『G』の日記   作:アゴン

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新年、あけましておめでとうございます。

皆様はどんな年末年始を送られましたか?

自分は一人ポツポツとグラブってました(笑)


その108

 

 

 

永遠に等しい時の間、宇宙を護る為にアンチスパイラルはこれまで数え切れない程の同胞を葬り、宇宙の均衡を保ってきた。

 

バアル、根源的災厄。そしてその先に待つ絶望の未来。最悪の結末を回避する為に、彼の者は考え付く限りの手段で宇宙の平穏を守ろうとした。

 

どれだけの怨みをぶつけられようと、どれ程の命を摘み取ろうと、彼の者は疑わず、己の行いこそが善であると信じ続けた。

 

やがて月日が経ち、感情を、心の在り方というモノも忘却の彼方へ消えていき、己の存在意義すら失い掛けたある時、アンチスパイラルは自身の中で何かが脈動する音を耳にした。

 

幾千幾万もの怪物の群れの中でたった一機で戦う蒼き魔神。世界から敵視されても、世界に己の居場所が無くとも、己の世界を救うべく戦う。絶望という状況に晒されながらそれでも戦う魔神と、それを操る魔人の姿に何故か目が離せなかった。

 

螺旋の男という宇宙を滅ぼす要因があることを知っていながら、彼の者は魔人と呼ばれる男の在り方に釘付けになっていた。それと同時に、魔人に対し言い難い苛立ちを募らせていた。

 

今思えば、羨ましかったのかもしれない。一人でありながら己の意思のまま生きている彼の事を、使命も約束もなく、ただ己の心が命じるままに───自由に生きる事を。

 

この時、アンチスパイラルは思った。もし全てに決着が付き、自分達の役目が終わる時が来たのなら……ああいう風に生きて見てもいいのかも知れない。

 

そんな時は未来永劫訪れはしない。そう決め付けてもアンチスパイラルはその時生まれた感情を、願いを捨てきれずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『バカな』

 

アンチスパイラルは信じられないといった様子で呟く。隔絶された宇宙の中で神の如く力を有している彼の口から漏れる言葉は、目の前の事象に対する否定と困惑に染まっていた。

 

この空間に置ける自分達の力は絶対、法則も事象もこの宇宙で自分に逆らえる者は存在しない。限定的でありながらその力は、外にいる“奴等”にも迫るモノだと自負している。

 

なのに……何故目の前の存在は消滅しない? 自分達の全霊の一撃を受けて尚、ソレは存在していられる?

 

混乱と戸惑いがアンチスパイラルの思考を埋め尽くす中、彼は見た。自分達の放った一撃の先にある魔神の様子に。

 

『奴の機体が修復……いや、再生しているだと?』

 

砕かれた筈の魔神の両腕、量子単位にまで分解されたグランゾンの腕が時間を巻き戻す様に再生していく。時間を巻き戻す、その言葉にハッとしたアンチスパイラルは、その虚の目を大きく見開いた。

 

『事象の浸食だと!? この隔絶宇宙を媒体に己の法則を流しているとでもいうのか!?』

 

この隔絶宇宙には己の意志を現実のものに映し出す性質が存在しており、アンチスパイラルはその性質を己の力の増幅装置として作動させ、この宇宙を自身の描いたモノに書き換えている。

 

基本的にはアンチスパイラルに力が傾く様に創られているが、彼の者が元々螺旋族だった為に、その性質はシモンや螺旋の力と同質の力を持つZ-BLUEにも作用し、その結果、彼等も多元宇宙迷宮を脱する程の力を得る事に成功している。

 

だが、逆を言えばそれだけだ。この隔絶宇宙はアンチスパイラルの力を超えられぬ様に出来ている。それこそ、外界から何らかの力を持ち込まない限りアンチスパイラルの有利は揺るがない───その筈だった。

 

『我々の法則を己の法則に書き換えるだと!? それでは、それではまるで────』

 

“太極”

 

蝕まれていく自身の法則を前にアンチスパイラルの脳裏にあの言葉が浮かび上がると同時に、グランゼボーマの放つドリルの尖端に皹が入る。

 

見ると、そこでは完全に修復されたネオ・グランゾンの腕が、グランゼボーマのドリルを止めようと尖端を握り締めていた。

 

回転するドリルを止めようと力を強めるネオ・グランゾン。魔神の背にある日輪も、ドリルを制止させようとその輝きを強めている。

 

やがて皹は亀裂となり、そして亀裂はドリル全体へ広がっていく。────負ける。悠久の時を経て、初めて突き付けられる敗北の二文字を前に、アンチスパイラルは最後の力を振り絞る。

 

『ぬぅぅぅぅぅうっ!!!』

 

負けてはならない。負けてなるものか。ここで負けを、敗北を認めてしまったら全てが終わってしまう。何より、ここで負けてしまったら今までの自分を否定する事になってしまう。認めてしまったら、もう二度と自分達は立ち上がる事が出来なくなる。

 

怖い。負けてしまう事が、認めてしまう事が怖くて堪らない。沸き上がる恐怖を払拭する様にアンチスパイラルは己の力を振り絞った……その時だ。

 

『……やっぱ、スゲェよ。アンタ』

 

『な……に?』

 

突然投げ掛けられる魔人からの称賛に、アンチスパイラルは呆けた声を漏らす。この土壇場で、この局面で、まるで戦っているとは思えない落ち着いた声。その言葉に侮蔑等の意味はなく、純然たる賛美の言葉だった。

 

『一人になって、宇宙を守って、同じ仲間を殺してきて、それをずっと繰り返す…………ハッキリ言って正気の沙汰じゃないと俺は思う』

 

『何を今更……』

 

『当然、それは誉められたモノじゃないし、実際許されない事だ。万人に聞けば全員がアンタを否定するだろうさ。無論、俺もその一人だ』

 

『…………』

 

『けどさ、同時に思うんだ。万人に疎まれても、怨まれても、呪われても、それでも戦おうとするアンタの気持ちも……肯定されるべきなんじゃないかなって』

 

『なにを……言って』

 

『アンタは頑張ったよ。やり方が強引だっただけで、アンタの気持ちは多分……間違ってはいないんだ』

 

魔人……シュウジのその一言に、アンチスパイラルの胸の内から暖かい何かが溢れだした。初めて聞かされる肯定の言葉に、彼の者の虚の瞳に熱が入る。

 

『アンタの間違いはただ一つ、もっと周りを見るべきだった。誰かを頼るべきだった。誰かに……甘える事だったんだよ』

 

『…………甘え、か』

 

『真面目過ぎたんだよ。アンタも、トレーズさんも、頭が良いから、他人より何でも出来ちまうから、何でもかんでも背負い過ぎて……潰れちまう。アンタ等はもう少し他人に頼っても良かったんだよ』

 

アンチスパイラルもトレーズも己の信念に従い過ぎた。妥協を許さず、徹底した為、自らを追い詰めてしまった。

 

それを間違いだと言うつもりはない。けれど、もう少し頼って欲しかった。それだけがシュウジの指摘でもあり、心残りでもあった。

 

『…………そう、か。甘えか。確かにそれは盲点だったな』

 

『アンタにだっていたんだろ? 気を許した友人が、相談に乗ってくれる親友が、一緒にバカやれる悪友が』

 

『あぁ、そう……だな、いたのかもしれない。もう、覚えてはいないが』

 

懐かしむアンチスパイラル。その眼は何も映さない空っぽの虚構のモノではなく、昔を懐かしむヒトそのものだった。

 

『……シュウジ=シラカワ』

 

『あ?』

 

『お前なら出来るのか? 我々を倒した先にあるのは避けられない運命、絶望の未来だ。それを乗り越えるのは……』

 

『あぁ、無理だろうな。俺一人なら』

 

『…………あぁ、成る程。そういう事か』

 

シュウジの否定の言葉に何かを察したのか、アンチスパイラルは納得し、頷く。彼の者も知っていたのだ。既にシュウジの限界は超えつつあった事を。

 

『ここまで来ておいて他人に丸投げとは……貴様の言う甘えは随分と無責任なものだな』

 

『何せ、今日まで色んな人の手を借りて生きてきたんでね。すっかり甘え癖が付いちまった』

 

『減らず口を……まぁ、そんなお前の言うことだ。たまには信じるのも良いだろう』

 

『……ありがとな』

 

ドリルが砕かれ、消えていく。全てを出しきったグランゼボーマは向かってくる魔神を受け入れる様に両手を広げ───。

 

グランゾンの拳による一撃が宇宙の守護者を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

『シュウジ=シラカワ』

 

『あん?』

 

『この宇宙、必ず───守れよ』

 

『あぁ、そんでもってその時は、アンタの力も借りるよ』

 

『ふ、フフ……死人にすら助力を求めるとは、本当にお前は自由な奴だ』

 

けど、だからこそ……。

 

全ては己の傲慢さが原因だった。その事を分かっていながら今日まで使命を果たし続けてきた彼の者はこの日、初めて受け入れられ、満足したまま彼方へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やった……のか?』

 

ネオ・グランゾンの一撃がアンチスパイラルを貫いたと思われた瞬間、爆発と轟音が隔絶宇宙を埋め尽くした。

 

やがて爆発が収まり、静寂が辺りを包み込む頃、隔絶宇宙に残されたのはZ-BLUEとネオ・グランゾンだけとなった。

 

人類抹殺を目的としたアンチスパイラルの打倒。それが叶ったのだと知った瞬間、Z-BLUEの面々は諸手を上げて喜びの声を張り上げた。

 

『やった。やったんだな俺達!』

 

『アンチスパイラルを倒したんだな』

 

『倒したのがZ-BLUEのメンバーじゃないってのがアレだけど……』

 

『破界事変や再世戦争の時といい、何だか締まらない終わり方だな』

 

『何言ってんだよ、ここまで一緒に戦って来たんだ。シュウジの奴もZ-BLUEの一員だろ』

 

それぞれがそれぞれの形で喜びを顕にしている。そんな中、何人かのメンバーはこの宇宙に蔓延る悪意に過敏に反応していた。

 

『…………』

 

『? どうしたシモン』

 

『なぁ、ヴィラル。本当にこれで終わったと思うか?』

 

ある者は特有の螺旋の本能で。

 

『……アムロ、感じるか?』

 

『あぁ、俺も感じる』

 

『な、何だ。この嫌な感じは……苦しいなんてモノじゃない。まるで心臓を鷲掴みされたような……』

 

『バナージ、気を確り持て  呑み込まれるぞ!』

 

またある者は直感的に……。

 

『ウグッ!?』

 

『ヒビキ君、どうしたの!?』

 

『こ、この感覚は……』

 

またある者は魂に刻まれた傷を基に……。

 

それぞれ特異な力を持つ者達が感じた方向に視線を向けると。

 

『シュウジ、お疲れ様。いつも私達は貴方に助けられてるわね』

 

『…………』

 

『今日は疲れたでしょ、ゆっくり休んでまた次に備えて頂戴』

 

ネオ・グランゾンに近付く紅蓮の姿、それを目の当たりにした瞬間────。

 

 

─────ドクン。

 

 

『っ、カレン、ソイツに近付くな!』

 

『え?』

 

C.C.の叫びがカレンの耳に入った瞬間……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グランワームソード』

 

剣を手にした魔神が紅蓮ごと少女を切り裂いた。

 

その刹那、誰もが言葉を失った。誰もが思考を停止した。

 

時の止まった刹那の合間、地球で……。

 

「ふ、フフフ、漸く私の祝福を受け入れてくれたか。本当に、本当に喜ばしいよ。シュウジ=シラカワ」

 

究極の善意(悪意)が狂喜の笑みを浮かべていた。

 

 




Qなんだか原作主人公達の見せ場がないんだけど?
Aお待たせしました。


次回、神々の黄昏(ラグナロク)導入編

次回もまた見てボッチノシ

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