早速新年一発目いってみよー!
Past&Parologue
ーー暗い部屋
ーー窓もない
ーー光はパソコンのディスプレイからだけ
ーー何もない
ーーナニモない
ーーナニモナイ
ーー空虚で空っぽで虚無感のみが溢れてくる
「……………………」カタカタカタカタ
その部屋には一人の少女がいた。
ほとんど何もない部屋で数少ない物のパソコンと向かい合っていた。
食べ物は必要最低限のみ明け渡される。
そんな闇にまみれた様な空間で彼女はとても輝いて見える。
それ自体が光を放っているかのような真っ白な髪。煌々と輝いているかのような紅い目。
誰もが絶世の美少女ーーいや、年齢的に
時が時、場所が場所なら傾国、もしくは傾世のと付く程である。
しかし、その容姿は少しくすんで見えた。
その少女の周りは唯でさえ暗い部屋なのに、より暗く見える様な重々しい雰囲気を纏っているからである。
仮に、その場に誰かがいて、その少女の顔を覗きこむと、その光を映さず、意志を感じさせない空虚で死んだ魚の様な無機質な目を見て顔を引き吊らせる事だろう。
カチャ スー バタンッ
「……………………?」キョロキョロ
その部屋の唯一の扉のある方から物音がした為、少女が振り向くと、そこにはトレイと、その上にストローがささった水筒の様な物が置いてあった。
少女はそれを見ると、『
少女はパソコンを弄っていたと時の体育座りの体勢から這うように四つん這いの状態で扉へと進んでいき、そのストローを
「……………………」コクッコクッコクッコクッ
その中身は栄養素とカロリーだけを考えて作られた物なのであろう。お世辞にも美味しいとは言えない処か、馴れてない者であれば口に含んだ途端に吐き出し兼ねない程のえぐ味があった。
しかし、少女は相変わらずの無機質な目でそれを飲み続ける。
「……………………」コクッコクッコクッ ズズー
音から考えるに、全てを飲み干したらしい。
少女はそれをトレイの上に置き、扉の方へと押しやり、再びパソコンの前まで戻っていった。
カチャ サッ バタンッ
再び音がしたが、今度は片付けたのだろうと思い、少女は気にせずパソコンを弄り始めた。
「……………………」カタカタカタカタ ピタッ
淡々とパソコンを弄り続けていた少女だったが、ふとした操作ミスから一枚の写真データを表示してしまった。
これが唯の写真データであれば少女は直ぐにファイルを閉じ、操作に戻ったのだろうが、この写真は少女にとっての所謂『ブラックボックス』だった。
「はっ…………ひぃぅ……あぁ」
少女は唐突に目に見える程に動揺し始め、無機質だった瞳に光が宿った。
しかし、その光は触れれば途端に壊れてしまいそうな程に儚い光だった。
その写真に写るのは『もう一人の膝に座る少女』と『その少女に雰囲気が良く似た黒髪の女性』。そして、少女の顔は今の彼女からは考えられない程に眩い程の笑顔だった。
その写真を見た瞬間、押さえ込んでいた感情が発露していく。
「かぁ…………さま。…………会いたいよぉ…………かぁさまぁ」
少女は延々と泣き続けた。
その写真を見る度に自分の中でナニカが壊れていくのを感じながら。
唯、泣き続けた。
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「っ! はぁっ! はぁっ!」
白髪の少女、アリスは居住区のベッドの上で寝覚めた。しかし、その直後から荒い息をしていた。
「はぁ、はぁ。…………今更なんであんな時の事が夢に出てくるんだよ」
アリスが悪夢を見る事は実は度々あり、その度に起きた直後から寒気と涙が止まらくなり、うずくまって動けなくなってしまう事があるのだった。
ガチャッ
「アリスさん? どうかしたんですか?」
居住区の扉を開けて中に入って来たのは、一緒の場所で同棲(意味深)している千寿夏世。アリスによって命を救う変わりにガストレアになった少女だった。
「…………夏世?」
「っ!? 何があったんですか!?」
うずくまって泣いているアリスを見て気が動転した夏世はアリスの元へと駆け寄っていった。
すると、アリスは駆け寄って来た夏世に抱きつきながら、
「ごめん夏世。ちょっとこのままでいさせて」
「え? あぁ、はい」
夏世は何がなんだかわからないと言った様子だったが、ただならぬ様子のアリスに気圧されて、そのままアリスを抱きしめ返したのだった。
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「本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫だって! 夏世は心配し過ぎ!」
あれから約10分程度経った頃、漸くアリスの様子が安定してきたのだが、今度は夏世から何があったのかと詰問されることになっていた。
「それよりも! 明日は夏世の初仕事なんだから! 色々と準備しなきゃいけないんだかね!」
「むぅ、何か誤魔化された気がします」
実際アリスはうやむやにして誤魔化そうとしていたのだが、はっきりいって全然意味をなしていなかったのだった。
それに、今さらっと流されたが、アリスの言った通り、明日は夏世の初仕事なのである。
「夏世。少し真面目な話をするとね、私の…………いや、私達のこの仕事は人間同士で殺し、殺されるという典型的な裏の仕事だ。準備を怠るといくらそのハイスペックな体でも死ぬかもしれないんだからね」
「はい、わかってます。まだ…………少し怖いですけど、覚悟はできてます」
「ふふふ、ならよろしい。着いて来て」
そういうとアリスは居住区を出ると研究区(いつも使っているデスク等がある場所)を横切り、何やらものものしい扉を開けた。
「アリスさん、ここは?」
「ここは武器庫だよ。とは言っても市販されてる様なちゃちな
「じゃあ、どういう物があるんですか?」
「それはね…………
「へいっ!?」
アリスの言葉に夏世はおもいっきりビビっていた。
それもそのはず、夏世はガストレアになってから単純な身体能力だけでも数倍になっているのを既に実感しているからである。
それほどの身体能力がなければ扱えない武器とはどれ程の力を持つのかーーいや、もはやそれは今アリスが言いかけたように兵器と呼んでも決して過言ではない。
ピッピッピッ ピー
アリスが部屋の真ん中奥に設置されている端末にパスワードらしきものを入力し、その後なにやらアルファベットと数字の入り交じったコードらしきものを入力すると、
ガチャッ
「…………? 今のは何ですか?」
「ああ、あれはID入力と『Wpon code』っていう、所謂パスワードを入力して、対応するコードの武器保管場所のロックを解除するんだよ。後でID発行と、いろんな武器の『Weapon code』教えるから勝手に使っていいからね」
そういってアリスはロックが解除された引き出し口へと歩いていき、引き出しを開けて中の武器を取り出した。
「…………ナンデスカ? ソレ」
思わず夏世が片言になったのも頷ける。そこから出てきたのは通常のものよりも口径が大きい『ガトリング機関銃』だったからだ。
「ふふ~ん! これは私の自信作! その名も『タイラント』! 通常のイニシエーターとは比べ物にならない程の身体能力を誇る
もはや武器と言い繕う事もやめ、完全に兵器と言っている。
「えーと、通常のものよりも威力が高いってことですか?」
そう夏世が聞くと、アリスは不敵に笑い、
「いや、この『タイラント』は通常の弾薬や徹甲弾なんてちゃちなもんじゃなく、もっと恐ろしい物の片鱗をあじあわせるんだぜ! …………因みに通常の弾薬や徹甲弾も使える仕様にしてるけどね」
「何か矢鱈とテンション高くないですか? …………で、どういう物なんですか?」
「聞いて驚け! 『タイラント』の使用する弾薬は12ゲージ散弾だ!」
「…………………………………………はっ?」
「12ゲージ散弾だ!」
「…………」
「12ゲー…………」
「いや、もういいですから!」
「そうか? 分かった」
銃に対する知識がある人ならこれがどれだけ異常なことかわかるだろう。
12ゲージ散弾とは、本来ショットガンに使用する弾薬である。つまり、通常の『ガトリング機関銃』の弾薬よりも反動が大きい。
それを『タイラント』の様な携行タイプのもので、秒間100秒/発などといったレートで撃ったりしたら、吹っ飛ばされるか、支えている骨が砕けちるのが目に見えている。
正しく、
「更に距離減衰をかなり押さえたスラッグ弾も発射可能だから貫通力も抜群! 暗殺以外なら基本これだね!」
「…………もう…………いいです」
夏世は精も根も尽きたといった様子で投げやりになった。
アリスのでたらめさと、自分達の肉体のスペックのでたらめさを思い知った日であった。