迷宮区に入ると私たち血盟騎士団はアスナの主導で二つのパーティーに分かれた。
Aチームはゴドフリーがリーダーでタンクの私、プッチーニ。槍使いのセルバンテス。
Bチームはアスナがリーダーでタンクのマティアス、マリオ。短剣のアラン。そしてコー。
私とコーを別々にしたのはアスナの配慮かも知れない。コーが私の頬を平手打ちしたのを全員が見ている。私とコーが一緒に行動させてはなにかと気まずいだろうという配慮だろう。
「では、また夜九時に集合しましょう。出発」
アスナは凛とした声で命令を下した。
「はい!」
迷宮区のマッピングが始まった。
私たちは二手に分かれて迷宮区を探索。夜九時に集合して情報の統合。そして交代で睡眠をとりながら野営するという手はずになっている。
「君は索敵持ってる?」
歩き始めてすぐにセルバンテスが私に話しかけてきた。掘りが深い顔は少し日本人離れしている。年齢は一八歳ぐらい。すっと通った鼻筋、茶色の髪はやや長髪でなかなかのイケメンだ。私の女性としての部分がドキリと反応した。
「いえ。持ってません」
「おっけー」
人差し指と親指で円を作るとセルバンテスは明るく声を上げた。
「気をつけろー。ジークリード、そいつ変態だぞー」
プッチーニが私の首筋を引っ張りながら私をセルバンテスから引き離した。
「変態って?」
「二次元幼女ヲタなんだよ。こいつ。近づくだけで変態がうつるぞ」
プッチーニがくつくつと笑いながら言った。「ちなみに『ヲタ』のヲはローマ字表現すると『wo』のほうの『ヲ』な」
「二次元幼女の良さが分からないとは。あのぺったんとした胸。見せパンじゃないのに見せてくれるパンツ! どれも至宝の輝き」
まるでオペラを堂々と歌い上げるような声で朗々と幼女の良さを訴えるセルバンテス。どうやらとても残念なイケメンらしい。「だから、ジークリードさん。コートニーさんの事は忘れて、俺と二次元幼女の良さについて語り合おうじゃないか」
その言葉に私の表情が固まる。
「ちょ、おま!」
プッチーニがあわててセルバンテスの口を押えて首を締めにかかる。「すみませんね。こいつちょっと気が利かなくって」
「地雷は踏み抜くもの!」
セルバンテスは全く反省の色がない。天然なのか狙ってやってるのか……。おそらく前者だろう。
「ちょっと。黙ってろ! 変態!」
プッチーニはガンガンとセルバンテスの頭を小突きまくった。
「おい。遊んでないで、仕事しろ! セルバンテス。お前しか索敵持ってないんだからな」
ゴドフリーがむんずとセルバンテスの首を掴むと投げ飛ばす勢いでパーティーの先頭に立たせた。
「へーい」
やり取りがあまりにもおかしくて思わず、クスリと笑ってしまった。
「すみません。奴なりに気をつかってるとは思うんですけど。気を悪くしないでください」
プッチーニが耳元で囁いてきた。
「はい。大丈夫です」
私は笑顔で答えた。「お二人とも仲がいいんですね」
「うん。四層からの付き合いでね。あいつの事、ほっとけないんです」
プッチーニは優しい目でセルバンテスの後ろ姿を見つめた。
「いいですね。そういう関係」
私は心の中で自分とコーの関係に重ねた。私があの時、手鏡を間違えて捨てなければ、こんな事にはならなかっただろうか。今の私は中途半端だ。女性の気持ちを残しながら男性の身体で生きていく事がこれほどつらいとは思いもしなかった。
コーを失ったことは親友を失ったという気持ちというよりも、やはり恋人を失ったという気持ちの方がやや強い。最初から私とコーが女性同士であれば、プッチーニとセルバンテスのような明るく健全な関係を築けただろうか……。
「いた……」
セルバンテスが足を止めた。「ヘル・アリゲータが三。ラヴァ・ウルフが五」
「よし、プッチーニとジークリードは前衛に立て。セルバンテスは支援」
「k」
プッチーニはぺろりと唇をなめて抜刀した。
「了解」
私たちは隊列を組んでゆっくりと前進した。
無心に剣を振るう。ヘル・アリゲータの眉間に剣を突き刺し、ラヴァ・ウルフの喉笛を切り裂く。何度か炎のブレス攻撃を受けたような気がするが、私はひたすら剣を、盾を振るった。
自分と敵以外はもう見えない。私は狂戦士のようにただ剣を振るうマシンとなる。それが気持ちいい。
死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。
全て光に消えてしまえ。
「後ろに下がって回復しろ! ジークリード!」
遠くでゴドフリーの声が聞こえ、私は我に返った。「聞こえないのか!」
私はゴドフリーに首を掴まれて無理やり後退させられた。そのため、足をもつらせて転倒する。
その間にゴドフリーは無理に割り込んだためにブレス攻撃を受けヒットポイントを減らした。だが、自分が食らう被害より多くの戦果を斧で作り出していく。
「ヒール!」
セルバンテスが回復結晶で私を回復させた。「ゴドフリーとスイッチしてください」
「はい!」
私は立ち上がってゴドフリーに近づきながら叫んだ。「スイッチ!」
「おう!」
斧による強攻撃を加えた後、ゴドフリーは後ろに跳び、私はその空間に飛び込み剣を振るった。
最後のモンスターを倒し、私たちはほっとしながらマッピングを再開した。
「ジークリード。あんな事があって、気持ちは分からんでもないが、突っ込みすぎだ。自分のヒットポイントを気にしろ」
ゴドフリーが私の隣を歩きながらぽんと肩を叩いた。
「はい。すみません」
自分のヒットポイントを……というより戦闘中に周りが見えなくなっているのはコーと仲たがいをしたためじゃない。これは昔からだった。ベータテストの時もこの癖が抜けないから死にまくって……だから、コーと出会う事が出来た。
私の脳裏にコーと初めて会った時の言葉と姿がよみがえった。
ベータテストの時の彼女は小学生ぐらいの年恰好のアバターだった。
『しょうがないなあ。もう、ジークは自分のヒットポイントを見なくていいよ。僕に任せて』
コーは任せてと自分の胸を二回手で叩いて微笑んだ。
私は大きく頭をふって、その姿と声を頭から追い出した。
夜九時になり、私たちパーティーは迷宮区内の安全地帯で合流した。
私はコーがアスナとケンカをして破滅的な関係になっていないかと心配したが、二人の様子を見ていると時々言葉を交わしているようだ。お互いに表情がまだ硬いけれど、コーは気に入らない人は完全無視なのでそれなりにアスナを受け入れているのだろう。
「おおむね、順調ですね」
アスナはゴドフリーとマップデータを統合して頷いた。「何か問題点はありましたか?」
「こいつが突っ込みすぎる以外は問題なしだ」
ゴドフリーがニヤリと笑みを浮かべて私の肩を叩いた。
「ごめんなさい」
これは頭を下げるしかない。自分でもまずい戦い方だと思う。
「大丈夫だ。ああいう狂戦士みたいな戦い方も嫌いじゃないぜ」
ゴドフリーは高笑いをして、アスナに視線を向けた。「そっちのルーキーはどうだ?」
「うん。すごくいい。第二五層の指揮はまぐれなんかじゃないわ」
アスナは口元にかすかな笑みを浮かべて言った。
どうやら、コーとアスナは破局に向かわなかったようだ。
(よかった……)
私はほっとして頬を緩ませた。ふと見ると、アスナが私を見て微笑んでいた。視線が合うとすぐに目をゴドフリーに向けた。
「ゴドフリー。見張りの当番だけど、ルーキー同士が組まないようにしましょう。やり方が分からないでしょうし」
「そうだな。じゃあ、うちはジークリード、セルバンテス、プッチーニ、私の順で回そう。二時間交代でいいよな」
「じゃ、こっちは私、コートニー、マティアス、マリオ。アランは今日は見張りなしで」
「わかった」
ゴドフリーは頷いて、再び私の肩を叩いた。「じゃあ、ジークリードの睡眠は零時だな。やり方は副団長から聞いてくれ」
「ゴドフリー。楽しないでよ。ちゃんと説明して」
「PKが来たら、大声を上げる。以上」
「……。もういい」
アスナはため息をついて身を翻して自分のパーティーに戻って行った。
私とアスナが最初の見張りに立った。
配布されているベッドロールはアクティブモンスターへのハイディング効果がある。モンスター相手であれば全員が寝てしまっても問題がないわけだが、PKが来た時に対応できない。そのための見張りだ。
「ジークリードさん。今日はごめんなさい」
一時間ほど過ぎた時、アスナが私に声をかけてきた。
驚いてアスナを見ると、彼女は相変わらず周辺に目を配り、周りを警戒していた。
「ケンカの原因はわたしよね?」
「いいんです。コーにはもっと強くなって欲しいんです」
私はコーの寝顔を見ながら言った。その寝顔に私の心はとても心が安らいだ。
「あなたはコートニーさんの事が本当に好きなのね」
アスナのその言葉が胸に突き刺さった。
私の≪好き≫はどういう好きなんだろう。Like? それともLove?
私はアスナの横顔を見る。コーとは違う美しさだ。世の男性たちは一目で彼女の虜になるだろう。だが、私の心には何一つさざ波すら立たない。やはり、自分は女なのだと実感した。
視線をもう一度コーの寝顔に戻す。ほっとした思いと今、彼女に嫌われてブロックリストに入っている事に心がざわめく。
「コーを頼みます。私に構わなければ、もっと強くなれるはずなんです」
私は自分に言い聞かせるように言った。
「うん……。わかった」
一瞬、アスナは私に視線を向けたが何も言わず、すぐに見張りを再開した。
それから私たちは一言も交わさなかった。
やがて、見張りの交代の時間になり、私はセルバンテスと入れ替わりにベットロールに入った。とたんに強烈な睡魔が襲ってきた。私は深い眠りについた。
一週間ほどで迷宮区のマッピングは終了した。
それほどの時間が流れてもコーは私を許してくれていない。相変わらずブロックリストに入れられたままでまったく会話がない。
チーム分けも意外とバランスがいいという事で固定されたままだ。そういうわけで、めったにコーと顔を合わせる事はなくなっていた。
コーの表情には大きな変化があった。ぎらぎらと厳しい目つき。レンバーやアスナと同じ、攻略に燃える人たちと同じ表情だ。アスナとコーは毎晩一緒に出掛け、レべリングをしているようだ。おかげでレベルもどんどん上がっているようである。
これでいい。そう理性では思っていても、心の空虚は一向に収まらなかった。やはり、私は一方的にコーに依存していたのだと改めて認識した。
自分がしっかりしなければ、もう二度とコーの邪魔をしてはならない。一週間前から数えきれないほどその思いを繰り返し自分に言い聞かせる。だが、一向に胸の空洞はふさがる気配はなかった。
マッピングが終了した時点で五つの攻略ギルドは会議を行い、合同でボス部屋に二〇人規模の偵察隊を送り込むことになった。第二五層の失敗は事前情報の不足によるものだ。事前に情報さえあればあれほどの死者を出すことはなかっただろう。
攻略会議で血盟騎士団は偵察部隊に四人出す事になった。この事の伝達のために今日は全員がギルドハウスに集合していた。
情報がない初戦は誰しも恐ろしい。攻略前提ではなく、危険だったら迷いなく撤退すると定められていても、どんな特殊攻撃を仕掛けてくるか分からないし、今度はたった一撃でプレーヤーを死に追いやる攻撃力を持っているかも知れない。
ここで躊躇するのは当然と言えた。
「公平にくじ引きしまひょか」
ダイゼンが全員を見渡しながら言った。
「ルーレットにしようぜ。上位四人が参加ってことで」
セルバンテスが言うと、みんなが頷いた。そして、メインメニューの操作を始める。
ルーレットはレアアイテムの分配やちょっとした賭けの時に使う。スタートと押すと一から百までの数字がランダムに表示されストップを押すと確定されるという単純なものだ。ごまかしがきかないように確定された数字は見える範囲にいる人のシステムログに記録される仕組みになっている。
ダイゼンを除くメンバー全員がルーレットを回し、室内にメニューを操作する電子音が響いた。
その結果、上位四人はマリオ、私、セルバンテス、コートニーの順番だった。
久しぶりにコーと一緒のパーティーを組める。ブロックリストのために話せなくてもいい。たったそれだけの事で私の心は躍った。しかし、アスナの発言でそれは打ち砕かれた。
「やっぱり、ギルドを指揮する者が一人も入っていないのはまずいわ。わたしがコートニーさんと代わります」
副団長としての決定である事を言外にうかがわせる力強い口調だった。
ふと見ると、アスナとコーが視線をからませ微笑みあって、コーが声を出さず『ありがとう』と口を動かしていた。いや、ブロックリストに登録されているから聞こえなかっただけで、声にしているかも知れない。
それほどにコーは私と行動するのが嫌なのか。
私の心にもやもやとどす黒いものが浮かんできた。この気持ちは何だ……。
「では、マリオ、ジークリード、セルバンテスは明日九時にここに集合。他のメンバーはボス戦に備えてオフとする。以上」
アスナの指示が終わると、全員が立ち上がり一斉に敬礼した。
それが終わるとざわざわと雑談しながら次々とギルドハウスから出て行った。私もその後について外に出た。そして、振り返ってみると、コーとアスナが手を取り合って何か楽しそうに話をしていた。
私の心に怒りが噴き出した。そうだ、この感情は怒りだ。怒りという砂粒を手で払いのけるとそこに嫉妬が浮かび上がってきた。
私はそれを誰にも気取られないように裏庭と呼ばれる公園のベンチへ走った。
ベンチに座って池を眺めると滑稽な自分を笑った。
アスナは女性だ。そんな彼女に、ただコーと仲良くしているだけで嫉妬するなんて……。それに『コーを頼みます』と言ったのは私自身ではないか。お願いしておいて嫉妬するなんて、お門違いも甚だしい。
私はこんなにも嫉妬深い人間だったのだろうか。そもそも、コーを誰にも渡したくないと思うほど女子を好きになる女だっただろうか。ちょっと仲がいい女友達を一人失う。ただ、それだけの事なのに。こんな事は今までに何度もあったはずなのに。
コーはアスナの背中を追ってどんどん強くなっていく。そして、私の事を顧みなくなる。両方とも私が望んだことだ。思い通りになっているのに胸が張り裂けそうなほどのいらだちが全身を襲う。
思い通りなのに思い通りじゃない。もう、訳が分からない。このままでは私は壊れてしまう。
コーがいない所に行けばいいのだろうか。そうすれば時間が解決してくれるだろうか。それよりもいっそ……死んでしまえばこの女男状態から解放されて全てがうまくいくのかもしれない。
最近、死ぬことが怖くない。一週間前にはあれほど怖かったのに。私は壊れかけのロボットだ。誰でもいい、私を壊して欲しい。
私は天を仰いだ。第二七層の床が見える。まったく解放感がない。まるで牢獄だ。一体いつまでこの虜囚生活を続けていくのだろう。私は陰鬱な気持ちで空を見上げ続けた。
次の日、私たち血盟騎士団のメンバーは時間通りに集合し、迷宮区へ出発した。
迷宮区の入り口に到着すると、すでに今回のボス偵察メンバー二〇人が集まっていた。
「ヘタレ壁戦士」
私は後ろから声をかけられた。思わず振り返って、私はその声の主を見た。
「ほう。ちゃんと自分がヘタレ壁戦士だと自覚しているようだな」
その声の主、レンバーがニヤリと笑った。「俺が言った事を守っているようだな」
「はい」
私はほろ苦く答える。「コートニーは強くなってますよ」
「貴様はどうだ?」
「少しはレベル上がりましたが……」
「血盟騎士団のレベル上げノルマはどれくらいだ?」
レンバーは私にそう問いかけておいて、すぐに首を振って言葉を続けた。「まあいい。どれほど強くなったか俺が採点してやろう」
私の目の前にレンバーからのデュエル申請画面が開いた。
「ちょっと、待ちなさい」
アスナが私とレンバーの間に割り込んで彼に抗議した。「勝負になるわけないでしょ。何を考えてるの?」
私はそのアスナの言葉にカチンときた。アスナが言うように私とレンバーの差は歴然だ。勝負にならないのは分かっていた。しかし、アスナへの嫉妬心も相まって彼女に自分が辱められたような気持ちになり、私はデュエルを受託した。アスナに邪魔されぬようにデュエル開始タイミングを即時に設定したうえで初撃決着モードを選択する。
「ジークリード!」
アスナが鋭い視線と声を私に突き刺す。しかし、まったく私の心は揺らがない。
「どうせ勝負になりません」
乾いた笑いを浮かべ、私は抜刀して飛び出した。
私は突進しながらソードスキルを立ち上げ、レンバーにぶつける。彼はいとも簡単に盾で受け止める。私は盾でプレッシャーをかけながら次々と剣を打ち込む。
壊れろ。壊れろ。壊れろ。
自分に向けてなのかレンバーに向けての想いかよくわからない。ただひたすら、めちゃくちゃにソードスキルをレンバーにぶつける。
私のバーサーカーぶりに感心しているのかあるいはあきれているのか、ため息とざわめきが周りから聞こえた。
「ほう。これはこれは」
私の攻撃を微笑みさえ浮かべてレンバーは全て受けきる。そして、一瞬鋭い視線を見せた途端その姿がかき消えた。
あっ! と思った時にはもう間に合わなかった。気が付いた時にはレンバーは私の右側に移動し、ソードスキルで輝く剣を振り下ろす所だった。せめて一太刀と剣をソードスキルなしで右へ薙ぎ払う。だが、それが届く前に私の身体はレンバーのソードスキルによって地面に這わされる事になった。強攻撃ヒットということで、目の前に敗北を意味する『Lose』という文字が表示され、霧のように消えて行った。
「すげえ。速すぎる」
そんなどよめきが辺りを包んだ。
「ジークリード」
レンバーのそう呼ぶ声に私は視線を地面から上げた。私の視線の向こうでレンバーは切先を払うと剣を鞘に納めた。「血盟騎士団に飽きたらウチに来い」
その言葉に私は思わずレンバーに手を伸ばした。
私は本当に弱い女だ。誰かに頼らなければ生きていけない。この胸の空虚を埋めてくれるなら誰でもいい。どこでもいい。
だが、私の手はレンバーに届かなかった。アスナが私とレンバーの間に立ったからだ。
「勝手にウチの団員を勧誘しないでくれる」
いつでも抜刀できる体制でアスナはレンバーを睨みつけているようだった。
「へいへい。閃光様に勝てるとは思ってないさ」
レンバーは両手を上げて降参のポーズをとった。「余興は終わりだ。メインディッシュのボス偵察としゃれこもうじゃないか」
「ウチの団員がやられたままで引き下がれないわ」
アスナはまったく引き下がらない。
「どうしろと?」
レンバーは薄ら笑いを浮かべた。
「わたしとデュエルしなさい」
アスナはそう言い放つとメニューを操作した。
「いいだろう」
あっさりと承諾してレンバーは初撃決着モードを選んで腕を組んだ。
おお。という歓声がまわりで上がった。トッププレーヤー同士のデュエルなどめったに見れるものではない。
60のカウントがはじまり、0になった。興味津々で二人の激しいバトルを一瞬も見逃さぬまいとプレーヤー達は固唾をのんだ。
だが、レンバーは腕を組んだまままったく動かない。
アスナがソードスキルを立ち上げ一歩を踏み出した。彼女の身体が速すぎて姿がぶれて見えた。信じられない突進力だった。
「リザイン」
次の瞬間、にべない口調でレンバーは負けを宣言した。同時にシステムがアスナの勝利を宣言する。
「ふざけているの?」
細剣をレンバーの首筋に突きつけながらアスナは怒気をはらんだ声で言った。決着がついた後に攻撃を加えては、アスナがオレンジネームになってしまう。
「ふざけてなどいないさ。さっきも言っただろ? 『閃光様に勝てるとは思ってない』って。だから降参。私の負けだ。血盟騎士団副団長は本当にお強い。これでよかろう?」
レンバーは腕を組んだまま笑みを浮かべる。「それともあれか、血盟騎士団副団長は負けを認めてる奴を叩きのめすのが趣味なのか?」
「負けを認めてる態度じゃないわよ」
アスナはさらに細剣の先端をレンバーの首筋に密着させた。ソードスキルで輝く細剣がレンバーの顔を下から照らした。
「言葉で言って、実際のデュエルでリザインして、この上何を望むんだ。土下座か? 聖竜連合のギルドマスターを剣で脅して土下座させたとあればいろんな噂が広まるだろうな」
役者が違いすぎる。さすがに一癖も二癖もある攻略組の多くをまとめているカリスマギルドマスターだ。これに対抗できるのはヒースクリフぐらいしかいないのではないだろうか。
「……弱虫ギルマスという噂が広まらないように協力してあげるわ」
長い沈黙の後、アスナは鼻を鳴らして細剣を納めた。
「韓信の股くぐりというやつを知っているか?」
「その猟犬の末路も知ってるわよ」
アスナはレンバーに言い捨てると、私の前に立った。「ジークリード。なにを焦っているの?」
「焦ってなんかいません」
「でも、こういうのは良くないわ。次は……」
アスナはそこまで言って、言葉を飲み込んだ。いつでもやめてやる。そんな私の表情を読み取ったのかもしれない。「ボス戦の準備をしましょう」
今回のボス偵察の指揮は聖竜連合のレンバーが執る事となった。MTDが前線から去った今、攻略ギルドの中で最大勢力であり、そのギルドマスターということで異論は出なかった。
第二六層のボスはイフリートだった。
全身に炎をまとい、手にしているタルワールにも炎が揺らめいている。その攻撃には範囲攻撃と継続ダメージがあるらしく、完全に攻撃を受け止めてもじわじわとヒットポイントが削られた。さらにイフリートには接近するだけで炎によるダメージ判定があり、前衛の壁戦士のヒットポイント管理はシビアなものになった。
しかし、第二五層の双頭の巨人に比べたらその攻撃力は弱い。ヒットポイントバーも四本に戻っている。
私はイフリートの美しさに心奪われていた。炎のエフェクトが私の心をじわじわと浸蝕していく感じが心地いい。そして、それを破壊したい衝動に駆られる。
壊れろ。壊れろ。全部壊れてしまえ。
もう周りの声も音も何も聞こえない。無心にイフリートを美しい炎を斬り続ける。
突然、腹部に衝撃が走り、私は後ろに飛ばされた。無様に床を転がり衝撃の原因に目をやった。私の隣で組んで戦っていたマリオが回し蹴りで強引に下げさせたという事を理解するのに数秒かかった。途端に周りの声が耳に入ってくるようになった。
「ヒール」
セルバンテスが私を回復結晶で回復させた。「しっかりしてください」
「ジークリード。聞こえないの? もう下がりなさい。あなたをこんなところで死なせるわけにはいかないのよ。今から後方支援に徹しなさい」
アスナは私の代わりにマリオの隣に入りながら命令した。
あなたが守りたいのは私の命ですか? それとも血盟騎士団の名声ですか?
そう心で問いかける。答えは決まっている。口では私の命と答えるだろうが、本音は血盟騎士団の名声だ。
私はふらふらと立ち上がり、ボス部屋を後にした。セルバンテスやアスナ、レンバーの声が聞こえたような気がするが、もうどうでもよかった。
私は第二六層の宿屋でまどろんでいた。もう、何もやる気がしない。
(一六時か……)
視界の隅の時計を確認して寝返りをうった。勝手にボス部屋から出てきて四時間ほど経っていた。アスナや他の血盟騎士団メンバーから今のところ何も連絡はなかった。しかし、恐らく私は明日のボス戦に参加する事はできないだろう。あんな反抗的な態度をとるなんて、我ながら驚きだ。
リアル世界ではこんな事はなかった。良い子を演じて勉強も部活も頑張ってきた。自分の中にこんな激しいものが眠っていたとは思わなかった。ソードアート・オンラインの世界は自分の本性をむき出しにさせる何かがあるのかもしれない。
ふいにシステムメッセージが届いた。
【Courtneyさんのブロックリストから解除されました。今後、Courtneyさんと会話ができるようになります】
今更、どういう風の吹き回しだろうか。
そうか、アスナから今日の出来事を聞いたのだ。こんなみじめな自分の姿は見てほしくない。全部自分が引き起こしたことなのに、結果に責任が持てないなんて。本当に私は子供だ。
もう、消えてしまいたい。アインクラッドは広い。どこかに逃げてしまおう。誰にも見つからない場所など探せばいくらでも見つかるだろう。
今日の事でコーに責められるのにはたとえメールであっても耐えられそうになかった。私はコーをブロックリストに登録した。これで会話だけでなくメールなど一切のコンタクトは取れなくなる。続いて、血盟騎士団に脱退申請を出した。きっとすぐに認められるだろう。万一認められなかったとしても私が取り下げなければ明日の二四時に自動認可されるはずだ。そうすればコーはギルドメニューから私の場所を知る事はできなくなるだろう。全ての絆を断ち切ろう。そして、一人で生きて行こう。
十分ほどしてアスナからメールが届いた。
『脱退を認めてほしかったら、十七時にギルドハウスの裏庭に来なさい』
放っておいてもいい。どうせこちらが取り下げなければ自動認可だ。だが、一週間とは言えお世話になったギルドだ。何も言わずに脱退するのも気が引けた。
仕方がない。恥の上塗りになるかも知れないが……私は行くことに決めた。
時間より少し早く、私は裏庭と呼ばれる公園に到着した。まだ、アスナは来ていないようだ。ギルドハウスで待機しているのかもしれない。
私はもう、血盟騎士団の制服は着ていない。今身につけているのは以前着ていた地味な普段着だ。
私はベンチに腰かけて待つ事にした。夕日が辺りを赤く照らしている。
しばらくすると、カサッカサッと足音が聞こえた。立ち上がって振り返ると、そこにはアスナとコーがいた。おそろいの血盟騎士団の制服がとても似合っていた。二人がお似合いのカップルに見えて私の心がまたちりちりと焼かれた。
私は思わず、コーから目をそらした。こんな姿を見られたくなかった。今になってみればこの二人が一緒に来ることは十分に考えられたのに、私はまったく思いつかなかった。やはり冷静さを失っているのだろう。もう、やる事なす事なにもかもうまくいかない。
「ジークリードさん。まず、コーをブロックリストから外してくれないかしら」
アスナが『コー』と呼んだ事にまた私の胸に嫉妬の炎が燃え上がった。だが、反抗しても何の益もなさそうなので、私はメニューを操作してコーの名前をブロックリストから消した。
アスナはコーに目配せした。私が本当にブロックリストから削除したかを確認したのだろう。コーはアスナに頷いた。
「ジークリードさん。脱退申請は了解しました。ただ、私も団長も許可するつもりはありません。個人的には取り下げてくれることを希望します。以上」
アスナの引き留めの言葉は業務連絡のようにあっさりしていた。そして、コーの背中を押した。「がんばれ。コー」
「はい」
コーが緊張した表情で私の前まで歩いてきた。
アスナは身を翻してギルドハウスへ去って行った。
「ジーク……」
コーは私を見上げながら名を呼んだ。ほぼ一週間ぶりに聞く呼びかけに胸が熱くなった。
なんと返事をしたらいいのだろう。何を話せばいいのだろう。すぐそこにコーがいる。でも一週間の間に私とコーの距離はとてつもなく遠くに離れてしまった事を実感した。
コーは無言のままメインメニューを操作した。私の目の前にトレード画面が現れる。片手剣と盾だった。
「ちょっと早いけど、ジークの誕生日プレゼント。これで明日のボス戦を……」
私はコーの言葉を最後まで聞かず、左手を振ってトレードをキャンセルした。コーは目を見開いて絶句した。
「ボス戦には行かない。だからそれはいらない。他の人にあげてくれ」
私はコーに背を向けて歩き始めた。もう、コーとかかわらない方がいい。このまま話し続けたら心がばらばらに砕けてしまいそうだ。
「ジーク。待って!」
コーが私を後ろから抱きしめてきた。私の目の前にハラスメントコードが現れた。
「離して。コートニー」
まさか監獄に送るわけにはいかない。離してくれなければ≪引き離す≫を選ぼう。そう思った時、コーが大声で叫んだ。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
コーは肺の空気がなくなるまで謝罪の言葉を続けた。最後には涙声になっていた。そして、息を吸って、言葉を続けた。「信じてくれないかもしれないけど、ずっとブロックリストにいれるつもりはなかったんだ」
「いいんだ。もう……」
そんな事はどうでもいい。私が必要でなくなったといういい証拠ではないか。私がいなくなれば万事解決だ。私は≪引き離す≫を選ぼうと指を伸ばした。
「僕、ジークのいう事を何でも聞く。だから、一緒にいて。お願いします!」
コーはますます私を抱きしめる力を強めた。「強くなれっていうなら強くなる。血盟騎士団をやめろっていうならやめる。聖竜連合に行くのならついて行く。何でもいう事を聞くから……僕の帰る場所を……僕の居場所を残してください」
私がコーに望む事。強くなってみんなの希望になって欲しい。そのためには血盟騎士団のトッププレーヤー達と一緒に強くなっていくのが一番だ。そして、私に関わらない事でもっと強くなれる。
そう、これを望んでいて、現実その通りになっているのに私はいらついている。
私はコーと一緒にいたい。でも、そうしたらコーが強くなれない。この矛盾した気持ちが私の心をじりじりと焼いているのだ。
「コートニー。顔を見せて」
私は体に巻きついているコーの腕を優しく撫でた。
「うん」
コーは腕をほどいて私の前に立った。「いっぱい。いっぱい、お話しよう」
コーがその後も何かしゃべっている。でも、私の耳には何も入ってこない。
私の目がコーの美しくつややかな唇に釘付けになる。唇を奪いたい。いや、コーの何もかも奪いたい。私の獣性が目覚め、一歩踏み出すとしゃべり続けていたコーの唇を強引に奪った。
「ちょっと、ジーク、やめて」
腕の中で暴れるコーを無理やりにねじ伏せる。体も頭も熱くなって何も考えられなくなった。
「バンッ!」
ハラスメントコードが発動し、私は吹き飛ばされた。そして投げ捨てられた人形のように見苦しく地面を這った。
私はなんと愚かなのだろう。コーが差し伸べてくれた救いの手を払いのけるような行動をして、これでは見捨てられてもしょうがない。
「ごめん、ジーク。大丈夫?」
コーが私のもとに駆け寄ってきて、ぺたりと私の隣に座った。
「コーはいつも私の事を紳士だって言ってくれたけど、私なんてこんなもんだよ」
私は自分の顔を両手で覆った。しかも、私は女なのだ。もう私は本当に壊れている。
「いいよ。僕はちょっと安心した」
「え?」
私は訳が分からずコーの顔を見た。
「男の子が好きな女の子を襲いたくなるのは普通でしょ?」
にっこりとコーが笑う。「でも、ああいうのはちょっと……。嫌じゃないけど、今はお話がしたい」
「嫌じゃないんだ」
「ナイスツッコミ」
コーはクスリと笑って私の頭を抱きしめた。久しぶりの暖かい空間に包まれて涙が浮かんできた。「ねえ。二六層の塔に行こう」
「塔?」
と、聞き返すとコーは私の両頬の涙をぬぐいながら視線を合わせた。
「うん。ジークとレンバーさんが話し合った場所。あそこから全部始まってるんでしょ? あそこからやり直そう」
コーはそう言って立ち上がると私の手を取って立ち上がらせた。
「うん」
私とコーは第二六層の鐘楼へ歩き出した。
第二六層の鐘楼の頂上にたどり着くまで私たちは無言のままだった。
コーが私の左腕を掴みながら一緒に一歩一歩塔を登る。先ほどの狂おしいほどの獣性はこの階段を上るごとに収まっていった。やがて、天辺にたどり着くとコーは目を輝かせて走り出した。
「すごい! 綺麗!」
日没直前のオレンジ色の光に照らされて、街並みは朱色に輝いていた。
コーは嬉しそうに周りを一周眺めると、私に視線を戻した。
「ごめん。つい、夢中になっちゃった」
「いいよ」
そうだ。初めてここに来た時、私はコーと一緒にこの街並みが見たいと思った。こんな風にコーが目を輝かせてこの風景を見る情景をはっきりと頭に思い浮かべていた。
たった一週間ほどの間なのに、果てしなく昔の出来事のように感じた。
「聞かせて。レンバーさんがジークに何を言ったか。そして、ジークがどう考えたか」
コーが私の目の前に立って真剣な表情で私を見上げてきた。
私はレンバーから『コートニーを縛り付けるな』『コートニーはもっと強くなってみんなの希望になるべきだ』と言われた事を話した。
そして、そのためにコーは私を見捨てて強くなればいいと思っていた事を話した。
それだけの簡単な事なのに説明がうまく話せず、しどろもどろになると、コーが優しく『それで?』『うん』と話を促してくれ、なんとか最後まで話し終える事が出来た。
「僕はジークと一緒にいたい。これが第一条件。他は何にも譲れない」
私の話を聞き終えて、コーは静かに言った。「でも、ジークのために何でもするよ。強くなるよ。レンバーさんが文句を言えないくらいに僕は強くなるよ。みんなから、『コートニーすげえ』って言われるように頑張るよ。だから、一緒にいてもいいですか?」
「うれしいけど、私はずっとコーを騙してるんだ。実は……」
そう、私は女なのだ。コーの優しい気持ちに応える資格など本来はないんだ。だから一緒にいれない。
「ストップ!」
コーが私の両手を掴んで叫んだ。「それ、言っちゃったら僕はどうなっちゃう? この関係が終わっちゃう?」
「終わっちゃうと思う」
「じゃあ、言わないで」
「え?」
「言ったでしょ。僕はジークと一緒にいるのが第一条件! それにひどい事、ジークを騙すような事は僕もやってるよ。だからジークも僕が見えない所、感知できない所で僕を騙してもいい」
「そんな軽い物じゃなくって、もっと根本的な……」
罪の意識が私の心を闇に引き込もうとする。しかし、コーは明るく言った。
「この関係が壊れる事なら聞きたくない。この関係が壊れるから僕もこの思いは言わない」
「なんか、仮面夫婦みたい」
「えー違うよ。だって僕にとってジークは一番だし……。ジークは?」
「私にとってコーが一番だよ」
うん。それは間違いない。それはこの一週間で痛感した事だ。
「じゃあ、いいじゃない。ここが僕たちの出発点。お互いがお互いを一番大切に思ってる。一緒にいたいと思ってる。全部、ここから考えよ」
コーはにっこりと笑って私の首に両腕をからませた。「――だから、キスしようぜ」
照れくさいのか、コーは少年のような言葉で迫ってきた。目の前のハラスメントコード表示を左手で払うとすぐ目の前に目を閉じたコーの顔があった。
もう、女同士で気持ち悪いなんていう気持ちはまったく湧かなかった。好きな人と一緒にいられるという幸せな気持ちが私を包んだ。
さっきとは全く違う。本能をむき出しに彼女を求めるのとは違う、優しい気持ちに満たされて私は目を閉じてコーの唇に自分の唇を重ねようとした。
「ゴーン! ゴーン!」
その瞬間、大音響で私たちの身体が震えた。一八時の鐘だ。すぐそこで大きな鐘が左右に揺れてそのたびに大きな時鐘の音が空気を震わせ、私たちの全身を震わせている。
コーに視線を戻すと私を見て笑っていた。大笑いをしているが鐘のためにその笑い声はまったく聞こえなかった。
ひとしきり笑い終えるとコーは私に向かって何やら大声で話し始めた。しかし、何を言っているのか全く分からない。
鐘が六回鳴って鳴りやんだ時に私は聞いた。
「何を言ってたの?」
「ジークとの関係が壊れる秘密」
コーはクスリと笑ったあと、満面の笑みを浮かべた。「言葉にして言ったらなんかすごいすっきりした!」
「なんだか、ずるい!」
自分だけ肩の荷を下ろしたような表情をしているコーがうらやましかった。こんな事なら私も鐘が鳴っている間に言ってみればよかった。
「あ、そうだ」
コーはそう言ってメインメニューを操作して私に片手剣と盾を渡してきて、頭を下げた。「さっき言ってた誕生日プレゼント。受け取ってください」
「ありがとう」
私は素直に受け取った。
「装備してみて。準レアのインゴットを使って鍛冶屋さんに作ってもらったんだよ。すごいでしょ、武器防御のスキル補正が+100もあるんだよ」
「あれ?」
私はその剣と盾を装備しようとした……しかし、できなかった。
「どうしたの?」
なかなか装備しようとしない私に怪訝そうな瞳でコーは見上げてきた。
「筋力値が足りない。たった3だけど」
「ええええええええ! レベルアップパラメータの振り方変えたの?」
「ゴドフリーに言われて、ちょっと敏捷度に振ったんだ」
つい一週間前まではお互いのレベルからパラメータまで全て知っていたのに……。この一週間の空白はお互いにとってとても大きいものだったのだと改めて痛感した。
「レベル上げに行こう! 今から行けば明日に間に合うから」
コーは私の手をぐいっと引っ張った。
「ええ? でもこの間上がったばかりだし」
「アスナにいいポイントを教えてもらってるから大丈夫! いこいこ。ダンジョンデート! 血盟騎士団の制服も着てよ! ほらほら」
私の左手を掴んだまま笑顔でコーが走って階段を降りはじめた。私も転びそうになりながらその後を追う。
私はぎゅっとコーの右手を掴んだ。この暖かい場所を失わなくて本当に良かった。コーが私に隠している事は気になるけれど、彼女は私を一番だと言ってくれた。それを信じよう。自分の居場所がここにある。
私はもう、二度とこの手を離さない。私はこの世で一番大切な輝く宝石をもう一度しっかりと握りしめた。
綾辻「あれ? もう壊れちゃったのかな」
大苦戦しました。ジークリードさんの豆腐メンタルと頑なさに何度も筆が止まりました(汗
地の文もちょっといただけないですね。何度か読み直してどんどん修正していくつもりです。「この表現がわかりづらい」とか「何言ってるかさっぱりです」とか「ジーク壊れすぎ」とかご指摘いただければありがたいです。
次はコートニー視点でこの事件を追ってみようかなって考えています。また1週間ぐらいかかるかもしれませんが、しばらくお待ちください。
SAOプログレッシブが発売になりまして、どんどん原作から離れて行っています。聖竜連合のギルマスはリンドさんらしいですし……。もう、全員オリキャラにしたくなってきました(ぉ