデスの副隊長の命令を無視し勝手な行動を取った挙げ句、彼等の預りの戦力を失い、オマケに尻尾を巻いて逃げてきたと、そう仰るのですね。ギルターさん?」

 

『…………う、うぅ』

 

大部隊を統率する指揮艦に搭乗し、頬杖をつきながらモニターの向こうにいるギルターに事の顛末を訊ねているのは、サイデリアルの特殊工作部隊“アンタレス”の副隊長、サルディアス=アクス。その風貌は歴戦の戦士でありながら雰囲気は柔らかく、掴み所のない不気味さを現していた。

 

刺々しい台詞とは裏腹に口調は柔らかく、まるで幼子を相手にするような口振り、しかしそれが癪に障るのか、画面の向こう側に映るギルター=ベローネは目の前の上官に対して構うことなく、その表情を怒りで歪めている。

 

『あ、あの時は仕方なかったのです。相手は碌な武装もない弱小船団と思い込んでいただけで、事前な情報さえあれば戦価は出せていた筈なのです!』

 

「弱小と侮り、出せる戦力を惜しんだだけでしょうに…………ま、良いでしょう。貴方の言う事にも一理ありますからね。死んだ筈の人間が甦るなどと、確かに予測出来る筈もないでしょうから」

 

『で、では!』

 

「ボスには私から報告しておきますよ。けどギルターさん、あまり失態は重ねないで下さいね。幾ら寛容(?)なボスでも限度ってモノがありますから」

 

サルディアスの笑みを含んだ最後の台詞に、ギルターは顔を青くさせながら頷く。サイデリアルの幹部、中でも各部隊の隊長はどれも恐ろしい力を持ち、特に自分達の属するアンタレスの隊長は、己の目的の為なら部下をも死地に追い込むことを厭わないとされている。

 

このまま失態を重ねれば自分もどうなるか判らない。上の立場を目指す以上ここで躓く訳に行かないのだ。

 

(私はこんな木っ端で終わる器ではない。反抗勢力を全て掃討し、いつかは幹部……いや、皇帝の座にも辿り着いてやるのだ! 貴様の立場も近い内に喰らってやる。そのニヤケ面をしていられるのも今の内だ!)

 

(───なんて考えたりしてるんでしょうねぇ。ホント、分かりやすい人だこと)

 

モニター越しで思案するギルターの思惑を片手間で看破するサルディアスは、呆れた風に溜め息を溢す。しかし既に脳内で全宇宙の覇者になっているギルターの耳には入っておらず、気持ちの悪い笑みを晒している。

 

と、そんな時だ。ギルターとサルディアス、それぞれ互いの艦の索敵機能に翠の地球から此方に向かってくる熱源反応が感知された。

 

「大気圏内から高出力のエネルギーを感知、サイズからして輸送船と思われます」

 

「モニターに出します」

 

オペレーターからの報告と同時にモニターに映し出された映像、そこ映る輸送船を目の当たりにしたギルターはその表情を驚愕に、次いで憤怒の形相に染め上げる。

 

『おのれぇ、この短時間でここまでの侵攻を───全砲門開けぇ! あの輸送船を撃ち落とすのだぁ!』

 

「え? ちょ、ギルターさん」

 

『撃てぇぇ!』

 

輸送船を通して思い浮かぶ忌々しくも恐ろしい蒼の姿、脳裏に刻まれた恐怖という感情を払拭する様にギルターは部下に主砲を撃つ事を強制した。一時の感情に支配され、本能のままに命令を下すギルターの頭には最早輸送船を撃ち落とす事しか頭にない。

 

当然の如くサルディアスの制止の声など耳には入らず、ギルターの搭乗する艦の主砲は輸送船に向けて発射。巨大な閃光を放ち、光に呑み込まれながら輸送船は爆散、大気圏を突破する前に輸送船は鉄屑となって地表へ落下していった。

 

『やった。ハハハ、ヒャハハハ! やってやったぞ! あの化け物を仕留めてやった!』

 

モニターの向こうで歓喜の声を上げるギルター、制止を無視し、勝手に攻撃した彼に当然思う所はあるサルディアスだが、翠の地球から脱出を計る輩を阻止するという任務の内容上、ギルターの行動は責められる事ではない。

 

寧ろ気掛かりなのは輸送船の方だ。もし本当にあの艦に乗っていたのが例の魔人だと言うのなら、何故このタイミングで脱出しようと試みたのか。蒼のカリスマ、かの魔人が報告にある通りの人物だというのなら、何か裏があるのではないだろうか? それを確かめようにも既に輸送船は爆炎の中へ消えてしまっている。これでは奴の真意も分からないとサルディアスが嘆息したその時、煙となった輸送船───その向こうから突如として蒼い閃光が飛び出してきた。

 

「っ!?」

 

歓喜に震えるギルターと違い、即座に出てくる蒼い閃光に気付くサルディアス、周囲の機動兵器であるアンゲロイに迎撃の命令を出そうとするが、それよりも速く蒼い閃光は指揮艦の護衛に付いていたアンゲロイを手にしたライフルで撃ち抜き、サルディアスの艦に取り付いた。

 

『ハハハハ…………は?』

 

爆発し、撃墜された自軍の機動兵器を目にした事で漸く我に返ったギルター。モニターに映る友軍の艦、サルディアスの搭乗する指揮艦に取り付いている蒼い機体───トールギスを目にした瞬間あの光景が脳裏に浮かんできた。

 

炎の中から現れる蒼、友軍の艦を討ち、更にはハイアデスの戦艦をも両断した規格外の怪物。それはギルターにとって最も恐ろしい存在として脳に深々と刻み込まれていた。

 

翡翠に煌めく双眸がギルターを射抜く様に見てくる。“見つけた”そう言うように双眸を光らせる蒼の怪物に、ギルターの思考は一瞬の内に混乱に突き落とされる。

 

『う、撃てぇぇ! 撃て撃て撃て撃てぇぇ!!! あの化け物を撃ち落とせぇぇぇ!!』

 

そこにいる恐怖を払う為にギルターはサルディアスの艦に当たるのを構わずに戦艦の艦砲射撃を開始する。正確な狙い撃ちもままならず、ただ闇雲に放たれる戦艦の弾幕。

 

当然、MSサイズであるトールギスに当たる事はなく、弾幕はサルディアスの艦を巻き込んでいく。通信でサルディアスが何かを言っているが、先程同様一時の感情に支配されたギルターにその声は届く筈はなく、事態は更に深刻化していく。

 

碌な指揮も出来ず混乱する戦線、統率するべき指揮系統が滅茶苦茶にされた以上、配下に混乱が感染するのは時間の問題で、当然蒼の魔人はその様子を見逃す事はなかった。

 

混乱する戦場、その中を縦横無尽に駆け巡る蒼い閃光、その尋常ならざる速さに反応する事も追い付く事も出来ず、迎撃しようにもこの状況では同士討ちの危険性まで出てくる。

 

未だパニックの淵にいるギルター、そうしている内に既に主戦力の約四割が撃墜されてしまっている。事態を重く見たサルディアスが珍しく声を張り上げ、混乱するギルターを止めたのはそれから数秒後の出来事だった。

 

『さて、この位でいいでしょう。…………そこに乗っている指揮官に告げます。その艦から降り、今すぐ彼方の艦へ移動してください』

 

気付けば、ギルターの眼前には蒼の機体、A.(アメイジング)トールギスがライフルを手に此方のブリッジに狙いを定めていた。

 

自身にとって最も畏怖する存在を前に腰を抜かしたギルターは、縋る様に隣のサイデリアルの艦に目を向ける。しかしギルターの艦砲射撃による弾幕でサイデリアルの艦はボロボロ、とても援護できる状態ではなく、オマケに向こうの艦のブリッジにはガルガンティアで見たサイボーグの男が、その手を機関銃に換えてサルディアス達に向けている。

 

恐らくは最初に向こうに取り付いた際にあのサイボーグを艦内に送り込んだのだろう。手際の速さといい、目の前の怪物の強さと良い、紛れもなく今自分の目の前にいるのは先の戦いで猛威を奮った魔人なのだと、ギルターは漸くここに来て理解する。

 

しかし、これでも自分はサイデリアルの特殊部隊、アンタレスの小隊長だ。たかが人一人に脅された程度で頷く程、柔では──

 

『だ、誰が貴様のような輩に、こんな事をしてただで済むと───』

 

『今すぐここで果てますか? 私はどちらでも構いませんが』

 

艦の砲塔の一部が撃ち抜かれ、再び向けられる銃口にギルターは失禁し、這いずり回りながらブリッジを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?月?日

 

先のサイデリアルの防衛網を突破して二日、輸送船に変わり新たにサイデリアルの戦艦、それも指揮艦の奪取に成功した自分は損傷箇所も無事に修復し、今のところ問題なく蒼の星…………いや、蒼の地球に向けて順調に進んでいた。

 

しかし、意外とあっさり上手くいったモノだな。指揮する相手がサル某とギルター=ベローネというからもっと苦戦すると思っていたのだが……剰りにも呆気なくて、逆に罠ではないかと勘繰ってしまう。

 

輸送船からの奇襲も二度も通じるとは思わなかった。本来なら輸送船を敵陣の真ん中に突っ込んだ所を自爆させて一時的に撹乱し、その隙に脱出、最悪の場合A.トールギス単機で逃げ出そうとしていたんだけどな。最初に撃ってきた事に驚きこそしたが、そのお陰で奇襲のタイミングが出来た訳なのだが…………この艦に乗っていた指揮官は実践経験の少ない新人さんなのかな?

 

ともあれ、相手が下手な指揮官のお陰で助かった。彼がパニクッたお陰で戦線は瓦解し、自分達の付け込む隙も生まれたのだから、此方にとっては感謝しても良いぐらいだ。

 

ただ、敵艦に単身乗り込んでいたブロッケンは気が気でなかったみたいだけどね。何せ敵の同士討ちによって弾幕に晒されていたんだから、その心臓の悪さは迎え撃ってきた白兵戦の兵士を相手するよりも凄いものだろう。

 

唯一気掛かりなのはギルター=ベローネがいなかった事だ。直接面識を持った訳ではないから判断は出来ないが…………もしかしたら何処かで自分達を監視しているのかもしれない。

 

奴が出てこない事に不気味さを感じるが、今ここで悩んでも仕方がない。今は警戒しつつも先に進もうと思う。

 

あ、因みに現在この艦の責任者……というか、艦長はブロッケンに任せて貰っている。アイツも一応は正規軍でいう一軍を預かった事のある元将校だし、間違った選出ではないと思う。

 

艦に残された物資も結構あるし、A.トールギスの整備も暫くは事足りるだろう。…………グランゾンの修復が見込める環境でない事が残念な所だが、この際仕方ないだろう。

 

クラヴィアさんの所の拠点でもグランゾンを直す環境には適さなかったし、やはり本格的な奴等の拠点を奪取する必要がありそうだ。その為にもまずは蒼の星───蒼の地球に向かいたいと思う。

 

 

クラヴィアさん達の協力を無駄にしない為にも、頑張っていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────アンジェロ、サイデリアルからの要請(オーダー)が出た。出撃の準備をしておけ」

 

「ハッ! 了解です。……しかし、宜しいのですか? 連中に言われるがままで」

 

「なに、これも一つの交渉だ。サイデリアルが取り逃したとされる魔人、それを我々が捕らえれば彼等に対して一枚のカードになる」

 

古めかしい屋敷の内部、そこから見える何処までも続く漆黒の宇宙を見て、仮面の男は薄く笑った。

 

「しかし、よもや死者が甦るとはな。彼もまた器として用意された存在だというのなら────」

 

「大佐?」

 

「見せてもらおうか、蒼のカリスマの実力とやらを」

 

 

 

 




次回、器の男

次回もまた見てボッチノシ

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