『G』の日記   作:アゴン

135 / 266
隔絶宇宙『みんな…………ありがとう、さようなら』


その113

 

 

 

『───相転移出力、最大限』

 

魔神の背負う日輪が瞬いた瞬間、隔絶宇宙が悲鳴を上げる。魔神の発する重力波は周囲の星々を消し飛ばし、Z-BLUEを吹き飛ばしていく。

 

何が起こった。突然の出来事に混乱する彼等が次に目にしたのは……終焉の光景だった。

 

光がネオ・グランゾンに集まっていく。魔神が掲げた両手に集まるのは、超弩級を越えた天元突破の重力の渦、その事を本能で理解したリーロンは愕然とその事実を皆に告げる。

 

『嘘でしょう、何なの……この、デタラメなエネルギーは!?』

 

『何か分かったのかリーロン!』

 

『奴は一体何をしようとしている!』

 

『隔絶宇宙を呑み込む程の重力崩壊、崩壊と収束が繰り返される先に待つのは……天地開闢、こんな事人の身で制御出来る代物じゃないわ!』

 

『もっと分かりやすく説明してくれ!』

 

『つまり、奴は……天を折り畳んでいるのさ』

 

『隼人?』

 

ゲッターチームの一人、神隼人のかいつまんだ説明に竜馬は混乱する。簡単に説明したと言うがそれでも抽象過ぎる隼人の説明にどういう事だと声を上げる所だったが、大粒の汗を流して青褪める隼人に竜馬は言葉を失った。

 

天を折り畳む。その事を理解した者は皆、隼人と同じ反応をしていた。戦術予報師であるスメラギもウィスパードであるテレサ=テスタロッサも、目の前に起きつつある事象を前に顔を青褪めて絶句していた。

 

『アレを撃たせてはなりません! 総員グランゾンに向けて攻撃を仕掛けてください!』

 

有無を言わさぬテスタロッサの指示に従い、Z-BLUEの弾幕がネオ・グランゾンに降り注がれる。頭脳派チームの様子で今のネオ・グランゾンのヤバさに何となく気付いた他の面々も、遠慮なくネオ・グランゾンに攻撃を開始するが……。

 

『縮退圧……増大』

 

更に強まる重力崩壊の波にZ-BLUEの攻撃は悉く弾かれてしまう。クォーターを始めとした火力特化戦艦の主砲も、スーパーロボット軍団の総攻撃も、ネオ・グランゾンが発する重力波に押され、跡形もなく消し飛んでいく。

 

膨れ上がるエネルギーは更なる重力崩壊を加速させ、グランゾンを中心にさまざな事象が集約されていく。

 

『重力崩壊臨界点──突破』

 

星、光、時間、そして宇宙、隔絶宇宙を形成する要素の全てがグランゾンの前に集約された時、それは顕現する。

 

『お前達の存在を…………この宇宙から抹消してやろう』

 

魔神の手にあるのは禍々しくも美しい球体、黒く蠢く重力崩壊の結晶、そこに収められた膨大なエネルギーの奔流を前にZ-BLUEは言葉を失う。

 

アレは創世の光、天地を開闢する滅びの光だ。嘗て光あれと神が言葉にして放った宇宙創世の光が目の前で形となって形成されている光景に、Z-BLUEの心は折れ掛け────。

 

『まだ、だ! まだ俺は……折れていないぞ!』

 

そんな自分を振り払う様にヒビキは声を張り上げて叫ぶ。本当は怖くて仕方がないのに、兄貴分と敵対するのが心の底から怖いのに、それでもヒビキは諦めないと叫ぶ。

 

それは強がりというにはあまりにも弱々しかった。吹けば飛んでいく落ち葉の様に軽く、押さば倒れる細木の様に脆い、しかしそんな彼の叫びは、皆の心を奮い立たせるには充分なモノを秘めていた。

 

『そう、だよな』

 

『折角地球の皆が手を貸してくれてるんだ』

 

『逃げる訳には……いかないんだ!』

 

背負った想いに応える為に、与えられた温もりに報いる為、今一度Z-BLUEは己の心を奮い立たせる。

 

そうだ。自分達はこうして何度も立ち上がってきた。幾度の困難を、危機を、窮地を乗り越えてきた。だから、今回もそうだ。

 

『みんな、アレをやるぞ』

 

『『『『アレ?』』』』

 

『決まってるだろ。────合体だぁっ!!!』

 

シモンの一言に応じたグレンラガンの全身から無数のドリルが出現する。彼の言葉の意図を理解したZ-BLUEは自らそのドリルへ穿たれにいく。

 

地球の人類の想いを受け取り、力へ換えてシンカへと至ったZ-BLUE、しかし既にシンカの果てに到達しつつある魔人には未だ届かない。ならばどうするか───答えは単純、全ての想いと力を集めて一つにするしかない。

 

穿たれたドリルを通して様々なエネルギーがグレンラガンに…………いや、Z-BLUE全体に流れていく。ゲッター線、光子力、GN粒子、ラムダドライバ、サイコフィールド、そして────ヒトの願い。

 

集められた力はグレンラガンを超巨大な巨人へと変貌させる。それは天元突破を超えた超天元突破の完成である。

 

グランゾンとグレンラガン、その大きさは正に蟻と恐竜の差となり、体格では大きく有利になる。グレンラガンから溢れてくるエネルギーの奔流に、Z-BLUEは体がバラバラに引き裂かれそうになる程の激痛を覚える。

 

しかし、それでも目の前の魔神に勝てる保証はない。これ程の差があるというのに、未だ勝てる気がしなかった。

 

改めて魔神と、それを操る魔人に畏怖を抱く。しかし、もう引き返せない。自分達の全てを懸けた一撃、これを以てこの戦いに終止符を打つ。

 

『超、天元突破ァッ! ギガァ、ドリルゥ……ブレェェェェイクゥゥゥゥッ!!!』

 

『縮退砲────発射』

 

魔神から放たれる重力の結晶、そこへグレンラガンのドリルが触れた瞬間────再び隔絶宇宙は白に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぐぅぅぅっ!!』

 

創世の光、開闢の海をグレンラガンは突き進んでいく。全身から発せられる悲鳴を無視しながら、目の前に佇む魔神に向けて前進する。

 

届け、届け。Z-BLUEの想いが一つになり、その願いが続く限りグレンラガンは前進する。しかし、光の奔流の勢いは未だ弱まらず、容赦なくグレンラガンを食い潰していく。

 

『まだだ、俺達の心はまだ折れてねぇ、そうだろグレンラガン!』

 

削れていく愛機にまだいけるとシモンは叫ぶ。グレンラガンもそれに応える様に目を瞬かせるが、それを嘲笑うかの様に創世の光はグレンラガンを蝕んでいき……。

 

絶対に折れないと誓ったグレンラガンのドリルが……砕けてしまった。気持ちでは負けてない、耐えられなかったのは、超天元突破を果たした筈のグレンラガンそのものだった。

 

足りないのか、ここまでやっても、地球全ての想いを乗せた一撃で以てしても足りないのか。光の中をもがいている自分達を見下ろす様に佇むネオ・グランゾンにシモンは悔しさに歯を食い縛った時、グレンラガンから離れる一機の機体があった。

 

ジェニオン。GAIモードではないただのジェニオン形態である機体がネオ・グランゾンに向かって飛び出していった。シモンは何をと声を上げる。今のジェニオンではこの創世の光に耐えるのは無理だ。しかし、そんな誰もが思っている事とは裏腹に、ジェニオンは創世の光の中を突き進んでいく。

 

“いがみ合う双子のスフィア” ガドライトから奪い取ったスフィアがジェニオンの内部で輝いていた。次元力、オリジン・ローに深く関わり合いのあるスフィアの力を使い、ジェニオンはネオ・グランゾンに向けてブースターを噴かせる。

 

更に……。

 

『うぉぉぉっ!!』

 

ヒビキの体が蒼く光を帯び、それに合わせジェニオンも加速し、ネオ・グランゾンとの距離を瞬く間に縮めていく。そして遂にネオ・グランゾンの間合いに詰めた瞬間、壊れてもいいという覚悟と共にヒビキはジェニオンと共に最後の一撃を繰り出す。

 

それはあの日、シュウジが巨大熊を倒した際に放った必殺の一撃。荒々しくも洗練されたその一撃は、当時のヒビキの脳に強く焼き付いている。自分もあんな風になりたい、そう思って脳裏に刻み込まれたその一撃を真似て、ヒビキは何度もその突きを放った。

 

父から学んでいたジークンドーを基に編み出された必殺の突き、その名は────人越拳ねじり貫手。

 

『届けぇぇぇぇっ!!!』

 

自分の全てを出し切っての一撃、これが通らなければ……なんて考えず、ヒビキは己の全てを出し切る事に集中した。

 

(足りないのならかき集めろ、至らないなら振り絞れ!)

 

0と1の境い目、極限の中の極限、刹那の瞬間を駆け抜け、ジェニオンはネオ・グランゾンとの距離を更に縮め───。

 

(っ!?)

 

思考が凍りつく。極限に集中し、全てが停止して見えるこの世界で構えを見せるネオ・グランゾンにヒビキは目を見開いた。

 

見れば、既にネオ・グランゾンは此方に向けて拳を振り抜いている。このままでは相討ち、若しくは返り討ちに合うかもしれない。しかし、それでもヒビキは……。

 

『うぉぉぉぉっ!!』

 

この極限の瞬間を最後まで駆け抜ける道を選んだ。集中する意識、限界を超えた一撃、故に彼は気付かなかった。────ジェニオンに当たる直前、ネオ・グランゾンの動きが止まっていた事を。

 

そして……。

 

『ヒビキ君、それ人に向けて打っちゃダメなやつだよ』

 

聞き覚えのある……自分のよく知る彼の声が、聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ、あぁ……』

 

黒く染まる隔絶宇宙、静まり返ったその空間でヒビキの声が虚しく響き渡る。

 

彼の視線の先にはジェニオンの腕で胸を穿たれた魔神、ネオ・グランゾンの姿があった。

 

『うっ、ぐ……み、見事です。まさか、このネオ・グランゾンを倒すとは』

 

『シュウジ……さん』

 

『これで……私も悔いはありません。戦えるだけ、戦いました』

 

『シュウジさん、どうしてこんな───』

 

『全てのものは……いつかは滅ぶ、今度は私の番であった。……ただ、それだけの事です』

 

『シュウジさんっ!』

 

『これで私も……全ての鎖から解き放たれる事が……でき……まし……た』

 

涙を流しながら必死に訴えるヒビキ、どうして、なんでと訊ねる彼に魔人蒼のカリスマ……いや、シュウジは応えなかった。

 

これで終わりなのか、ヒビキが悔しさと悲しさで嗚咽を漏らしたとき……ネオ・グランゾンの手がジェニオンの肩に触れた。

 

『!?』

 

『ほら……離れな……さい。爆発に……巻き込まれる……前に』

 

その口調を聞いてヒビキはハッと我に返り確信する。間違いない、今のシュウジは自分がよく知るシュウジだ。

 

助けなければ、引き剥がされ、距離が開けたグランゾンを……シュウジを助けようとヒビキがジェニオンを動かそうとした時。

 

『宗介!?』

 

『止めるんだヒビキ、奴はもう!』

 

『離してくれ宗介! シュウジさんが、シュウジさんが!!』

 

グランゾンの下へはいかせないとアーバレストがジェニオンを抑え込む。限界を超えて酷使したジェニオンではアーバレストを振り払う事も出来ず、グランゾンとの距離は更に広がっていく。

 

『シュウジさん脱出を!』

 

『…………負け……るな……よ、ヒ…………ビ…………』

 

掠れていくシュウジ、それが彼の命の灯火が消える間際なのだと悟ったヒビキはがむしゃらに機体を動かしてアーバレストを力任せに振り払った……その時。

 

シュウジはネオ・グランゾンの発した爆発の中へと……消えていった。

 

『あ、あぁぁ…………ああぁぁぁぁ─────』

 

爆発し、四散していくネオ・グランゾン。魔神が消えると同時に隔絶宇宙が崩れ、自分達の星、地球のある元の宇宙が姿を現した。

 

静まり返る部隊、誰もが口を開かない中、ふとヒビキの視界にあるものが映る。ジェニオンの指先に付いた赤い液体、それが誰のものなのかわかった瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無限の宇宙にヒビキの慟哭が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 




【悲報】ボッチの涙×
ムッツリの涙○

次回、時獄の果て

次回もまた見てボッチノシ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。