混沌王がアマラ深界から来るそうですよ?   作:星華

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問題児たちがゲームに苦戦するそうですよ?

「……っ、ここは……」

 

 一同が目覚めると、そこは薄暗い場所だった。冷たい床に伏せていた十六夜たちは立ち上がり、慌てて周囲を見渡す。

 

 まるで地下牢のような暗く、冷たい場所で、所々に灯りとして松明が掲げられていた。生温い空気が時折吹き抜け、女性陣の肌に鳥肌を浮かび上がらせる。

 

「気味が悪い場所だね……」

 

「ええ、ここは異空間なのかしら? 只者ではないと思っていたけれど、これほどのお方とはね……」

 

 耀と飛鳥がこの空間の不気味さに落ち着きなく辺りを見回す。黒ウサギは頭を打ったらしく、頭を押さえながら立ち上がる。

 

「いたた……皆さんはご無事ですか?」

 

 耀と飛鳥は返事をするが、十六夜は答えない。そして、もう一人いる筈の者も。

 

「──やられたな」

 

 十六夜は壁に貼られている契約書類(ギアスロール)を手に取り、してやられたように顔を顰め、頭を掻いた。黒ウサギは不思議そうに近寄ると、十六夜にそれを手渡されて読む。そして、思い切り目を見開く。

 

 

 ギフトゲーム名〝デビルバスター〟。

 

 プレイヤー……逆廻十六夜・久遠飛鳥・春日部耀の人間のみ(・・・・)。プレイヤーは〝ヒーロー〟を一人選定すること。

 

 クリア条件……見事役割を演じ、迷宮を攻略してその謎を解くこと。または、〝魔王(・・)〟の撃破。

 

 敗北条件……プレイヤーの降伏、勝利条件を満たせなくなった場合、そして〝ヒーロー〟が〝死亡状態(・・・・)〟になった際。なお、それ以外のプレイヤーが〝死亡状態〟になっても脱落とは見做されない。

 

 

「プレイヤーは人間のみ! 魔王の撃破!? そして死亡もありえるですってえええぇぇぇぇぇーッ!!?」

 

 黒ウサギの怒声が辺り一帯に響き渡る。十六夜たちは堪らず耳を塞ぐが、黒ウサギは構わず一同に説教する。

 

「だから言ったじゃないですか! シンさんがプレイヤーから弾かれたどころか、クリア条件が魔王の撃破ですよ撃破! こんな条件、予め確認してさえいれば変更を要求できたのに!」

 

「ああ、そうだな。間薙を仲間外れにしちまったのは悪いと思ってる」

 

「お馬鹿様!」

 

 スパァン! とハリセン一閃。しかし十六夜はヤハハと笑う。

 

 事態はかなり深刻である。一同は何の準備もしておらず、魔王と対峙するにはあまりにも心許ない。しかし、まさかこんなところで魔王と突然戦う羽目になろうとは、誰も思っていなかったのだ。勿論、契約書類を確認しなかったのは十六夜たちのミス──あるいは、事前に確認しても挑戦したかもしれないが。

 

「落ち着きなさい、黒ウサギ。ゲームは始まってしまったのだから、今はこちらに集中しましょう」

 

「そうだね。まずはこの〝ヒーロー〟を決めようか」

 

 黒ウサギが取り乱したのを見ていたお陰か、耀と飛鳥は落ち着いて次の行動を考えていた。存分に怒鳴り散らした黒ウサギは、はあぁ、と長い溜息をついて、とても納得いかなさそうにそれに頷いた。

 

「と言っても、〝ヒーロー〟は絶対に死んではいけないのだから、一番頑丈な十六夜君以外に適任はいないわね」

 

「ま、そうなるだろうな。というわけで〝ヒーロー〟は俺ってことで」

 

 頷いてそう言う十六夜。すると、その左腕が急に光輝き始めた。

 

「うおっ、何だ何だ!?」

 

「これは……何かの端末? にしては、かなり昔のものみたい」

 

 何故か嬉しそうに笑う十六夜。現れたそれを見て、耀は首を傾げる。それは色んな計器や小さなモニター、それに無数のボタンが付いたガントレットだった。箱庭には珍しい精密機械だが、どことなくレトロな雰囲気を感じる。

 

「〝ヒーロー〟の証か? 面白そうだなオイ!」

 

 そう言って嬉々として適当にボタンを押し捲る十六夜。耀はそれを興味深そうに眺めた。飛鳥は全くの門外漢なので、それが一体どういうものなのかさっぱり分からないのか、心配そうにオロオロと見つめる。

 

「だ、大丈夫なの? いきなり爆発したりしない?」

 

「オイオイ、機械がいきなり爆発するなんて──ってそうか、お嬢様は戦後すぐの時代から来たんだっけな」

 

 それならばこの手の物を見慣れないのも無理はない。そう納得し、飛鳥に視線を向けたまま十六夜はボタンを押す。すると、突如ガントレットが光を発し始めた。

 

「わっ! ……これは……文字?」

 

 ガントレットはピコピコとビープ音を発しながら空中に文字を描いていく。それを見た十六夜と耀は、目を見開いて驚く。

 

 

『CAUTION FOR DEVIL BUSTERS』

 

『いまから あなたたちは デビルバスターです』

 

『じゃあくな アクマたちを たおして せかいに へいわを とりもどしてください』

 

『この ゲームのなかで たいけんすることは そのすべてが ほんとうのできごとで あるかのように あなたたちじしんの けいけんと なるでしょう』

 

『ゲームの プレイヤーは あなたたちと ともに さまざまな きけんを のりこえ せいちょうして いくのです』

 

『しかし さいしょから じゅうぶんな ちからを そなえているわけでは ありません』

 

『むりをせず しんちょうに ゲームを すすめて ください』

 

 

『それでは ゲームを はじめます』

 

 その一文と共にガントレットの光は消え、文字も消え去った。十六夜と耀は唖然とした表情で顔を見合わせ、ポツリと呟く。

 

「……これって」

 

「……そういうことだよな?」

 

 そんな彼らを他所に、事態を自分なりに把握した飛鳥が、威勢良く言い放つ。

 

「──話はわかったわ。結局、魔王を倒すしかないのよね」

 

 そして話はようやく冒頭に戻る。主催者(ホスト)に向かって意気揚々と宣戦布告し、覚悟完了した飛鳥は凛々しい顔で前を見据える。黒ウサギはその横顔を見て歓声を上げた。

 

「飛鳥さん、素敵です! ほらほら、十六夜さんもカッコ良く決めてくださいませ!」

 

「……あー、悪いけどな。そこまで覚悟しなくても良さそうだぜ、お嬢様」

 

「……え?」

 

 キョトンとした顔で振り向く飛鳥と黒ウサギに、どう説明したものかと頭を掻く十六夜。そこへ耀が進み出て、小さな子に教えるように優しく語りかける。

 

「これはRPG……要するに、ごっこ遊びなんだよ。契約書類(ギアスロール)に〝役割を果たし──〟ってあるよね? 〝ヒーロー〟役が仲間を率いて〝魔王〟役を倒す、おとぎ話のごっこ遊び。そう考えると、〝死亡状態〟も単に行動できない状態を表すだけで、本当に死ぬわけじゃないと思う」

 

 十六夜は勿論、耀はこのギフトゲームが、何らかのテレビゲームに基づく内容なのだと気が付いていた。ジャンルは恐らくRPG(ロール・プレイング・ゲーム)であろう。〝ヒーロー〟と〝魔王〟というオーソドックスな役割から、この場所は魔王が潜むダンジョンなのだと察せられる。

 

 わかりやすい説明ありがとよ、と十六夜が返す横で、話を理解した飛鳥がカァ、と頬を赤らめる。

 

「そ、そうなの……ごっこ遊びなの……」

 

「よかった……一時はどうなることかと思いました」

 

 一方、黒ウサギは安心したように溜息をついた。本物の魔王と戦わせられるわけではないと分かれば、誰でも同じ態度を取るだろうが。

 

 十六夜は飛鳥を見つめながらニヤニヤと笑う。

 

「いやあ……滅茶苦茶カッコ良い啖呵だったぜお嬢様。箱庭史に残る名セリフだな」

 

「か、からかわないでっ!」

 

 真っ赤な顔でポカポカと十六夜を叩く飛鳥。ヤハハと笑う十六夜だったが、ふと笑いを止めると真面目な顔で飛鳥を見つめる。飛鳥は目を丸くした。

 

「……な、何よ?」

 

「……なあ、お嬢様。ちょっと俺を思い切り引っ叩いてみろ」

 

「──はぁ!?」

 

 突然奇妙な事を言い出す十六夜に、飛鳥は目を見開いて驚く。しかし十六夜の表情は真剣そのものであり、冗談で言っているのではないことが分かる。

 

「私の力で引っ叩いたって……十六夜君相手じゃどうにもならないと思うけど」

 

「いいからやってくれ」

 

「わ、わかったわよ……」

 

 そうして飛鳥は手を振り上げ、十六夜を引っ叩くと──ぶへ、と変な声を出しながら十六夜が大きく仰け反る。十六夜がふざけたと思ったのか、飛鳥は文句を言う。

 

「ちょっと十六夜君、からかってるなら──えっ!?」

 

 飛鳥は言葉を失う。体勢を戻した十六夜の頬には、真っ赤な手形がくっきりと残っていたのだ。下手な攻撃では傷一つ付かない筈の十六夜が、平手ごときでダメージを受けている。この事態に耀と黒ウサギも驚愕する。

 

「……ということは、だ」

 

 十六夜は壁に近寄り、思い切り殴る──が、ゴッ! という痛そうな音が聞こえたのみで壁は傷一つ付かず、逆に十六夜は殴った手を押さえて蹲ってしまった。信じられないような様子で、十六夜は呻く。

 

「……マジかよオイ」

 

 飛鳥は慌てて黒ウサギを指差し、言霊をぶつける。

 

三回回ってワンと鳴きなさい(・・・・・・・・・・・・・)!」

 

「な、なんですかその命令!?」

 

 勿論従わない。抵抗したような素振りもない。己の支配の能力が消えてしまったことに愕然とする飛鳥。

 

 耀は泣きそうになりながら、友人たちから得たギフトを使おうとするが──何も起こらない。

 

「皆と友達になった証なのに……っ!」

 

 獣の夜目も、蝙蝠の超音波も、鷲獅子(グリフォン)の空を駆ける力も──全く発動しない。

 

 そして──

 

「私も、身体能力が人間並みに落ちてます……!?」

 

 ウサ耳をピコピコ動かすが、周囲の情報を何もキャッチできないことに青褪める黒ウサギ。これでは何の力もない、ただのウサギである。

 

──そう、十六夜たちはそのギフトを、完全に封印されていた。

 

 こうなれば、彼らはただの少年少女である。悪鬼羅刹が跋扈するこの迷宮を行くには余りにも無力だ。黒ウサギと耀はオロオロと取り乱し、十六夜はまだダメージが抜けていない様子だった。

 

「どういうことなの……!」

 

 焦ったように契約書類(ギアスロール)を確認する飛鳥。目を皿にして一字一句見逃さないように読み返し、そしてその理由を見つけ出した。

 

「〝役割を果たし──〟……つまり、役割を逸脱するような能力は許さないということなのかしら……」

 

 飛鳥にRPGで遊んだ経験は無いが、ごっこ遊びという説明を受けているので推測することはできた。このゲームを進行する上で、〝ヒーロー〟が迷宮を破壊し、魔王をあっさり片付けるような能力は邪魔なのだろう。理不尽なようだが、筋は通っている。飛鳥は表情を歪めた。

 

「オイオイオイ、面白くなって来たじゃねえか……!」

 

 それを聞いた一同も落ち着きを取り戻し、体制を立て直す。

 

「……だが、それが正解だとすると黒ウサギのことは解せないな」

 

「うん……黒ウサギの役割は審判なんだから、その審判のための能力が封じられるのはおかしいと思う」

 

 十六夜と耀が納得いかないとばかりに黒ウサギを見るが、意気消沈するばかりだった。

 

 この迷宮には、まだ隠された謎があるのだろう。それを解き明かすか、魔王を倒すかしない限りこのギフトゲームをクリアすることはできない。

 

「取り敢えず、安全な場所を見つけるとするか。悪魔とやらがいつ襲いかかってくるかわからんしな」

 

「そうね……」

 

 こうしていてもゲームはクリアできない。一同は周囲を警戒しながら、移動を始めるのだった。

 

 

    *

 

 

『私はミコンの町の長老──』

 

 手短な部屋に入ると老人が居て、一同に話しかけて来た。十六夜は感心したように頷く。

 

「へぇ、NPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)まで用意されているのか。こりゃ手の込んだことだな」

 

「NPC? 相手コミュニティのプレイヤーじゃなくて?」

 

「プレイヤーではない人物の事。つまり役者さんみたいなものかな。契約書類(ギアスロール)に相手のプレイヤーが居なかった以上、この人たちは舞台装置みたいなものなんだと思う」

 

 聞き慣れぬ言葉に首を傾げる飛鳥だが、耀がフォローする。意外とゲーム知識が豊富な耀に、十六夜は興味深そうに笑っている。

 

「結構詳しいじゃねえか。意外とゲーマーだったりするのか?」

 

「昔、上手く体が動かなかった頃は、楽しみってそういうものしか無かったから」

 

 何でもないように返す耀に、つまらないことを聞いたかな、と十六夜は頭を掻く。しかし耀は首を振って気にしないで、と微笑した。

 

「そういう十六夜は?」

 

「嗜む程度には遊んだけど、生憎アウトドア派だからな。RPGは基本くらいしかわかんねーや」

 

 ヤハハ、と笑う十六夜。しかしその基本すら分からない飛鳥や黒ウサギにとっては、貴重な情報源である。

 

「それで、そのRPGとやらを進行する上での定石というものはあるのかしら?」

 

「先ずは情報だな。デビルバスターとやらになって世界を救う、という世界観はなんとなく分かったが、まずここが何処で、どういう構造なのか把握したい」

 

 そう言いながら十六夜は老人に近付き、いろいろと質問してみる。

 

 質問の結果分かったのは、今十六夜たちが居るのは〝ダイダロスの塔〟と呼ばれる迷宮の八階であり、ミコンの町と呼ばれる階層であること。また、下の階層からは悪魔が出現して、襲いかかって来るであろうということ。そして、最深部には魔王ミノタウロスが待ち受けているであろうこと。

 

「〝ダイダロス〟に〝ミノタウロス〟……素直に解釈すればギリシャ神話の〝ラビュリントス〟がモチーフなんだろうが……」

 

 十六夜は聞いた話を総合してこの迷宮の正体に当たりを付けるが、どうも納得いかない、というように首を捻る。

 

「多分、名前や役割を引用しているだけで、深い意味はないんじゃないかな。テレビゲームの世界って大抵そうだよね?」

 

 耀の言葉に十六夜はそうかもな、と頷く。〝ミコン〟という名前に聞き覚えはないし、ミノタウロス自身に魔王と呼ばれるような逸話は無い。精々が暴れん坊だったために迷宮へ幽閉されたくらいである。

 

「……後は相手のコミュニティとかから推測するしかないか。なあ、爺さん──」

 

 老人に相手のコミュニティや、ギフトゲームについての情報を尋ねるが、老人は不思議そうに問い返す。

 

『コミュニティ? ギフトゲーム? 何のことかね?』

 

「……そういうことか」

 

 この老人──恐らくNPCたちは、役割から逸脱する情報は言えないのだろう。そういうルールによるものか、そのようなギフトを使用しているのかは定かではないが、ゲーム内でメタ的情報は集められないらしい。

 

「それじゃあ、他の場所も回ってみようか。この階層では悪魔は出ないみたいだし」

 

 耀の提案で、一同は部屋を出る。飛鳥は行儀良く礼を言うが、老人は何も言わない。不思議そうに首を傾げるが、先を急ぐために十六夜たちの後を追う。

 

 その後ろ姿を、老人の硝子玉のような目が見つめているのだった。

 

 

    *

 

 

 犬のような頭を持った獣人が、唸り声を上げながら棍棒を振り回す。十六夜は慌てて下がるが、いつものようには体が動かない。なんとかギリギリで避けて、無様に前転する。しかしその顔は笑っている。このような形だが、手応えのある相手と戦うことができてやや嬉しいらしい。

 

「……やっ!」

 

 大振りの攻撃を避けられて踏鞴を踏んだ獣人へ、耀が飛び蹴りを叩き込む。呻き声を上げる獣人だが、対したダメージにはなっていない。年相応の少女の筋力や体重では、致命傷を与えるのが難しそうだった。

 

 それでも抵抗しないわけにはいかない。十六夜と耀の二人がしばらく打撃を加えていると、まだまだ体力がありそうだった獣人は急に断末魔を上げて崩れ落ちる。

 

 その体は溶けるように消えて、数枚の硬貨と赤い靄が現れた。十六夜が興味深そうに近付くと、赤い靄は吸い込まれるようにガントレットに消えた。

 

「十六夜君!?」

 

「いや、大丈夫だお嬢様。これも報酬の一種らしいぜ。えーと……MAG(マグ)、か?」

 

 心配そうに飛鳥が声を上げるが、十六夜は安心させるように手を振った。ガントレットに表示されているある欄の数字が増え、これが先程の赤い靄の蓄積量を表していたのだと察する。しかし詳細は分からない。更なる情報収集が必要そうだ。

 

 硬貨を回収するとまた別の欄の数字が増えた。見慣れない記号だが、ゲーム内における通貨なのだろう。

 

「これが魔貨(マッカ)ってやつか……これでやっと装備が整えられるな」

 

 通常RPGでは、初期装備や所持金で装備を整えてから敵と戦うものだが、このゲームはそのような親切な進行ではないらしい。そもそも、説明書(マニュアル)すら無くゲームに放り込まれたので、ゲーム内用語すらわからない。それくらいはゲーム内で調べろということか、と十六夜は結論付ける。

 

「こんな調子でクリア出来るのかしら……そもそもギフトが封じられていて、魔王なんて……」

 

 戦闘に巻き込まれないように後方に下がっていた飛鳥は、不安そうに呟く。懸念している通り、この調子では魔王と戦える戦力はいつまで経っても整わないだろう。何か見落としているのかもしれない。

 

 飛鳥は思慮に耽るが、悪魔が出現するこの階層においてその行為はあまりにも迂闊すぎた。

 

「────ッ!? 飛鳥さん! 後ろ!!」

 

「──え?」

 

 黒ウサギが叫ぶが、全ては遅すぎた。飛鳥は何者かに殴り飛ばされ、壁に激突する。そして、そのまま動かなくなってしまった。

 

「飛鳥ッ!?」

 

『GYAAAaaaaa!!』

 

 白い体毛の巨大な悪鬼が、雄叫びを上げていた。一目見て今の自分たちでは敵わないと悟った十六夜が飛鳥を抱えて、一同は退却する。上の階層を目指す途中で部屋を見つけた一同は、一瞬の判断でそこへ飛び込んだ。

 

 どうやらそれは功を奏したらしく、悪鬼はそれ以上一同を追うことはなかった。息を切らせ、呼吸を整える黒ウサギだが、慌てて十六夜に声を掛ける。

 

「十六夜さん! 飛鳥さんの容体は!?」

 

 焦りの表情で黒ウサギが問いかける。飛鳥の顔は血の気が失せ、ぐったりと意識を失っている。素人目から見ても危険な容体だと知れた。十六夜は飛鳥の手を取り、容体を確かめている。

 

 しかし十六夜からは返事が無い。焦れた耀が十六夜の肩を叩く。

 

「十六夜! 飛鳥は──」

 

 そして気が付いた。どんな時でも余裕の表情を崩さなかった十六夜が──見たこともない蒼白な表情をしているのを

 

「嘘だろ、オイ──呼吸してないぞ」

 

 十六夜は慌てて飛鳥の胸へ耳を寄せるが、目を見開く。一同は、最悪の事態を理解してしまう。黒ウサギも、耀も、信じたく無いとばかりに首を振る。

 

──しかし、十六夜は呆然と呟く。

 

「心臓が──動いてない」

 

 一切の外傷が無いにも関わらず、飛鳥の心臓の鼓動は止まっていた。

 

 

 久遠飛鳥──死亡(DEAD)




あともうちょっとだけ続くんじゃ。

*2014-06-27 追記
ゲームの真相に関わる重大なミスをした為、修正させていただきました。
大変申し訳ありません。

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